ジャパンダイジェスト

医療保険基金がスタート

膨らみ続ける医療費削減のため、新年から医療保険基金(Gesundheitsfonds)が導入された。医療保険基金は医療保険改革の柱となるもので、公的疾病金庫の被保険者すべてが同基金に一定率の保険料を支払い、各金庫が同基金から被保険者1人当たり一定額を受け取るというもの。金銭の流れがわかりやすくなるのが利点だ。しかし、保険料率はどのくらいになったのか、被保険者にとっての利点は何か。基金のスタートで実際何が変わったのか具体的に見ていこう。

医療保険基金のしくみ

医療保険基金のしくみ保険料は被雇用者の場合、労使折半(収入の0.9%が課されている特別保険料は被雇用者が全額負担)で負担する。昨年までは、各個人が加入する公的疾病金庫(→用語説明)に直接支払われており、保険料率も12.7~17.4%と各金庫によって異なっていた。しかし保険料率が高くても低くても、医師から受ける診療内容に変わりはない。政府はこのことから、同じ医療サービスには同じ保険料率を課すのがフェアだと判断。その上で、徴収した保険料を税金とともに一括してプールする医療保険基金を設立し、そこからすべての公的疾病金庫に、被保険者1人当たり一定額を支払うようシステムを変更した。

保険料率の引き上げ

こうして決められた保険料率は、一律15.5%。昨年までの保険料率は平均およそ14.9%であったため、これにより保険料を引き上げる形となったのは、200以上の金庫中172の金庫となった。つまり、被保険者の90%近くが保険料の負担増を強いられることになったのだ。最も負担が増えたのは、IKKザクセンの加入者。月に3600ユーロの総収入がある被保険者の保険料は、年間約600ユーロ増にもなる。一方、AOKベルリンなどの被保険者にとっては逆に保険料が少なくなった格好だが、このようなケースはほんの一部に過ぎない。

金庫への補償制度

一方、公的疾病金庫にとっては何が変わったのだろうか。被保険者1人当たり一定額を受け取るようになった疾病金庫は、これで医師や病院など、医療提供者への支払いを行うことになる。しかし、受け取る額が一定となると、高齢者や高額な治療を必要とする被保険者を多く抱えている疾病金庫は、若く健康な被保険者を多く抱える疾病金庫よりも負担が増すのは明らか。これでは、公的疾病金庫間の均衡が保たれないため、被保険者の年齢や性別、病気によっては、特別に追加額が支給されることになっている。

しかし、追加金の支給を受けてもやりくりが困難になる疾病金庫も出てくる可能性がある。その場合は、総収入の1%を越えないことを条件に、疾病金庫は被保険者に追加保険料の支払いを求めることができる。同時に、追加保険料の支払いを求められた被保険者は、例外的にその疾病金庫を即時解約することができるようにもなった。

疾病金庫間の競争激化

逆に、うまく利益を上げている疾病金庫は、被保険者に配当金を支払うことができる。保険料率が一律でも、こうして金庫間に差異が生じてくると、追加料を課されてA金庫を解約した人が、配当金を支払ってくれるB金庫や、よりサービスの良いC金庫に乗り換えるのは自然の流れ。金庫間における競争が激しくなるのは必至だ。このため今後は、弱い金庫は強い金庫に合併されるなどして、疾病金庫の数も大幅に減ると見られている。

基金設立の真義

すべての国民は収入に関係なく、適切かつ公平な医療処置を受ける権利がある。そのためには、保険会社もフェアでなければならない。とはいっても、医療保険基金に十分な蓄えがないと、提供できるはずの医療サービスも提供することができなくなる。保険料率は、基金の設立により引き上げられることになったが、医療技術の著しい進歩で我々の寿命も延びているのが現状。医療費は高まり、医薬品の研究開発に莫大な費用がかかっているのだ。昨年後半の金融危機とそれに伴う景気後退の影響で、引き上げられたばかりの保険料率を再び引き下げ、その分を国庫で負担するという案も上がってはいるが、保険料自体は今後も上がっていくことになるだろう。被保険者は、今まで以上に保険会社を賢く選んでいく必要がある。

保険料率の一律化で、あなたの保険料はアップ?ダウン?

公的疾病金庫 昨年までの
保険料率*
今年からの
保険料率の上下

IKK Sachsen 12.7% +2.8Pt

BKK MEM 13.1% +2.4Pt

IKK Thüingen 13.2% +2.3Pt

BKK der Thüringer
Energieversorger
13.3% +2.2Pt

BIG - Die Direktkrankenkasse 13.4% +2.1Pt

BKK Dürkopp Adler AG 13.5% +2.0Pt

BKK Enka 13.5% +2.0Pt

BKK Gildemeister Seidensticker 13.5% +2.0Pt

Abc BKK 13.5% +2.0Pt

BKK Herford Minden Ravensberg 13.5% +2.0Pt

...中略... ※昨年までの保険料率、 平均14.9%

BKK Phoenix 16.3% -0.8Pt

Hamburg-Münchener Krankenkasse 16.4% -0.9Pt

AOK in Rheinland-Pfalz 16.4% -0.9Pt

ktpBKK 16.5% -1.0Pt

BKK BVM 16.6% -1.1Pt

Gemeinsame BKK Köln 16.6% -1.1Pt

AOK Berlin 16.7% -1.2Pt

AOK Mecklenburg-Vorpommern 16.7% -1.2Pt

AOK Saarland 16.7% -1.2Pt

CITI BKK 17.4% -1.9Pt

*被保険者のみが負担する特別保険料率0.9%含む(出典:Die Welt)

もっと詳しく知りたい人は、保険料の変化が分かる 「医療保険基金チェッカー」で調べてみよう。加入している金庫をプルダウンメニューから選択し、月収(税込み)を入力、「Berechnen」をクリックすれば、以前の保険料と現在の保険料、およびその差額が一目瞭然(りょうぜん)だ!

用語解説

公的疾病金庫   Gesetzliche Krankenkasse

健康保険には、国民の90%近く(約7000万人)が加入している公的な健康保険(GKV)と、公務員、自営業者、高所得者が加入の対象になっている民間の健康保険(PKV)の2種類がある。公的疾病金庫はGKVの保険者を指し、金庫数は現在217に及ぶ。医療保険基金の対象は公的疾病金庫のみだが、民間保険会社も将来的にこのシステムに取り込むべきだとする意見もある。

<参考文献>
■ 連邦保健省:www.bmg.bund.de
■ 被保険者のための医療保険基金ポータルサイト:
www.der-gesundheitsfonds.de
■ 健康保険ポータルサイト:www.krankenkassen.de
■ DIE WELT "150 Krankenkassen im Beitragsvergleic“ ほか

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
 
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