ジャパンダイジェスト

少子化ストップ!子育て支援強化へ

2009年1月1日から、少子化対策として子どもを持つ家庭を支援するさまざまな制度がスタートした。育児と仕事の両立を助け、子育てにおける金銭的な負担を軽減しようという狙いだ。フォン・デア・ライエン家庭相(キリスト教民主同盟=CDU)は、「2009年は子どもがいる家庭を支援し、問題を解決していく」と宣言。自身も7人の子を持つ母親である同家庭相が推進する家族政策とは、一体どういうものだろう。

児童手当の引き上げ

まず最大の変更点は、子どもが18歳(学生の場合は25歳)になるまで保護者に支給される児童手当(Kindergeld)が、7年ぶりに引き上げられたこと。昨年までは、1人当たりの支給額が第3子まで154ユーロ、第4子以降179ユーロだったのが、今年からは第2子までが10ユーロ増の164ユーロ、第3子は16ユーロ増の170ユーロ、第4子以降は16ユーロ増の195ユーロとなった。子どもの数が増えるに従って支給額が増えたことで、子どもが多い家庭にとって大きな負担軽減になると見込まれている。児童手当は保護者の収入に関係なく一律で支給され、課税の対象にはならない。

また、生活保護を受けるなど、特別支援が必要な家庭の子どもには、学校で必要な筆記用具などの購入費として、義務教育が終わる10年生まで、毎年100ユーロが支給されるようにもなった。

税控除額も引き上げ

児童手当の代わりに、高所得者が受けると有利になる児童控除額(Kinderfreibetrag)も、子ども1人当たり年間3648ユーロから、216ユーロ増の3864ユーロにまで引き上げられた。育児控除なども合わせると、総額6024ユーロが非課税の対象になる。児童手当と控除のどちらを受けた方が良いかについては通常、所得税の申請時に税務署が検討してくれるようだが、夫婦の年間総収入が約6万7000ユーロ以上(1人親の場合は同3万5000ユーロ以上)の場合、控除を受ける方が有利になる。

出生数の推移(2004年まではそれぞれ、期間中の平均数)
出生数の推移(2004年まではそれぞれ、期間中の平均数)

祖父母も育児休暇

そのほかにも今年から、親が未成年であったり、成人していてもまだ就学中の場合などには、その親、つまり子どもの祖父母が代わって育児休暇を取ることができるようになった。子育てを理由に学業を断念せざるを得ない若者への大きな支援となる。もちろん両親手当(→用語説明)も同時に支給される。

託児所の増設

さらに、2013年7月末までに3歳未満の子どもの3人に1人を受け入れられるよう、託児施設を増設する計画も進められている。昨年末に発表された国連児童基金(ユニセフ)の国際幼稚園比較調査によると、ドイツでは3歳未満の子どもを受け入れる体制が整っておらず、受け入れ可能人数はわずか10人に1人。「4人に1人」は必要だとしたユニセフの基準をクリアできず、経済協力開発機構(OECD)加盟国中、日本と同様「中」レベルにとどまった。ほかにも、十分な教育を受けた保育士や幼稚園教諭が少ない点でマイナス評価を受けており、増設以外でも改善すべき点は多い。

少子化問題とこれから

前述のユニセフの調査で「高」レベルの評価を得たのは、満点だったスウェーデンをはじめとする北欧諸国とフランス。ほとんどの先進国が少子化問題に頭を抱えている中、合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に生むとされる子どもの平均数)を2人近くにまで上げている国々だ。

連邦統計庁によると、ドイツにおける2007年の出生数は68万4900人(→図1)。近年は減少傾向が続いていたが、前年に比べるとわずかながら増加した。合計特殊出生率も、前年の1.331人から1.370人に上がった。フォン・デア・ライエン家庭相は、「家族政策が功を奏している」と強調している。今年からスタートしたこれらの各種政策は、今後の出生率にどう影響していくのだろうか。もちろん、すぐに少子化問題が解決するわけではなく、少子化政策の成果が統計上に現れるのはずっと先のこと。少子化の現状を改善するには、今後も子どもを育てやすい社会作りに取り組み続けていく必要がある。

児童手当は少子化対策のキーとなる制度。ほとんどの先進国で取り入れられているが、支給対象と支給月額など、その形はさまざま。近隣諸国および日本の手当はどうなっているのだろうか。

【フランス】20歳未満
子ども1人 - - - なし
子ども2人 - - - 計€115.64
子ども3人 - - - 計€263.30
子ども4人 - - - 計€411.96
子ども5人 - - - 計€560.12
子ども6人 - - - 計€708.28
以降1人当たり - - - €148.18増

【英国】16歳未満(学生は19歳)
第1子 - - - £71.50(€101)
第2子以降1人当たり - - - £47.88(€68)

【イタリア】18歳未満
収入を基準に定める
例)子ども2人で年収が…
① ~€1万1990 - - - €250
② €2万9067~3万1911 - - - €39
③ €4万6143ユーロ~ - - - なし

【オランダ】17歳未満(学生は24歳)
年齢を基準に定める
*生年が1995年以降の子どもの場合
6歳未満 - - - €59
6~11歳 - - - €71
12歳~ - - - €84

【スウェーデン】16歳未満
第1子 - - - SEK 950(€106)
第2子 - - - SEK 950(€106)
第3子 - - - SEK 1204(€134)
第4子 - - - SEK 1710(€191)
第5子以降1人当たり - - - SEK 1900(€212)
*第3子以降は追加手当有

【スペイン】18歳未満
一律 - - - €24.25(身障者の場合€48.47)
Quelle: 連邦労働社会省“Sozial-Kompass EUROPA 2007”(注:2006年10月時点)

【日本】12歳以下
第1子 - - - 5000円
第2子 - - - 5000円
第3子以降 - - - 1万円
*3歳未満は一律1万円。所得制限あり
Quelle: 厚生労働省
用語解説

両親手当   Elterngeld

「育児手当」に代わり、2007年1月から導入された制度。育児手当が通常24カ月間、月額300ユーロ支給されていたのに対し、両親手当では12カ月間、育児休暇に入る前の手取り月収の67%(上限1800ユーロ)が支給されるというもの。もう一方の親も育児休暇を取ると、支給期間は2カ月延長される。高収入カップルに有利となり、父親の育児参加も増えた。学生や主婦など、無収入の人には最低額として月300ユーロが支給される。

<参考文献>
■ 連邦家庭省: "Familien erhalten in 2009 mehr Leistungen"
連邦統計庁
■ 国連児童基金(ユニセフ):
"UNICEF-Studie zur Kinderbetreuung in den OECD-Staaten"
■ 国際連合: "World Population Prospects"

内田 由起子(うちだ・ゆきこ) 東京外国語大学ドイツ語学科卒業。在学中、卒業後とドイツを行ったり来たりしながら語学勉強を続けた後、英語ニュースの翻訳に携わり、ジャーナリズムの世界に入る。04年1月からハンブルク在住。渡独後は主に、ドイツニュースの発信に努めている。
 
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