ジャパンダイジェスト

200年目のビアガーデン

今、ドイツは1年で最も光に満ちた季節。澄み渡る青空の下、街路樹が勢い良く葉を広げて緑のトンネルを造っています。長く厳しい冬が終わると、太陽の光に誘われるように、公園や広場、レストランの中庭にビアガーデンがオープンします。特にバイエルン州では、市民から自宅の庭のように親しまれており、その数は、緑の中にあるものが110カ所、レストラン付属のものは1100カ所に上ります。

ドイツの特徴的なビアガーデンは、どのようにして生まれたのでしょうか? 冷蔵庫がなかった時代、人々は冬の間に、地下の貯蔵庫や山の洞窟に川から切り出した氷を詰めて氷室を造り、そこにビールを貯蔵していました。貯蔵庫を持つ醸造所は、地下庫の上に砂利を敷き詰めたり、葉の大きなマロニエの木を植えて日陰を作ったりと、地面の温度を上げない工夫をしていたのです。

ビアガーデン
誰でも自由に憩えること、緑に囲まれていることが、愛されるビアガーデンの特徴

次第に、マロニエの木が作る心地良い日陰にベンチを置き、ビールと料理を市民に販売する人が現れました。市民は大変喜びましたが、それに反発したのはミュンヘン市内の居酒屋経営者たちです。醸造所に客とビールを独占されては商売になりません。危うく暴動に発展しかけたとき、当時のバイエルン王マキシミリアン1世は醸造所と居酒屋双方の主張を汲み取り、醸造所で市民にビールを小売するのを許可する代わりに、その場でパン以外の食べ物を売ることを禁止するという法律を公布します。これにより食事は提供できなくなりましたが、個人での持ち込みは許されました。これがちょうど200年前の1812年の出来事。今に残るビアガーデンの原型です。

現在では、ビアガーデンで料理を提供することも、そこに食べ物を持ち込むことも許可されています(ただし、レストラン付属の場合は持ち込みはできません)。公園内にある緑に囲まれたビアガーデンはセルフサービス。自分で販売所にビールを買いに行き、席を探す方式であることは、200年前から変わりません。食べ物を持ち込めることで、ビアガーデンは自宅の食卓の延長のように気軽に行ける場所、そして社会的地位や年齢を問わず人が集まる憩いの場となっています。

手を握り合って語る老夫婦、足を投げ出して読書に没頭する学生、小さな子どもを連れた夫婦……緑に囲まれたビアガーデンでは、皆思い思いに自分の時間を過ごしています。同じテーブルを共有することで、世代を超えた交流も生まれます。大きなところでは子ども用の遊具が備え付けられており、親たちは安心してビールを飲みながらおしゃべりに興じることができるのも魅力です。大きな空の下で、冷たいビールを喉に流し込むのは、何事にも代えがたい幸福なのでしょう。

ミュンヘンでは今年、ビアガーデンの200周年を祝い、バイエルンの伝統的な音楽やダンスが催されています。運が良ければ、ビアガーデンでドイツの伝統文化に触れられるかもしれませんよ(www.200-jahre-biergarten.de)。

 
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