ドイツの学力不振の原因を、移民や外国人の語学力のせいにすることもあるドイツ。そのドイツに現在、読み書きに困難を抱えている人が700万人以上もいると言われていることをご存じですか? 少し昔ですが、映画館で上映前にこんな映像を観た在独邦人の方もいらっしゃるでしょう。若い女性2人がカフェにいて、うち1人が手紙を取り出す……。
「彼からラブレターをもらったの?」
「そうなの。声に出して読んでみてくれる?」
「“愛するミミーへ、僕は君を……”、もぉ、あとは自分で読みなさいよ!」
「ダメダメ! 最後まで読んで。私は読めないのよ」
「えっ? 読めないって? 何言ってるのよ」
「……」
「読めないってまさか、あなたは本当に字が読めないわけじゃないわよね」
「(肩を上げて笑いながら)そうだけど悪い?」
イラスト: © Maki Shimizu
これは「文盲(Analphabet)をなくすプロジェクト」の宣伝映像の1つで、現在でもテレビでいくつかのシリーズが放映されています。それにしても700万人とは……。ユネスコの調査によると、日本は世界でもトップクラスの識字率の高さを誇ります。それと比べると、ドイツには読み書きの不自由な人が多いのです。文字がまったく読めない非識字者の数は全人口の1%に満たないようですが、“機能的非識字率”といって、文字はなんとか識別できるものの、意味や文脈が理解できない、書類に記入できない、標識や時刻表が読めないという人はドイツ国内の就業可能者の7人に1人に上るそうです。義務教育がなされているのに、なぜこんなに多いのでしょうか。
非識字者の中には、自分では文盲であることに小学校の頃から気付いているのに、学校の先生が気付かない場合があるとも指摘されています。例えば、学校でドイツ語を勉強するときに、文章を耳から覚えてしまう。したがって、分かっているように見えるが、実際は文字を読んでいるわけではないので、違う文章を読ませたり書かせたりすると出来ない。ドイツでは小学3年生から本格的な国語教育がスタートするので、教科書の文章もより複雑になり、自分の考えを書いて発表するようになります。このときになって、先生はようやくアルファベットの使い方を理解していない生徒がいることに気付くそうです。もしも、この生徒がこの時点で読み書きを挽回できずにハウプトシューレ(基幹学校)などに進学すると、机に向かう時間はもっと少なくなり、文字の理解度が不十分なまま大人になってしまいます。これを防ぐために、親や先生が早い段階で学習の遅れに気付いてあげられないだろうかと考えてしまいます。
イラスト: © Maki Shimizu
ドイツの先生は、ドリル練習を好まない傾向にあります。授業ではノートを取るよりも先生の顔を常に見て話を聞いて、質疑応答を繰り返す方が大切だからです。でも、同じ漢字を20回も30回もひたすら書いて覚えて、それをちゃんと覚えているか先生のチェックを受けてきた私の日本の学校生活の記憶からみれば、教科によっては何やら物足りない学習方法に思えます。今までテーマにしてきたドイツ特有の3分岐型の進学システムをはじめ、この国はエリート教育には熱心ですが、学習が遅れがちな子どもに対しては見守りつつも最終的には進級させないという“切り捨て的”な対応になっています。識字率の低さは移民や外国籍の子どもだけの問題ではありません。どんなケースであれ、教育の場で教師の目がもう少し行き届いても良いのになと思うのです。
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