ビール愛飲家に幸せを運ぶビールのボトル。リキュールには、球状、四角など個性的なボトルがあり、ワインでさえ、魚や猫の姿をしたものがあるのに、ビール瓶は、なぜかどれも似たような円柱です。不思議ですよね。
ビールがガラス瓶に詰められるようになったのは、1650年頃の英国でのこと。この頃から瓶の形は円柱でした。溶けたガラスを吹いて造るという当時の技術で可能だったのがこの形なのです。首から胴にかけてのなめらかなラインとアーチ型の丸底が力を分散させ、炭酸ガスの高い内圧に耐えられるため、ビールにとっては好都合。発泡性の飲み物、例えばシャンパンなどのボトルも、この形です。
ドイツで流通しているビールの90%以上は
瓶ビールです
ワインの場合、濃厚で重厚感のあるボルドーには、滓 お りが肩部分で滞留する「いかり肩」、軽快でフルーティーなブルゴーニュには、スムーズに注げる「なで肩」の瓶が使われています。ビールでも、長期熟成型で瓶内発酵が進むものの瓶は底が山のように盛り上がっていたり、胴が膨らんでいたりします。
ビール瓶がこの形状であることには、もう1つ利点があります。エコの優等生であるドイツでは、瓶にデポジットがかけられ、99%の空瓶が販売店を通して工場へ返却されます。工場に戻された瓶は苛性ソーダなどで徹底的に洗浄され、20~50回は再利用されます。高圧ですすぐ際、底が丸くて肩がなめらかな方が水の流れがスムーズで効率が良いのです。また、ラベルを水で濡らすと剥がれやすくなっているのも再利用のため。だから、表面に傷やラベルの跡が付いている瓶も頻繁に見かけます。瓶の規格は統一されていて、異なるメーカーが共同で使用することもあります。
瓶は、ほとんどが暗い色をしています。これは、日光からビールの味と香りを守るため。ビールの原料であるホップは光に弱く、直射日光を浴びると日光臭と言われるスカンクのような香りに変質してしまいます。それを防ぐため、光による酸化を起こす波長を軽減しやすい茶褐色か暗緑色なのです。稀に透明の瓶もありますが、これは日光の影響を受けにくいホップを使ったビールなのかもしれません。
余談ですが、日本の大瓶は1本633mlと、中途半端な量ですよね。これには1944年(昭和19年)の酒税法改正が関係しています。当時のメーカーが使用していた大瓶の容量は一番大きいもので643ml、一番小さいもので633ml。小さい容量に合わせれば、それまで使用していた瓶も使えるため、大瓶は633mlに決まり、これが今日まで適用されています。
近年、世界的に瓶の軽量化が進んでいます。瓶が軽くなれば、輸送コストが削減されるだけでなく、消費者にとっても持ち運びが楽になります。また、栓抜きなしで開けられるスクリューキャップの瓶やプルトップの瓶も登場し、ビールは中身のみならず、容器も進化しています。たかが瓶、されど瓶。その形や色には、ちゃんと理由があるのですね。
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