ジャパンダイジェスト

知られざる高アルコール・ビールの世界

前回、最強のアルコール度数をめぐる戦いをご紹介しました。昨年12月時点で最も度数が高いビールは同年11月に登場した「Snake Venom(ヘビ毒)」で、アルコール度数はなんと67.5度! ウイスキーやテキーラを超える強さです。蒸留酒を凌駕する高アルコール・ビールは、どのように造られているのでしょうか?

ビールのアルコール度数は、使用する原料の量に比例します。糖は酵母によって二酸化炭素とアルコールに分解されるため、単純に考えれば酵母の餌になる麦汁内の糖分が多いほど、アルコール度数は高くなるわけです。しかし、酵母は自ら造り出したアルコール度数が高くなると生息できなくなる厄介な生き物。醸造酒を造る酵母では、その限界値は15度くらいとされていましたが、高アルコールの下でも生息できる酵母が発見され、醸造酒にも高アルコールの扉が開かれました。多くの高アルコール・ビールでは、数種類の酵母を数回に分けて使用します。「Snake Venom」の場合は、ビール酵母のほかにシャンパン酵母が使用されています。

しかし、酵母の力だけでは不十分で、さらに人の手が必要。20度を超える高アルコール・ビールでは、アイスビール製法が多く用いられます。東南アジア地域ではビールに氷を浮かべて飲む習慣がありますが、それではありません。ビールを凍らせて造るのです。まず、アルコール度数の高いビールを造り、それを冷凍室で氷結。水分は凍るがアルコールは凍らないという特性を利用し、凍った水分のみを取り除いてアルコール分を高めます。原理は、凍って甘味が凝縮したぶどうからワインを造るアイスワイン製法と同じ。氷結、除去、氷結を繰り返し、アルコール度数を高めていきます。

ドイツの町並み
たまに訪れる晴れの日が愛おしく思えるドイツの寒い冬が、
高アルコール・ビールを造り出した

この方法は、バイエルン州クルムバッハでのこんなエピソードが発端と言われています。ある寒い冬の日、ビール職人の見習いがビールの入った樽を戸外に置いたまま帰ってしまい、翌朝ビールの一部が凍って売り物にならなくなったことに怒った親方は、罰として樽に残った濃い液体を飲むように見習いに命じた。ところが驚いたことに、その液体は味が良く、体がポカポカする飲み物になっていたそう。ドイツではボックビールから造られることが多いために「アイスボック」と呼ばれるこのビールは、冬の間、体を温めるのに重宝されています。

英国やベルギーで高アルコール・ビールと言えば、オールドエール、バーレイワインという長期熟成ビール。ビールでありながらワインのようにアルコール度数が高く、ワインのように半年から数年を掛けて熟成されます。フルボディーで、豊かな風味、麦の甘味が感じられます。古い木樽で熟成させることで、樽の中の酵母が作用してさらに2次発酵を進めるものもあります。樽熟成はここ数年、クラフトビール界で流行しています。

醸造酒であるビールは、アルコール度数が高くなるほど果実のような香りが増し、長い余韻が楽しめます。

 
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