ジャパンダイジェスト

飲んで食べて東北応援・福香ビール

2011年3月11日に東日本を襲ったマグニチュード9.0の大地震と、それに伴って発生した大津波は、多くの人の命と生活を奪い去りました。あの日からまもなく3年。当地では、インフラは復旧しつつありますが、仕事にはつながらず、若い世代の人口流出が進んでいます。特に被害の大きかった沿岸部の12市町村では、人口が3年間で7.7%減少し、このままいくと2040年には沿岸地域で41.6%減になると推定されています。空っぽになったままの町では、復興したとは言えません。そんな中、岩手県一関市にある醸造所「いわて蔵ビール」の「福香(ふっこう)ビール」が、被災地の復興を後押ししていると話題になっています。

このビールには、樹齢360年余りを経てなお咲き続ける「盛岡石割桜」から摂取した酵母が使われています。酵母は、微生物を活用したものづくり技術を研究する北里大学バイオテクノロジー釜石研究所で培養されたもの。震災の日、研究所は1階部分が津波にのまれ、貴重な試料が流失しました。しかしその後、瓦礫の中から酵母の入った冷蔵庫が見付かり、岩手県工業技術センターの協力によって数種類の酵母が救出されました。この酵母が、復興の象徴になるようにと、いわて蔵ビールに託されたのです。

純粋培養されたビール酵母ではない桜の自然酵母を使うことは、いわて蔵ビールにとって大きな挑戦でした。内陸にある醸造所に津波の被害はなかったものの、震度6の揺れで登録文化財である土蔵の一部が崩壊し、醸造施設も被害を受けていたためです。しかし、人助けになると聞いた社長の佐藤航氏に迷いはなく、6月から試験醸造を始め、失敗を繰り返した末に、ほのかに甘い香りが漂う「福香ビール」が完成しました。

福香ビール
食糧自給率を上げる取り組みとして、
「フード・アクション・ニッポン アワード2011」で表彰された

震災からちょうど1年後の2012年3月11日に発売されたこのビールは、その名の通り復興の助けになるべく、売り上げの一部が義援金として三陸の水産企業に寄付されました。しかし、莫大な損害を被った水産業にとっては焼け石に水。新たな仕事につながることなく、義援金はあっという間に消えていきました。「他人からものをもらうばかりでは、人の気力は落ちてしまう。誰かのために仕事をするとき、人は輝ける」。佐藤氏は震災直後の光景を思い出し、こう感じたと言います。

これを機に始まったのが、「恩送りプロジェクト」。福香ビールの収益の一部で三陸沿岸の企業から産物を買い取り、復興ビールとセットにして販売することで被災地の産物をPRするというものです。消費者にとってはおまけが付いてきて嬉しく、被災地の企業も仕事が増えて双方が得をする。これまでに釜石市のイカソーセージ、気仙沼市のサンマの煮付け、大船渡市の茎わかめ漬けが全国のビールファンに届けられました。3年目の今年も、恩送りは続きます。

福の香りを東北から受け取り、福を返す。あの時、世界を感心させた日本人の「助け合いの心」を忘れず、被災地に暮らす人たちにいつまでも心を寄せていたいものです。

www.sekinoichi.co.jp/beer/indexfukukou.html


 
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