ドイツでは昨年9月に連邦議会選挙が実施され、キリスト教民主同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)の2大政党による連立政権が発足した。欧州に住む市民には自国の国政選挙とは別に、もう1つ大きな選挙がある。それは、欧州議会議員選挙である。5年ごとに行われるこの選挙は、ドイツでは5月22~25日の実施を予定している。今回は、国という枠組みを超えた欧州連合(EU)の選挙の仕組みとその懸案事項を見てみよう。
欧州議会選挙とは
フランスのストラスブールとベルギーのブリュッセルにある欧州議会の議員を選ぶ選挙である。1979年より5年ごとに行われ、今年で8回目。選挙の原則は、普通、自由、秘密選挙で、欧州議会選挙はEUの組織員を選ぶ唯一の直接選挙であるだけでなく、世界で唯一の国という枠組みを超えた機関の選挙でもある。全28加盟国で行われる、有権者5億人以上を有するこの欧州議会選挙は、インドに次ぐ世界で2番目の規模の民主選挙である。
EUは欧州連合理事会と欧州議会の二院制を採用しており、欧州議会は下院に当たる。議員定数は751人で、上院下院ともに立法権や予算の決定や監督権を有しているが、法案の提出権は持たない。
欧州議会の歴史
1951年に締結されたパリ条約において、欧州議会は選挙で選出されると規定されていたが、直接選挙はすぐには実施されなかった。1952年に開催された欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の総会が、欧州議会の前身。ただ、実際は加盟国の議会の議員代表による諮問会議であったため、立法権などの大きな力は有していなかった。
1958年に欧州経済共同体(EEC)と欧州原子力共同体(Euratom)が発足すると、3つの共同体で共有される諮問会議として、「欧州議員会議」に改名。1967年に3つの共同体の運営機関が統合され、1970年以降に共同体の予算の権限を有するようになると、70年代半ばには選挙の実施が模索されるようになり、1976年に欧州議会選挙法が制定された。
選挙制度
欧州議会議員選挙には、大枠の枠組み内で各加盟国が自由に選挙制度を決めており、統一された選挙制度がない。結果の公表日時など、選挙日程はEUが決定するが、投票日と投票期間は各国で決定する。
選挙制度は国によって異なるが、基本的には比例代表制で、政党名または政党に所属する議員名で投票できる国もある。比例代表制に影響しない範囲で選挙区を設定する国もあり、それが全国で1区の国もあれば、英国のように12の地域ブロックに分割している国もある。また、最低投票獲得率を5%の範囲内で設定し、少数政党の乱立を避ける国もあれば、そのような足切りをしない国もある。
議席数は加盟国の人口に応じて、国別に配分されている。加盟国別の議席数の上限は96(ドイツ)、下限は6(マルタ、ルクセンブルク、エストニア、キプロス)である。加盟国の人口規模を考慮し、人口の少ない国には議員1人当たりの有権者が少なめに配分されている。
政党と会派
議員は政治信条を同じくする政治会派を形成して活動を行うが、これは、国という枠組みを超えた政党として活動していると考えて良い。現在の欧州議会には、保守の「欧州人民党」と社会主義の「欧州社会党」の2大会派があり、ドイツではそれぞれキリスト教民主同盟と社会民主党と歩調を同じくしている。
選挙権と被選挙権
選挙権も各国の政策に則る。選挙権があるのは、18歳以上のEU加盟国の国籍を持つ市民である(オーストリアでは16歳以上)。ドイツの場合は、不在者投票も可能だ。
立候補者(被選挙権)も18歳以上のEU市民と規定している国が多いが、21歳、23歳、25歳とする国もある。加盟国議会の議員が二重議席という形で兼務していた時代もあったが、2004年以降は兼務を禁止している。EU市民は、出身国ではなく移住国で選挙人登録を行い、選挙権と被選挙権を行使できる。つまり、EU域内に住むEU市民であれば国籍は関係ないということになる。
国別議席数
加盟国 | 議席数 | 加盟国 | 議席数 | 加盟国 | 議席数 |
ドイツ | 96 | ギリシャ | 21 | リトアニア | 11 |
フランス | 74 | ハンガリー | 21 | クロアチア | 11 |
イタリア | 73 | ポルトガル | 21 | ラトビア | 8 |
イギリス | 73 | スウェーデン | 20 | スロベキア | 8 |
スペイン | 54 | オーストリア | 18 | キプロス | 6 |
ポーランド | 51 | ブルガリア | 17 | エストニア | 6 |
ルーマニア | 32 | フィンランド | 13 | ルクセンブルク | 6 |
オランダ | 26 | デンマーク | 13 | マルタ | 6 |
ベルギー | 21 | スロバキア | 13 | チェコ | 21 |
アイルランド | 11 | 合計 | 736 |
欧州議会議員選挙の問題点
欧州という国をまたいだ一大選挙には、日本と共通の問題がある。それは、選挙率の低下である。
1979年の第1回直接選挙は9カ国が参加し、投票率は61.99%であったが、その後、回を重ねるごとに低下し、前回の2009年の選挙では43.0%だった。2人に1人は選挙に行っていない計算となる。実際、この投票率がいかに低いかを確認してみよう。
欧州議会議員選挙 | ドイツ連邦議会選挙 | |||
---|---|---|---|---|
投票年度 | 参加国 | 投票率 | 投票年度 | 投票率 |
1979年 | 9 | 61.99% | 1980年 | 88.6% |
1984年 | 10 | 58.98% | 1983年 | 89.1% |
1989年 | 12 | 58.41% | 1990年 | 77.8% |
1994年 | 12 | 56.67% | 1994年 | 79.0% |
1999年 | 15 | 49.51% | 1998年 | 82.2% |
2004年 | 25 | 45.47% | 2005年 | 77.7% |
2009年 | 27 | 43.00% | 2009年 | 70.8% |
同時期のドイツ連邦議会選挙の投票率と比較してみると、上図のようになる。国政選挙では、議会の代表や国の指導者を選ぶという明確な目標があり、自分たちの生活にも密接に関わってくる問題なので投票率は高く、欧州では通常60~90%である。一方、欧州議会は、人々にとってなんとなく身近ではないという感覚が、この投票率の低さに表れている。
しかし、2009年に発効されたリスボン条約によって、その状況は変わりつつある。欧州委員会委員長の候補者選びに選挙の結果が考慮されることになったのだ。欧州委員会委員長は、EUの最高政治機関である欧州理事会を構成する重要なポストだ。そのため、欧州議会の主要政治会派は、委員長候補者を立てて選挙運動をすることになった。
欧州議会選挙は、EUの将来を託すリーダーを選出する機会であるため、民意を表せる重要な場となった。今回の選挙の投票率はどうなるのか、行方を見守りたい。
普通、自由、秘密選挙
Allgemeiner, freier und geheimer Wahl
<参考文献とURL>
■ 欧州議会 europarl.europa.eu
■ 欧州議会選挙公式サイト www.europarl.de
■ wikipedia.org "Europäisches Parlament", "European Parliament", "欧州議会"
■ 駐日欧州連合代表部公式ウェブマガジン eumag.jp「欧州議会選挙について教えてください」23.04.14
■ de.statista.com "Wahlbeteiligung bei den Bundestagswahlen in Deutschland von 1949 bis 2013"
Facebook: funi.swiss
< 前 | 次 > |
---|