ジャパンダイジェスト

第23回 特別な出費に対する控除

所得税法では、やむを得ない理由で納税者に費用が発生し、しかもその金額が大多数の納税者より多い場合に、各種の控除規定を設けています。この、いわゆる「特別な経済的負担(Außergewöhnliche Belastungen)」は、実費負担額を控除対象とするものと、法律で定められた一定のグループに対する標準控除によるものがあります。今回は、これらの控除の概要をご説明し、 事例に基づいて新しい規定をご紹介します。

1)一定のグループに対する標準控除

ドイツの税法は、障がい者、遺族、他者の介護をする人に対して、納税手続き簡素化のため、標準控除を適用して課税所得を抑えるようにしています。  障がい者に対する標準控除額は、障がいの認定度によって異なり、310ユーロから1420ユーロの間です。重度の障がいで常時介助を必要とする人、また全盲の視覚障害者は、これより多い3700ユーロが年間控除額として認められます。

遺族年金の認定を受けた納税者は、370ユーロの標準控除を受けます。

納税者が他者の介護を無料で行っている場合には、年間924ユーロの控除を申請することができます。その前提は、介護が納税者の自宅、または被介護者の自宅で行われていることです。

2) 一定の状況における「特別な経済的負担」

税法上の定義によると、“一定の状況における”「特別な経済的負担」とは、被扶養者の扶養または職業訓練にかかる費用、またはその両方を指します。通常は無条件で控除の適用が認められます。

原則的には、被扶養者が扶養される法的権利を有する場合にのみ、扶養費の控除を認めています。 また、ドイツでは子供の職業訓練が終了するまで児童手当が支給されますが、控除を受ける者(親権者)は、この児童手当を受給していないことも条件となります。

控除額算出の際には、2017年の控除上限である8820ユーロからスタートします。ここから被扶養者の収入と諸手当を差し引きます。その差額がプラスになった際の額が、納税者の所得から控除できる最高額となります。

通常は上記の規定が適用されるのは、子供が満25歳を過ぎて児童手当の受給権は消滅していても、まだ職業訓練中で収入がごくわずかである、または無収入の場合です。この規定はまた、両親が無収入、または年金受給額が非常に少ない場合に、両親の金銭的負担を軽減する目的でも適用されます。

職業訓練の費用としては、成人して親元を離れ、一人暮らしをしている子供を対象に、924ユーロの標準控除が認められています。

3) 一般の「特別な経済的負担」

所得税法33条によると、“一般の”「特別な経済的負担」とは、やむをえず発生し、かつ納税者が自分で負担した費用です。特に、病気の際の薬代、他者の葬儀の費用などがこれに該当します。

介護施設などの入居費用、また、離婚により当事者の生活が困窮する場合の裁判費用などもこれにあたります。2) で述べたケースとは異なり、こうした支出は、確定申告時に納税者が個別の事情に合わせて申告する必要があります。

こうした費用は、「通常想定される範囲の出費」(zumutbare Belastung)を超えた場合にのみ控除することが可能です。この「想定範囲」は、所得額と家族構成により異なり、所得全額の1%から7%の間となっています。

例:子供一人の夫婦の全所得に対する「想定範囲内の」出費の割合

所得額1万5340€まで 2%
同1万5340 〜5万1130€ 3%
同5万1130€以上 4%

たとえば、所得額が6万ユーロの世帯では「想定範囲内の出費」は 、
6万ユーロ x4 % = 2400 ユーロとなります。

ただ、ドイツ連邦財務裁判所が判断した最新事例では、今後、想定範囲内の出費は所得額に応じて一律ではなく、段階的に算出することになりました。この規定に従えば、該当する納税者は、従来以上の節税効果を期待することができます。

具体例:子供一人の夫婦、所得額合計が6万ユーロの世帯

所得額1万5340€まで 1万5340 € x2% = 306,80€
同1万5340 〜5万1130€ 5万1130 – 1万5340 € x3% = 1073,70€
同5万1130 〜6万€ 6万 – 5万1130€ x4% = 354,80 €
想定範囲内の出費 - - 1735,30€

上記の計算では、この世帯の「想定範囲内の出費」は1735,30ユーロとなるため、従来より664,70 ユーロ(2400−1735,30)プラスした額を「特別な経済的負担」として控除することができるわけです。これに基づき、所得税率40%の納税者を例に算出してみると、約280ユーロを節税できることになります(連帯税の還付額を含む)。

4) まとめ

所得税法は総じて、やむを得ない理由により、平均的な納税者より多額の出費を強いられている人の納税負担を軽減することを目的としています。最新の事例では、連邦財務裁判所も「特別な経済的負担」に対する控除を重視する傾向を強めています。本件を含め、確定申告について不明点が発生した際には、ぜひ弊社にご相談下さい。

(筆者:税理士クリスティーネ・フュッセル)

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リンケ・トロイハント会計税理事務所

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