この春からドイツに赴任することになりました。1歳と3歳の子どもがいるのですが、ドイツの予防接種の仕組みについて知りたいです。日本で途中まで受けた予防接種を、ドイツでそのまま続けることはできるでしょうか?
Point
- 基本的な接種を2歳前に完了
- 6種混合の不活化ワクチンを3回
- 4種混合(または3種混合+水痘)の生ワクチンを2回
- 麻しんのワクチン接種は通園、通学前に必須
- ダニ脳炎ワクチンは任意
- BCGを受ける場合は日本で
基本的な仕組み
STIKOの推奨スケジュール
ドイツにおける小児期の予防接種は、ロベルト・コッホ研究所(RKI)のSTIKO(予防接種常任諮問委員会)より推奨(Empfehlungen)されているワクチン接種スケジュール(Impfkalender)にのっとって行われます。接種は義務ではありませんが、未接種の場合は入園や入学の際に不都合を生じることがあります。
主に小児科で接種
子どものワクチン接種は主に小児科(Kinderarzt/-ärztin)にて、多くは定期健診と併せて行われます。家庭医(Hausartz/-ärtzin)での接種も可能です。
接種費用は公的保険がカバー
STIKOの推奨による予防接種のコストは、公的保険(Krankenversicherung)により支払われます。またSTIKO推奨のワクチン接種にて健康上の著しい問題を生じた場合は、連邦州によって補償がなされます。
麻しんワクチン2回接種の義務
2020年から麻しん(はしか、Masern)のワクチン接種が法律によって義務化され、子どもが保育園・幼稚園、学校に通うには、麻しんの予防接種を2回受けたか、すでに感染したことを示さなければなりません。未接種での通園、通学の場合、親と園や学校に高額の罰金が課せられる可能性があります。
黄色の予防接種手帳(Impfausweis、Impfpass)
ドイツでは子どもから大人まで、国際的に共通で認められる「黄色の予防接種手帳」(InternationalCertificates of vaccination)が用いられます。日本の母子手帳への記入も可能ですが、年単位でのドイツ滞在が予想される場合は黄色の手帳も有用です。
ワクチン接種の実際
2歳前に基本的な接種ほぼ完了(Grundimmunisierung)
ドイツでは、2歳の誕生日までに基本的な14種のワクチンの推奨回数接種を済ませることになっています。
6種混合の不活化ワクチン製剤(6-fach Impfung)
STIKOにより、破傷風(Tetanus、Wundstarrkrampf)、ジフテリア(Diphtherie)、ポリオ(Poliomyelitis、Kinderlähmung)、百日咳(Pertussis、Keuchhusten)、ヒブ(Hib)、B型肝炎(Hepatitis B)に対する6種混合のワクチン製剤(Kombinationsimpfstoff)が推奨されています。2020年6月以降、この6種混合ワクチンは3回接種(2回接種と1回の追加接種で「2+1」とも呼ばれる)で、生後2カ月(8週~)、4カ月、11カ月に行います(RKIのEpidemiologischen Bulletin26/2020)。妊娠37週以前に生まれた未熟児に限り、従来の4回(3+1)接種が行われます。
3種・4種混合の生ワクチン製剤(MMR、MMRV)
生ワクチン(Lebendimpfstoff)である麻しん、風しん(Röteln)、おたふく風邪(Mumps)に対するMMR(3種)と、水痘(水ぼうそう、Windpocken)を加えたMMRV(4種)があります。いずれも2回接種が必要ですが、MMRの場合は別途2回の水痘ワクチンを接種する必要があります。
ロタ・ワクチン(Rota)
生後6週以降、できるだけ早く投与を開始します。経口の生ワクチンを、少なくとも4週間間隔で2回(Rotarix®)、または3回(RotaTeq®)接種します。
肺炎球菌ワクチン(Pneumokokken)
生後2カ月、4カ月、11カ月の3回のワクチン接種(未熟児の場合はこれに生後3カ月が加わった4回)が推奨されています。前述の6種混合ワクチンと同時に、異なる注射部位に接種することも可能です。
髄膜炎菌ワクチンB型(Meningokokken B、MenB)
生後2カ月から全ての乳児に対し、髄膜炎菌B型(ドイツの髄膜炎の62%を占める)のワクチン接種が推奨されています。生後2カ月、4カ月、12カ月に接種し、6種混合ワクチンや肺炎球菌ワクチンと共に接種可能です。予防接種による反応を軽減するためにパラセタモール(Paracetamol®)の投与が推奨されています。
髄膜炎菌ワクチンC型(Meningokokken C、MenC)
髄膜炎菌C型(髄膜炎の4%)に対するワクチンは1回接種で、1歳時に全ての子どもに推奨されています。
ワクチンに関するよくある質問
日本にない「6種混合ワクチン」は大丈夫?
6種混合ワクチンには接種を繰り返さなくてよいという利点があり、世界90カ国以上で使われています。希望によりB型肝炎ワクチンを除いた5種混合ワクチン製剤も使えますが、STIKOは接種回数が少なく乳児への負担が少ない6種混合ワクチンを勧めています。
ドイツにBCG接種はある?
BCG接種は日本では一般的ですが、1998年以降のドイツでは受けられません。WHOとSTIKOの推奨から外れたためで、仮にドイツでBCGによる健康被害が生じても、公的な補償はなされないことになります。
日本脳炎ワクチン接種はできる?
不活化ワクチンでの「IXIARO」(Valneva社製)が用いられます。2回の接種が行われ、その後1回の追加接種を行います。このワクチンは生後2カ月から使用が認められています(RKI)。
学童期の追加接種(Auffrischimpfungen)はある?
破傷風、ジフテリア、百日咳は、3種混合ワクチンとして学童期および思春期に追加接種を受けます。追加接種のタイミングは5~6歳の間と9~16歳の間で、後者ではポリオと組み合わせて行われます。これらの追加接種の費用は保険でカバーされます。
ダニ脳炎ワクチンは必要?
マダ二(Zecke)によって媒介される初夏脳炎(FSME)のワクチン接種は、STIKOの推奨スケジュールには含まれませんが、感染リスクのある地域に住んでいたり、訪れたりする人には接種が勧められています。
子宮頸がんワクチンは推奨されている?
ドイツでは9~14歳の男女へのワクチン接種が推奨されています。詳しくは本誌1183号をご参照ください。日本で途中までワクチンを接種している場合は?お子さんによって、さらに必要な接種ワクチンの種類と回数は異なるため、できるだけ早く接種記録(母子手帳)を持って小児科や家庭医に相談し、ワクチン接種スケジュールを立ててもらいましょう。
6週間 | 2 カ月 |
4 カ月 |
11 カ月 |
12 カ月 |
15 カ月 |
5~ 6歳 |
9~ 16歳 |
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ロタ | ❶ ❷ (❸) |
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6種混合 | ❶ | ❷ | ❸ | 追加 接種 |
追加 接種 |
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肺炎球菌 | ❶ | ❷ | ❸ | |||||
髄膜炎菌 B型 |
❶ | ❷ | ❸ | |||||
髄膜炎菌 C型 |
1回 のみ |
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3種+水痘 4種混合 |
❶ | ❷ | ||||||
子宮頸がん | 9~14歳 に2回 |