最近仕事が忙しく、帰宅も遅くなるため、毎日5時間ほどしか睡眠時間が取れていません。週末はゆっくり眠って疲れを取るようにしていますが、平日は朝から疲れを感じることもあります。本来は何時間の睡眠時間が望ましいのでしょうか?
Point
- 睡眠時間と睡眠休養感が大切
- 小学生は9~12時間、中学・高校生は8~10時間
- 成人は6時間以上が目安
- 高齢者は8時間以上寝床にとどまらない
- 社会的時差ボケにも注意
- ストレス、うつは不眠の原因にも
- 寝床でのスマホはがまんする
睡眠休養感が大切
日本は睡眠時間の短い国?
日本の国民健康・栄養調査(2019年)の集計によると、1日の睡眠時間が6時間未満の割合が男性の37.5%、女性の40.6%となっています。2021年のOECD(経済協力開発機構)による調査では、33カ国中で日本は平均睡眠時間が最も短く(特に女性)、ドイツよりも平均1時間も少ないことが明らかになっています。
「朝までバタンキュー」は年齢とともに減少する
必要な睡眠時間は年齢とともに短くなります(2004年のSleep誌、2017年のSleep誌、2020年のBMCPublic Health誌)。入床から入眠までに要する時間は10分程度ですが、加齢とともに長くかかるようになり、入眠後の中途覚醒(眠っている間に目覚めること)を訴える割合も増してきます(2004年のSleep誌)。
睡眠の大切な役割とは
睡眠は体の細胞の機能回復、心を安定させ、記憶を固定し、免疫機能を高め、さらに生まれてから思春期までの体の成長を促します。睡眠不足はイライラや日中の眠気、疲労、注意力・判断力の低下を招き、作業効率に悪影響が出ることも。さらに、40~64歳の年齢層での死亡リスクを高めることが報告されています(2007年のSl eep誌)。
睡眠休養感(熟眠感、熟睡感)
目覚めた時に「ああ体が休まった」と感じるのが、「睡眠休養感」(erholsamer Schlaf)です。一般に睡眠時間が5時間半未満では睡眠休養感が低く、同じような短い睡眠時間でも睡眠休養感がある場合には、前述の死亡率増加はみられなかったとの報告があります(2022年のSci Rep誌)。
健康のための睡眠ガイド
子どもに望ましい睡眠時間
成長ホルモンは主に睡眠中に分泌されるため、「小学生は9~12時間、中学・高校生は8~10時間」を目安にします(厚労省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」)。かつての「四当五落」(4時間睡眠で合格、5時間寝たら落ちる)は、医学的にみると不適切です。
中高生は夜更かし、朝寝坊の傾向
中学生、高校生へと成長するに従い「夜更かし」(Nachteule、夜のフクロウの意)と「朝寝坊」(Langschläfer、Morgenmuffel)の傾向が現れます。ドイツ国内の13~17歳の若年層が十分な睡眠時間を取っている割合は約60%で、3~5歳の94%、6~12歳の87%に比べ、かなり減ってくるのが示されています(KiGGS-Welle 2、2017年のJ Health Monit誌)。
成人の睡眠時間
「6時間以上」の睡眠時間を確保します(厚労省同ガイドライン)。成人の睡眠不足は心筋梗塞、狭心症の発症リスクを4.95倍も高めると報告されています(2011年のScand J Work, Enviorn Health誌)。夜遅くのメールやパソコン操作は控え、日中のストレスが高い状態のまま寝床に入らないよう心がけます。
高齢者の睡眠時間
加齢とともに必要な睡眠時間は短くなりますが、寝床での臥床時間が長過ぎると睡眠休養感が逆に低下するため、「長時間(8時間以上)寝床で過ごすのを避ける」ようにします(厚労省同ガイドライン)。
睡眠障害のいろいろ
社会的時差ぼけ(Sozialer Jetlag)
睡眠不足を補おうと休日に長寝をしたり、週末に夜更かしをしたりすると、就寝・起床リズムが遅い時間にずれてしまいます(2001年のSleep誌、2006年のChronobio Int誌、2019年のBiology誌)。そのため、月曜日の朝は特に起きるのがつらくなります。
睡眠時無呼吸症候群(Schlafapnoe-Syndrom)
睡眠中に呼吸が弱まったり(低呼吸)、一時的に止まったり(無呼吸)するため、体内への酸素の取り込みが不十分となり、睡眠の質が悪くなります。日中の眠気、疲労感、集中力低下、会議中の居眠り、時に仕事上のミスや居眠り運転につながります(本誌1018号参照)。むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群、Restless-Legs-Syndrom)寝床で足をじっとしていられない不快感が続き、足を動かすと楽になります。入眠が妨げられるため睡眠不足の原因にもなります。治療によって症状の改善を期待できます。
概日リズム睡眠障害
(Zirkadiane Schlaf-Wach-Rhythmusstörung)自分の本来の体内時計と社会生活を営む上での睡眠・目覚めの時刻がずれて、入眠障害や日中の眠気をきたす場合です。仮に概日リズムが遅い時間にずれていていても、午後からの勤務などで日常生活や社会生活に支障のない場合は問題になりません。
過眠症(Hypersomnia)
睡眠が十分であるにもかかわらず、日中に過度な眠気を感じるのが「過眠」です。冬季うつ(Winter-Blues,Winterdepression、本誌741号参照)、睡眠時無呼吸症候群、花粉症に対する抗ヒスタミン薬の服用時にもみられます。
ナルコレプシー(Narkolepsie)
歩行時や会話中など、通常ではあり得ない状況下で突然眠り込んでしまう病気です。笑う、泣くなど強い感情変化にて筋肉が脱力する「情動脱力発作」(金縛りのような状態)を伴うこともあります。脳内のオレキシン(Orexin、ヒポクレチン)という物質の減少、欠乏が原因です。
うつ病(Depression)
睡眠障害が経過の初期から高頻度にみられます(2016年の日本うつ病学会治療ガイドライン、本誌1187号参照)。睡眠障害がうつ病のほかの症状に先行することも少なくありません(2011年のJ Affect Disord誌)。
認知症での睡眠リズムの乱れ
加齢に伴う不眠に加え、昼夜逆転など睡眠リズムの乱れを生じます(2014年のNeurol Clin Pract誌)。必要以上に長い睡眠は認知症(アルツハイマー病)の発症リスクを高める可能性が報告されています(2019年のJAMDA誌、2024年のPsychiat Res誌)。
良い眠りのための工夫・ヒント
- 十分な睡眠時間を確保し、夜更かしを避け、毎朝決まった時間に起きる
- できるだけ歩いたり、階段を使ったりなど、毎日少しでも身体を動かす
- 15~16時以降は、カフェイン摂取を控える
- 入眠前のパソコン、寝床でのスマホはがまんする
- 就寝前の夜食は体内時計を遅らせ、睡眠の質が低下する
- アルコールの鎮静・リラックス効果は飲酒後2~3時間まで、その後は眠りが浅くなりがち