ジャパンダイジェスト

ホメオパシーについて

ドイツでは治療の選択肢の1つとしてホメオパシーが行われていると聞きました。こちらのホメオパシーについて教えてください。

ホメオパシーとは?

明治初期に作られた日本の医療制度は、当時のドイツ医学の影響を強く受けています。現在のドイツの医療が現代医学(日本で言う西洋医学)に基礎をおいていることは言うまでもありませんが、その他の特徴として、植物療法(Phytotherapie)の活用普及とホメオパシー(Homöopathie)の存在を挙げることができます。植物療法には、医師が処方する植物(成分)から製造された医薬品や各種ハーブティーの活用があります。ホメオパシーは、同種療法、類似療法、同毒療法とも訳されます。1976年にドイツのハーネマン医師により考案された治療法で、「ある症状は、同じような症状を来すもので治す」という考え方に基づいています。高倍率に希釈された「グローブリ」または「レメディー」と呼ばれる“薬”を用いるのも特徴です。これらは人の本来の治癒力を助ける働きがあるとされていますが、その効果には疑問も呈されています。長い間、現代医学の陰の存在だったホメオパシーは20世紀後半から注目を集めてきました。


ホメオパシーの薬とは?

グローブリまたはレメディーは、「似た症状を来す原物質(自然界の植物、鉱石、生物など)」を一定の倍率で希釈することを繰り返し、高希釈化された形で製剤化したものです。希釈の各プロセスでは一定時間の激しい振盪(しんとう)が必要とされるなど、ドイツでは医薬品として製造と使用方法が標準化されています。これらはほかの医薬品同様に薬局で管理されており、処方せんなしに入手することはできません。

図1 ホメオパシー治療のための医薬品の例

(外箱には成分と各々希釈倍率を示す独特の記号が記載されています)

ホメオパシーの治療はどこで受けられますか?

ホメオパシーの治療は、現代医学を習得した医師か、専門の教育を受けたハイルプラクティカー(Heilpraktiker)という資格を持つ専門家の下で行われます。すなわち、治療の実践には現代医学の知識が必須で、ホメオパシーが現代医学を否定するものではないという仕組みになっています。


どのような病気が治療の対象ですか?

ほとんどの疾患領域がカバーされています。治療にあたっては、疾患、症状、経過などが考慮され、投与されるホメオパシー“薬品”が選ばれます。ただし、治療選択の基本は現代医学に基づいており、例えば虫垂炎の場合は当然、外科での手術ということになります。


健康保険は適応されますか?

公的疾病保険(Gesetzliche Versicherung)の場合、適応はなく私費扱いです。ただし、ホメオパシーの研修を受けた医師から1種類のホメオパシー薬品を受ける治療について、追加契約を行える公的疾病保険もあります。プライベート保険(Private Versicherung)の場合は契約内容にもよりますが、多くは保険適応となります。ホメオパシー治療は診療に要する時間が長く、保健適用の有無で治療費に大きな違いが出てきます。あらかじめ保険会社に問い合わせることをお薦めします。また、ホメオパシー治療の健康保険適応の見直しについては、議会で議論が続いています。

ホメオパシーの効果は?

本療法に対しては、熱烈な支持者もいれば、単なる偽薬(プラシボ)効果に過ぎないという意見もあります。イギリスの一流医学専門誌ランセットには、無作為二重盲検法でホメオパシーが偽薬群より効果があった(イギリス、1986年)、同試験の再現性の確認(イギリス、1994年)、ホメオパシー関連の89論文の解析で偽薬効果以上の効果がある(ドイツと米国、1997年)、ホメオパシー(110の報告)の一般治療(試験内容が似た110の報告)との比較で一般治療に比べ、ホメオパシーの効果はごく弱いものであった(スイスとイギリス、2005年)、など必ずしも一定の治療効果が示されているとは言えません。その他の問題点としては、治療メカニズムの根拠に乏しいこと、それにもかかわらず、利用者とホメオパシー製剤の売上が増えていること、現代医学を否定的に捉える支持者も少なくないこと、などが挙げられます。

日本におけるホメオパシーとは?

日本でもホメオパシーに興味を持つ人は多いのでが、その環境はドイツとは大きく異なっています。ホメオパシー製剤が、健康食品として輸入使用されているとも言われています。その結果、現代医学の基本を守らず、新生児に出血防止用のビタミンKを与えずにレメディーを用いて死亡した事件も生じています。この状況から、日本の医学会はホメオパシーに対し否定的な見解を出しています。

現代医学の弱点を反映?

20世紀後半からホメオパシーが支持されている現状は、病気や体調の訴えをどちらかと言えば唯物的に捉えようとする現代医学に対しての満たされぬ思いを反映しているようでもあります。医療は、その時々で最先端と考えられたものが後年大きく変わることが少なくありません。例えば、わずか20~30年前はストレスが原因とされ、見付かると手術された胃潰瘍は、現在はピロリ菌による感染症として大半が内科的に治療されるようになりました。がん患者への音楽療法の効果も評価されつつあります。私たちの病気にはまだ原因や治療法が分からないもの、効果があってもそのメカニズムが分からないものがあります。今後、医療がどのように進歩してのかが注目されるところです。

医学のABCに則った治療から

ドイツでホメオパシーを受けたいと考えられている方は、まず現代医学の診断と治療法の基本に則った上で利用するものと理解することが大切かもしれません。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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