ドイツで乳がんが見つかった場合には、どのような治療を受けますか? 日本とドイツで、治療法に違いはあるのでしょうか?
Point
- 治療法の選択において重要なのは、乳がんの病期。
- 早期の乳がんは、乳房温存療法が基本。
- ホルモン療法か化学療法かは、がん細胞の性質をみて決める。
- 放射線療法は、乳がんの再発を減らす。
- 日本とドイツで基本的に治療法は同じです。
乳がん治療の方針を決めるために
●乳がんのステージ分類
しこり(がん)の大きさ、周囲への広がり、リンパ節への転移の有無、別の臓器への転移の有無などにより、乳がんのステージ(病期)分類がなされます。ステージ分類は、治療法の選択と予後を予測する上でとても大切な診断です。
●血管やリンパ管のがん細胞
しこりの周囲にある血管やリンパ管の中にもがん細胞が存在(脈管侵襲)する場合、転移や再発のリスクが高まります。乳がんの転移先として多いのは、肺や肝臓、骨です。乳房から離れた臓器への転移が明らかに認められるような乳がんでは、手術による治療は難しくなります。
●がん細胞の性質
手術により得られた組織から、病理学的にがんの組織型、悪性の度合い、女性ホルモンに対する受容体の有無、細胞の増殖能(増殖関連遺伝子のKi67陽性の割合)、がん細胞増殖の制御と関係する蛋白の状態(HER2蛋白が多いほど制御できない)などを調べることも、その後の治療方針を決めるのに必要な検査です。
乳がんの手術
●乳房温存手術(Brusterhaltende Chirurgie、Lumpektomie)
ステージ0期、I期、II期の乳がんの標準的な術法です。乳房の一部を円形、もしくは扇型に切除することによって腫瘍を取り除きます。
●乳房温存療法
上述の「乳房温存手術」と、乳房内での再発(局所再発)予防のための放射線療法を組み合わせた治療法です。さらに、乳房の外に転移しているかもしれない小さな転移巣を根絶するため、ホルモン療法や化学療法を組み合わせることもあります。
●乳房切除術(Einfache Mastektomie)
ステージIII期の乳がん、および腫瘍が大きい場合(3cm以上)は、片側の乳房全体を取り除く「乳房切除術」が行われます。(乳房切除術は下記の表に示されるような場合が適応です)。
●乳房再建術(Brustrekonstruktion)
腹部や背中の組織を移植したり、エキスパンダーと呼ばれる人工乳房を用いたりすることで、手術によって失われた乳房を形成外科的に再建する方法があります。乳房を再建することで、乳がんが再発しやすくなったり、再発の診断の妨げになるということはありません(日本乳癌学会のコメントより)。
乳がんのホルモン療法
●ホルモン療法(Antihormonalle Therapie)とは
乳がんの内、6〜7割は女性ホルモンのエストロゲンの作用によってがん細胞が増殖する「ホルモン感受性乳がん」と呼ばれるタイプです。この場合は、エストロゲンの作用を抑えることにより、再発と転移を約半分に抑えることができます。
●LH-RHアゴニスト(Gn-RH Analoga)
閉経前の女性のエストロゲンを減らす薬です。卵巣で、エストロゲンの分泌を調節しているのが脳下垂体から分泌されるLH(黄体形成ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)、さらにこのLHとFSHの分泌を制御しているのがLH-RH(LH放出ホルモン)です。複雑ですね。LH-RHアゴニストを投与することで、下垂体からLH分泌を抑え、卵巣で作られるエストロゲンを減らします。
●抗エストロゲン薬
血中のエストロゲンと、がん細胞表面にあるエストロゲン受容体が結びつくのを抑える薬です。閉経前と閉経後の女性に用いられます。タモキシフェン(商品名はノルバデックス®、タスミオン®)が有名です。
●アロマターゼ阻害剤
閉経後の女性のエストロゲンを減らす薬です。閉経後の女性は、アロマターゼという酵素の働きにより、何と男性ホルモンから女性ホルモンを作っています。このアロマターゼの役割をブロックすることで、女性ホルモンが作られるのを抑えます。
乳がんの化学療法(Chemotherapie)
●なぜ抗がん剤を使うの?
乳管内にとどまっている乳がん(非浸潤がん)の場合、ほとんどが手術や放射線療法な どの局所治療で治療されます。しかし、乳管の外にまで広がった「浸潤がん」になると、体のどこかに転移している可能性のある、目には見えない「微小転移がん」をたたくために、化学療法(全身治療)が用いられます。
●抗がん剤の選択と組合せ
組織検査から得られた乳がん細胞の性質を参考に、何種類かの抗がん剤を組み合わせて用います(CMF療法、AC療法など)。これは作用の異なる薬剤を組み合わせることによって、より高い治療効果を得るためです。同時に副作用を分散させることもできます。
●抗がん剤の副作用
抗がん剤によって、吐き気や脱毛、白血球減少などの副作用が現れることが知られています。がん細胞のDNAや増殖過程に作用する抗がん剤は、一部の正常な細胞に対しても少なからぬ影響を及ぼします。治療を開始する前に、使用する抗がん剤の種類と効果、予想される副作用について、担当医から十分な説明を受けるようにしましょう。
乳がんの放射線療法
●放射線療法(Strahlentherapie、Bestrahlung)
乳房温存手術の後、乳房の放射線療法を行うことで、乳がん再発のリスクを減らすことができます。仮に腫瘍をすべて取り除いたとしても、目に見えないがん細胞が乳房内に残っている場合もあり、これが再発の原因になり得るからです。手術で取り除いた組織を調べて、がんが完全に取り除かれたことを確認できた場合には放射線治療が行われないこともあります。乳がん細胞は、正常細胞より放射線の感受性が高く、ダメージを受けやすいので、放射線照射によってがん細胞の増殖が抑えられます。
●副作用はありますか?
照射後3〜4週間後に、皮ふが赤くなってヒリヒリする急性期の副作用と、放射線の照射後しばらくしてみられる晩期の副作用があります。晩期の副作用には放射線肺炎があり、予後は一般的には良好ですが、肺炎の範囲が広いときには重篤な状態になることもあります(日本呼吸器学会の「市民のみなさま向け」の情報より)。