毎年クリスマスマーケットが並ぶ頃から手の指先がひび割れて痛くなります。冬になると視力が落ちてくる気もします。どのような栄養分が足りないのでしょうか?
Point
- 寒い・暗い・日照が乏しいことが心身に影響
- 手指の乾燥からひび割れやあかぎれが増える
- 冬期うつは、過眠、過食、甘味好みが特徴的
- 日光に当たらないとビタミンD不足も
- インフルエンザ予防は予防接種が効果的
- 睡眠不足が風邪のリスクを高めます
ドイツの冬
ドイツの冬における健康面への影響と対策
原因 | 病気・症状 | 対策 |
感染症 | • インフルエンザ • ウイルス感染性胃腸炎 • 上気道炎(のど、鼻) |
• 予防接種 • 予防対策(手洗い) • 十分な睡眠 |
冷たい空気・乾燥 | • 皮ふのひび、あかぎれ • 乾燥肌 |
• 保湿クリーム • 入浴・石鹸を減らす |
日照時間の減少 | • 冬季うつ • ビタミンD不足 |
• 人工光に当たる • 日光浴、散歩 |
暗闇での運転 | • 目と神経への負担 | • 時間にゆとりを |
● 寒い! 暗い!
本来、人間は夜行性ではなく、温暖な気候の地を求めて移動してきた歴史が物語るように、暗く寒い季節はさまざまな心身の不都合が生じることがあります。
● 湿度が高いのに空気が乾燥?
冬の外気湿度は70%以上と高いのに、屋内は乾燥しているという現象がみられます。空気が冷たいときは蓄えられる水分量の枠(飽和水分量)が小さいため湿度値は高くなり、飽和水分量の枠が大きい暖かい部屋では同じ水分量の空気でも相対的に湿度値が下がるからです。外気温10℃で湿度50%の空気は、気温24.5℃まで暖められると湿度は20%まで下がります。
● 運動不足になりがち
屋外テニスコートやゴルフ場も閉まるドイツの冬、ジョギングなど一人で体を鍛えている人にとってもモーチベーションが上がりにくい季節です。屋内のフィットネスやジムトレーニングなども一案です。
冬はインフルエンザの季節
● どうして冬に流行するの?
理由は良く分かっていません。寒さがウイルスを活発化させ、空気の乾燥がウイルスの滞空時間を長引かせる、日照時間が少ないと体内のビタミンDが減りウイルスに感染しやすくなるなど、諸説あります。
● 予防接種は済みましたか?
予防接種はインフルエンザ発症を減らし、病期間の短縮、合併症のリスクを減らします。妊婦、高齢者は特に大切です。接種して予防効果が得られるまで、1週間ほどかかることに留意してください。
● 注射ワクチンと経鼻ワクチン
ドイツでは注射ワクチン(生後6カ月以上が適応)と経鼻ワクチン(2〜17歳が適応)があります。経鼻ワクチンは生ワクチン、接種後4〜 6週間はほかの予防接種を控えます。
● 使ってはいけない解熱薬も
鎮痛解熱薬の成分によりインフルエンザのときに控えるべきものがあります。家庭の常備薬にあってもアスピリン製剤(Aspirin)、ジクロフェナク(Diclofenac、Voltaren)は使えません。
● ドイツで使える抗インフルエンザ薬
日本では複数から選べるインフルエンザ治療薬、ドイツで処方できるのは「タミフル(Tamiflu®)」と「リレンザ(Rilenza®)」の2種類です。
インフルエンザで使える鎮痛解熱薬
使える成分 ◯ |
パラセタモール | Paracetamol Acetaminophen |
イブプロフェン | Ibuprofen | |
使っては いけない成分 X |
ジクロフェナク | Diclofenac Voltaren |
アスピリン | Aspirin |
皮ふの病気
● 手指や足のひび、あかぎれ、角質化
毎冬、手の指先、足の指の付け根、かかとが裂けて痛い思いをしている人も。気温が下がると皮ふの皮脂や汗が減り、皮ふの水分が減ります。
● 乾燥肌 Trockene Haut
別名「皮ふそう痒症」、主症状は痒み(Jucken)です。入浴と石鹸の使い過ぎが関係します。予防は入浴・シャワーの回数を減らし、石鹸やシャンプーを使い過ぎないことです。薬局で扱っている保湿クリーム(Cetaphil Feuchtigkeitskreme®など)が効果的です。
● 加湿器の使い過ぎにも注意
加湿器を使い続けると飽和水分量の関係で冷たい窓や温度の低い部屋の壁に結露していきます。見えにくい風呂場や離れた部屋の壁内にカビが拡がり、新たな健康障害の原因になってしまうこともあるので、留意しましょう。
おなかの病気
● ウイルス性の感染性下痢
冬はウイルス性の感染性胃腸炎(Magen-Darm-Grippe)が流行します。ノロウイルス(Norovirus)は特に11~3月に、すべての年齢層の人に感染します。ロタウイルス(Rotavirus)の流行時期は2〜 3月、特に生後6カ月~2歳の子どもにみられます。
● 治っても48時間は自宅で
ノロウイルス、ロタウイルスも感染力が非常に強く、症状が回復しても便中への排菌は続きます。NRW州では「下痢が止まってから48時間(可能であれば72時間)は、他者との接触を控えた方が良い」(すなわち学校や職場に行かない)とされています。
● 暴飲暴食、飲み過ぎの季節
忘年会、新年会、歓送迎会……が続く季節。ライン川流域の都市ではさらにカーニバルと続きます。胃腸やメタボへの影響も考えつつ、ドイツ生活を楽しみましょう。
気分が沈む冬
● もしかして「冬季うつ」?
どんよりとした空、身を切る寒さ、風景も無味乾燥なものに映り、人と会うのも億劫……。冬期に生ずる気分の落ち込みは「冬季うつ」(Winterdepression、Winterblue)と呼ばれ、女性に多いとされています。
● 「食べる」「眠る」が特徴的
「だるい」「物事を悲観的に捉える」「ちょっとしたことも負担に感じる」といったうつ的症状に、 「食欲が増す(過食)」「甘いもの(Süßgkeiten)を好む」「いつも眠い(過眠)」といった特徴がみられます。
● 光に当たることで改善
冬季うつは日照時間の減少と関係します。症状改善には光を浴びる「光線療法」(Lichttherapie)が効果的。起床時に朝の明るさを演出する目覚まし照明(徐々に照明が明るくなる時計、Lichtwecker、Wake-up Clock®)や、自宅で強い光を浴びる光線療法の照明器具(Philips社のEnergyLight®)が市販されています。
視力が落ちた?
● 歩行者や車線が見えにくい!
ドイツの道路は走行速度が速い割に照明が少なく、黒っぽいコートで歩行者が見えにくい、道が暗い分だけ対向車のヘッドライトが眩しいなどが関係。運転中にヒヤリ・ハットの経験がある人も多いと思います。
● 明るいコンピューター画面から夜道の運転
明るいところでの静的視力検査では問題ないことがほとんどですが、暗闇で動いているものを識別する動的視力とはイコールではありません。長時間コンピューター画面を眺めた後の夜の運転の際は注意が必要です。
骨を強くする日光の不足
● 活性型ビタミンDの不足
骨を強くするには太陽の紫外線が皮ふに当たってコレステロールからできる活性型ビタミンDが不可欠。天気の良い日は外を歩きましょう。ビタミンDは魚類・キノコ類にも含まれています。
風邪の予防は睡眠で
● のどの痛みから気管支炎・副鼻腔炎
冬はのどを傷めやすい季節です。のどの炎症が下気道に波及すると、咳・たん・発熱を伴った気管支炎を起こします。副鼻腔炎を患ったことのある人は、軽い上気道の炎症から副鼻腔炎に至ることもあります(「副鼻腔炎」はドイツニュースダイジェスト1022号を参照)。
● 寝不足は風邪の引き金
のどのうがい(時には鼻腔をきれいにする鼻うがい)、手洗い、そして最も大切なのが十分な睡眠です。寝不足(Schlafmangel)は免疫力を下げて風邪をひきやすくします(医学雑誌 Arch Internal Medの2009年の論文など)。風邪をひいた際も睡眠を十分にとって免疫機能を高めることが回復への早道です。