ジャパンダイジェスト

ミュンヘン安保会議で欧米がウクライナに連帯を表明

今年もミュンヘンのホテル「バイエリッシャー・ホーフ」で恒例の安全保障会議(MSC)が開かれた。1963年に「軍事学会議」という名称で始まったこの会議は、今年で59回目。民間団体が開催するにもかかわらず、世界各国の首脳、外務大臣、国防大臣らが参加する、世界でも珍しい会議だ。MSCの期間、ミュンヘンは「ミニ・安全保障サミット」の場になる。

2月17日、MSCで演説をしたショルツ首相2月17日、MSCで演説をしたショルツ首相

ショルツ首相がウクライナ支援を約束

2月17日から3日間にわたって行われた今年のMSCには、米国のハリス副大統領、フランスのマクロン大統領、ポーランドのドゥダ大統領らが参加。ウクライナはクレバ外務大臣を派遣したほか、ゼレンスキー大統領も、リモート会議の形で参加した。

最も重要なテーマは、ウクライナ戦争だった。ショルツ首相は、ゼレンスキー大統領に語りかけ、「ウクライナは、われわれの仲間だ。ドイツと同盟国は、ウクライナが必要とする限り、強力な援助を行う。この戦争で、プーチン大統領を勝たせてはならない。プーチン大統領が、この戦争で勝てる見込みがないということを早く悟れば、戦争を終えるチャンスは高まる。ただしわれわれは、戦争犯罪を厳しく追及する。正義なしには、平和は長続きしないからだ」と語った。

同時に「われわれは北大西洋条約機構(NATO)とロシアの間で戦争が起こらないように細心の注意を行う。われわれは、全ての措置をNATOの同盟国と話し合ってから決める」と述べ、戦争のエスカレートを避けるべく全力を尽くすという姿勢も示した。

ショルツ氏は、「レオパルド2型を持っている国は、一刻も早くウクライナに供与してほしい」とも語った。ドイツは1月にレオパルド2A6型を14両ウクライナに供与すると発表し、この戦車を持つ国がウクライナに輸出することも承認した。しかし蓋を開けてみると、ドイツ以外でレオパルド2を供与する準備がある国はポルトガル(3両)とスペイン(4両)の2カ国だけというお寒い状態となっている。首相がMSCで戦車に言及したのは、そのためだ。

ドイツは中国の和平提案に懐疑的

MSCの特徴は、各国政府の外交交渉の舞台としても使われるという点だ。この3日間に、ミュンヘンでは各国の安全保障関係者が公式、非公式の話し合いを持つ。昨年のMSCは、極めて緊張した雰囲気の中で行われた。ロシア軍が約10万人の兵力をウクライナ国境付近に集結させ、米国政府が「ロシアは近くウクライナに侵攻する」と警告していたからだ。昨年MSCの主催者は、プーチン大統領に発言の機会を与え、あわよくば武力行使を思いとどまらせようと考えた。そして、昨年プーチン大統領らロシア政府関係者をミュンヘンに招待したが、ロシア政府は拒否。ウクライナ侵攻はすでに秒読み段階に入っていたのだろう。

これに対し今年MSCの開催団体は、ロシア政府関係者を招待しなかった。MSC代表のクリストフ・ホイスゲン氏(元ドイツ外務省高官・メルケル前首相の補佐官)はその理由について、「ロシア政府関係者がウクライナ侵攻を正当化するプロパガンダ活動を行うのを避けたかったから」と説明している。同氏は、2月17日に独日刊紙に寄稿し、「ロシア軍はウクライナ市民を虐殺し、病院などを爆撃するなど、数々の戦争犯罪を犯した。国連はロシア軍による戦争犯罪の責任を追及するための特別法廷を設置するべきだ」と提案した。

MSCに参加したフィンランドのマリン首相は、「もしも2014年にロシアがクリミア半島を併合したときに、欧米がロシアに対してもっと強硬な措置を取っていたら、昨年ウクライナ侵攻は起きなかったかもしれない。その意味で、われわれは将来過ちを繰り返さないために、過去の政策ミスを詳しく分析する必要がある」と語った。

今年のMSCでは、中国政府の王毅政治局員が、「和平提案を近く公表する」と発言。中国政府は2月24日に12項目から成る和平提案を公表した。中国は、即時停戦、ウクライナとロシアの間の和平交渉の再開、米国、EUなどの対ロシア制裁措置の停止などを提案した。しかしドイツのメディアは、「これまでの中国の主張を繰り返したもので、新しい内容はない」と指摘した。さらに米国政府は「中国がロシアに武器を供与しようとしている情報がある」と警告。2月23日にはシュピーゲル誌が「中国企業が100機の自爆ドローンのロシアへの輸出を計画している」と報じている。このため欧米は中国に対する警戒心を解かないだろう。

米国大統領がキーウを電撃訪問

MSCが終わった翌日の2月20日、米国のバイデン大統領がキーウを電撃的に訪問して世界を驚かせた。米国の大統領が、米軍が駐留して治安を確保していない戦地を訪問したのは、歴史上初めてである。バイデン大統領とゼレンスキー大統領がキーウの教会から外に出たとき、空襲警報のサイレンが鳴り響いた。ベラルーシからロシア軍の戦闘機が離陸したからだ。しかしバイデン大統領は、平然とキーウの街を歩いていた。リスクを冒して米国の大統領がウクライナを訪れ、同国に「武器供与を続ける」と約束したことに、ゼレンスキー大統領が感激の涙を流す一瞬もあった。

欧米諸国は、MSCでのメッセージとバイデン大統領のキーウ訪問によって、ウクライナを強力に支援し続けるという姿勢を世界中に示した。一方で、ウクライナの敗北を防ぎながら、ロシアとの全面衝突も避けるという難しいバランスを取り続けなくてはならない。

 
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熊谷徹
1959年東京生まれ、早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。神戸放送局、報道局国際部、ワシントン特派員を経て、1990年からフリージャーナリストとしてドイツ在住。主な著書に『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争』ほか多数。
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