米国の不動産バブルの崩壊に端を発する不況の地震波は、瞬く間に全世界に広まった。世界銀行は、この不況の影響で世界全体の経済成長率が、第2次世界大戦後初めてマイナスになるという予測を発表している。
この戦後最悪の不況によって銀行業界の次に大きな影響を受けているのが、自動車業界である。ドイツ自動車工業連合会(VDA)によると、2008年度の西ヨーロッパでは新しい乗用車の販売台数が前の年に比べて8%減った。
ヨーロッパ最大の自動車マーケットであるドイツでは、今年2月の乗用車の輸出台数が前年比で51%、製造台数も47%減少している。各メーカーは生産体制を縮小し、派遣社員の解雇や労働時間の短縮によってコストの削減を図っている。労働時間の短縮によって減った給料の一部を国が補填する短時間労働制度(Kurzarbeit)は、失業者の急増を防ぐ上で有効なドイツ、オーストリア独特のシステムである。しかし、短時間労働制度の期間は1年半に限られているので、不況が長引けば各社とも解雇に踏み切らざるを得ない。勤労者の7人に1人が自動車と関連のある産業で働いているドイツにとっては、大きな打撃である。
ドイツで最も深刻な状態に陥っているのが、1862年創業の老舗オペルだ。親会社である米国のジェネラル・モーターズ(GM)が破たんの瀬戸際に追い詰められているため、オペルを初めとする欧州子会社に関して大規模な人員削減と工場閉鎖、売却が予定されている。
オペルはドイツ政府から33億ユーロ(約3960億円)の支援を受けられなければ、経営が行き詰まるとしているが、メルケル政権は3月上旬に同社が提出した再建計画を「不十分だ」として突き返し、交渉は暗礁に乗り上げている。やはりGMの子会社だったスウェーデンのサーブは、すでに会社更生法の適用を申請した。
ドイツ政府は、金融機関を救済するために多額の資金を投入している。米国のリーマン・ブラザースが破たんしたときのように、銀行倒産は1国だけでなく世界中の金融機関に悪影響を及ぼす恐れがあるからだ。政府は多額の借金によって救済資金を捻出しているが、財政状態が火の車であるため、あらゆる業種に救いの手を差し伸べるのは難しい。
オペルについては、以前から生産能力のだぶつきが指摘されてきた。政府内部では、「オペルの危機は不況のせいだけではない。過剰な生産能力を減らしてコストを引き下げる努力を怠ってきた経営陣の判断ミスも原因だ」として、オペルを国民の税金で助けることをためらっているのだ。
現在は原油価格が下がっているが、投機筋の暗躍によって1バレルが200ドルを超える時期が再びやってくるだろう。さらに気候温暖化を防ぐために二酸化炭素の排出量を削減しようという機運は、将来各国で高まるに違いない。21世紀の自動車業界には、新しい長期戦略、新しいビジネスモデルが求められているのかもしれない。
20 März 2009 Nr. 757