今年4月26日は、チェルノブイリ原発事故から25年目だった。このためドイツの新聞やテレビは、世界で最も深刻な放射能汚染を引き起こしたチェルノブイリ原発事故について大きく報道した。前月に福島第1原発で事故が起きたばかりなので、チェルノブイリ事故についての社会の関心は非常に高い。福島の事故が起きるまでは、チェルノブイリ事故は世界で唯一「レベル7」に達した原発災害だった。
福島の事故は、電力会社が想定していなかった高さの津波によって引き起こされた。チェルノブイリでは、こうした外的要因なしに作業員が規則に反するテストを行なったため、原子炉が暴走して爆発した。またチェルノブイリでは制御材に黒鉛が使われていたが、この黒鉛が燃えて火災が発生し、原子炉内の大量の放射性物質が環境に撒き散らされた。
周辺の住民約35万人が退去させられ、現場から30キロ圏内は今も市民の立ち入りが禁止されている。兵士や消防士のべ80万人が消火や汚染土の処理にあたったが、当初兵士たちは防護服も与えられずに作業していたため、世界保健機関によると少なくとも30人が放射線障害のために死亡している。
放射性物質による長期的な健康被害については、いまだに激しい議論が行われており、統一見解がない。国連の放射線の影響に関する科学委員会(UNSCEAR)によると、事故から2005年までの19年間に、ウクライナやベラルーシなどでは子どもを含む6000人が甲状腺がんにかかった。国連では、その大半がチェルノブイリ事故によるものと推定しており、今後も患者数が増えると予想している。UNSCEARは、そのほかにはチェルノブイリ事故に直接起因する健康被害は見られないと主張している。しかし環境団体などからは、死者の数はこれらの数字よりも多いという見方も出ている。
チェルノブイリ事故は、原発災害の影響が広大な範囲に及ぶことを示した。火災によって1万メートルの高度まで吹き上げられた放射性物質は、気流に乗って1000キロ以上離れた西欧にまで到達したのだ。放射性物質を含んだ空気がドイツ南部の上空を通った時に激しい雨が降った。このためバイエルン州を中心に土壌や植物、野生動物がセシウム137などに汚染された。ドイツ環境衛生研究所(GSF)によると、当時ミュンヘン市内でも、1万9000ベクレルのセシウム137が一時的に検出された。このため「子どもを砂場で遊ばせないように」とする警告が出された。現在、福島県内では5つの公園で放射線量が基準値を上回ったため、公園の利用を1日1時間に制限している。25年前にドイツ人たちは現在の日本と同じ状況を体験したのだ。
チェルノブイリ原発は、黒鉛炉という西側では使われていない型の原子炉を使用していた。このため、「チェルノブイリ事故は社会主義圏に特有の事故だ。西側では、これほどひどい事故は起こりえない」という見方が有力だった。しかしこの「常識」は、福島の事故によって覆された。何らかの原因でディーゼル発電装置が故障し、外部からの電源が遮断されて原子炉の冷却システムが機能しなくなれば、燃料の溶融や水素爆発が起こることが明らかになったのだ。これは世界のどの原子炉にも通用することである。ドイツ人が福島の事故を「Zäsur(歴史の区切りとなる出来事)」と呼ぶのは、そのためである。もちろんこれまでのところ、福島第1原発から放出された放射性物質の量は、チェルノブイリ原発から放出された放射性物質の10%であり、2つの事故を単純に同一視することはできない。それでも、チェルノブイリ事故から四半世紀後に再び起きた原子力災害が、人類に重要な問いを投げ掛けていることは間違いない。
6 Mai 2011 Nr. 866