福島第1原発の事故以来、ドイツの電車やバスの中で「Atomkraft ? Nein Danke!(原子力? いりません!)」と書いたバッジを胸に付けたり、ステッカーを車に貼ったりしている市民を、よく見かけるようになった。下地が黄色で、真ん中に赤色の顔を配したこのバッジは、1980年代に西ドイツで反原発運動が盛んだった時に、多くの若者が着けていたもの。一時下火になっていたが、今年3月11日以来、再び目立つようになってきた。原発の周辺などで行なわれる抗議デモでは、必ずこのマークが入った旗が乱舞する。
ドイツでは福島第1原発の事故以降、市民の間で反原子力の感情が急激に高まり、4月末のバーデン=ヴュルテンベルク州の州議会選挙では環境政党・緑の党が圧勝して、初めて州首相の座を獲得した。この革命的な事態を前に、メルケル政権も原子力擁護の態度を180度転換して、2021年頃にこの国から原子力発電所を廃止すべく、現在準備作業を進めている。遅くとも今年の夏休みまでには、原子力法の改正案が連邦議会と連邦参議院を通過して、原子力エネルギーの利用に終止符が打たれることになる。町で見かける原発反対マークは、この政策が草の根の市民たちによって、強く支持されていることを象徴している。
原子力を廃止した後の代替エネルギーとしてドイツ政府が最も大きな期待をかけているのが、風力や太陽光などの再生可能エネルギーだ。この国は1998年に成立したシュレーダー政権の時以来、多額の資金を投入して再生可能エネを助成してきた。連邦環境省などによると、その結果、電力消費量に再生可能エネが占める割合は、2000年には6.6%だったが、2010年には16.8%に増えている。10年間で2.5倍に増加したのだ(ちなみに資源エネルギー庁によると、日本の2007年実績はいわゆる新エネルギーと水力 を合わせて、8.4%。再生可能エネの定義が日独で異なるので比較は容易ではないが、日本の比率がドイツを下回っていることは確かだ)。
メルケル政権は昨年発表した長期エネルギー戦略の中で、2050年までに発電量の中に再生可能エネが占める比率を80%に引き上げるという方針を打ち出している。福島第1原発の事故以降、ドイツ市民の間でもエコ電力に対する関心が強まっている。ハンブルクのリヒトブリック社は、再生可能エネを使った電力だけを販売するエコ電力専門会社。連邦議会もこの会社から電力を買っている。この会社では、福島の事故以来、新しい顧客の数がそれ以前の3倍のペースで増えた。
また、電力に関するインターネットの情報ウェブサイト「ヴェリボックス」が 今年4月に行なった調査によると、「次に電力会社を変える時には、再生可能エネだけから作られた電力を買う」と答えた市民の比率が86%に上っている。(ドイツでは日本と異なり、1998年の電力市場の自由化によって、市民も電力の購入先を簡単に変更できる)特にハンブルクで は、市民の再生可能エネへの関心が非常に強い。「次はエコ電力に変える」と答えた市民の比率は、今年1 月には52.8%だったが、福島の事故後は93.3%と大幅に増えた。
日本では菅首相の要請で、中部電力が浜岡原発のすべての原子炉を、防波堤の整備が終わるまでの間、停止させた。しかし政府は引き続き原子力を使用する方針を明らかにしている。エネルギー政策について全く異なる道を歩む日本とドイツ。歴史はどのような判断を下すのだろうか。
27 Mai 2011 Nr. 869