「ドイツの大手企業の取締役の間で、女性の占める比率が3%から4%に過ぎないことは、大変なスキャンダルだ」。メルケル首相が、ベルリンで開かれたある会議の席上で述べた言葉である。
この国では現在、企業の取締役会や監査役会で女性が占める比率(Frauenquote)を、法律によって強制するべきか否かについて激しい議論が行われている。この論争のきっかけとなったのは、ベルリンのドイツ経済研究所(DIW)が昨年1月に発表した研究報告書である。DIWによると、ドイツの大手企業200社の取締役の内、女性の取締役の比率はわずか3.2%。また取締役会のお目付け役である監査役会でも、女性の比率は10.6%に過ぎなかった。
ドイツで高等教育を受ける女性の比率が高いことを考えると、確かにこの数字は低い。大学入学のための資格試験に合格する若者の内、55.7%は女性である。また大学卒業者に女性が占める比率も、51%と過半数におよぶ。それにもかかわらず、取締役会や監査役会など企業の上層部を見ると、女性の割合はわずか13%なのだ。
これはほかの欧州諸国に比べても低い数字だ。たとえばスウェーデンでは、取締役会の中で女性が占める比率は27%、フィンランドでは24%とドイツを上回っている。
また米国では大手企業500社の社長の7人に1人は女性だが、ドイツの株式指数市場(DAX)に上場されている大企業30社の中で、社長が女性である会社は1つもない。
ドイツの経済界は2001年、連邦政府に対して「今後10年間で、取締役会に女性が占める比率を自主的に引き上げる」と約束していた。しかし現在の状況を見ると、この10年間で大きな進歩はなかったと言わざるを得ない。このため連邦政府、特に女性の閣僚たちは、今年に入って態度を硬化させ始めている。
最も厳しい態度を示しているのが、フォン・デア・ライエン労働相。彼女は、新しい法律によって企業に対し取締役の30%を女性にすることを義務付けることを提案した。
またシュレーダー家庭相も、「すべての企業は今後2年間で自主的に女性取締役の数を30%に増やすべきだ。それが実現しない場合には、女性役員の比率の引き上げを法律で強制するべきだ」と主張。企業が自主的に比率を引き上げる最後のチャンスを与えるとはいえ、法律による義務化を提案していることには変わりがない。
メルケル首相は、法律による強制には反対している。これは連立政権のパートナーである自由民主党(FDP)などが「女性取締役比率の強制化は、企業経営者の人事権を制限する」として全面的に反対しているからだろう。キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)内からも反対意見が出ている。
欧州には、すでに女性取締役の最低比率を法律で強制化している国がいくつかある。このため、ドイツ企業が取締役会に女性を増やす努力を今すぐにでも始めなければ、政府は法律による義務化に踏み切るだろう。特に2年後の連邦議会選挙で社会民主党(SPD)と緑の党が政権を取った場合、ドイツ企業が「30%」を強制される可能性はますます強まる。今後この国の取締役、監査役に女性が増えていくのは、ほぼ確実だろう。
22 Juni 2011 Nr. 873