わたしをつくる3冊

第14回ドイツ生活の現実から離れてSFと空想世界で気分転換

今回の読書案内人

Riho Taguchi田口理穂さん

日本で新聞記者を経て、1996年よりハノーファー在住。ジャーナリスト、法廷通訳士。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか』（学芸出版社）など。本誌連載「私の街のレポーター」では、ハノーファー地域のレポートを担当。

図書司書さんに聞くおすすめ本

本は割となんでも好きで読みます。今年の8月から5カ月間ほど日本に帰国しているのですが、近所の図書館を5軒はしごして、11月までに130冊くらい読みました。コロナ禍では3年間日本に帰れなかったのでドイツ語小説も読んでいました。現実のドイツ生活とは離れた、全く別世界のものを読むことが気分転換になりますね。今回は、その中から自分の好きなものを選んでみました。

1冊目の『三体』は壮大なスケールの中国のSF作品で、日本でもベストセラーになりました。私はよく図書館で司書の人に、その人自身が読んで面白かった本を聞くのですが、これもそうして教えてもらいました。舞台は中国で、宇宙人が地球に攻めてきます。その支配を逃れようと試行錯誤するのですが、人類のあらゆる通信や会話、光景が録画されており、通常の戦略は通じません。宇宙の広さ、時間、次元など何もかも桁違い。ぜひ3巻全て読んでください。人間の営みが宇宙にとっていかにちっぽけなものか気付かされ、自分の悩みなど大したことないと感じます。

どうでもいいことを大真面目に

2冊目に選んだ『空想科学読本』シリーズは、マンガやアニメなどに出てくる現実にはありえない現象を大真面目に科学的に検証する本です。例えば手元にあるシリーズの見出しを見てみると、「ネロとパトラッシュの悲しい最期！回避する方法はなかったのか?」や、「アンドロメダまで乗り放題！銀河鉄道999の定期代はいくらか?」とか（笑）。著者である柳田理科雄さんの書き方が個性的でとても面白いし、かつ内容も本格的なので勉強になります。科学の面白さを子どもに伝えるのに、一番良い教材なのではないかと思っています。

ドイツの自宅にも4～5冊くらい持っていて、息子が小学生の時からこのシリーズを読み聞かせしていました。好きなものを読み聞かせた方が自分も楽しいので。「ドラえもん」や「ワンピース」など、子どもが知っているマンガのネタが登場するので、日本文化のことも知れるし、子どももすごく喜んで聞いてくれていました。息子の友人で日独ハーフの子もこのシリーズを持っていて、実は隠れた人気がこの本にはあるのかもと思っています。

本格派だけど読みやすいドイツ語のティーン向け小説

『Game Changer』は、ドイツの図書館で「高校生の息子がいるのですが、おすすめのSFかファンタジーはありますか」と聞いて教えてもらいました（実は自分が読むのですが）。ティーンエイジャー向けの本ですが、大人でも十分楽しめます。著者は米国人ですが、コロナ禍のときにはドイツ語訳されている彼の本はほとんど読みましたね。

本作は「もし自分が望む世界があったら」がテーマ。平凡な主人公が数々のパラレルワールドに入り、自分が経験して初めて、ほかの人の立場を切実に理解できるようになっていく。差別や格差など社会的なテーマも登場し、最高に面白いです。

一般的に大人向けのドイツ語小説は、内容がドロドロしすぎていたり、表現がややこしかったりして読みにくいと感じることがありますが、それに比べるとティーンエイジャー向けは読みやすく、かつ内容は十分に深みがあって余暇の読書にもうってつけ。息子と一緒に読んで感想を言い合えるのもいいですね。