ジャパンダイジェスト
ドクターの診察室


快食、快眠、快便② -すっきりした腸のために-

若いときから2日に1度の排便ですが、すっきりと気持ちの良いときとまだ残っているような感じがするときがあります。ほぼ毎晩ビールを飲むパートナーは毎朝排便があるのですが、いつも軟便だと言っています。快便の秘訣は何でしょうか?

Point

  • 便性状は腸管での滞在時間が関与
  • 快便には胃の健康も大切
  • 便利、下痢にはさまざまな仕組み
  • 腸管の動きストレスに敏感
  • 香辛料、寝不足、ストレス、アルコールで軟便
  • 食物繊維は多くと摂れば良いわけではない

便は健康のバロメーター

健康な便とは

茶色から黄土色、太くてバナナ型の便が1回の排便で1~3本ほど、いきまなくとも出てくることが健康な状態です。排便回数は人によって異なり、1日3回以内から1週間3回程度までは問題になりません。

便の性状

便の性状(水分量)は大腸内の通過時間と関係します。通過速度が速いと水分が多く柔らかくなり(水様便、泥状便、軟便)、遅いほど固く水分量が少なくなります(固形便、コロコロ便)。

便の色

牛乳を飲んだ後は黄色、消化不良や緑黄色野菜を多く食べたときは緑色に、肝臓や膵臓の病気では白っぽくなります。便に血液が付着しているときは痔や大腸ポリープが、黒いタール色の便では消化管からの出血が疑われます。

胃の健康も大切

胃腸病といわれるように、腸の具合は胃の調子にも影響されます。快便には胃の健康も欠かせません(本誌1209号「快食編」で取り上げる予定です)。

便秘について(Verstopfung)

便秘とは

「本来体外に排出すべきふん便を十分量かつ快適に排出できない状態」(便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症)で、何日も便が出ず、お腹が張って、お腹が痛く、排便時に強くいきむ必要があります。毎日排便があっても絶えず残便感がある場合は便秘です。

弛緩性便秘(大腸の動きが悪い)

大腸のぜん動運動が不十分で便を押し出すことができずに、腸の中に便がたまります。ガスもたまりやすくお腹が張った感じがします。運動不足も関係します。

直腸性便秘(直腸に便がたまる)

便が肛門近くまで来ているのに排便反射が起こらず、排便できない状態です。便意を感じたらすぐにトイレに行く習慣をつけましょう。

けいれん性便秘(腸の過緊張による)

大きなストレスなどによって腸の動きをコントロールする自律神経が乱れると、腸管がけいれんするように動いて便がスムースに運ばれずに便秘(や下痢)を引き起こします。

下痢について(Durchfall)

下痢とは

医学的には下痢は「1日のふん便中の水分量が200ml以上(または、1日のふん便の重量が200g以上)」(バナナ1本半~2本分が便の100~200 gに相当)、下痢症は「1日の排便回数が増え、軟便または水様便を排泄する場合」と定義されます。

浸透圧性下痢(大腸内の浸透圧が高い)

人工甘味料の入ったダイエット食品を取り過ぎたときや、乳糖不耐症の人が乳製品を取ったときなどに生じる下痢です。

分泌性下痢(腸液が増えた)

細菌やウイルスの感染(感染性腸炎)、食中毒などにより腸の分泌液が増えるために下痢が生じます。

ぜん動運動性下痢(腸管の動きが速くなった)

大きなストレス、過敏性腸症候群、甲状腺機能亢進症などで腸管の動きが速くなりすぎると便が腸を通過する速度が速くなり、下痢が生じます。

滲出性下痢(腸の炎症性疾患による)

クローン病や潰瘍性大腸炎のように血液成分などがにじみ出ることによって生じる下痢です。

過敏性腸症候群(IBS)

どんな病気?

「腸が精神的ストレスや自律神経失調などの原因で刺激に対して過敏な状態になり、便通異常を起こす病気」です(厚生労働省)。一般人口の約10%前後にみられます(日本消化器学会「過敏性腸症候群の診療ガイドライン2020」)。ちょっとした緊張や不安があると便意を催し下痢をきたす「慢性下痢型」(神経性下痢)、腹痛やお腹の不快感とともに下痢と便秘を繰り返す「不安定型」(交代制便通異常)、強い腹痛の後に大量の粘液を排泄する「分泌型」があります(厚生労働省)。

心理的な影響が関与

うつ状態や不安障害、人生早期のトラウマなどが発症のリスク要因になります(前述ガイドライン)。通勤や通学中の電車などでトイレに行きにくい状況に置かれると、お腹が痛くなることも(各駅停車症候群)。

快便のために気を付けたい食事や習慣

食物繊維

食物繊維(Nahrungsfaser、Ballasstoff)は便の水分量を増し排便を促します。できるだけ多く摂れば良いというものではなく、胃腸が弱っている場合は、逆に食物繊維の消化のための負担が大きくなります。

香辛料、脂っこい料理

唐辛子など辛味は消化管粘膜では痛みとして感知され、防御反応として下痢を生じます。脂肪は胃に長く留まり胃酸分泌を刺激し、分解されなかった脂肪は腸のぜん動運動を亢進させて下痢の誘引となります。

乳製品

日本人では年齢とともに乳糖分解酵素が少なくなり、乳製品でお腹を壊しやすくなる人もいます(Laktoseintoleranzha)。腸内で吸収されなかった乳糖が水分を引っ張るために下痢になります。

アルコール

アルコールの多飲では腸管の水分の吸収が悪くなり、糖分や脂肪の分解・吸収も低下して下痢を起こしやすくなります(厚生労働省)。

十分な水分

水分摂取が少ないと便が固くなりやすく、水などを飲むことで腸の運動が刺激されます。またマグネシウム製剤は排便を促す便秘薬としても用いられますが、マグネシウムを多く含む市販の水も効果が期待できます。

十分な睡眠

睡眠不足は胃腸の動きに関わる自律神経のバランスを崩して消化不良や下痢を起こしやすくします。また仕事、家庭での過大なストレスも同様です。

運動やお腹のマッサージ

歩行や体操など適度な運動は腸の動きを活発に。激しい運動は交感神経系を刺激して、腸の運動を抑えようとします。また、お腹を軽く圧迫しながら円を描くようにマッサージすると腸管が動きやすくなります。

最終更新 Dienstag, 05 Dezember 2023 13:51
 

快食、快眠、快便 - 心地良い眠りのために-

歳を取ってから「快食、快眠、快便」の大切さがよく分かるようになりました。最近は夜更かし気味で就寝が次第に遅くなり、翌朝起きてからしばらくはぼーっとした気分になることがあります。快眠の秘訣を教えてください。

Point

  • 疲労、夜、満腹で眠くなる
  • 脳の疲労回復、記憶定着、免疫の向上に大切
  • 成長ホルモンは夜に分泌される
  • 成人の20〜40%が睡眠障害を経験
  • 日本人は睡眠不足の傾向
  • 日々の習慣を見直すことも大切

なぜ睡眠が必要なのか?

脳と体の疲労や免疫機能の回復

体重の2〜3%を占める脳は、安静時に全身で使用されるエネルギーの20%を使う高エネルギー臓器です。睡眠中に、脳の機能のメンテナンスとリフレッシュが行われます(2021年のCell Reprts誌)。また、睡眠は身体の疲労回復に重要です。睡眠中に分泌される成長ホルモンは、細胞の修復にも関わっています。さらに睡眠は免疫力を高める働きを担っています。

記憶の定着

睡眠には記憶の整理、定着が行われます。徹夜や一夜漬けの勉強で覚えたことをすぐ忘れてしまうのは、そのせいだといわれています。

子どもの成長

骨や筋肉の発育に欠かせない成長ホルモンの分泌は、主に睡眠中になされます。なお年齢が若いほど、必要な睡眠時間が長くなっています。「寝る子は育つ」ということわざは、ある意味医学的にも正しいのかもしれません。

疲れて眠くなる(機能回復)

脳や体の疲れがたまると、脳の活動が低下して眠くなります。脳の機能を維持するためのメンテナンスです。

暗くなると増えるメラトニン(体内時計)

夜暗くなると、脳の松果体という内分泌器官からメラトニン(Melatonin)というホルモンが分泌されます。メラトニンには体内時計としての働きがあります。

お腹が一杯になると減るオレキシン(覚醒機序)

人(動物)はお腹が空いて食べ物を求めるときにオレキシンが増えて覚醒し、満腹になるとオレキシンが低下して眠くなります。これは食後の眠気にも関係します。

睡眠障害の種類

睡眠障害とは

日常生活に支障を来す場合を睡眠障害と呼んでいます。一般成人の20〜40%が不眠症状を経験し、慢性不眠は成人の約10%にみられると推測されています(厚生労働省のe- ヘルスネット、2012年の保険医療科学誌、日本睡眠学会ガイドライン)。

入眠障害

夜に就寝しようとしても眠れない状態です。午後遅い時間のカフェイン類の摂取、心配事やストレスなどが関係します。

中途覚醒

睡眠中に目覚める状態。ストレス、睡眠時無呼吸症候群(本誌1018号参照)、前立腺肥大症に伴う夜間頻尿のほか、晩酌のアルコールの作用が切れる時間帯などにもみられます。

早朝覚醒

本来起きる時間より2時間以上早く目覚めてしまい、再び眠れなくなる状態。夏時間で早く明るくなることや、加齢に伴う睡眠時間の減少なども関わっています。

日中過眠症

日中の過度な眠気のために、本来は寝ないような状況でも眠くなって日常生活に支障を来す状態です。背景として慢性的な睡眠不足、オレキシン低下が関係するナルコレプシー、トイレ以外はほとんど眠り続ける時期が周期的に現れる周期性傾眠症という病気も。

睡眠相遅延症候群

夜型生活が続いて朝起きられなくなる状態です。朝日を浴びないことが体内時計の乱れを引き起こしていると考えられています。

睡眠行動異常

眠っているときに突然大声を出したりするレム(体の眠り)睡眠行動異常と、夢遊病など眠りながら歩き回るノンレム(脳の眠り)睡眠異常行動があります。小児期にみられる夢中歩行、夜驚症状、中高年以降の神経疾患との関連が指摘される睡眠中の幻覚、興奮などがあります。

不眠に伴いうる症状・リスク

イライラ感、集中力や判断力の低下

神経がピリピリして、ちょっとしたことにも腹を立てたり、包容力が低下したりするなど、感情のコントロールにも影響します。簡単なことにも時間がかかり、不注意によるミスや判断ミスを犯しやすくなることも。

日中の眠気

運転中や会議中の眠気がみられます。居眠り運転事故の背景因子の一つとして、睡眠時無呼吸症候群の関与も指摘されています(1998年の臨床精神医学誌)。

風邪をひきやすくなる

睡眠不足状態が続くと、免疫状態が低下して風邪をひきやすくなります。

心の状態への影響

不眠を生ずるような強いストレスの持続は、うつ病の引き金にもなりかねません。

快眠のための知恵

マットレスは柔らか過ぎませんか?

快眠には自分に合った寝具が重要です。高級寝具が必ずしも良い寝具とは限りません。

日中体を動かしていますか?

毎日のストレッチ運動など、適度に体を動かすことで心身の緊張感もほぐれ、眠りやすくなります。

シャワー、入浴でリラックス

温かいシャワーで体もさっぱり、皮ふ温度も上がり、眠りに適した状態になります。

寝る時にスマホを眺めていませんか?

寝室でのスマホは光の刺激と検索行動で逆に目がさえてくることがあります。

週末の時差ぼけ

週末は遅寝遅起き生活をするなど、平日と週末に時間のズレがあることを「社会的時差ぼけ」(SozialerJetlag)といいます。ズレが大きいほど、月曜からのリズムに影響することがあります。

夜一定の時刻を過ぎると眠れない?

眠くなる時刻は各々の体内時計で決まっていて、これを無視して眠ろうとしても簡単には眠れません。最適な入眠時刻を過ぎると、入眠しづらくなることも。

昼寝はしない方が良い?

脳、体が疲れているときは30分ほど昼寝をすることで、頭もすっきりして仕事や活動の効率も上がります。

冬季うつと過眠、うつ病と不眠

冬場に増える冬季うつ(Winterdepression、Winterblue)は、抑うつ症状、過食(特に甘いもの)に加えて、特徴的な症状として「過眠」があります。一方うつ病では不眠の原因として重要です。

最終更新 Dienstag, 05 Dezember 2023 13:50
 

インフルエンザ&コロナ2023年秋の動向は?

日本のニュースでは、インフルエンザによる学級閉鎖が増えていると報道されています。ドイツにおけるインフルエンザや新型コロナウイルスの感染は、今どうなっているのでしょうか?それぞれ予防接種を受けた方が良いかどうか、悩んでいます。

Point

  • 日本では9月よりインフルエンザが増加
  • ドイツでも9月から新型コロナの感染が増えている
  • 現在はオミクロン変異種XBB.1.5がほぼ100%
  • 9月よりXBB1.5に有効なコロナワクチン接種可能
  • インフルエンザと新型コロナワクチンの同日接種も可能

インフルエンザ(Influenza, Grippe)の今季の傾向

9月上旬より感染増

東京都の9月4~10日(第36週)の1週間でのインフルエンザ感染者は2481名、新型コロナウイルス感染者は6824名と報告されています(東京都感染症情報センター)。この時期のインフルエンザ感染者数としては、例年(2012~2013年3月)と比べ、かなり早い時期からの感染者増加です。

日本ではすでに学級閉鎖も

特に小学校での集団感染が目立っていて、第36週の1週間にインフルエンザの症状で学級・学年閉鎖や休校となったのは、全国で計793施設にも及んでいます(9月15日の厚労省発表)。

ドイツの現状

今秋に入りインフルエンザ感染者は増えているものの、第36週時点では日本と比べればまだ低い水準です(9月12日のロベルト・コッホ研究所[RKI]発表)。

インフルエンザ流行型

日本では今のところ、A型インフルエンザ(H1N1とH3N2)の流行がみられています。A型は例年では11月から2月ころまで、B型は3月から4月に流行します。

インフルエンザの症状

潜伏期間

多くの場合は1~4日で、感染経路はせきを介した飛沫感染です。

急な発熱、筋肉・関節痛

急激な38~39℃を超す発熱で発症、筋肉痛、頭痛、体の節々の痛み、全身倦怠、目の充血が主な症状です。発症して2~3日ころにせき、鼻汁を伴い、人によっては腹部症状も。

新型コロナウイルスのワクチン

流行期前にワクチン接種を

インフルエンザワクチン(Grippeschutzimpfung)は感染を100%予防するものではありませんが、感染後の発症の可能性を減らし(相対的に60%減少、平成11年度の厚労省研究費研究事業)、発症した際の重症化を抑えます。

ワクチン接種の対象は?

ドイツでは60歳以上の全ての人、妊娠第2期以降の全ての妊婦(基礎疾患がある妊娠第1期の妊婦も)、基礎疾患のある人、医療スタッフ、老人ホームや養護施設の入所者やその家族にインフルエンザのワクチン接種が勧められています(RKIのワクチン接種常設委員会、STIKO)。

ワクチン製剤

4価(4種類)のウイルス株に有効な不活化ワクチンが用いられます。2~17歳の子どもでは、点鼻型の生ワクチンを用いることもできます。60歳以上の高齢者には有効性を高めた高用量ワクチンが推奨されています(RKI)。

予防効果が出始めるまで1~2週間

接種した翌日から予防効果があるわけではありません。インフルエンザに対する予防効果が十分になるために10~14日かかります。

かからないために気を付けること

インフルエンザの感染を予防するためには、外出後の手洗い、十分な休養と栄養、オフィスでの空気の換気、流行時に人混みや繁華街への外出を控える(やむを得ないときはマスクの着用)が有効です(厚労省のインフルエンザQ&Aより)。

抗インフルエンザ薬

いくつかのインフルエンザ治療薬があります。その効果は症状が出始めてからの時間や病状により異なります。ウイルス増殖期に当たる発症から48時間以内に使用すると、発熱期間は1~2日間短縮され、鼻や口からのウイルス排出量も減ります。ドイツでは、日本ほど多くは用いられていないようです(2021年のGMSI nf ect Di s誌)。

新型コロナウイルスの今季の傾向

秋から再び増加

ノルトライン=ヴェストファーレン州では、8月に入ってから新型コロナウイルスの増加がみられ、実際に感染者数も増えてきています(8月28日のRheinischePost紙)。パンデミックは終わったものの、新型コロナウイルスは消滅していません。

変化する変異株

ウイルスは常に変異していて、現在はオミクロン変異種であるXBB.1.5変異株がドイツにおける新型コロナ感染のほぼ100%を占めている状況です(9月11日のRKI の報告)。

インフルエンザの予防と治療

変異株に対するワクチン

欧州医薬品庁(EMA)の認可を受けたオミクロン変異種XBB.1.5に適合したワクチン(バイオンテック社)を、9月中旬から接種できるようになりました。接種回数は1回です。

ワクチン接種が勧められる人

変異株に対応した新しいコロナワクチンは成人の誰でも接種できますが、RKIは60歳以上の高齢者、慢性病患者、医療施設が介護施設で働く人、免疫の低下した人のほか、これらに該当する人の親族へのワクチン接種を勧めています。

妊婦や60歳未満の健康成人は?

STIKOは、18歳以上の全ての人が少なくとも3回の抗原接触(ワクチン接種、感染)によって基礎免疫を持つことを推奨しています。60歳までの健康な成人や妊婦には、それ以上のブースター(追加)接種は特に推奨されていません(RKI)。

子どもは必要?

STIKOは、健康な18歳未満の青少年は新型コロナワクチン接種の推奨対象にしていません。重症化するリスクのある基礎疾患を患う子どもや青少年のみ、年1度のブースター接種が勧められています。

インフルエンザとコロナワクチンの同時接種が可能

インフルエンザワクチンとコロナワクチンの混合ワクチンはありませんが、ドイツでは同じ日にそれぞれ接種することができます(RKI)。

風邪、インフルエンザ、新型コロナウイルスの違い
風邪(感冒)* インフルエンザ 新型
コロナウイルス**
症状 のどの痛み、鼻汁、せき 高熱、筋肉痛、頭痛、関節痛 嗅覚、味覚障害、呼吸器症状、無症状のことも
症状の
現れ方
ゆっくり 急激 急な悪化もあり
発熱 微熱が多い 高熱 (数日続く)
* 季節性のコロナウイルス感染は冬風邪の原因の一つです
** 初期症状はインフルエンザと似ていることも
最終更新 Dienstag, 10 Oktober 2023 09:35
 

ドイツの乳幼児健診と予防接種スケジュール

今年4月にドイツに引越してきました。1歳と3歳の子どもがいます。日本できちんと予防接種を済ませてきましたが、ドイツの小児科で未完了と言われてしまいました。日本とドイツでは接種内容が異なるのでしょうか? ドイツの乳幼児健診について詳しく教えてください。

Point

  • 乳幼児健診U2~U9は公費負担
  • 小児科医、青少年専門医、家庭医で健診
  • 予防接種はSTIKO推奨カレンダーに従って
  • 日本と接種項目、スケジュールが異なる
  • ドイツは混合接種が主体

乳幼児健診(Kinderuntersuchung)

ドイツの乳幼児健診U2~U9

黄色の子ども健診冊子(Kinderuntersuchungsheft)にのっとり、U2(多くは生後2~9日目)~ U9(5歳)までの9回の健診を無料で受けられます(Uは健診を意味するUntersuchungの略)。初診時に子ども健診冊子をもらい、記載項目に従って診察と検査を受けます。乳幼児健診は、小児科医(Kinderarzt/-ärztin)、青少年専門医(Jungendarzt/-ärztin)または家庭医(Hausarzt/-ärztin) で受けることができます。

受診する年齢「Lebensjahr」の解釈は?

乳幼児健診および予防接種では、一般的な年齢を表す「Alter」ではなく、「Lebensjahr」(日齢、週齢、月齢も同様)で区切られていることが少なくありません。例えば、「1. Lebensjahr」は生後から1歳誕生日の前日まで、「3. Lebenstag」(生まれて3日目)は生後2日を意味します。

乳幼児健診のスケジュール
(括弧内は理想的な範囲)

ドイツの子ども健診(U2~U9)

出産直後に 分娩 (ぶんべん) した医療施設で行います。

U2(3. bis 10. Lebenstage)※多くは生後2~9日目

軽度の奇形や出生時の損傷の有無をチェックします。保護者に便色カードが渡され、胆道系の異常がないか診察するほか、血液凝固のためのビタミンKの投与を行います。一般的に出産した医療施設で行われます。

U3(4. bis 5. Lebenswoche)※生後1カ月前後

小児科(あるいは家庭医)での最初の健診になります。発育の程度、聴覚、目の異常、股関節脱臼の有無を調べ、最初の6種混合ワクチンの接種(後述)も行われます。

U4(3. bis 4. Lebensmonat)※生後3カ月前後

体重が増えているか、目で物を追いかけられるか、おもちゃをつかめるか、斜視の有無などをチェックします。

U5(6. bis 7. Lebensmonat)※生後6カ月前後

寝返りができているか、手を伸ばしておもちゃを手でつかめるか、呼びかけに反応するか、笑えるか、などをチェックします。2回目の6種混合ワクチンの接種(後述)を受けます。

U6(10. bis 12. Lebensmonat)※1歳

ハイハイできるか、足を伸ばして自由に座れるか、自力で立ちができるか、 喃語 (なんご) (意味のない言葉)を話せるか、呼びかけへの反応などをチェックします。3回目の6種混合ワクチンの接種(後述)を受けます。

U7(21. bis 24. Lebensmonat)※2歳

二語文を作れるか、身近な物の名前を言えるか、簡単な指示を理解できるかを確かめます。視力検査や身体機能の検査、乳歯、精神発達のチェックが行われます。

U7a(34. bis 36. Lebensmonat)※3歳

U7とU8の間の健診です。乳歯、口、顎の異常、アレルギー疾患、肥満、言語発達の遅れ、社会性や行動障害の有無をチェックします。

U8(46. bis 48. Lebensmonat)※4歳

姿勢、背骨、細かな運動能力、名前を言えるか、「なぜ」の質問ができるかなど、精神的な成熟、社会性の活動がチェックされます。

U9(60. bis 64. Lebensmonat)※5歳前後

5歳前後までに行われる全10回の最後の検査。血圧、視力測定、姿勢や運動機能の発達の評価、精神的、情緒的、社会的発達の検査も行われます。

乳幼児の予防接種

STIKO推奨の基本接種項目

STIKO(ロベルト・コッホ研究所のワクチン常設委員会)は、幼少時に受ける13種類の予防接種 (I mpf ung)を挙げています。義務ではありませんが、ドイツの幼稚園や小学校への入園、入学時に必要になります。

6種混合の不活化ワクチン

破傷風(Tetanus)、ジフテリア(Diphtherie)、百日咳(Keuchhusten)、ヒブ菌(Hib)、ポリオ(Kinderlähmung)、B型肝炎(Hepatitis B)の6種類の不活化ワクチンは混合製剤。1歳前に3回の接種を完了させます。ロタ(Rotaviren)、肺炎球菌(Pnuemokokken)、髄膜炎C株(Meningokokken C)に対するワクチンはそれぞれ別に接種されます。

4種類の生ワクチン

麻疹(Masern)、風疹(Röteln)、おたふく風邪(Mumps)、 水疱 (ぼうそう) 瘡(Windpocken)の生ワクチンは4種混合(MMRV)製剤、あるいは前者3種の混合ワクチン(MMR)製剤と水疱瘡ワクチンを別々に、2歳前までに2回の接種が行われます。

ワクチン接種の黄色い手帳

黄色い手帳(Impfausweise、Impfpass)、あるいは前述の子ども健診冊子に製剤ロット番号などの接種情報を記載します。

日本から転居した子ども

厚労省の予防接種スケジュールと異なるため、日本での接種をきちんと進めてきても、ドイツの小児科で接種未完了と指摘されることがあります。また、日本脳炎とBCG接種はドイツの推奨項目には含まれません。

乳幼児健診で多い質問

夜泣き(nächtliches Weinen)

夜になると、泣き止まないことがあります。赤ちゃんを叱ったり体を揺さぶったりするのは避けてください。親(特に母親)の感じるストレスへの対処が大切です。

おむつかぶれ(Windelausschlag)

赤ちゃんの便は柔らかく排便の回数が多いため、おしりがかぶれることも。おむつを取り替え、ぬるま湯で洗い流し(ガーゼでこすらない)、乾燥させましょう。ベビーパウダーのほか、必要に応じて軟こうを用います。

指しゃぶり(Fingerlutschen)

自然に改善することが多いため、3歳ぐらいまでは見守って。不安や緊張をほぐす行動と考えられます。

眠る前の授乳が続く

1歳前後を目安に離乳することが多いものの、スキンシップを求めている子どももいます。1歳半以降の母乳は虫歯と関連するという意見もあるため、夜の歯磨きの習慣をしっかりつけてください。

歯が生えるのが遅い?

歯の生え方には個人差が大きく、1歳で生えていなくとも基本的に異常とはいえません。

言葉がまだ出てこない

2歳頃までは言葉が出ないことが少なくありません。兄弟や友達が影響することも。3歳になっても言葉を理解したり意味のある言葉を話したりせず、行動にも気になることがあれば、小児科の先生に相談しましょう。

最終更新 Dienstag, 05 September 2023 11:28
 

年代別の健康診断 チェックポイント

30歳になったので、きちんと健康診断を受けたいと思っています。特に女性の場合は乳がんや子宮(けい) がんが心配ですが、どのような内容の検査を受けたらよいのか教えてほしいです。また子どもが生まれたら、健診はどのくらいの頻度で行くのでしょうか?

Point

  • ドイツの乳幼児健診はU2~U9の無料健診
  • 子宮頸がんは20~30代から増え、40代からピーク
  • 日本女性の乳がんのピークは40代後半
  • 30代は将来に備えての健診
  • 40代は病気が顕在化する世代
  • 50代はがん、心・脳血管障害に注意
  • 高額検査は事前に保険会社に問い合わせを

ドイツの健康診断(Vorsorgeuntersuchung)

ドイツの公的保険による健康診断

乳幼児健診、婦人科検診、乳がん検診などを除くと、公的保険でカバーされる検査内容は日本に比べて限られています。プライベート保険でも契約の内容により異なります。

IGeL(イーゲル)による追加検査

健康診断を受ける際に、公的保険でカバーされない検査項目を自費負担(IGeL、Individuelle Gesundheitsleistungen)にて追加可能です。例えば、前立腺がん早期発見のPSA検査、35歳未満の皮膚がん検診などが組み合わせられます。詳しくは家庭医(Hausarzt/-ärtztin)に相談しましょう。

乳幼児期の健診(Kinderuntersuchung)

ドイツの子ども健診(U2~U9)

子ども健診冊子(Kinderuntersuchungsheft)に則り、U2(3~10日)~ U9(5歳~5歳4カ月)までの9回の健診を無料で受けられます(Uは健診を意味するUntersuchungの略)。ワクチン接種記録は別途、黄色のワクチン手帳を用います。子ども健診はさらにU10(7~8歳)、U11(9~10歳)、そして次項のJ1、J2健診へと続きます。

青少年期の健康診断

心身の成長が著しい時期

女児の身長は9歳半~13歳頃、男児は12歳~17歳に大きく伸びます。性に関する知識、相談も必要となる世代です。情緒をコントロールする脳の領域も発達、成熟します。また自身の性の同一性の問題に気付き始めたり、国際結婚家庭のお子さんでは自身のアイデンティティーを考え始める時期とも重なります。

J1(12~14歳)の健診

健康保険の適応となるJ1健診では、身長、体重、予防接種の状況、血液・尿検査のほか、拒食症や肥満、性に関する疑問や避妊、薬物乱用や喫煙、家庭や社会環境について相談ができます。

J2(16~17歳)の健診

思春期障害や性欲障害の有無、脊柱 側彎 (そくわん) 症、甲状腺腫の有無、糖尿病予防に重点を置いています。必ずしも保険が適応されるとは限らない健診ですが、本人(子ども)が希望すれば思春期専門医師と内密に話し合うこともできます。

20代の健康診断

婦人科検診

20歳以上の女性は日本でもドイツでも子宮頸がん(Gebärmutterhalskrebs)検診の対象となっています。日本人の子宮頸がんは20~30代から増えて、40代からピークとなります。

ヘリコバクター・ピロリ(H.Pylori)感染の検査

ピロリ菌感染は、5歳前の幼少時からと推測されています。両親のいずれかがピロリ菌陽性の場合は一度検査してみましょう。

貧血、低血圧、痩せ過ぎも

立ちくらみ、めまい、疲れやすいという女性では、低血圧や貧血がないか、痩せすぎていないか調べてみましょう。BMI(体重 kg /[身長 m x 身長 m])が18.5未満を「低体重」と定義しますが(WHO、日本肥満学会)、20代の日本女性の5人に1人が「低体重」であることが示されています(2017年「国民健康・栄養調査」)。

30代の健康診断

将来の異常に備えた健診

生活習慣病の予備軍ではないか、肥満指数(BMI)、血圧、血中脂質(コレステロール、中世脂肪)、肝機能、尿酸値などを検査します。肝機能障害が認められる場合は、アルコールの関与や脂肪肝の有無などを調べます。

女性は乳がん検診も念頭に

ドイツでは、乳がん(Brustkrebs、Mammakarzinom)検診として、乳房の触診は30歳から始まりますが、マンモグラフィー(Mammographie)は50歳からが対象です。日本人の乳がんは30代後半から増加し始め、40代後半から50代前半にピークになりますので、家族歴のある女性は乳がん検診も考えてみましょう。

40代の健康診断

病気が顕在化してくる年齢

脂肪肝、高血圧、脂質異常症、耐糖能低下(糖尿病予備群)などの異常が顕在化してくる年齢層です。心電図検査、大腸がんスクリーニングのための便潜血反応(ヒトヘモグロビン法)が勧められます。

腹部超音波検査

肝臓、胆のう、胆管、膵臓(すいぞう) 、腎臓、脾臓の形態学的異常、腹部大動脈の硬化性病変の有無が分かります。痛みなしに短時間で腹部内の病気の有無を検査できます。

胃の検査

胃バリウム検査(Magendurchleuchtung)と胃カメラ(Gastroskop)があります。ヘリコバクター・ピロリ菌による萎縮性胃炎(絨毯の毛がすり減ったような状態)が指摘されている場合は、胃カメラ検査による経過観察が有用です。料金が安くないため、症状、所見を伴わない胃カメラ検査が健康保険でカバーされるのか、保険会社に事前に問い合わせると良いでしょう。

50代の健康診断

命に関わる病気も

がん、心臓病、脳血管障害など生命に関わる病気の罹患率が増えてきます。不整脈が時々現れる人は24時間心電図(ホルターEKG)が有用です。くも膜下出血となる脳動脈瘤の発見には、頭部MRI(ドイツではMRT)による血管描出が有用ですが、保険が適応されないことが少なくありません。

前立腺がんのマーカー、PSA

男性の場合は、前立腺がん(Prostatakrebs)、前立腺肥大(Prostatahypertrophie)、前立腺の炎症にて血中PSA値が上昇します。高値を指摘されたら一度泌尿器科(Urologie)を受診しましょう。

高齢者の健康診断

がん、心臓病、脳卒中

60歳以上では、3大死因のがん(Krebs)・心臓病(Herzkrankheit)・脳卒中(Schlaganfall)の発症を防ぐ観点から、健康診断や検査を行います。

最終更新 Freitag, 04 August 2023 16:42
 

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