クリスマスからお正月にかけて、普段食べないものをたくさん食べたせいか、胃の調子がよくありません。特にこの1~2年、少し食べ過ぎたりアルコール摂取が続いたりすると胃もたれを起こします。快食の秘訣があれば教えてください。
Point
- 食欲は健康のバロメーター
- 快食の基本は胃の調子が良いこと
- 楽しみながら満足感のある食事を
- 腹八分目と感じるころが満腹の目安
- 食事回数や時間の工夫は人さまざま
- 脂っこい料理とアルコールは胃もたれの誘因に
「快食」とは
食事を楽しめる
快食とは、いつも1日1回は気持ちよく、口においしく心地よい満腹感を伴う食事が続いている状態を指します。おいしい料理でも食後に胃がむかむかする、痛む、お腹が緩くなるというような場合は、快食という表現は適しません。また、一度に量をたくさん食べられる、お酒も多く飲めるといった豪快な食生活ができることを意味するものでもありません。
お腹が空く(Hunger、Leergefühl)
快食の前提には、「お腹が空いて何かを食べたい」という欲求があることです。食欲(Appetit)は体調や胃の調子と大きく関係しています。
食欲のメカニズム
食欲は、空腹時に働く脳の「摂食中枢」とお腹がいっぱいになると作動する「満腹中枢」によりコントールされています。胃の中が空で、血糖値や遊離脂肪酸が低くなったとき、おいしそうなものを見たり匂いを嗅いだりしたときに摂食中枢が刺激されます。
食欲とオレキシンという覚醒物質
摂食中枢に存在するオレキシン(Orexin)は、食欲、覚醒、睡眠に関係します。お腹が空くとオレキシンが増え、食べ物を求めるための「覚醒系」が刺激されて目が覚めます。満腹ではオレキシンの働きが鈍くなり、眠たくなります。
食欲不振の原因
①不規則な生活や寝不足、②胃・肝臓などの消化器系の不調や全身の病気、③苦手な料理や匂い、④ストレス、不安、うつ状態などの心の悩み、により食欲が低下します。
快食を左右する胃の具合
快食の基本は胃の調子が良いことです。胃の具合が良いときは楽しめる食材の幅が広がりますが、胃の不調時は胃に優しい食事内容を選ぶようにします。
胃ディスペプシアとは
胃ディスペプシア(funktionelle Dyspepsie、Reizmagen)
胃カメラ検査では正常なのに、少し食べるとすぐにお腹がいっぱいになる(Völlegefühl)、食後に胃がもたれる(postprandiales Distress-Syndrom)、食後のみぞおちの痛み(Schmerzen im Oberbauch)がみられる胃の機能性障害です(本誌1035号参照)。
胃のどこが悪い?
胃ディスペプシアでは、胃の上部が広がりづらくすぐにお腹がいっぱいになり、食べ物を胃の先に送れないため、胃もたれを生じます。胃粘膜の知覚過敏のため、食事で痛みを起こすと考えられています。
胃ディスペプシアは多い?
日本人の胃ディスペプシア有病率は10人から6人に1人で、腹部症状を訴えて外来を受診する患者の約半数にみられるといわれています(日本消化器病学会 ガイドライン 2021:機能性ディスペプシア)。
快食の目安
食材の鮮度
高級なグルメ料理や有名な〇〇産の高級素材とは関係なしに、「快食」は得られます。肉、魚、野菜など、一般的に新鮮な食材(frische Produkte)ほどおいしく感じられます。
腹八分目
もう少し食べたいと思う量でやめておく「腹八分目」という言葉があります。私たちが摂る食事量とそれで満腹を感じるまで20分ほどのタイムラグがあるため、満腹を感じる一歩手前でやめておくと、実際にはちょうどよい量ということになります。
食事の回数
古代の日本では古代は朝夕の2食で、現在のような1日3食が広まり始めたのは江戸時代後半といわれています。食後の血糖値上昇を抑えるインスリン分泌パターンからすると、1度にドカッと食べるよりは、少量ずつ分けて摂取する分食(PortionierteMahlzeiten)の方が、血糖と耐糖能に与える影響には無理がないことになります。身体労働者では10時、15時の少量の間食も理に適っています。
食事時間は自由に工夫
一般的には1日3食を規則正しくと食べることが勧められています。朝ゆっくり食事をできない人は、後で軽食を取るなどフレキシブルに考えることも必要かもしれません。また食事により覚醒ホルモン(オレキシン)が低下し注意力が下がることもあるため、細かな神経を使う作業や運転する人は食事時間を早めたり遅くしたりする工夫も大切です。
3大栄養素とカロリー量(Kalorien)
同じ重量でも栄養組成により得られるカロリーが異なります。例えばパンなど糖質(炭水化物)を1とすると、同じ重量の肉・魚などタンパク質では4倍、脂肪では9倍のカロリーを摂ることになります。
胃もたれ誘引食?
脂肪の多い料理は、胃内に長く留まって胃酸分泌を刺激します。アルコールも胃粘膜を直接刺激するため、脂っこい食事+アルコールが続くと胃もたれになることもあります。
快食生活に近づくヒント
お腹が空いたら食べる
必ずしも1日3食、決まった時間に食事を摂ることにこだわらなくてもよいでしょう。1日1回は気持ちよく満腹感を伴う食事ができることが大切です。
楽しく食べる
一人で食事するときも、仕事をしながら、携帯電話を操作しながらではなく、食事に専念してみましょう。食器の模様や色彩なども食事を楽しいものにします。食事を楽しむためには好きなものを食材が体に良いか悪いかというより、できるだけ自分がおいしいと感じるものを優先的に食べてみるようにしましょう。時にはおいしいと感じるもの少し多めに食べてみるのも、満足感が増して食事を楽しいものにしてくれます。
ゆっくり時間をかけて
短時間にかき込むように食べると胃に負担がかかり、栄養分の消化吸収も低下するため、ある程度の時間をかけて味わいながら食事するように心がけましょう。
栄養のバランス
栄養学的には一日の摂取する栄養組成として、糖質(炭水化物、kohlenhydrate)、タンパク質(Eiweiß)、脂質(Fett)の3大栄養素に、野菜(Gemüse)、果物(Obst)、乳製品(Milchprodukute)が加わるバランスの取れた食事が理想です(糖尿病食事療法のための食品交換表)。