若いときから2日に1度の排便ですが、すっきりと気持ちの良いときとまだ残っているような感じがするときがあります。ほぼ毎晩ビールを飲むパートナーは毎朝排便があるのですが、いつも軟便だと言っています。快便の秘訣は何でしょうか?
Point
- 便性状は腸管での滞在時間が関与
- 快便には胃の健康も大切
- 便利、下痢にはさまざまな仕組み
- 腸管の動きストレスに敏感
- 香辛料、寝不足、ストレス、アルコールで軟便
- 食物繊維は多くと摂れば良いわけではない
便は健康のバロメーター
健康な便とは
茶色から黄土色、太くてバナナ型の便が1回の排便で1~3本ほど、いきまなくとも出てくることが健康な状態です。排便回数は人によって異なり、1日3回以内から1週間3回程度までは問題になりません。
便の性状
便の性状(水分量)は大腸内の通過時間と関係します。通過速度が速いと水分が多く柔らかくなり(水様便、泥状便、軟便)、遅いほど固く水分量が少なくなります(固形便、コロコロ便)。
便の色
牛乳を飲んだ後は黄色、消化不良や緑黄色野菜を多く食べたときは緑色に、肝臓や膵臓の病気では白っぽくなります。便に血液が付着しているときは痔や大腸ポリープが、黒いタール色の便では消化管からの出血が疑われます。
胃の健康も大切
胃腸病といわれるように、腸の具合は胃の調子にも影響されます。快便には胃の健康も欠かせません(本誌1209号「快食編」で取り上げる予定です)。
便秘について(Verstopfung)
便秘とは
「本来体外に排出すべきふん便を十分量かつ快適に排出できない状態」(便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症)で、何日も便が出ず、お腹が張って、お腹が痛く、排便時に強くいきむ必要があります。毎日排便があっても絶えず残便感がある場合は便秘です。
弛緩性便秘(大腸の動きが悪い)
大腸のぜん動運動が不十分で便を押し出すことができずに、腸の中に便がたまります。ガスもたまりやすくお腹が張った感じがします。運動不足も関係します。
直腸性便秘(直腸に便がたまる)
便が肛門近くまで来ているのに排便反射が起こらず、排便できない状態です。便意を感じたらすぐにトイレに行く習慣をつけましょう。
けいれん性便秘(腸の過緊張による)
大きなストレスなどによって腸の動きをコントロールする自律神経が乱れると、腸管がけいれんするように動いて便がスムースに運ばれずに便秘(や下痢)を引き起こします。
下痢について(Durchfall)
下痢とは
医学的には下痢は「1日のふん便中の水分量が200ml以上(または、1日のふん便の重量が200g以上)」(バナナ1本半~2本分が便の100~200 gに相当)、下痢症は「1日の排便回数が増え、軟便または水様便を排泄する場合」と定義されます。
浸透圧性下痢(大腸内の浸透圧が高い)
人工甘味料の入ったダイエット食品を取り過ぎたときや、乳糖不耐症の人が乳製品を取ったときなどに生じる下痢です。
分泌性下痢(腸液が増えた)
細菌やウイルスの感染(感染性腸炎)、食中毒などにより腸の分泌液が増えるために下痢が生じます。
ぜん動運動性下痢(腸管の動きが速くなった)
大きなストレス、過敏性腸症候群、甲状腺機能亢進症などで腸管の動きが速くなりすぎると便が腸を通過する速度が速くなり、下痢が生じます。
滲出性下痢(腸の炎症性疾患による)
クローン病や潰瘍性大腸炎のように血液成分などがにじみ出ることによって生じる下痢です。
過敏性腸症候群(IBS)
どんな病気?
「腸が精神的ストレスや自律神経失調などの原因で刺激に対して過敏な状態になり、便通異常を起こす病気」です(厚生労働省)。一般人口の約10%前後にみられます(日本消化器学会「過敏性腸症候群の診療ガイドライン2020」)。ちょっとした緊張や不安があると便意を催し下痢をきたす「慢性下痢型」(神経性下痢)、腹痛やお腹の不快感とともに下痢と便秘を繰り返す「不安定型」(交代制便通異常)、強い腹痛の後に大量の粘液を排泄する「分泌型」があります(厚生労働省)。
心理的な影響が関与
うつ状態や不安障害、人生早期のトラウマなどが発症のリスク要因になります(前述ガイドライン)。通勤や通学中の電車などでトイレに行きにくい状況に置かれると、お腹が痛くなることも(各駅停車症候群)。
快便のために気を付けたい食事や習慣
食物繊維
食物繊維(Nahrungsfaser、Ballasstoff)は便の水分量を増し排便を促します。できるだけ多く摂れば良いというものではなく、胃腸が弱っている場合は、逆に食物繊維の消化のための負担が大きくなります。
香辛料、脂っこい料理
唐辛子など辛味は消化管粘膜では痛みとして感知され、防御反応として下痢を生じます。脂肪は胃に長く留まり胃酸分泌を刺激し、分解されなかった脂肪は腸のぜん動運動を亢進させて下痢の誘引となります。
乳製品
日本人では年齢とともに乳糖分解酵素が少なくなり、乳製品でお腹を壊しやすくなる人もいます(Laktoseintoleranzha)。腸内で吸収されなかった乳糖が水分を引っ張るために下痢になります。
アルコール
アルコールの多飲では腸管の水分の吸収が悪くなり、糖分や脂肪の分解・吸収も低下して下痢を起こしやすくなります(厚生労働省)。
十分な水分
水分摂取が少ないと便が固くなりやすく、水などを飲むことで腸の運動が刺激されます。またマグネシウム製剤は排便を促す便秘薬としても用いられますが、マグネシウムを多く含む市販の水も効果が期待できます。
十分な睡眠
睡眠不足は胃腸の動きに関わる自律神経のバランスを崩して消化不良や下痢を起こしやすくします。また仕事、家庭での過大なストレスも同様です。
運動やお腹のマッサージ
歩行や体操など適度な運動は腸の動きを活発に。激しい運動は交感神経系を刺激して、腸の運動を抑えようとします。また、お腹を軽く圧迫しながら円を描くようにマッサージすると腸管が動きやすくなります。