ジャパンダイジェスト
ドクターの診察室


ジカ熱ってどんな病気?

テレビのニュースで盛んにジカ熱について報道されています。ジカ熱という病名は、初めて耳にしました。ドイツでも感染が広がる可能性はあるのでしょうか。

Point

  • ジカ・ウイルスによる感染症。
  • ヤブカ属の蚊によって媒介。
  • 症状は軽く、自然に治る。
  • 妊婦の感染と胎児の小頭症の関係が危惧されている。
  • 予防接種はなく、治療は対症療法のみ。
  • 妊娠の可能性のある女性は、感染地域への渡航を控える(2月時点)。

ジカ・ウイルスについて

●名前の由来
ジカウイルス(Zika-Virus)はウガンダ(アフリカ中央部のやや東側)のジカ森に住むアカゲザルから見つかったウイルスによる感染症のため、ジカ・ウイルスと名付けられ、感染症は「ジカ熱」(Zikafieber)と呼ばれます。日本脳炎やデング熱(Denguefieber)、黄熱ウイルスと同じ、フラビウイルス科に属するウイルスです。

●蚊(Stechmücken)が媒介
ジカ熱を発症するジカ・ウイルスはヤブカ属のネッタイシマカや、日本国内にも生息するヒトスジシマカによって媒介されます。人から人への感染はないとされてきましたが、最近になって輸血や性交渉での感染が報告されています。

ジカ・ウイルス感染が拡がるしくみ

●流行地の拡大
もともとはアフリカからアジアにかけての赤道付近の地域に限定されていた流行地域が、2014年には太平洋を超え、2015年には中南米のほぼ全域に広がってきました。感染者数は、最大400万人に達すると危惧されています(WHOの1月28日のコメント)。WHOが2月6日に発表した感染地域を下記に示します。

中南米にてジカ熱の発症のみられた地域

ジカ熱の症状

●潜伏期
感染してから症状が現れるまでの期間(潜伏期)は3~12日間です。 感染しても全く症状の現れない不顕性感染の人もいます。

●軽い症状
発熱や頭痛、関節・筋肉痛、皮疹、目の充血の症状をもって発症します。症状は軽く、気づかれないこともあります。2014年夏に代々木公園を中心に発生したデング熱よりも軽症であると言われています。予後は良好です。2~7日経過した後、特に後遺症も残さずに自然に治ります。

ジカ熱とデング熱

ジカ熱との関連が疑われる疾患

●妊婦に感染すると?
妊娠中の女性がジカ熱に感染すると、胎児は、脳が未発達で頭の大きさが小さくなる「小頭症」(klein Kopf、Mikrozephalus)を発症する可能性が疑われています(米国のNEJM誌、2月10日号)。ブラジルでは昨年10月以来、ジカ・ウイルスとの関連も疑われる小頭症の新生児の出産件数が4000件に上っていますが、その因果関係の詳細は分かっていません。WHOは今年2月1日に緊急事態を宣言し、それを受けて厚生労働省と日本産婦人科学会は、妊婦または妊娠を計画している人の感染地域への渡航を控えるよる注意喚起しています(2月5日の声明)

ブラジルの小頭症の患者数

●ギランバレー症候群
先行する感染の4週間後以内に左右対称性の手足の筋力低下が現れるギラン・バレー症候群の原因疾患の一つとしての関連が疑われています。

ジカ熱の予防・治療・診断

●予防接種はなし
ジカ熱に有効な予防ワクチンはまだ開発されていません。

●蚊に刺されない工夫が大切
出張や旅行で流行地域に滞在する際は、長袖・長ズボンを着用し、虫よけスプレー(Insekten Schutzspray)なども利用して、できるだけ蚊にさされないようにします。

感染リスクのある地域への渡航

●有効な治療法は?
ジカ熱に対する特別な治療法はなく、症状に応じた対症療法のみが行われます。ただし、症状は通常軽く、特別な治療は必要ありません。

●ジカ熱の診断
ウイルスを直接分離するか、ウイルスの遺伝子を検出することにより診断されます。ただし、ウイルスを検出できる病期間が短いため、それも容易ではありません。また、特異的な症状に乏しいため、臨床症状からの診断も困難です。

日本やドイツでの感染の可能性は?

●日本への輸入例は3名
タイのサムイ島からの帰国後にジカ熱と診断された1名と、フランス領ポリネシアのボラボラ島に渡航した後にジカ熱と診断された2名の報告例があります(国立国際医療研究センター病院・国際感染症センターより)。

●日本国内での感染の可能性は?
これまでに日本国内での発症例はありません。しかし、流行地で感染したジカ熱患者が、日本でヒトスジシマカに吸血され、同じ蚊が別の人を刺した場合に、ジカ熱が広がる可能性も否定できないとされています。

●ドイツでは媒介する蚊の生息なし
ドイツでは2月初旬現在、流行地を訪れた5名の患者が確認されています。ドイツにはジカ・ウイルスを媒介するネッタイシマカは生息していないため、感染が広がる可能性はないと考えられています。

●南欧での可能性は?
地中海諸国にはジカ熱を媒介する可能性のある「Aedes Albopictus」という別種の蚊が生息しています。そのため、WHOは今後これらの地域での感染の広がりについて警告しています。

●リオ・オリンピックでの渡航は
WHOは今年の8月にオリンピックとパラリンピックが開かれるブラジルだけで150万人が感染する恐れがあると予測しています。一方、オリピックが開催される時期は年間で最も蚊が少なくなる時期とされ、今のところブラジル政府は予定通りのオリンピック開催を表明し、水たまりなど蚊の発生源を絶つべく衛生検査に全力を挙げています。妊婦はもとより、オリンピック観戦を予定していて妊娠する可能性のある女性の方は、今後も注意して情報収集する必要があります。

最終更新 Dienstag, 23 Februar 2016 16:35
 

実は身近な睡眠時無呼吸症候群

いびきがうるさく、飲酒後は特に呼吸が一時止まっていることがあるようで、「安心して眠れない」と家族から言われます。どうしたらよいのでしょうか?

Point

  • 就寝中のいびき、呼吸異常が原因です。
  • 日中の眠気や居眠り、集中力低下を来します。
  • 太り過ぎ、アルコール摂取が症状を助長します。
  • 生活習慣病の合併が高い確率でみられます。
  • ライフスタイルの改善が治療の基本です。
  • マウスピース、CPAPなどの治療法もあります。

睡眠時無呼吸症候群とは?

●どんな病気ですか?
睡眠中に呼吸が弱まったり(低呼吸)、一時的に止まったり(無呼吸)するため、体内への酸素の取り込みが不十分となり、満足な睡眠が得られずに日中の仕事や生活にも影響してくるような状態を、睡眠時無呼吸症候群(Schlafapnoe-Syndrom=SAS)といいます。

睡眠中のいびき(Schnarchen)、呼吸の乱れ、断続的な呼吸停止、息が詰まって突然目覚めるなどの「睡眠中の症状」と、熟睡感の欠如、日中の集中力の低下、疲れた感じ、会議中やテレビ視聴中の居眠り(Einnicken、Einschlafen)といった「昼間の症状」がみられます。

●無呼吸の原因は?
鼻や喉の空気の通り道(上気道)が眠っている間に狭くなったり、ふさがったりすることが原因で起こる「閉塞性睡眠時無呼吸」が大半です。まれに、脳の部位に問題があって呼吸運動が停止してしまう「中枢性睡眠時無呼吸」があります。

睡眠時無呼吸の原因

●リスクのある人
普段からいびきが大きい、首が短い、肥満のため首の周りに脂肪がついている、就寝前の飲酒、扁桃腺(Mandel、Tonsille)の肥大、舌が大きい、鼻中隔の変形による鼻詰まりなどが影響します。睡眠薬(Schlafmittel)は顎部の筋肉を弛緩させるため、リスクのある人が服用すると睡眠時の無呼吸を助長することがあります。

●診断は?
1:7時間の睡眠中に10秒間以上の無呼吸が30回以上、2:無呼吸や低呼吸が1時間に5回以上繰り返され日中の眠気など自覚症状を伴う場合、3:自覚症状がなくとも1時間に15回以上の無呼吸や低呼吸がみらる場合、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。重症度は、睡眠中の10秒間以上の無呼吸や低呼吸の回数(無呼吸・低呼吸指数)が、5〜15未満を軽症、15〜30未満を中等症、30以上を重症と判定します。

●頻度は?
30〜60歳を対象とした米国の調査によると、睡眠時無呼吸症候群の割合は男性全体の4%、女性全体の2%。昼間の症状がなくとも睡眠時に何らかの呼吸障害がみられる人は男性の24%、女性の9%でした(米医学専門誌Expert Rev Respir Med、2008年)。日本には、200〜300万人ほどの患者がいると推測されています。

●いびきの音はどこから?
呼吸により、空気が上気道を通過するときに、粘膜の部分が振動して鳴る抵抗音がいびきの正体です。睡眠時は、喉の筋肉が緩むため音が出やすくなります。仰向けの体位、過労や就寝前の飲酒がいびきを増悪させます。

●家族も不眠に
就寝中の大きないびきや激しい呼吸の乱れ、繰り返される無呼吸は、横で寝ているパートナーにも不安感を与え、本人ばかりか家族の睡眠の質を低下させることも少なくありません。

まずセルフチェックしてみましょう

●日中の眠気が指標
睡眠時無呼吸症候群は、日中の眠気と関係があります。まず日中の眠気の程度を、下記の眠気スコアで評価してみましょう。

眠気スコア(エプワース眠気尺度表)

●睡眠時無呼吸症候群の検査
本人は症状を自覚していないことも多いため、検査を行って症状を正確に把握する必要があります。口と鼻に呼吸センサーを付け、指先には酸素濃度測定器を付けて、自宅で計測できる簡易睡眠検査や、1泊の入院中に睡眠時の換気運動、心電図、脳波、眼球運動など測定するポリソムノグラフィー(PSG)が行われる精密検査があります。

●睡眠時無呼吸症候群に関係する病気や事故

●メタボリック症候群
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の患者は、高血圧のリスクが健康な人の約2倍、糖尿病は2〜3倍です(循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2008-2009)。SASとメタボリック症候群の合併は、男性で約5割、女性で約3割とかなり高頻度にみられます(米医学専門誌Hypertens Res、2006年)。

●心臓や脳血管の病気
心臓血管障害や脳血管障害を来しやすくなります。狭心症や心筋梗塞のリスクは健康な人の約2〜3倍、不整脈は2〜4倍、脳梗塞・脳出血などの脳血管障害のリスクは約4倍にもなります。

●居眠り運転
SAS患者は、居眠り運転の危険が約5倍も増すと言われています。「睡眠と安全運転に関する調査」によると、SAS患者の約10%が過去5年間に居眠り事故を経験しているという報告があります。(平成18年度警察庁委託調査研究報告書)。

睡眠時無呼吸症候群の居眠り運転の事故率(過去5年間)

睡眠時無呼吸症候群の治療

●日常生活で改善できること
喉周囲の脂肪は上気道を圧迫し、気道を狭くしますので、肥満を解消することが重要です。また、就寝前の飲酒はできるだけ控えましょう。就寝中、仰向けの姿勢をとると舌が後ろ側に沈んで気道を狭くしやすくするため、横向きで寝ることが勧められます。鼻に原因がある人は耳鼻科の治療を受けてください。

●マウスピースの利用
歯科で作ってもらったマウスピース(Mundstück)を装着し、睡眠時の上あごを下あごの前方に固定することによって気道を確保します。軽症の場合に向いています。

●持続気道陽圧呼吸療法(CPAP-Beatmung)
鼻に装着したマスクを通して、ポンプから圧力をかけた空気を送り、気道が狭くなるのを防ぐ治療法です(帝人のスリープメイト ®など)。中等症・重症の場合に向いている治療法です。

●手術による治療
いびきや睡眠時無呼吸の原因が、扁桃腺肥大やアデノイドにある場合は摘出手術を行います。狭くなっている上気道の部分を広げる口蓋垂(こうがいすい)・軟口蓋 (なんこうがい)・咽頭形成術が検討されることもあります。

●怪しいと思ったら医療機関へ
セルフチェックで睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、一度かかりつけ医に相談するか、睡眠時無呼吸を専門とする医療機関を受診しましょう。

最終更新 Mittwoch, 19 Oktober 2016 17:51
 

わかりやすい乳がんの治療法

ドイツで乳がんが見つかった場合には、どのような治療を受けますか? 日本とドイツで、治療法に違いはあるのでしょうか?

Point

  • 治療法の選択において重要なのは、乳がんの病期。
  • 早期の乳がんは、乳房温存療法が基本。
  • ホルモン療法か化学療法かは、がん細胞の性質をみて決める。
  • 放射線療法は、乳がんの再発を減らす。
  • 日本とドイツで基本的に治療法は同じです。

乳がん治療の方針を決めるために

●乳がんのステージ分類
しこり(がん)の大きさ、周囲への広がり、リンパ節への転移の有無、別の臓器への転移の有無などにより、乳がんのステージ(病期)分類がなされます。ステージ分類は、治療法の選択と予後を予測する上でとても大切な診断です。

乳がんのステージ分類

●血管やリンパ管のがん細胞
しこりの周囲にある血管やリンパ管の中にもがん細胞が存在(脈管侵襲)する場合、転移や再発のリスクが高まります。乳がんの転移先として多いのは、肺や肝臓、骨です。乳房から離れた臓器への転移が明らかに認められるような乳がんでは、手術による治療は難しくなります。

●がん細胞の性質
手術により得られた組織から、病理学的にがんの組織型、悪性の度合い、女性ホルモンに対する受容体の有無、細胞の増殖能(増殖関連遺伝子のKi67陽性の割合)、がん細胞増殖の制御と関係する蛋白の状態(HER2蛋白が多いほど制御できない)などを調べることも、その後の治療方針を決めるのに必要な検査です。

乳がんの手術

●乳房温存手術(Brusterhaltende Chirurgie、Lumpektomie)
ステージ0期、I期、II期の乳がんの標準的な術法です。乳房の一部を円形、もしくは扇型に切除することによって腫瘍を取り除きます。

乳がんの治療法

●乳房温存療法
上述の「乳房温存手術」と、乳房内での再発(局所再発)予防のための放射線療法を組み合わせた治療法です。さらに、乳房の外に転移しているかもしれない小さな転移巣を根絶するため、ホルモン療法や化学療法を組み合わせることもあります。

●乳房切除術(Einfache Mastektomie)
ステージIII期の乳がん、および腫瘍が大きい場合(3cm以上)は、片側の乳房全体を取り除く「乳房切除術」が行われます。(乳房切除術は下記の表に示されるような場合が適応です)。

乳がん手術の選択

●乳房再建術(Brustrekonstruktion)
腹部や背中の組織を移植したり、エキスパンダーと呼ばれる人工乳房を用いたりすることで、手術によって失われた乳房を形成外科的に再建する方法があります。乳房を再建することで、乳がんが再発しやすくなったり、再発の診断の妨げになるということはありません(日本乳癌学会のコメントより)。

乳がんのホルモン療法

●ホルモン療法(Antihormonalle Therapie)とは
乳がんの内、6〜7割は女性ホルモンのエストロゲンの作用によってがん細胞が増殖する「ホルモン感受性乳がん」と呼ばれるタイプです。この場合は、エストロゲンの作用を抑えることにより、再発と転移を約半分に抑えることができます。

●LH-RHアゴニスト(Gn-RH Analoga)
 閉経前の女性のエストロゲンを減らす薬です。卵巣で、エストロゲンの分泌を調節しているのが脳下垂体から分泌されるLH(黄体形成ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)、さらにこのLHとFSHの分泌を制御しているのがLH-RH(LH放出ホルモン)です。複雑ですね。LH-RHアゴニストを投与することで、下垂体からLH分泌を抑え、卵巣で作られるエストロゲンを減らします。

ホルモン療法の薬

●抗エストロゲン薬
血中のエストロゲンと、がん細胞表面にあるエストロゲン受容体が結びつくのを抑える薬です。閉経前と閉経後の女性に用いられます。タモキシフェン(商品名はノルバデックス®、タスミオン®)が有名です。

●アロマターゼ阻害剤
閉経後の女性のエストロゲンを減らす薬です。閉経後の女性は、アロマターゼという酵素の働きにより、何と男性ホルモンから女性ホルモンを作っています。このアロマターゼの役割をブロックすることで、女性ホルモンが作られるのを抑えます。

乳がんの化学療法(Chemotherapie)

●なぜ抗がん剤を使うの?
乳管内にとどまっている乳がん(非浸潤がん)の場合、ほとんどが手術や放射線療法な どの局所治療で治療されます。しかし、乳管の外にまで広がった「浸潤がん」になると、体のどこかに転移している可能性のある、目には見えない「微小転移がん」をたたくために、化学療法(全身治療)が用いられます。

●抗がん剤の選択と組合せ
組織検査から得られた乳がん細胞の性質を参考に、何種類かの抗がん剤を組み合わせて用います(CMF療法、AC療法など)。これは作用の異なる薬剤を組み合わせることによって、より高い治療効果を得るためです。同時に副作用を分散させることもできます。

●抗がん剤の副作用
抗がん剤によって、吐き気や脱毛、白血球減少などの副作用が現れることが知られています。がん細胞のDNAや増殖過程に作用する抗がん剤は、一部の正常な細胞に対しても少なからぬ影響を及ぼします。治療を開始する前に、使用する抗がん剤の種類と効果、予想される副作用について、担当医から十分な説明を受けるようにしましょう。

ホルモン製剤・抗がん剤の主な副作用

乳がんの放射線療法

●放射線療法(Strahlentherapie、Bestrahlung)
乳房温存手術の後、乳房の放射線療法を行うことで、乳がん再発のリスクを減らすことができます。仮に腫瘍をすべて取り除いたとしても、目に見えないがん細胞が乳房内に残っている場合もあり、これが再発の原因になり得るからです。手術で取り除いた組織を調べて、がんが完全に取り除かれたことを確認できた場合には放射線治療が行われないこともあります。乳がん細胞は、正常細胞より放射線の感受性が高く、ダメージを受けやすいので、放射線照射によってがん細胞の増殖が抑えられます。

●副作用はありますか?
照射後3〜4週間後に、皮ふが赤くなってヒリヒリする急性期の副作用と、放射線の照射後しばらくしてみられる晩期の副作用があります。晩期の副作用には放射線肺炎があり、予後は一般的には良好ですが、肺炎の範囲が広いときには重篤な状態になることもあります(日本呼吸器学会の「市民のみなさま向け」の情報より)。

最終更新 Montag, 04 Januar 2016 13:12
 

乳がん診断のためのABC

左の乳房にしこりのようなものがあります。母が乳がんの手術を受けていることもあり、乳がんではないかと心配です。どのような検査を受けたら良いでしょうか?

Point

  • 日本人女性の12人に1人が乳がんに罹患。
  • 日本人女性の乳がん罹患率のピークは欧米人より若い。
  • 早期に見つかった乳がんほど、生命予後が良い。
  • 乳がん検診: 触診、マンモグラフィー、乳房超音波。
  • 精密検査: 乳房の造影MRI、細胞診、組織診。

乳がんの基礎知識

●女性の12人に1人
乳がん(Brustkrebs、Mammakarzinom)は、乳腺(Milchdrüse)にできる悪性腫瘍です。日本人女性が一生のうちに乳がんに罹患する確率は9%(がん研究振興財団「がんの統計 2014」より)と高く、女性のがん全体の20%を占めています。乳がんで亡くなる女性は、2013年には年間1万3000人を超え、40代女性ががんで死亡する場合の最大の原因となっています。

女性のがん全体に占める乳がんの割合, 40〜 44歳女性の部位別がん死亡の割合

●30代から要注意
乳がんは、ほかのがんよりも若い世代に多くみられる病気です。日本の集計によると、30代から増えはじめ、罹患率は40代と60代がピークです。欧米の女性と比べると、日本人女性の乳がん罹患率のピークは、かなり若いことが特徴です。

日本人女性の乳がんの年齢階級別罹患率

●早期発見が大切
腫瘍がまだ小さく、リンパ節転移のない段階で見つかった乳がんを、「早期乳がん」と呼びます。早期乳がんの5年生存率をみると、0期でほぼ100%、1期で約90%と、周囲への浸潤やがんの転移がみられる「進行乳がん」と比べてはるかに良好です。早期発見ができれば命にかかわる病気ではなく、乳がん検診が大切なのはこのためです。

早期乳がんの予後

●5~10mm大のしこりでも検査を
良性でも悪性でも、乳房の腫瘍が5~10mm大になると、しこり(Knoten、Steif)として触れるようになります。「しこり= 乳がん」ではありませんが、しこりの存在に気づいたら、早めに検査を受けるようにしましょう。

●血液の腫瘍マーカーでは不十分
乳がんの腫瘍マーカーとしては、CA15-3、CEA、NCC-ST-439などがあり、再発乳がんの経過観察に用いられています。ただし、これらの腫瘍マーカーは、早期の乳がんの診断に対しては陽性率が低いため、早期発見に役立つものではありません(日本乳癌学会のQ&Aより)。

乳がん発見のための検査

●セルフチェックの勧め
乳房のしこり、乳房の皮膚にえくぼのような引きつれ、脇の下のリンパ節に腫れがないか、月に1度のセルフチェックを習慣にすることで、乳房の変化に気づきやすくなります。乳房の部位でみると、左右とも外側上部が最もがんのできやすい場所とされています。セルフチェックは、生理が終わり、乳房に張りのない時期に行うと良いでしょう。

乳がんのセルフチェック

●マンモグラフィー
マンモグラフィー(Mammographie)は、レントゲンを使った乳房検査で、石灰化や腫瘤の診断に力を発揮します。特に、約半数の乳がん患者にみられる「微小な砂状の石灰化の集積群(微小石灰化群、gruppierte Mikrokalzifikationen)」という特徴的な病変は、マンモグラフィーにて検出されます。

●乳房超音波
超音波による乳房検査は、マンモグラフィーよりも簡便です。のう胞(Zyst)性の病変や、腫瘤を見つけるのに役立ちます。乳腺の発達した若い女性や妊婦の検査にも有用です。

●マンモグラフィーと乳房超音波検査の違い
マンモグラフィーと乳房超音波は、検査の対象とする病変が多少異なります。一般に、中高年の女性はマンモグラフィー、乳腺の発達している若い女性は乳房超音波が勧めらます。40代の日本人女性、約7万6000人を対象とした大規模臨床試験では、マンモグラフィーと乳房超音波検査を組み合わることで、乳がんの発見率が1.5倍に上昇することが示されました(英国の医学雑誌「Lancet」、2015年11月5日号の論文より)。

●乳房のMRI(核磁気共鳴画像法)
マンモグラフィーや乳房超音波の結果、疑わしい症状や部位が見つかり、さらなる精密検査が必要な場合、乳房のMRI(MRT)が行われます。MRIは磁石を用いて行う検査で、X線の照射はありません。通常は造影剤を用いての検査となります。

●組織診断
乳房に悪性を否定できない病変が見つかった場合は、病理学的な組織診断(細胞診や組織診)をします。これは、乳房の病変部位に針を刺して組織の一部を採取し、それを詳しく検査します。

●重要なBI-RADS分類
ドイツでマンモグラフィーや乳房超音波検査を受けると、報告書の評価にBI-RADS(ビラーズ)分類の「1~6の数字」が記載されます。このBI-RADS分類は世界共通の評価方法で、カテゴリー「3」の場合は短期的な経過観察、カテゴリー「4」の場合は悪性が疑われるため、組織診断が必要とされます。

BI-RADS(ビラーズ)の分類

●乳がん検査の費用負担は?
日本における女性の乳がん罹患率は30代から増え、第一のピークは40代です。しかしドイツでは、マンモグラフィーによる乳がん検診プログラムは放射線被ばく(日本までの飛行機の片道分に相当)の課題もあり、50歳以降からの適応となっています。ドイツにお住まいの日本人女性、特に40代の皆さんは、留意が必要です。

●日本では
厚生労働省は2006年に、「40歳以上の女性に対し、2年に1度、視診・触診およびマンモグラフィーの併用検診を行う」という指針を出しています。そのため、40歳以上の女性は、市区町村健診の一環として2年に1度、もしくは企業健診の規定に従って受診ができます。40歳未満の女性では自己負担、もしくは勤務する職場の規定による検診を受けることができます(企業により費用負担が異なります)。

●ドイツでは
30歳以上の女性は、年1回の触診による乳がんチェック、50~69歳では乳がん検診プログラム(Mammographie-Screening-Programm)に則って2年に1回のマンモグラフィーによる検診が勧められています。公的健康保険加入者の場合、このプログラムの枠内の検査においては、原則的に自己負担はありません。50歳未満のプライベート健康保険加入者では、検査の理由や契約内容などによって異なります。

最終更新 Dienstag, 24 November 2015 12:59
 

鼻から投与するインフルエンザ予防ワクチン

ドイツには、鼻から投与するタイプのインフルエンザ予防ワクチンがあると聞きました。投与法や予防効果など、注射型の予防ワクチンと、どのような違いがあるのか教えてください。

Point

  • 経鼻投与型ワクチンは生ワクチンです。
  • 2~17歳児に用いることができ、特に2~6歳児に推奨されています。
  • ぜんそくのある小児には接種できません。
  • 乳児と成人には注射型ワクチンを用います。

ドイツのインフルエンザ

●昨季の流行をおさらい
2015年のロベルト・コッホ研究所の報告によると、2013/14年にインフルエンザ(Influenza)にかかって医療機関を訪れた患者の数は、ドイツ国内だけで約620万人に上ります。医療機関を訪れなかった人もいるはずなので、実際にはドイツに住む人の10分の1以上が感染したと推測されます。

●インフルエンザの症状
ウイルスに感染してから発症するまでの潜伏期(Inkubationszeit)は1~2日(長くて4日)、発症すると普通の風邪よりも重症化することが多く、突然の高熱と筋肉や関節の痛み、頭痛、軽いのどの痛みや鼻水などの症状が3~5日間(長くて7日間)続きます。ウイルスの感染力は強く、患者に接することにより感染が広がります。

●予防接種の効果
インフルエンザに対する最も有効な予防法は、予防接種(Schutzimpfung)です。しかし、予防効果は健康な人でも60~70%程度と、100%ではありません。ただし、予防接種は重症化防止の方法としても有効であるため、インフルエンザにかかった場合に重症化する可能性の高い人(妊婦や高齢者、慢性疾患患者)は、特に接種することが勧められています。世界保健機関(WHO)は、インフルエンザ重症化の高リスク群である患者への予防接種率を75%以上に上げることを目標としていますが、ドイツの60歳以上の年配者で49%、慢性疾患を患っている18~59歳の年代層でも約25%程度と、接種率は低いのが現状です。

2014 / 2015年のドイツでの流行状況

経鼻型のインフルエンザ予防ワクチン

●4種類のウイルス株に有効な生ワクチン
Fluenz® Tetraという生ワクチンで、ドイツではアストラゼネカ社(AstraZeneca)が製剤提供しています。ワクチン作製には、1)低温状態でのみ活動し、2)温かい人体内では活動が制限され、3)インフルエンザを発症させない、弱体化したウイルスが用いられています。「Tetra(4の意)」の名が示すように、4種類のウイルス株に対して予防効果が期待できます。これら4株は、WHOと欧州連合(EU)が2015/2016年の北半球における流行を予測して選んだものです。

投与方法は、薬剤が詰められた鼻腔内注入器を用い、両方の鼻腔に片側0.1mlずつワクチンを注入します。痛みは特にありません。

●接種の対象年令
ドイツでは2~17歳が投与の適応年齢となっていますが、米国では、FluMist® Quadrivalentという径鼻型生ワクチンの対象年齢を2~49歳としています。

小児に対しては、特にインフルエンザ発症の予防効果が高いことが示されています。ウイルス株の一致した米国の5歳未満の子どもについては、90%近い予防効果が得られ(臨床試験番号 AV006の結果)、6~17歳を対象とした欧州の研究でも注射製剤の不活化ワクチンと比較した際、予防効果が30%上がるという高い効果がみられています(臨床試験番号 D153-P515の結果)。

●ぜんそくがある場合は使用不可
鼻腔内投与が引き金となって、ぜんそくの発作や悪化がみられることがあるので、ぜんそくのある5歳未満の小児、1年以内にぜんそくの発作がみられた患者には使えません。また、血液疾患や悪性腫瘍により、免疫が低下している患者にも接種できません。

●妊娠中・授乳中は使用不可
妊婦、または妊娠の可能性がある場合、この経鼻型の生ワクチンは使えません。また、母乳への移行と乳児への影響が否定できないため、授乳中の女性も接種できません。

●接種後はアスピリンの使用不可
アスピリンとの関連が指摘されるライ症候群を引き起こさないよう、ワクチン接種後4週間は、アスピリンの使用を絶対に避けてください。接種後4週間は、ほかの予防接種も控えましょう。

●副作用
最も頻度の多い副作用は、鼻づまりの症状です。接種後1週間は、軽い風邪症状(微熱、頭痛、のどの痛み)を認めることもあります。

注射型ワクチンと経鼻型ワクチンの相違

注射型のインフルエンザ予防ワクチン

●3種類のウイルス株に有効な不活化ワクチン
注射によるインフルエンザ予防ワクチンは、ウイルスの免疫を作るのに必要な成分だけを取り出して毒性をなくして作った、不活化ワクチンです。WHOとEUが、2015/16年に北半球での流行する可能性が高いと判断した3種類のウイルス株に対して有効です。

大人に対しては、ワクチンのウイルス株と流行株が一致した場合、経鼻型のインフルエンザ予防ワクチンより注射型の方が、予防効果は高くなるともいわれています。

インフルエンザが重症化した際のリスクが高い、妊婦や高齢者、慢性疾患患者には、注射型の不活化ワクチンの予防接種が強く勧められています。

今季のドイツでの予防接種

●ドイツで使えるワクチン製剤
今年9月2日の時点で注射用の不活化ワクチン(Totimpfstoff)が15製剤、経鼻投与型の生ワクチン(Lebendimpfstoff)が1製剤、計16製剤が、2015/16年用として認可されています。

●生後6カ月~1歳
注射型のインフルエンザ予防ワクチン(大人の半量)を接種します。副作用のリスクから、経鼻型の予防ワクチンは用いられません。

●2~6歳まで
ロベルト・コッホ研究所の予防接種委員会(STIKO)は、今季から、小児に対する効果を認めた経鼻型の生ワクチンによる予防接種を、2~6歳の子どもに推奨しています。注射型の予防接種も受けられます。

今までインフルエンザにかかったことがなく、今回初めて予防接種を受けるという小児には、初回の接種から4週間後に、同じタイプのワクチンの2回目接種(Folgedosis)が勧められています。

●7~17歳まで
経鼻型のワクチンも注射型のワクチンも、どちらも受けることができます。

●18歳以上
注射型のインフルエンザ予防接種が行われます。

お年齢別インフルエンザ予防接種

経鼻投与型のインフルエンザ予防接種について分からない点がありましたら、かかりつけの医師、もしくは予防接種を受けられる医療機関に尋ねてみましょう。

インフルエンザの予防法

最終更新 Mittwoch, 19 Oktober 2016 17:52
 

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