テレビのニュースで盛んにジカ熱について報道されています。ジカ熱という病名は、初めて耳にしました。ドイツでも感染が広がる可能性はあるのでしょうか。
Point
- ジカ・ウイルスによる感染症。
- ヤブカ属の蚊によって媒介。
- 症状は軽く、自然に治る。
- 妊婦の感染と胎児の小頭症の関係が危惧されている。
- 予防接種はなく、治療は対症療法のみ。
- 妊娠の可能性のある女性は、感染地域への渡航を控える(2月時点)。
ジカ・ウイルスについて
●名前の由来
ジカウイルス(Zika-Virus)はウガンダ(アフリカ中央部のやや東側)のジカ森に住むアカゲザルから見つかったウイルスによる感染症のため、ジカ・ウイルスと名付けられ、感染症は「ジカ熱」(Zikafieber)と呼ばれます。日本脳炎やデング熱(Denguefieber)、黄熱ウイルスと同じ、フラビウイルス科に属するウイルスです。
●蚊(Stechmücken)が媒介
ジカ熱を発症するジカ・ウイルスはヤブカ属のネッタイシマカや、日本国内にも生息するヒトスジシマカによって媒介されます。人から人への感染はないとされてきましたが、最近になって輸血や性交渉での感染が報告されています。
●流行地の拡大
もともとはアフリカからアジアにかけての赤道付近の地域に限定されていた流行地域が、2014年には太平洋を超え、2015年には中南米のほぼ全域に広がってきました。感染者数は、最大400万人に達すると危惧されています(WHOの1月28日のコメント)。WHOが2月6日に発表した感染地域を下記に示します。
ジカ熱の症状
●潜伏期
感染してから症状が現れるまでの期間(潜伏期)は3~12日間です。 感染しても全く症状の現れない不顕性感染の人もいます。
●軽い症状
発熱や頭痛、関節・筋肉痛、皮疹、目の充血の症状をもって発症します。症状は軽く、気づかれないこともあります。2014年夏に代々木公園を中心に発生したデング熱よりも軽症であると言われています。予後は良好です。2~7日経過した後、特に後遺症も残さずに自然に治ります。
ジカ熱との関連が疑われる疾患
●妊婦に感染すると?
妊娠中の女性がジカ熱に感染すると、胎児は、脳が未発達で頭の大きさが小さくなる「小頭症」(klein Kopf、Mikrozephalus)を発症する可能性が疑われています(米国のNEJM誌、2月10日号)。ブラジルでは昨年10月以来、ジカ・ウイルスとの関連も疑われる小頭症の新生児の出産件数が4000件に上っていますが、その因果関係の詳細は分かっていません。WHOは今年2月1日に緊急事態を宣言し、それを受けて厚生労働省と日本産婦人科学会は、妊婦または妊娠を計画している人の感染地域への渡航を控えるよる注意喚起しています(2月5日の声明)
●ギランバレー症候群
先行する感染の4週間後以内に左右対称性の手足の筋力低下が現れるギラン・バレー症候群の原因疾患の一つとしての関連が疑われています。
ジカ熱の予防・治療・診断
●予防接種はなし
ジカ熱に有効な予防ワクチンはまだ開発されていません。
●蚊に刺されない工夫が大切
出張や旅行で流行地域に滞在する際は、長袖・長ズボンを着用し、虫よけスプレー(Insekten Schutzspray)なども利用して、できるだけ蚊にさされないようにします。
●有効な治療法は?
ジカ熱に対する特別な治療法はなく、症状に応じた対症療法のみが行われます。ただし、症状は通常軽く、特別な治療は必要ありません。
●ジカ熱の診断
ウイルスを直接分離するか、ウイルスの遺伝子を検出することにより診断されます。ただし、ウイルスを検出できる病期間が短いため、それも容易ではありません。また、特異的な症状に乏しいため、臨床症状からの診断も困難です。
日本やドイツでの感染の可能性は?
●日本への輸入例は3名
タイのサムイ島からの帰国後にジカ熱と診断された1名と、フランス領ポリネシアのボラボラ島に渡航した後にジカ熱と診断された2名の報告例があります(国立国際医療研究センター病院・国際感染症センターより)。
●日本国内での感染の可能性は?
これまでに日本国内での発症例はありません。しかし、流行地で感染したジカ熱患者が、日本でヒトスジシマカに吸血され、同じ蚊が別の人を刺した場合に、ジカ熱が広がる可能性も否定できないとされています。
●ドイツでは媒介する蚊の生息なし
ドイツでは2月初旬現在、流行地を訪れた5名の患者が確認されています。ドイツにはジカ・ウイルスを媒介するネッタイシマカは生息していないため、感染が広がる可能性はないと考えられています。
●南欧での可能性は?
地中海諸国にはジカ熱を媒介する可能性のある「Aedes Albopictus」という別種の蚊が生息しています。そのため、WHOは今後これらの地域での感染の広がりについて警告しています。
●リオ・オリンピックでの渡航は
WHOは今年の8月にオリンピックとパラリンピックが開かれるブラジルだけで150万人が感染する恐れがあると予測しています。一方、オリピックが開催される時期は年間で最も蚊が少なくなる時期とされ、今のところブラジル政府は予定通りのオリンピック開催を表明し、水たまりなど蚊の発生源を絶つべく衛生検査に全力を挙げています。妊婦はもとより、オリンピック観戦を予定していて妊娠する可能性のある女性の方は、今後も注意して情報収集する必要があります。