ジャパンダイジェスト
ドクターの診察室


ドイツの水 硬水と健康

ドイツに来て半年ほど経ちますが、まだドイツの水(硬水)に馴染めません。また、硬水の健康への影響も気になります。

水の硬度とは?

水に含まれるカルシウムやマグネシウムのイオンの多いものが「硬水」、少ないものが「軟水」です。日本の水道水は多くが軟水なのに対し、ドイツを含め、欧州のほとんどの地域で水道水は硬水です。水の硬度の表記単位と定義は様々で、ドイツでは14°dH以上(WHOの基準でほぼ250mg/L)を硬水としています(図1)。ちなみに、デュッセルドルフでは14.5°dH(Stadtwerke Düsseldorf, 2010年分析)、ケルンでは18.7°dH(RheinEnergie, 2010年分析)、ベルリンでは15.4~24.1°dH(Berliner Wasserbetrieb, 2009年分析)と地域によって差があります。

図1 水の硬度の分類

硬水の日常生活への影響は?

軟水は素材の味を引き出すので、お米を炊いたり、コーヒーやお茶を入れたりするのに適しています。一方、硬水を肉の煮込み料理に用いると、硬水中のカルシウムがタンパク質と結合し、アクとなって取り除かれるため、肉の臭みが少なくなります。ドイツのビールの味にも各地方の硬水の特徴が出ています。また、硬水で石鹸を使うと泡立ちが悪く、特にアルカリ性石鹸だと硬水で成分が凝固するため、体表にヌルヌルとした石鹸の成分が残り、洗い落とすのに時間が掛かります。塩類が析出し、白い斑点(スケール)として、蛇口など水回りに残るのも硬水の特徴です。

どうしてドイツの水は硬水なのですか?

水道水の硬度はその水源に影響されます。欧州では、地下水や河川水が石灰質の豊富な地域を長い時間を掛けて通ってくるため、水の硬度が高くなります。ちなみに、海中ではカルシウムが海洋微生物により速やかに除去されるため、海水中のカルシウム濃度は河川水ほど高くありません。

硬水の健康への影響は?

日本の水道水もドイツの水道水も各々の国の安全基準をクリアしています。WHOが2006年と2009年にまとめた、飲料水中に含まれるカルシウムとマグネシウムの健康への影響についての報告書によると、長期間の硬水摂取による特定の疾病の増加は認められていません。

● 尿路結石
カルシウムを多く含む硬水の水道水を飲むと腎結石が増えるのではないか? と、多くの研究がなされました。その結果、硬水と尿路結石との因果関係はないというのが現在の結論です。むしろ、硬水は腸管で尿路結石の元となるしゅう酸吸収を妨げ、尿路内でのしゅう酸の濃度を下げることにより結石形成を抑えると考えられています。

● 胆石
同じ体内に出来る「石」でも、胆石の主な原因はカルシウムではなく胆汁に含まれるコレステロール。硬水によって胆石が増えるという臨床的な証拠は見付かっていません。胆石形成にはコレステロールの多い食生活と肥満が大きな影響を与えています。

● 唾石(だせき)
唾石は主に顎下腺(がくかせん)に異物を中心とした石灰化が起こり、食事の時に耳から頚部(けいぶ)に放散する痛みを生じる疾患です。水の硬度が大きく違う2地域を比較したイギリスの研究によると、硬水と唾石症には関係性が確認されていません。

● 皮ふ疾患
硬水自体が湿疹を起こすことはありません。しかし、石鹸カスやスケール(石灰カス)が十分に洗い落とされずに体表に付着したまま残っていると、皮ふの炎症(湿疹)の引き金になります。また、体に残った石鹸を取り除こうと強くこすりすぎると、その部分の皮ふの防御バリアが壊され、乾燥肌(乾皮症)を誘引することもあります。赤ちゃんの皮ふは大人より敏感で、しかも皮ふの防御システムが十分に完成していないので注意が必要です。

● 心疾患
 一時、カルシウムを多く含む硬水は動脈硬化を促進して狭心症や心筋梗塞などの心疾患を増やすのではないかと議論されました。しかし、現在まで硬水が心疾患を増やすという証拠はなく、弱効果ながら、むしろ心疾患を減らす可能性さえも示唆されています。

● 下痢
硬水中のマグネシウム・イオンは腸管で水と結合することにより、水の吸収を妨げます。そのため、大量の硬水を飲むと下痢を起こすことがあります。反対に、非常に硬度の高いミネラルウォーター(超硬水)などは、便秘改善の目的で飲まれることもあるようです。

市販のミネラルウォーターの硬度は?

ドイツの主流は炭酸入りミネラルウォーター。しかし炭酸が入っていなくても、水の硬度は日本の水より高いことが少なくありません。有名なエヴィアン、ヴィッテルも硬度300mg/Lを越す硬水です。一方、ボルヴィックは硬度60mg/Lの軟水と言ったように、スーパーでは実に多様なミネラルウォーターが販売されています。なお、嗜好飲料の多くには硬水より遥かに多量のカルシウムやリンが含まれています。

軟水器・浄水器とは?

硬水中のカルシウムやマグネシウムを減らし、口当たりの良い水に変えるのが軟水器です。陽イオン交換樹脂の働きでカルシウムやマグネシウムなどの陽イオンをナトリウムイオンと置き換える方法が一般的。活性炭や微細フィルターと組み合わせて有機物・微細粒子も減少させるような装置もあります。また、逆浸透膜という膜で水を濾過し、不純物を取り除こうとするものもあります。どうしても硬水が口に合わないという場合には、手頃な値段で軟水・浄水器が市販されているので、試してみても良いかもしれません。

最終更新 Dienstag, 06 September 2011 14:30
 

ドイツの夏と健康

初めて過ごすドイツの夏です。日本では熱中症が問題になっていますが、ドイツでは健康上どのような注意が必要でしょうか。

寒暖の変化

7月は38℃近い暑さが続いたのに、8月上旬は最高気温が20℃前後の涼しさ。来週はどんな気温に変化するのか、カレンダー通りには予想できないのがドイツの夏です。気温の日内変動幅も大きく、日中は半袖・半ズボンでも夜は温かい上着が必要ということもよくあります。寒暖の変化に起因する体調異常に留意し、夜の外出や小旅行の際は暖かめの衣服も用意しましょう。

知らない内に脱水状態

ドイツは日本に比べて湿度が低く、背中に汗をかきながら歩くという経験はあまりありません。しかし、自覚がなくても体内からは「不感蒸発」として、肺や皮ふから絶えず水分が失われています。不感蒸発は体重60kgの人で1日に約900ml、気温が30℃以上の時は1℃上がるごとにさらに15 ~ 20%、量が増えます。スポーツや長時間のハイキング、南欧地域に旅行する際には、喉が乾いていなくても適宣水分を補うようにしましょう。特に小さい子どもと高齢者には注意が必要です。

熱中症は無縁ですか?

発汗による体温調節がうまくいかずに体の中に熱がたまり、生じる病態が熱中症ですが、気温の低いドイツでも必ずしも無縁ではありません。今年の7月のようにヨーロッパでも数年に一度は猛暑が訪れます。最上階の住居、炎天下での重労働、筋肉から大量の熱を発生する激しいスポーツなど、高い外気温の中で体温調整の限界を越えた場合に発症します。大切なことは、体温を効果的に下げることです。昔の日本の「行水」のように、バスタブに生温い水を入れて10 ~ 20分つかるだけでも体温の有効な調整に役立ちます(表1)。濡れたタオルを体に直接載せるだけでも気化熱で温度が下がります。

表1 熱中症の予防に役立つ方法
・喉が乾いていなくとも水分の補給に配慮
・通気性の良い服装
・炎天下でのスポーツ、筋肉労働はできるだけ控える
・猛暑日はバスタブ「行水」やプール(Schwimmbad)が効果的
・十分な睡眠時間に配慮

日焼け

ドイツは冬の日照時間が短いこともあり、日光浴を楽しむ人が多く、日焼けはおしゃれの1つにもなっています。北緯に位置するドイツでの紫外線指数自体は日本より低めですが、夏の日照時間が長いため晴れた日は1日で結構な日焼けをすることがあります。日焼けは、中波長紫外線(UVB)の影響で短時間の間に皮ふが赤くなる日光皮膚炎(Sonnenbrand)と、長波長紫外線(UVA)の働きでメラニンが皮ふに沈着して褐色になるSonnenbräuneがあります。一般に日本人の方が白人より多くのメラニンを持っており、メラニンが多いほど紫外線に対する保護能力が高いと考えられています。2009年にWHOの外部組織である国際がん研究機構(IARC)から紫外線と皮膚がんとの関連が示され、不要に日焼けすることに注意が喚起されました。

日焼け止めクリーム

日焼け止めクリーム(Sonnencreme)は紫外線による皮膚炎症を予防するためのものです。商品に記載されているSPFとは皮ふの炎症と関係するUVBを遮断する作用の強さの指標です。一方、PAはメラニン誘導と関係するUVAをブロックする指標です。サンオイルは炎症を起こすUVBを遮断する作用はあるものの、UVAに対しては効果がありません(そのため、炎症を起こさずに肌を黒くすることができます)。SPFやPA値の非常に強い日焼け止めクリームは、製剤成分による肌荒れや炎症を起こすこともあるので、過度の使用や長期連用には注意が必要です。

夏の花粉症

夏から秋にかけても花粉の飛来が多くなる季節です(表2)。特にイネ科の草花による花粉症が増えてきます。ドイツに来て数年、風邪を引いた様子でもないのに、目の痒み、流涙、くしゃみなどが続くようでしたら、花粉症の可能性も考えてみましょう。花粉症は春だけの病気ではありません。


表2 ドイツにおける夏から秋にかけて飛来する花粉
    7月 8月 9月 10月
モミ Tanne        
ライムギ Roggen        
コムギ Weizen        
オオムギ Gerste        
ボダイジュ Linde        
エンバク Hafer        
ニワトコ Holunder        
トウモロコシ Mais        
アカザ Gänsefuß        
イネ科植物 Gräser        
マツ Kiefer        
ヨモギ Beifuß        
アキノキリンソウ Goldrute        
イラクサ Nessel        

シーズン・ピーク  シーズン後  可能性あり

夏バテと旅行バテ

高温・多湿の状況下で体温を一定に保とうとする調整機構への負担、外の高温と屋内の冷房の差からの体調不良、さらに暑さから夜間の不眠も加わり、食欲不振・易疲労・倦怠感が出現するのが夏バテの正体と考えられています。そのため、低湿・涼夏で夜間の気温が下がり、冷房設備も少ないドイツでは本来の夏バテは少ないようです。一方、夏休みだからと、目一杯スケジュールを盛り込んだ旅行から戻ってくると、「旅行バテ」こと「ウアラウプ病」にもなりかねません。

旅先で病気に対応

健康保険証(健康保険組合のカード)は必ず持参しましょう。健康保険組合によってはドイツ国外での疾病がカバーされていなかったり、特約になっている場合もありますので、国外を旅する予定の時は確かめておきましょう。 薬を服用している人は薬を忘れずに。また、かかりつけの医師(Hausarzt)の連絡先も持参しましょう。

休養の必要性

ドイツの人は学校が夏休みになると、「民族大移動」と呼ばれる長期休暇に出発します。ドイツに暮らす私達の場合、取引先や日本の本社との関係で長い休みは取りづらいという場合も少なくありません。実際には、適度な休暇で日常とは違った生活を送り、気分転換をした方が仕事の効率も良くなるとされています。家を預かる側にとっても毎日の家事から離れることは、同じように大切なことです。この夏、皆さんはどちらに行かれましたか?

最終更新 Montag, 26 November 2012 11:49
 

ドイツでの予防接種 ー大人編ー

ドイツに着任しましたが、今後、アフリカ諸国や中東への出張が考えられます。風土病に対する予防接種について教えて下さい。

成人の予防接種が必要な3つのケース

1)日本で未接種となっている場合、2)欧州内の森林地域へ旅行を計画している場合、3)発展途上国に滞在する場合、などです。

日本で未接種の予防接種

ジフテリア、破傷風、百日咳、ポリオ、麻疹、BCGの6種類と女性への破傷風の予防接種はWHOが接種を推進しているワクチンです。

麻疹
麻疹は日本での定期接種項目に含まれていますが、接種率が不十分なことが課題です。発展途上国を中心に麻疹の予防接種が普及し、年間10例程度にまで減少している国があるのに対し、日本では年間10万人近い麻疹が報告され、成人の発症も目立ちます。

水痘
日本では成人の水痘の抗体保有率が90%と高いものの、若い世代の水痘ワクチン接種率は25~30%と低いのが現状です。15歳以上で水痘を発症すると、重い臨床症状だけでなく、脱水、肺炎、髄膜炎などの合併症の危険性が増します。水痘ワクチンは1回の接種で抗体獲得率92%と高く、子どもの予防率は85%、中・重症の水痘予防に関しては97%の効果があります。

B型肝炎、子宮頸がん
日本では任意接種ですが、ドイツでは基本接種項目に入っています。B型肝炎の感染経路は、約55%が性的接触によると考えられています。また、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスの感染も性交によるものがほとんどです。どちらも発症すると厄介です。未接種の方は検討してみてはいかがでしょうか。

欧州内の夏のバケーションでの予防接種

ドイツ南部から中欧・東欧・北欧の一部の森林地帯にはマダニ(Zecke)が生息しています。欧州の山や森に行く人は、マダニによって媒介される初夏脳髄膜炎(FSME)、別名ダニ脳炎にご注意ください。脳炎ウイルスを有するダニの比率は0.1~ 3%、ウイルスを持ったダニに咬まれても感染率は約30%、感染しても必ず発症するわけではありませんが、運悪く発症した場合は重篤な症状や神経障害を引き起こします。

初夏脳髄膜炎の予防接種
予防にはFSMEワクチンの接種が最も効果的です。マダ二はボレリア症(ライム病)を引き起こす細菌も媒介しますが、FSMEワクチンではボレリア症の予防には効果がありません。

A型肝炎の予防接種
A型肝炎(Hepatitis A)患者の糞便に排泄されたウイルスが口から入る場合や、汚染された食材からの感染があります。熱帯、亜熱帯、アジアの発展途上国への滞在予定者、特に40歳以下の人は予防接種が望まれます。1回の接種での予防効果は99%以上で、生涯免疫が得られます。

黄熱(Gelbfieber)の予防接種
蚊によって媒介されるウイルス感染症でアフリカ赤道周辺諸国と南米アマゾン域でみられます。流行国に入国する際に黄熱の予防接種証明(イエローカード)の提示を求められる国もあります。

コレラ(Cholera)の予防接種
地中海沿岸を除くアフリカ諸国、中東、インド、東南アジアの国々でみられます。しかし、WHOではコレラ・ワクチンの接種を推奨しておらず、そのため予防接種は劣悪な衛生環境や人口密集地域に滞在し、現地の水や食事を摂る可能性が高い人や、大流行している場合だけに限られています。現地で生水や生ものを徹底して口にしないことが第一の予防法と考えられています。

狂犬病の予防接種
狂犬病(Tollwut)は狂犬病ウイルスによる人畜共通疾患です。インド、ネパール、中央アフリカ、南米など狂犬病の多い地域での1カ月以上の滞在を予定している人が接種対象となります。

腸チフス(Typhus)の予防接種
チフス菌が口から入り引き起こされる感染症です。南アジア、北・中央アフリカ、南米などへの旅行者の3000人に1人程度が腸チフスに罹患します。衛生状態の良くない地域での活動、もしくは旅行を予定している場合に予防接種が必要です。

マラリア(Malaria)の予防ワクチンはなし
ハマダラ蚊により媒介されるマラリア原虫から感染します。現在も熱帯・亜熱帯の広い地域に分布、年間3~5億人もの人が感染していますが、予防ワクチンはありません。

発展途上国への出張や自由旅行に際して

渡航先により事情が違い、予防には感染ルートを考慮した対策が必要です(表1)。ワクチン接種から効果が現れるまでは一定期間が必要ですので、タイミングを考えて接種するようにしましょう。

表1 旅行に際して留意すべき予防法

  病名 感染ルートは? ワクチン以外の予防法


初夏脳脊髄炎 (FMSE) ダニ ・長袖、長ズボン、靴下の着用
・ダニよけローション、スプレー
・木陰での用便の際の注意




黄熱 ・虫除けローション、スプレー、蚊帳
A型肝炎
腸チフス
コレラ
食物・飲水
他の経口感染
・生水、生もの、氷を口にしない
・衛生状態の良い場所での飲食
・性行為での口からの感染も 有りうるとの認識
狂犬病 犬、動物 ・むやみに犬を可愛がって手を出さない
・野良犬には近づかない

これらの予防接種は無料ですか?

流行地への旅行目的や基本予防接種スケジュール以外で接種を希望する場合、保険の適応にはなりません。ただし、基本予防接種項目に含まれる麻疹、水痘、B型肝炎、子宮頸がんの予防接種については所属する健康保険組合(Krankenkasse)により扱いが異なるため、一度かかりつけの医院か保険組合に問い合わせてみてください。

表2 旅行に際して考慮すべき予防接種

病名 接種方法 予防率 効果発現まで 有効期間
初夏脳脊髄炎
(FMSE)
筋肉内 99%以上 初回接種より7日 初回接種より7日
黄熱 皮下 99%以上 初回接種より10日
再接種では1日
公式には10年
A型肝炎 筋肉内 99%以上 14日 終生免疫
腸チフス 経口(Ty21a)
筋肉内(Vi)
70%
70%
3回接種後より14日
14日
1~3年
2~3年
コレラ 経口(WC–BS) 60~86% 初回接種より6日
再接種では1日
公式には6ヵ月
狂犬病 筋肉内 なし 約7日 2~3年
コレラの予防接種はWHOでは勧めていない
最終更新 Dienstag, 23 Oktober 2012 13:07
 

ドイツでの子どもの予防接種

小さい子どもが2人います。日本とドイツの子どもの予防接種の仕組みは同じでしょうか。

予防接種 (Impfung) とは

病気に対する免疫を作る抗原物質を投与することです。特にウイルスなどによる感染症の予防を目的としています。赤ちゃんの麻疹(はしか)に対する免疫は生後2カ月ほど、水痘(水ぼうそう)に対する免疫は生後3カ月ほどでなくなります。

ワクチンの種類

作り方の違いからワクチンは3種類に分けられます(表1)。注意すべき点は、生ワクチンは免疫獲得までに約1カ月を要し、その期間に発熱などの軽い症状が現れることがあります。不活化ワクチンは2、3回摂取して初回免疫を作り、次第に免疫が低下するため、約1年後に再接種する必要があります。

表1 ワクチンの種類

種類 中身は何? ワクチンの例
不活化
ワクチン
・病原体から免疫に必要な成分
だけ取り出したもの
・複数回の投与が必要
百日咳、ヒブ菌、ポリオ(ドイツ)など
トキソイド ・細菌の作る毒性を失わせたもの ジフテリア、破傷風
生ワクチン ・病原体の病原性を弱めたもの
・発熱など軽い症状が出ることあり
麻疹、風疹、ポリオ(日本)など

同時接種と混合接種

日本ではDPT以外は単独接種が原則で、次のワクチン接種まで、生ワクチン接種後は原則的に4週間以上、不活化ワクチン接種後は1週間以上の間隔をとります。そのため、すべての予防接種を完了するまでに何度も通院することになります。一方、ドイツでは一般に6種混合ワクチンが用いられ、スケジュールも簡素化されています。

表2 日本とドイツの予防接種項目

対象の病気 日本 ドイツ
ジフテリア(D)
破傷風(P)
百日咳(T)
B型肝炎 任意
ポリオ
ヒブ菌 任意
肺炎球菌 任意
麻疹(M)
おたふく風邪(M) 任意
風疹(R)
水痘 任意
髄膜炎 なし
子宮頸がん 任意
BCG なし
日本脳炎 なし

日本とドイツの基本接種項目 (Standardimpfungen)の違い

ドイツでは水痘、おたふく風邪、B型肝炎に加え、ヒブ菌(日本では平成20年より任意で接種可能)、肺炎球菌(同、平成22年)、子宮頸がん(同、平成21年)などSTIKO(後述)推奨の基本接種項目がすべて組み込まれています(表2)。ドイツの基本接種項目に含まれる髄膜炎菌のワクチンは、日本では未発売です。

ドイツの基本予防接種は義務ですか?

基本予防接種は必ずしも義務ではありません。しかし、ほとんどの子どもがこの基本予防接種をカレンダー通りに受けています。また、幼稚園や小学校に入る時に、予防接種の証明書を提示することもあるようです。

ドイツの基本予防接種は無料ですか?

基本予防接種のワクチン接種料は保険(Krankenkasse)によって支払われ、自己負担分は無料です。但し、感染症の流行地などへの旅行目的のために行う予防接種や基本予防接種スケジュール以外に任意で接種を受ける場合は保険の適応にはなりません。

STIKO(ständige Impfkommission)とは何ですか?

1972年にドイツ厚生省がベルリンのロベルト・コッホ研究所に作った予防接種常任委員会。16名の専門家が1年に2回の会合を開き、基本予防接種の項目やスケジュールの提言を行っています。

日本とドイツの接種法の違い

注射製剤の場合、日本では法律に基づき皮下接種が、ドイツでは筋肉内注射が行われています。ワクチンにアルミニウム塩が含まれているものは、筋肉内注射の方が皮ふへの刺激や炎症の危険が少ないとされています。ポリオの場合、日本では経口生ワクチンの2回接種が用いられるのに対し、ドイツでは不活化ワクチンの4回の筋肉注射が行われます。日本の麻しんのワクチン接種は平成18年より麻しん・風しんの混合接種(MR)を2回することになりましたが、麻しん・風しんの接種がなされていなかったり、2回目の接種が抜けている子どももいます。ドイツでは麻しん・風しん・おたふく風邪の3者(MMR)を2回接種することになっているので、どのようにすれば良いか、かかりつけの医院に相談してください。

日本の定期接種カレンダー通りにドイツで接種することはできますか?

先述のように、ドイツの基本予防接種は義務ではないため、入手できる個々のワクチンを日本の接種スケジュールに従って接種していくことは理論的に可能です。ただし、経口のポリオ生ワクチン、BCG、日本脳炎(平成21年より新ワクチン)など、ドイツでは入手困難なものもあります。逆に、ドイツの基本接種カレンダーはほぼWHOの推奨と国際基準を満たしているので、BCGと日本脳炎以外はすべて含まれています(表3、4)。

表3 ドイツの基本予防接種カレンダー(18歳まで)
表4 日本の予防接種カレンダー

子宮頸がんの予防ワクチンは思春期前に

ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因です。このウイルスは性的交渉による感染が多いので、性行為開始前にワクチン接種を完了しておくことが望ましく、ドイツでは基本予防接種に含まれています。日本では平成21年より任意での接種が始まりました。

予防接種のためのドイツ語

ジフテリア Diphtheria
破傷風 Tetanus
百日咳 Keuchhusten
B型肝炎 Hepatitis B
ポリオ Polio
ヒブ菌 Homophiles influenza Typ B(Hib)
肺炎球菌 Pneumokokken
麻疹 Masern
おたふく風邪 Mumps
風疹 Röteln
水痘 Varizellen (Windpocken)
髄膜炎 Meningokokken
子宮頸がん Human Papillomavirus(HPV)
最終更新 Dienstag, 23 Oktober 2012 13:06
 

日本人の糖尿病、ドイツの食事

どちらかというと痩せ型の同僚が糖尿病と診断されました。肥満でなくとも糖尿病になる確率は高いのですか? ドイツ滞在中、食事はどのような点に注意すれば良いでしょうか。

糖尿病とは?

すい臓で作られるインスリンの作用不足により起こる病気で、血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が病的に高くなります。インスリンが全く作られなくなり、若年齢で突然発症する1型糖尿病と、生活習慣が大きく関与し、成人になってインスリンの効きが悪くなり(インスリン抵抗性)発症する2型糖尿病の2つのタイプがあり、最近増えている日本人の糖尿病の大半は2型糖尿病です。

2型糖尿病は肥満が多い?

インスリン抵抗性を来す最大の原因は、「肥満」です。実際、欧米の2型糖尿病はBMIが30を超える肥満と密接な関係があります。しかし、日本の2型糖尿病患者のBMIの平均は23前後で、仮に太り過ぎの基準をBMI25以上としても、2型糖尿病患者の4割にしか肥満がみられず、日本には肥満でない糖尿病患者が多いことが分かります。※BMI=体重kg÷(身長m×身長m)。

インスリン分泌も低下する日本人の糖尿病

日本人の2型糖尿病を調べてみると、インスリン抵抗性だけでなく、少なからずインスリン分泌障害も関わっていることが分かってきました。インスリンの分泌量が低下すると、軽度の体重増加やちょっとした過食でも血糖値の上昇に対応しきれなくなるため、糖尿病が発症しやすいと推測されています。

図1 日本人と欧米人の2型糖尿病

脳卒中や腎障害の多い日本人の糖尿病

糖尿病と合併する血管障害にも違いがあります。日本人の2型糖尿病では糖尿病性腎症が多く、腎不全で人工透析を導入する患者も年々増えています。それに対し、欧米では心筋梗塞や足の閉塞性動脈硬化症に悩まされている2型糖尿病患者が多くみられます。

どうして糖尿病が増えたのか?

まず、運動量の減少です。車の保有台数と糖尿病患者数が並行して増加していることも、運動量の変化との関係を示唆しています。2番目は食事組成の変化です。50年前と比べ、脂肪と蛋白の摂取比率が増えてきています。3番目は日本人の長寿化の影響です。長生きするほど、そして年齢が高くなるほど糖尿病に罹患する機会も増えるからです。4番目は診断法の進歩です。人間ドックや健診が早期発見に役立っています。

運動療法の基本

運動は、エネルギー消費とともに血液の流れを改善し、インスリンの働きを高めるのに役立ちます。体内の余分なブドウ糖の貯蔵場所は肝臓と筋肉です。特に、太ももは体の中で最も筋肉量の多い部位です。毎日の歩行・ジョギング・階段昇降・足の屈伸などの運動により太ももの筋肉に「貯筋」(福永哲夫・鹿屋体育大学学長)することは、ブドウ糖の貯蔵倉庫を増やすことにつながります。太ももが太くなることはマイナスではないのです。

食事療法の基本

栄養組成のバランスがとれた食事内容で、毎日の仕事量(体力消費量)に合わせたカロリーを摂るようにしましょう。インスリン分泌不全を伴っている場合、ちょっとした過飲食の持続が高血糖につながります。一方、 自己流の極端な減食は栄養のバランスを欠く結果を招くこともありますので、出来るだけ担当の医師や栄養士から栄養指導を受けるようにしましょう。

ドイツ食のカロリーと栄養素

一般的な日本食とドイツ食には、その栄養素の構成比と摂取量に大きな違いがあります。日本人の成人の1日当たりの摂取カロリーは男性約2000Kcal、女性約1600Kcal(最近の新潟県での調査報告)であるのに対し、欧米の先進国では3000Kcal近くもあります(国連食糧農業機関の資料)。そのため、当地のレストランで出てくる1人前の料理の量も大概多めです。

エネルギー摂取を栄養素別でみると、日本では炭水化物(穀類製品)の比率が依然60%近くを占めており、脂質は28%、蛋白質は15%前後です。一方、ドイツでは炭水化物の割合が40%、脂質が45%近くにも上ります。1g当たりの脂質のカロリー数は炭水化物の2倍以上あるため、同じ重量の食事をしたとしてもドイツ食の方が、摂取カロリーは多くなりがちです(表1)。

表1 ドイツの主な食品のカロリー数 

食品カロリー(Kcal)
Brötchen1個130 - 160
Vollkornbrot100 g220
Weißer Spargel100 g18 Kcal (皮なし)
Bratwurst100 g200 - 300
Schnitzel100 g100 - 300
Pommes100 g200
Bratkartoffeln100 g70 - 130
Altbier/Pils200 ml80
Wein200 ml140

ドイツ・ビールは高カロリー

美味しいビールは大きな魅力です。しかし、0.2Lグラスで80Kcal、0.5Lグラスでは200Kcalものカロリーがあります。ちなみに、茶碗一杯のご飯が160Kcal。ビールのカロリーの1/3は炭水化物で、残りの2/3はアルコールなので、直接的な血糖上昇への影響は軽微ですが、カロリーとしては体内に蓄積されます。ビールに含まれる栄養素は限られているため、食事代わりにすることはできません。

糖尿病の薬物療法

体内のインスリンの効きを良くする薬、インスリン分泌を促す薬、食べた食事の糖分の吸収を遅くする薬などがあります。ドイツでは、日本国内ではまだ市販されていない糖尿病薬や発売されたばかりの新しい薬も使われています。日本人の2型糖尿病ではインスリン分泌障害が少なくないため、補助的にインスリン製剤を用いることもあります。

最終更新 Dienstag, 06 September 2011 15:05
 

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