ジャパンダイジェスト

ドイツの水 硬水と健康

ドイツに来て半年ほど経ちますが、まだドイツの水(硬水)に馴染めません。また、硬水の健康への影響も気になります。

水の硬度とは?

水に含まれるカルシウムやマグネシウムのイオンの多いものが「硬水」、少ないものが「軟水」です。日本の水道水は多くが軟水なのに対し、ドイツを含め、欧州のほとんどの地域で水道水は硬水です。水の硬度の表記単位と定義は様々で、ドイツでは14°dH以上(WHOの基準でほぼ250mg/L)を硬水としています(図1)。ちなみに、デュッセルドルフでは14.5°dH(Stadtwerke Düsseldorf, 2010年分析)、ケルンでは18.7°dH(RheinEnergie, 2010年分析)、ベルリンでは15.4~24.1°dH(Berliner Wasserbetrieb, 2009年分析)と地域によって差があります。

図1 水の硬度の分類

硬水の日常生活への影響は?

軟水は素材の味を引き出すので、お米を炊いたり、コーヒーやお茶を入れたりするのに適しています。一方、硬水を肉の煮込み料理に用いると、硬水中のカルシウムがタンパク質と結合し、アクとなって取り除かれるため、肉の臭みが少なくなります。ドイツのビールの味にも各地方の硬水の特徴が出ています。また、硬水で石鹸を使うと泡立ちが悪く、特にアルカリ性石鹸だと硬水で成分が凝固するため、体表にヌルヌルとした石鹸の成分が残り、洗い落とすのに時間が掛かります。塩類が析出し、白い斑点(スケール)として、蛇口など水回りに残るのも硬水の特徴です。

どうしてドイツの水は硬水なのですか?

水道水の硬度はその水源に影響されます。欧州では、地下水や河川水が石灰質の豊富な地域を長い時間を掛けて通ってくるため、水の硬度が高くなります。ちなみに、海中ではカルシウムが海洋微生物により速やかに除去されるため、海水中のカルシウム濃度は河川水ほど高くありません。

硬水の健康への影響は?

日本の水道水もドイツの水道水も各々の国の安全基準をクリアしています。WHOが2006年と2009年にまとめた、飲料水中に含まれるカルシウムとマグネシウムの健康への影響についての報告書によると、長期間の硬水摂取による特定の疾病の増加は認められていません。

● 尿路結石
カルシウムを多く含む硬水の水道水を飲むと腎結石が増えるのではないか? と、多くの研究がなされました。その結果、硬水と尿路結石との因果関係はないというのが現在の結論です。むしろ、硬水は腸管で尿路結石の元となるしゅう酸吸収を妨げ、尿路内でのしゅう酸の濃度を下げることにより結石形成を抑えると考えられています。

● 胆石
同じ体内に出来る「石」でも、胆石の主な原因はカルシウムではなく胆汁に含まれるコレステロール。硬水によって胆石が増えるという臨床的な証拠は見付かっていません。胆石形成にはコレステロールの多い食生活と肥満が大きな影響を与えています。

● 唾石(だせき)
唾石は主に顎下腺(がくかせん)に異物を中心とした石灰化が起こり、食事の時に耳から頚部(けいぶ)に放散する痛みを生じる疾患です。水の硬度が大きく違う2地域を比較したイギリスの研究によると、硬水と唾石症には関係性が確認されていません。

● 皮ふ疾患
硬水自体が湿疹を起こすことはありません。しかし、石鹸カスやスケール(石灰カス)が十分に洗い落とされずに体表に付着したまま残っていると、皮ふの炎症(湿疹)の引き金になります。また、体に残った石鹸を取り除こうと強くこすりすぎると、その部分の皮ふの防御バリアが壊され、乾燥肌(乾皮症)を誘引することもあります。赤ちゃんの皮ふは大人より敏感で、しかも皮ふの防御システムが十分に完成していないので注意が必要です。

● 心疾患
 一時、カルシウムを多く含む硬水は動脈硬化を促進して狭心症や心筋梗塞などの心疾患を増やすのではないかと議論されました。しかし、現在まで硬水が心疾患を増やすという証拠はなく、弱効果ながら、むしろ心疾患を減らす可能性さえも示唆されています。

● 下痢
硬水中のマグネシウム・イオンは腸管で水と結合することにより、水の吸収を妨げます。そのため、大量の硬水を飲むと下痢を起こすことがあります。反対に、非常に硬度の高いミネラルウォーター(超硬水)などは、便秘改善の目的で飲まれることもあるようです。

市販のミネラルウォーターの硬度は?

ドイツの主流は炭酸入りミネラルウォーター。しかし炭酸が入っていなくても、水の硬度は日本の水より高いことが少なくありません。有名なエヴィアン、ヴィッテルも硬度300mg/Lを越す硬水です。一方、ボルヴィックは硬度60mg/Lの軟水と言ったように、スーパーでは実に多様なミネラルウォーターが販売されています。なお、嗜好飲料の多くには硬水より遥かに多量のカルシウムやリンが含まれています。

軟水器・浄水器とは?

硬水中のカルシウムやマグネシウムを減らし、口当たりの良い水に変えるのが軟水器です。陽イオン交換樹脂の働きでカルシウムやマグネシウムなどの陽イオンをナトリウムイオンと置き換える方法が一般的。活性炭や微細フィルターと組み合わせて有機物・微細粒子も減少させるような装置もあります。また、逆浸透膜という膜で水を濾過し、不純物を取り除こうとするものもあります。どうしても硬水が口に合わないという場合には、手頃な値段で軟水・浄水器が市販されているので、試してみても良いかもしれません。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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