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ドイツでの予防接種 ー大人編ー

ドイツに着任しましたが、今後、アフリカ諸国や中東への出張が考えられます。風土病に対する予防接種について教えて下さい。

成人の予防接種が必要な3つのケース

1)日本で未接種となっている場合、2)欧州内の森林地域へ旅行を計画している場合、3)発展途上国に滞在する場合、などです。

日本で未接種の予防接種

ジフテリア、破傷風、百日咳、ポリオ、麻疹、BCGの6種類と女性への破傷風の予防接種はWHOが接種を推進しているワクチンです。

麻疹
麻疹は日本での定期接種項目に含まれていますが、接種率が不十分なことが課題です。発展途上国を中心に麻疹の予防接種が普及し、年間10例程度にまで減少している国があるのに対し、日本では年間10万人近い麻疹が報告され、成人の発症も目立ちます。

水痘
日本では成人の水痘の抗体保有率が90%と高いものの、若い世代の水痘ワクチン接種率は25~30%と低いのが現状です。15歳以上で水痘を発症すると、重い臨床症状だけでなく、脱水、肺炎、髄膜炎などの合併症の危険性が増します。水痘ワクチンは1回の接種で抗体獲得率92%と高く、子どもの予防率は85%、中・重症の水痘予防に関しては97%の効果があります。

B型肝炎、子宮頸がん
日本では任意接種ですが、ドイツでは基本接種項目に入っています。B型肝炎の感染経路は、約55%が性的接触によると考えられています。また、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスの感染も性交によるものがほとんどです。どちらも発症すると厄介です。未接種の方は検討してみてはいかがでしょうか。

欧州内の夏のバケーションでの予防接種

ドイツ南部から中欧・東欧・北欧の一部の森林地帯にはマダニ(Zecke)が生息しています。欧州の山や森に行く人は、マダニによって媒介される初夏脳髄膜炎(FSME)、別名ダニ脳炎にご注意ください。脳炎ウイルスを有するダニの比率は0.1~ 3%、ウイルスを持ったダニに咬まれても感染率は約30%、感染しても必ず発症するわけではありませんが、運悪く発症した場合は重篤な症状や神経障害を引き起こします。

初夏脳髄膜炎の予防接種
予防にはFSMEワクチンの接種が最も効果的です。マダ二はボレリア症(ライム病)を引き起こす細菌も媒介しますが、FSMEワクチンではボレリア症の予防には効果がありません。

A型肝炎の予防接種
A型肝炎(Hepatitis A)患者の糞便に排泄されたウイルスが口から入る場合や、汚染された食材からの感染があります。熱帯、亜熱帯、アジアの発展途上国への滞在予定者、特に40歳以下の人は予防接種が望まれます。1回の接種での予防効果は99%以上で、生涯免疫が得られます。

黄熱(Gelbfieber)の予防接種
蚊によって媒介されるウイルス感染症でアフリカ赤道周辺諸国と南米アマゾン域でみられます。流行国に入国する際に黄熱の予防接種証明(イエローカード)の提示を求められる国もあります。

コレラ(Cholera)の予防接種
地中海沿岸を除くアフリカ諸国、中東、インド、東南アジアの国々でみられます。しかし、WHOではコレラ・ワクチンの接種を推奨しておらず、そのため予防接種は劣悪な衛生環境や人口密集地域に滞在し、現地の水や食事を摂る可能性が高い人や、大流行している場合だけに限られています。現地で生水や生ものを徹底して口にしないことが第一の予防法と考えられています。

狂犬病の予防接種
狂犬病(Tollwut)は狂犬病ウイルスによる人畜共通疾患です。インド、ネパール、中央アフリカ、南米など狂犬病の多い地域での1カ月以上の滞在を予定している人が接種対象となります。

腸チフス(Typhus)の予防接種
チフス菌が口から入り引き起こされる感染症です。南アジア、北・中央アフリカ、南米などへの旅行者の3000人に1人程度が腸チフスに罹患します。衛生状態の良くない地域での活動、もしくは旅行を予定している場合に予防接種が必要です。

マラリア(Malaria)の予防ワクチンはなし
ハマダラ蚊により媒介されるマラリア原虫から感染します。現在も熱帯・亜熱帯の広い地域に分布、年間3~5億人もの人が感染していますが、予防ワクチンはありません。

発展途上国への出張や自由旅行に際して

渡航先により事情が違い、予防には感染ルートを考慮した対策が必要です(表1)。ワクチン接種から効果が現れるまでは一定期間が必要ですので、タイミングを考えて接種するようにしましょう。

表1 旅行に際して留意すべき予防法

  病名 感染ルートは? ワクチン以外の予防法


初夏脳脊髄炎 (FMSE) ダニ ・長袖、長ズボン、靴下の着用
・ダニよけローション、スプレー
・木陰での用便の際の注意




黄熱 ・虫除けローション、スプレー、蚊帳
A型肝炎
腸チフス
コレラ
食物・飲水
他の経口感染
・生水、生もの、氷を口にしない
・衛生状態の良い場所での飲食
・性行為での口からの感染も 有りうるとの認識
狂犬病 犬、動物 ・むやみに犬を可愛がって手を出さない
・野良犬には近づかない

これらの予防接種は無料ですか?

流行地への旅行目的や基本予防接種スケジュール以外で接種を希望する場合、保険の適応にはなりません。ただし、基本予防接種項目に含まれる麻疹、水痘、B型肝炎、子宮頸がんの予防接種については所属する健康保険組合(Krankenkasse)により扱いが異なるため、一度かかりつけの医院か保険組合に問い合わせてみてください。

表2 旅行に際して考慮すべき予防接種

病名 接種方法 予防率 効果発現まで 有効期間
初夏脳脊髄炎
(FMSE)
筋肉内 99%以上 初回接種より7日 初回接種より7日
黄熱 皮下 99%以上 初回接種より10日
再接種では1日
公式には10年
A型肝炎 筋肉内 99%以上 14日 終生免疫
腸チフス 経口(Ty21a)
筋肉内(Vi)
70%
70%
3回接種後より14日
14日
1~3年
2~3年
コレラ 経口(WC–BS) 60~86% 初回接種より6日
再接種では1日
公式には6ヵ月
狂犬病 筋肉内 なし 約7日 2~3年
コレラの予防接種はWHOでは勧めていない
 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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