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ドクターの診察室


低血圧の体への影響は?

若い頃から血圧が低めで、朝急に起き上がると少しフラつきを感じるほか、熱いお風呂が苦手です。血圧が低いことは体によくないのでしょうか?低血圧で気を付けるべきことなど、詳しく教えてほしいです。

Point

  • 収縮期血圧90mmHg未満が目安
  • 症状がなければ問題なし
  • 若い女性に多い本態性低血圧
  • 高齢者に多い起立性低血圧
  • 高齢者に多い食後低血圧
  • 症状があれば家庭医に相談

低血圧の基礎知識

そもそも血圧とは?

血圧は、全身の組織に酸素や栄養を届けるのに大切です。血圧が低くなり過ぎると、脳や腎臓など重要臓器への血流が乏しくなり、障害を生じることがあります(2026年のCrit Care Med誌に掲載されたガイドライン)。体位に関係なく血圧は維持されます。急に立ち上がって血液が重力で下半身にたまろうとする際も、交感神経系の瞬時の働きで、①必要な血管を収縮させ、②心拍数を増やします。さらに③下肢筋肉による血液ポンプ作用も加わり、脳や上半身の血圧と血流を保ちます。

低血圧の基準(niedriger Blutdruck、Hypotonie)

日本では収縮期血圧が100mmHg以下の時に「血圧が低い」と言います。ドイツでも収縮期血圧100mmHg未満(DGK[ドイツ心臓病学会]とBNK[ドイツ開業循環器専門医協会]の共同サイト)、米国では90mmHg未満です(2025年のNIHの基準)。

低血圧の症状は多岐

めまい、ふらつき、立ちくらみ、疲労感や倦怠感、集中力の低下、手足が冷たいなど多彩です。動悸がする、吐き気、視界が白く見えてくるなどの場合は要注意です。

低血圧のタイプ

本態性低血圧(essentielle / primäre Hypotonie)

明らかな原因がなく最も多い慢性的な低血圧です。痩せ型の(1994年の同年のAm J Epidemiol誌、1997年のHypertens誌)若い女性(1998年のJ Physiol誌、1990年のBMJ誌誌)に多くみられます。持久系アスリートも循環器系の生理的適応により血圧が低めになります(2020年のJ Athl Train誌)。

起立性低血圧(orthostatische Hypotonie、Orthostase-Syndrom)

寝た状態あるいは座った姿勢から起立した際、3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上または拡張期血圧が10mmHg以上下がる場合です。横になることで元に戻るため、「一過性低血圧」とも。65歳以上の約20%にみられます(2020年のJ Gerontol A Biol SciMed Sci誌)。

急性低血圧

急激な血圧低下は生命の危険を伴うことがあります。事故による大量出血、不整脈・心筋梗塞による心機能低下、水様性下痢に伴う脱水、アナフィラキシーショック、降圧薬の効き過ぎなどが原因となります。ショック状態では緊急の対応が必要です。

原因疾患のある二次性低血圧(sekundär niedriger Blutdruck)

原因となる病気がある低血圧で「症候性低血圧」とも呼ばれます。脱水、塩分不足、甲状腺機能低下症、アジソン病や出産時の大出血が関係するシーハン病が挙げられます。

血圧低下と関係する病態

起立性調節障害(OD、orthostatische Dysregulation)

小学校高学年から中学生の年齢にみられます。急激な身体成長に対し、自律神経系の発達が追いつかないために生じます(2025年の小児心身医学会「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン改定第3版」)。怠けているのではなく、身体疾患であるという正しい知識を理解することが大切です(同ガイドライン)。

排尿後の失神(Miktionssynkope)

ぎりぎりになるまでトイレを我慢してから一気に排尿すると、急激な血圧低下により倒れることがあります。排尿で腹圧が急に下がり迷走神経反射を刺激、血圧、心拍数の低下によって脳の血流が不足するためです。高齢者の「相対的低血圧」(relative Hypotonie)高齢の高血圧患者の血圧が急に下がった場合、数値上は正常範囲内でも、立ちくらみ、めまい、目のかすみなどを生じることがあります。血流の調節機能が低下して、脳への血流が一時的に足りなくなるためです。

食後の低血圧(postprandiale Hypotonie、PPH)

食後2時間以内に収縮期血圧が20mmHg以上下がる場合を「食後低血圧」と定義されます(2023年のCureus誌)。高齢者では食後低血圧が約40%と高頻度にみられます(2024年のAge Aging誌)。食事で胃腸管の血流が増して血圧が下がっても、圧受容体機能が悪くなっている高齢者では血圧を調整できないためです(2001年のWien Klin Wochenschr紙)。

薬剤による低血圧(Arzneimittelinduzierte Hypotonie)

日常服用している薬も起立性低血圧に関与します(1997年のDrug Saf誌、2024年のPDS誌)。ロンドン南部の認知症患者1万5210人を対象とした調査では、患者の約70%が起立性低血圧の誘因となりうる薬を服用していたと報告されました(2025年のAge Aging誌)。

熱中症による低血圧

高気温で①拡がった皮膚血管に血液が滞り、②発汗による脱水で血液量が減少して、血圧が下がります(日本気象協会のパンフレット)。水分(できればミネラルウォーター)の補給に加え、体のクーリング(ぬるま湯に浸かる、濡れたタオルを体に掛けるなど)が有効です。

過度なダイエットに伴う低血圧

血圧は体重と関係し(2024年のNarra J誌)、極端な食事制限や栄養バランスの偏りがある低体重状態(BMI 18.5未満)では、血液を全身に送るエネルギーと、下肢の筋肉ポンプの役割が低下して低血圧が増えます(2025年日本肥満学会の「閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題」)。

低血圧をめぐる日常

低血圧と日常生活の工夫

朝目覚めても急に立ち上がらず、目を開けたまま5分くらいベッド上で過ごしてから起き上がります。十分な水分を摂り、毎日適度な身体運動を心がけましょう。温水と冷水を交互に使う温冷シャワーは血行改善に役立ちます。動作の少ない長時間の立ち仕事、座ってのデスクワーク、不規則な生活リズム、睡眠不足、過労は低血圧の症状を増悪することがあります。

起立性低血圧の場合

まず弾性ストッキング、弾性腹部圧迫帯、足の筋力を強める体操などを試み、効果がない場合は血圧を維持する薬物療法も検討されます。高齢者では降圧薬が強過ぎないか、一度に大量の食事を摂っていないかなどの見直しも大切です。

相談する目安

立ちくらみやめまいが頻繁に起こったり、日常生活での不安を感じたりするような場合は、家庭医(Hausarzt/-ärztin)に相談しましょう。

最終更新 Dienstag, 09 Juni 2026 10:30
 

色覚にまつわる知識

60歳を過ぎた頃から、少し暗い紺色と黒の靴下やズボンの見分けがつきにくくなった気がします。オーディオの黄色と白端子を間違えてしまうこともあります。加齢で色覚が低下することはあるのでしょうか?

Point

  • 色覚の多様性への理解
  • 後天性の色覚変化も多い
  • 白内障は40代から、80代でほぼ100%
  • 糖尿病網膜症も増加
  • 色のユニバーサルデザインへの留意
  • 白と黄、紺と黒の誤認識は注意

色の見える仕組み

私たちが見ている色(Farbe)

色は、網膜(Netzhaut)の視細胞(Fotorezeptorzelle)によって捉えられた光の波長をもとに、脳が作り出している感覚です。物体に当たった光が特定の波長を反射、それを網膜で電気信号に変え、脳(後頭葉)で統合し、色として認識します。

視細胞

視細胞は網膜上にあり、明るいときは「錐体」(Zapfen)が色を、暗い場所では「桿体」(Stäbchen)が明暗(Hell und Dunkel)を認識しています。L、M、Sの3種類の錐体は、それぞれ赤、緑、青色の光波長に対応しています。哺乳類の祖先は夜行性であったとされ、ヒトでも暗所に適した桿体が約1億5千万個あり(視細胞の約95%)、錐体は約700万個しかありません。

視物質の役割

視物質は視細胞に含まれるビタミンA誘導体とタンパク(オプシン)の複合体で、目に入った光を感知して電気信号に変える働きをしています。ビタミンAが不足すると、桿体のロドプシン合成がうまくいかなくなり、暗い場所で視力が低下しやすくなります。

生まれた時からの色覚特性

錐体機能の違い

人によって錐体の数、錐体の機能の特性には個人差があります。また特定の錐体がない(例えばM錐体)、錐体があってもほかの錐体と性質が似ていることもあります。その場合、異なる色が似たような色に見えていることになります。

色覚特性の頻度

色覚検査表を用いて行う色覚検査(後述)によって、日本人男性の約5%に色覚に特性があり、女性の0.2%、残りの人の色覚は「正常」とされています。この数値は過去に学校で実施された色覚検診および臨床統計の累積結果に基づくものです(1959年、1969年、1997年の日眼会誌)。

ヒトの色覚の多様性

色覚検査で「正常」とされる人の中にもハイブリッド遺伝子を有し、全く「正常」ではない、中間に位置する人が約25%存在するという報告があります(1999年のVision誌)。そのため、前項の色覚に特性のある人を含め、日本人男性の約30%は程度の差こそあれ、ほかの約70%と異なる色覚を有している可能性も推測されています(2002年の細胞工学誌「色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション」)。

後天的な色覚異常

加齢に伴う色覚低下

加齢とともに色覚が変化してくる場合があります。特に白内障は、早い人で40代から始まり、80代までにはほぼ全ての人(約100%)の色覚が影響を受けるとされています(長寿科学振興財団)。

白内障によるもの

白内障(Katarakt)があると、黄色く変色した水晶体では青い光が網膜に届きにくくなり、薄い黄茶色サングラスを掛けたように世界が黄色、茶色、赤みがかって見えるようになります(前記2002年の細胞工学誌)。

視神経の病気

視神経炎、薬物(抗結核薬のエタンブロール)の影響などで後天的に色覚(主に赤緑色覚)の低下を生じることがあります。若年性家族性視神経萎縮はミトコンドリアDNAの変異によるもので、多くは若年男性に発症し、視力低下、青黄色覚低下を呈します。

網膜病変によるもの

糖尿病によって発症する糖尿病網膜症(diabetischeRetinopathie)、網膜色素変性症、中心性しょう液性網膜症などでは、網膜上の錐体が障害(特に数の少ない青系)や黄斑部の浮腫により、青〜黄色の色覚が低下します。黄色と白色の区別が難しくなります。

緑内障によるもの

緑内障(Glaukom)では、眼圧の上昇により、大きい視神経細胞(青系)が影響を受け、青黄色覚が低下します。さらに進行すると赤緑色盲も加わり、最終的に全色盲となることがあります。

脳梗塞によるもの

視覚領域を司る後頭葉に脳梗塞を生じると、見えているもの全てがモノクロになってしまうことがあります。脳梗塞発症に伴い、急激に見ている世界がモノクロになるといわれています。

心的要因の関与

大きな心因性ストレスが加わった際にも、視力障害や視力低下、色覚の変化を生じることがあります。子どもに多く、学校や家庭生活でのストレスが原因と考えられます。色彩検査の結果が典型的な分類に当てはまらない場合、心的要因が疑われます。

検査法と試み

色覚の検査法

「色覚検査表」(石原表、Ishihara-Farbtafel)は明度や彩度を巧妙に変えた多数の丸い色斑の背景に描かれた数字や文字を読む検査で、色覚異常のスクリーニングに用いられます。色を順番に並べる色相配列検査(パネルD-15テスト)は色覚特性の程度を、アノマロスコープ(Anomaloskop)は精密診断に用いられます。

配色のバリアフリー

カラーユニバーサルデザインは、色覚特性を持った人や高齢者の色覚低下に配慮し、見分けにくい配色を避けて、全ての人に同じ情報が正しく伝わるようにデザインすることを意味します(2011年、東京都カラーユニバーサルデザインガイドライン)。日常生活の場だけではなく、会合のパンフレット、プレゼンテーション作成の際にも大切です。

遺伝子治療の試み

生まれつきの色覚特性に対し、遺伝子の一部を置き換え、錐体細胞の機能を回復させる遺伝子治療の研究も進んでいます。全色盲の人の色覚改善の可能性が報告されています(2023年のCurrent Biology誌)。

高齢者の色覚低下と日常生活

紺や茶を黒と間違える

白い生地についた黄色のシミが見えない、黒と紺色やこげ茶の靴下を間違えて履く、などが繰り返されるときは要注意です。後天性色覚特性で多いのは、「黄色と白」「青や緑と黒」「茶と黒または紫」といった色誤認です。

転倒事故や着衣着火

色の見え方が異なってきて、小さな段差や階段の境目がはっきりとは見えにくくなります。ガス式コンロの先端の青白い部分が見えにくく、そのため若い人に比べて炎の大きさが小さく見えてしまい、着衣着火のリスクを増す原因の一つとされています。

最終更新 Dienstag, 09 Juni 2026 10:27
 

ドイツの花粉症事情

ドイツに来て4年目になり、昨年から春の時期に涙、くしゃみ、鼻水がひどく出るようになりました。体のだるさや頭がボーッとするのを感じる日もあります。来年は本帰国の予定なのですが、何か良い対処法はあるでしょうか?

Point

  • 鼻炎、結膜炎症状、時に皮ふ、全身症状も
  • ドイツではシラカバ、イネ科植物の花粉症が多い
  • 花粉暴露を減らす工夫が大切
  • 抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬が有効
  • 3~5年かけての減感作療法も

花粉症について

花粉症とは(Heuschnupfen、Pollenallergie)

花粉に対して生じる即時型アレルギー(Typ-I-Allergie、Typsofortallergie)で、花粉に接して数秒~数分以内に症状が現れます。医学的に「季節性アレルギー性鼻炎」(allergische Rhinitis)、花粉による「アレルギー性結膜炎」(allergische Konjunktivitis)と呼ばれることも。

花粉症を生じる仕組み

特定の花粉に数年暴露されると、その花粉(抗原)に対する抗体(IgE)が作られます。IgEは鼻や目の粘膜にある免疫細胞の表面に存在し、花粉と結合すると抗原抗体反応を生じ、免疫細胞からヒスタミン、ロイコトリエンなどの化学物質を放出、神経や血管を刺激して鼻粘膜と目の結膜のアレルギー症状を引き起こします。

花粉症の4大症状

①くしゃみ(Niesen)、②鼻水(Schnupfen)、③鼻詰まり(verstopfte Nase)、④目のかゆみ・涙(juckende Augen)が4大症状です。鼻水は透明で水のようにサラサラしています。目のかゆみ・涙は風邪ではみられない、花粉症の特徴の一つです。

花粉皮ふ炎(Hautreizung durch Pollenallergie)

花粉が付着で、頬、首などに赤み、かゆみ、乾燥が生じることがあります。花粉が付着しやすいまぶた、頬、首、顔周りなど露出部に多く現れます。

花粉症の全身症状

体が熱っぽい、頭が重い、体がだるい、集中力の低下などの全身症状を伴うことがあります。免疫系にエネルギーが消費されること、体が常に炎症状態にあること、鼻症状に伴う睡眠の質の低下なども影響します。

果物アレルギーと密接な関係

口腔アレルギー症候群(あるいは果実野菜過敏症)ともいわれ、花粉症と密接な関係があります。花粉症を起こす樹木・草木と植物学的に同じ科に属する果物を口にすると、口唇や口内のピリピリ感など果物アレルギーを起こすことがあります(詳しくは本誌937号を参照)。

ドイツにおける花粉症

日本はスギ、ドイツではシラカバ、イネ科植物

ドイツで最も頻度の高い花粉症はシラカバ(Birke)、次に多いのはイネ科植物(Gräser)です。ドイツにはスギ、ヒノキはないため、スギ花粉症の人は楽になります。

2月〜春は早咲きの樹木花粉症

1月末ごろからヘーゼル(ハシバミ、Hasel )、3月はハンノキ属(Erle)、3月末〜5月はシラカバ、さらにトリネコ(Esche)、ポプラ(Pappel)、ニレ(Ulme)、ヤナギ(Weide)などの「樹木花粉」(Baumpollen)が飛び交います。これらは1年のうち早い時期に花粉を飛ばすので、早咲き種(Frühblüher)とも呼ばれます。

初夏〜秋は遅咲きの草木花粉症

5~8月の初夏は「イネ科植物」が花粉を飛ばす季節です。7月下旬〜8月(年によっては10月頃まで)にかけては、ブタクサ(Ambrosia)、ヨモギ(Beifuß)の花粉が花粉症の原因となります。これらは遅咲き種(Spätblüher)と呼ばれます。

花粉症の有病率

2008~2011年の調査では、ドイツに暮らす成人の約15%に花粉症がみられています(2013年のロベルト・コッホ研究所[RKI]のDEGS1調査報告)。医療機関で花粉症と診断された小児・青少年の場合は、約10%と報告されています(2018年のRKIのKiGGS調査報告)。ドイツ保険中央研究所(Zi)は、花粉症の頻度は年々増加してきていると報告しています(2021年のZiのプレスリリース)。

花粉症の診断

特定の季節にみられる鼻炎・結膜炎

毎年決まった季節(期間)だけに鼻炎および結膜炎(Rhinokonjunktivitis)を発症するため、診断は比較的容易です。結膜炎(目のかゆみ、流涙)を伴う鼻炎症状は、風邪との鑑別になります。

花粉症の検査

血中IgE値が上昇していると、現在何らかのアレルギー反応が起きていることが分かります。特定の樹木・草木の花粉(アレルゲン)との関係を知るには、疑われる花粉に対する皮ふテスト(Prick-Test)、あるいは特異的IgE抗体を調べます。

花粉への暴露を減らす工夫

外出での花粉暴露の軽減

その日の花粉情報(Pollenflug-Vorhersage)が役に立ちます。外出時のマスクの着用、さらに花粉が付着しにくい素材の衣服が勧められます。花粉期間中の転地療法(旅行を含める)は最も効果的ですが、誰もが簡単にできるわけではありません。

帰宅時に花粉を除去

入口で服や髪に付着した花粉をブラシ等で払い落とし、外出時の衣服の花粉を屋内に撒き散らさないように、すぐに室内着に着替えます。洗顔・洗眼・うがい、鼻うがい(WEPA Nasenspülkanneなど)は有用です。

空気清浄機の利用

部屋の広さに対応したHEPAフィルター付きの空気清浄機(Luftreiniger)は一定の効果を期待できます。床に落ちている花粉は除去できないので、機器を止めて歩き回ると、再び花粉が舞い上がることもあります。

花粉症の治療

抗ヒスタミン薬(Antihistaminika)

経口薬、点鼻薬、点眼薬が、花粉症治療に広く用いられており、薬局にて処方箋なしで購入できます。経口薬(セチリジン、ロラタジンなど)では服薬後に少し眠くなることがあるため、長距離運転前の服用は避けるようにします。目薬や点鼻薬を使用するときは、ぬるま湯で目や鼻腔をすすいでからの方が効果的です。

ロイコトリエン受容体拮抗薬(Leukotrien-Rezeptor-Antagonisten)

アレルギー性鼻炎(特に鼻づまり)や気管支喘息の治療に用いられる薬です(モンテルカストなど)。炎症や気管支収縮を引き起こす物質であるロイコトリエンの働きをブロックします。服用から数日後に効果が出てきます。

ステロイド製剤(Kortisonpräparate)

中等症以上で点鼻薬として用いられます。なお血管収縮性点鼻薬(市販の即効タイプ)は長期使用で薬剤性鼻炎を起こして悪化させることもあります。

減感作療法(Hyposensibilisierung、Desensibilisierung)

特異的免疫療法(SIT)ともいいます。通常は約3~5年間にわたり、アレルギー反応を引き起こさない微量のアレルゲンを徐々に増量しながら繰り返し投与していきます。免疫システムを慣らすことで、アレルギー反応を起こさない「免疫寛容」状態への誘導を目的とします。

最終更新 Dienstag, 07 April 2026 09:56
 

血圧の基礎知識 -高血圧のリスク-

40代なのですが、健康診断で肥満と高血圧を指摘されました。父も血圧が高く、このところ仕事が忙しかったので心配です。生活改善で血圧は下がるのでしょうか?日常生活で何か気を付けることがあれば、教えていただきたいです。

Point

  • 140/85mmHg以上は高血圧
  • 自宅血圧測定の勧め
  • 高血圧はサイレントキラー
  • 徐々に動脈硬化を促進
  • 高血圧の90%が本態性高血圧
  • 妊婦の降圧剤選択の留意点

血圧とは何ですか?

血管壁にかかる圧力

血圧(Blutdruck)とは心臓が血液を全身に送り出す際に血管壁にかかる圧力です。測定値はmmHg(ミリメーター水銀柱)で表されます。血圧を決めるのは、①1回の心収縮で心臓から送り出される血液量、②血管(動脈)の柔軟さ、③全身の血管内の循環血液量です。心臓が収縮して血液を送り出す際の最大圧力が「収縮期血圧」(最高血圧、上の血圧値、systolicher Blutdruk、Maximaler Blutdruck, der obere Wert)です。心臓が拡張し血液が戻る際の最小圧力が「拡張期血圧」(最低血圧、下の血圧、diastolischer Blutdruck、der untere Wert)です。高血圧の定義 (Bluthochdruck、Hypertonie、hoher Blutdruck)診察室では、静かな適温の室内で椅子に座り、心臓の高さで、右上腕で2回測定した平均値が血圧(Büroblutdruck)として記録されます。収縮期血圧が120mmHg未満、拡張期血圧が80mmHg未満の場合が正常血圧です。診察室での収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が85mmHg以上であれば、高血圧と診断されます(日本高血圧学会の「高血圧管理・治療ガイドライン2025」)。

家庭血圧の意義(Heimblutdruck)

家庭血圧測定は情報の宝庫です。自宅での収縮期血圧が135mmHg以上あれば高血圧です。上腕で測るタイプの血圧計が推奨されています(日本高血圧学会)。

白衣高血圧と仮面高血圧

診察室だけで血圧が高い場合が「白衣高血圧」(Weißkittelhypertonie)です。外来の血圧は正常で、自宅での血圧が高い場合が「仮面高血圧」(Maskierte Hypertonie)です。

高血圧はサイレントキラー

高血圧状態(仮面高血圧も含め[2014年のHpertension誌])が続くと、圧に耐えるために血管壁が厚く硬くなります。自覚症状がないまま動脈硬化が進み、脳出血、脳梗塞、狭心症、心筋梗塞など致命的な病気につながるため「サイレントキラー」(stummer Killer)と呼ばれます。

高血圧のほとんどが本態性

原因が特定できない、加齢、遺伝的素因、生活習慣、ストレスなどが関与する高血圧を、医学用語で「本態性高血圧」(essentielle Hypertonie、primäre Hypertonie)といいます。高血圧の90%を占め(2003年のLancet誌)、一般的に高血圧というとき、この本態性高血圧を意味します。

原因除去で治る二次性高血圧(sekundäre Hypertonie)

原因がある高血圧で、高血圧全体の約10%を占めます(次項)。主に35歳未満の若年者に多く、降圧薬の効果が乏しく、特徴的な臨床所見を伴う病気もあります。

腎血管性高血圧(renovaskuläre Hypertonie)

腎動脈が細くなった結果、腎臓への血流確保のための昇圧機序が働いて血圧が上昇します。腎動脈の細くなった部分を風船カテーテルで拡げてやると、血圧は正常化します。

内分泌(ホルモン)疾患

副腎皮質でのアルドステロン産生が増え、血圧が上がる原発性アルドステロン症、コーチゾル分泌が増えるクッシング症候群、副腎髄質やほかの場所でのカテコールアミン産生が増える褐色細胞腫があります。

腎臓の病気

慢性腎臓病(CKD)では、腎実質性高血圧がみられます。蛋白尿、尿潜血、血清クレアチニン値の上昇などがみられます。

薬剤、漢方、サプリメントによる高血圧

解熱鎮痛薬の連用(2007年のCirculation誌)、甘草(カンゾウ)製剤(2007年のInt J Toxicol[Suppl.2])、長期のステロイド治療(2007年のRheumatol誌)、経口避妊薬(2007年のEur J Obstet Gynecol誌)で血圧が上昇することがあります。

主な高血圧治療薬

カルシウム拮抗薬

血管平滑筋に直接作用して動脈血管を拡げます。もともとは冠動脈拡張剤として開発され、当時の副作用であった血圧低下が、現在はその主副が交代し、降圧薬として重要な位置を占めています。

ARBとACE阻害薬

ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)とACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬はともに、レニン・アンジオテンシン系という昇圧機構を抑える降圧薬です。ACE阻害薬は突然の空咳が問題になることがあります。妊娠可能な女性では注意が必要です。

少量のサイアザイド利尿薬

塩分を多く摂る人や食塩感受性高血圧で効果が期待できます。上述2項目の血管拡張系の降圧薬と併用して用いられることがあります。

β遮断薬

若年者、ストレスによる高血圧、頻脈傾向のある高血圧など、交感神経系の活動が亢進したタイプの高血圧に効果が期待されます。

妊娠時の高血圧

妊娠高血圧症候群

妊娠時の血圧が140/90mmHg以上の場合が「妊娠高血圧症候群」です。血圧が160/110mmHg以上の場合、母体の臓器障害、子宮胎盤機能障害を認める場合は「重症妊娠高血圧症候群」と診断されます。

服用できない降圧薬も

前記のARBとACE阻害薬は妊娠初期の催奇形性、妊娠中期の胎児毒性が報告されているため、妊娠あるいは妊娠の可能性ある女性では「禁忌」(Kontraindikation)です(1991年のTeratorogy、2005年のBJOG誌、2012年の Hypertens誌)。

日常生活での留意点

どうして塩分取り過ぎはよくない?

血液中の塩分(ナトリウム)濃度を薄めて一定にしようとするため、塩分を取り摂り過ぎると水分も増えて、血管壁への圧力が高まります。

身体運動・減量の効果

有酸素運動(2014年のCirculation誌)、レジスタンス運動(2020年のHypertension誌、2022年のEur J Cardiol誌)で血圧低下への有効性が示されています。肥満者では、体重を1kg減量するごとに、収縮期血圧で平均3.7mmHg、拡張期血圧で2.7mmHgの降圧が報告されています(2001年のAnn Intern Med誌)。

最終更新 Freitag, 06 März 2026 10:22
 

成人の鉄欠乏性貧血

健康診断を受けたら、貧血があると言われました。最近変に疲れやすく立ちくらみも時々あります。また、2年ほど前より生理の経血量が増えてきたような気がします。鉄欠乏性貧血とはどんな病気なのでしょうか?

Point

  • 鉄欠乏による血色素量の低下
  • 偏食、失血がリスク因子
  • 過多月経では子宮筋腫のチェックも
  • 立ちくらみ、動悸、息切れ
  • 舌のしみり感、爪の変化、氷食症
  • 鉄分の補給で改善

鉄欠乏性貧血の知識

貧血とは(Anämie)

血液中の赤血球に含まれる血色素(酸素を運ぶタンパク、ヘモグロビン、Hämoglobin)が減少し、全身への酸素供給が不足している状態です。20~40代の日本女性の10~20%が貧血、40~50%が鉄欠乏状態(後述)にあると推測されています(厚生労働省の平成21年国民健康・栄養調査)。男性、女性ともに70歳以上で増えてきます。

貧血は血色素量の低下

世界保健機構(WHO)では年齢を問わずに、ヘモグロビン値(血色素量)が成人女性で12.0g/dl未満、成人男性では13.0g/dl未満の場合を貧血と定義しています(2006年のBlood誌)。日本の高齢者では11.0g/dl 以下が目安とされています(2011年の日老医誌)。

鉄欠乏性貧血とは(Eisenmangelanämie)

酸素を運ぶ血色素の主要成分である鉄(Eisen)が不足して生じる貧血で、貧血全体の約70%を占めています。全世界で鉄欠乏性貧血にある数は12億人と推測されています(2025年のJAMA誌)。赤血球の大きさ(容積)が小さくなり、赤血球内の血色素が少ないので「小球性低色素性貧血」を呈します。

「かくれ貧血」

(潜在性鉄欠乏症、latenter Eisenmangel)ヘモグロビン値低下はないものの、体内の鉄貯蔵量が低下した状態です(2025年のJAMA誌)。体内貯蔵鉄の不足を判断するには、血清フェリチン(Ferritin)値が良い指標とされ、12ng/ml未満を潜在性鉄欠乏症と呼んでいます(日本鉄バイオサイエンス学会「鉄欠乏性貧血の診療指針」フジメディカル出版、 2024年)。疲労感や肩こりをはじめ、さまざまな症状を引き起こすことがあります(2021年のLancet誌)。

鉄欠乏性貧血のリスク因子

①鉄分の摂取不足(極端なダイエット、偏食)、②失血(月経過多[Menorrhagie、starke Menstruation]、消化管出血)、③鉄需要の増加(成長期、妊娠・授乳)、④消化管からの鉄分吸収が悪い(胃酸分泌阻害薬の長期服用、胃の摘出後)などです。

鉄欠乏に至る主な原因

出血、子宮筋腫

最も多い原因は月経(Menstruation)です。月経による出血量が増えてきた場合には子宮筋腫(Myom、Gebärmuttermyom)が見つかることもありますので、婦人科(Gynäkologie、Frauenarzt/-ärztin)で一度診てもらいましょう。男性や閉経後の女性で出血がある場合は、まず消化管を疑います。

鉄分の摂取が不十分

鉄分の摂取量が足りないことも鉄分不足に関係します。日本人女性の鉄の平均摂取量は必要量を満たしておらず、しかも年々摂取量が減少傾向にあることが指摘されています(国民健康点栄養調査結果報告、前記の「鉄欠乏性貧血の診療指針」)。また偏ったダイエットも関係します(本誌1247号参照)。特に妊娠中や授乳中の女性、成長期にある青少年では鉄の需要が増しているためより多くの鉄摂取が必要です。

鉄欠乏性貧血の症状

気付きにくいことも

鉄欠乏の多くは自覚のないままにゆっくりと生じており、その間に身体が鉄欠乏にある程度慣れてくるため、すぐには気付かなかったり、検査で指摘されて初めて知ったりする場合も少なくありません。

全身のさまざまな症状

①全身症状:慢性的な疲労感(Müdigkeit)、ふらつき、立ちくらみ(Schwindel)、頭痛、集中力の低下、身体活動による動悸、息切れ、②局所の異常:顔の青白さ(blasses Gesicht)、抜け毛、舌のしみり感、手足の冷感(kalte Hände und Füße)、爪の変形、④そのほかとして氷食症(後述)、レストレスレッグ症候群(後述)などがあります。

爪がスプーン状に変化(löffelförmige Nägel)

爪の中央がへこみスプーンのように反り返るほか、爪が割れやすくなったり縦筋が入ったりします。鉄分不足で爪の強度や厚さが低下するために変形すると考えられており、鉄欠乏性貧血が進んだ状態です。

氷を無性に食べたい(Pagophagie)

氷(かき氷を含め)を食べたくなる氷食症や異食症(Pica-Syndrom)は、鉄欠乏性貧血の約16%(2016年の臨床血液誌)〜34%(2019年のBlood CellsModl Dis誌)にみられます。貧血の改善で氷食症、異食症はなくなります(2011年の小児保健研究誌)。

レストレスレッグ症候群(むずむず脚症候群、Restless-Legs-Syndrom、RLS)

鉄欠乏性貧血では、24〜40%(健常者の数倍)にレストレスレッグ症候群がみられるとの報告があります(2007年のSleep Med誌、2013年のAm JHematol誌、2021年のJ Clin Sleep Med誌)。脳内の鉄欠乏とそれに伴うドーパミン作用の変化が関与すると考えられています(2018年のSleep Med誌、2019年のCochrane Database Syst Rev誌)。

鉄分の補給

食事からの摂取

鉄は体内で合成できない栄養素です。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準 2020年版」では、1日当たり成人男性では7.0〜7.5mg、月経のある成人女性では10.5mg(月経のない女性は6.5mg)の鉄を摂取することを薦めています。豚レバー(Leber)などの動物性のヘム鉄(Häm-Eisen)の方が、植物性の非ヘム鉄(Nicht-Häm-Eisen)よりも腸管から吸収されやすくなっています。

経口鉄剤(Eisentabletten)

鉄欠乏性貧血の治療における第一選択です。鉄剤は胃を刺激して悪心(吐き気)などの消化器症状を生じることがあるため、通常量100mgではなく、半量の50mgを十二指腸で溶ける製剤(Ferro SanolDuodenal mite®など)が用いられることがあります。

鉄剤服用での留意点

ビタミンC(Vitamin C、Askorbinsäure)は鉄剤の吸収を助けます。一方、逆流性食道炎の治療に用いる胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害剤など)、日本茶や紅茶に含まれるタンニン酸(Gerbsäure、Tanninsäure)、清涼飲料水に含まれるリン酸塩(Phosphat)は鉄吸収を妨げます。また鉄剤を服用していると便が黒くなることがありますが、心配はありません。

静脈からの鉄剤投与

①ヘモグロビン値が8.0g/dl未満の貧血の場合、②悪心や嘔吐のため鉄剤の内服が困難な場合、③炎症性腸疾患で鉄剤の病態への悪影響が考えられる場合には、静注鉄剤により鉄を補充することもあります(前記の「鉄欠乏性貧血の診療指針」)。

最終更新 Dienstag, 10 Februar 2026 12:47
 

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