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ドクターの診察室


大腸がんの基礎知識

健康診断で便潜血テストを受けたのですが、陽性でした。痔の影響はあるでしょうか?親戚が最近、大腸がんの手術を受けたばかりなので心配です。大腸カメラは受けた方がよいかどうか、教えてください。

Point

  • 男女合わせた罹患数が最も多いがん
  • 50代から増えてくる
  • スクリーニングには便潜血テスト
  • 便潜血陽性であれば大腸カメラ
  • 早期がんでは5年生存率90%以上
  • 直腸がんの手術後はストーマ設置

大腸がんとは

大腸(Dickdarm)とは

小腸(Dünndarm)から続く長さ1.5〜2メートルの消化管で、食べた物の最後の通り道です。小腸から送られてきた内容物から、水分やミネラルを吸収し、固形の便(Kot)を作って体外へ排泄します。

大腸がん(Kolonkarzinom)とは

大腸の粘膜に発生する悪性腫瘍(がん、Krebs)です。組織学的には「腺がん」(Adenokarzinom)が多く、比較的治療しやすいがんと考えられています。

大腸がんの多い部位

大腸は、結けっちょう腸(Kolon)と直腸(Mastdarm)からなっています。結腸は、盲腸(Blinddarm、腹部右下)から始まり、上行結腸(腹部右側を下から上へ)、横行結腸(腹部上側を右から左へ)、下行結腸(腹部左側を上から下へ)、S字形のS字結腸(Colon sigmoideum、下腹部)を通って、直腸に至ります。大腸癌研究会の毎年の全国登録集計によると、S字結腸と直腸のがんの割合が約3分の1ずつ、残りの盲腸部・上行結腸・横行結腸合わせて約3分の1と報告されています(全国がん登録罹患データ[2016〜2023年])。

大腸がんの頻度と発症年齢

日本の男女合計で罹患数が最も多いがんです(国立がん研究センター)。大腸がんの生涯罹患リスクは男性が9.6%(約10人に1人)、女性が7.9%(13人に1人)です(上記の全国がん登録罹患データ)。40代から増え始め、50代以降に急増、70代の発症が約半数を占め、手術例からの年齢分布でも、60歳以上が約80%を占めています(全国がん登録罹患データ)。ドイツでもほぼ同じ傾向です(ロベルト・コッホ研究所)。

大腸がんの症状

早期は無症状

早期の大腸がんは、無症状のことがほとんどです。お腹が痛くなる、腹部の張った感じ、しこりが触れる、貧血などは、ある程度がんが大きくなってからみられる症状です。その場合、がんの大腸の発生部位により、次のような特徴が知られています。

右側結腸の場合

便が液状のため、便秘(Verstopfung)が起こりにくく、仮にがんから出血があっても泥状状態の便と混じり、排便時に出血に気付きません。

左側結腸の場合

横行結腸の左側から下行結腸、S字結腸では、便が硬いため出血(Blutung)に気付きやすく、がんが大きくなった場合は便秘を来たしやすくなります。

直腸の場合

便の表面に血液が付着しやすく(blutiger Stuhl)、便の通り口が狭くなるため、直径1センチ以下の細い便(Bleistiftstuhl)になるなど、残便感が生じます。

大腸がんのスクリーニング・診断

便潜血検査によるスクリーニング(FOB Test)

目に見えない出血(潜血、okkultes Blut、FOB)を確かめるのが便潜血検査です。ヒトの血液のみに反応する免疫法のヒトヘモグロビン法が用いられます(iFOBT = Immunochemical Fecal Occult BloodTest)。痔や裂肛(切れ痔)からの出血、生理、血尿が混じると、テストが陽性になることがあります。

大腸カメラ(Darmspiegelung、Koloskopie)

便潜血検査が陽性の場合、精密検査として大腸カメラが行われます。2021~2024年のデータをまとめたドイツの最近の報告によると、便潜血陽性者の大腸カメラ検査で、何らかの肉眼的所見は約64%に、組織検査を行った患者に限れば、ポリープやがんなどの腫瘍性病変は約60%に、大腸がんは約2~3%に見つかります(Gesundheitsforen「Evaluationsbericht 2025Darmkrebs」)。

ドイツの疾病保険での適応は?

大腸がん検診は、ドイツの公的疾病保険の中に組み込まれています。検診として大腸カメラを受けない場合は50歳からFOBテストを2年ごとに、受ける場合は10年以上の間隔で2回まで選択できます。プライベート保険では、契約の内容によって異なります。

大腸がんの進展の目安

大腸がんの進行の度合い

病期(ステージ)で示されます。このステージの判断に、国際的にはTNM分類(次項)、日本では独自の「大腸がん取扱い規約」が用いられています。共通点は多いものの、ドイツでは前者が基準になります。

TNM分類とステージ(病期)分類

①腫瘍(Tumor)の大腸壁への深達度(T0~ T4)、②所属リンパ節(Nodus lymphatic、Lymphknoten)への転移の有無(N0~ N2)、③遠隔転移(Metastase)の有無(M0、M1)で評価します。さらに、TNM分類をもとに進行度をステージⅠ~Ⅳに分けます。

早期がんと進行がん

TNM分類の深達度が、大腸壁の粘膜内か粘膜下層の場合を「早期がん」(Frühkarzinom)、それ以上深く浸潤している場合を「進行がん」(fortgeschrittenesKarzi nom)といいます。したがって、「早期がん」とステージ分類は必ずしも一致しません。

治療方法

結腸がんの治療

早期がんの場合、肛門からの内視鏡(Endoskopie)によってがんを切除します。内視鏡の先から出した「輪」(スネア)をポリープの茎に引っ掛けて取り除きます。進行がんでは、切除が可能な限り、手術療法が基本です。病変が限られて小さな場合には「腹腔鏡下手術」を、がんが大きい場合や、ほかの臓器に浸潤している場合には「開腹手術」が選ばれます。化学療法では、①手術療法の後に行う補助化学療法と、②切除不能な転移がんに行う化学療法があります。薬剤には、がん細胞の増殖を抑える従来からの化学療法と、がん細胞に特徴的な物質を標的とする分子標的薬があります。

大腸がんの5年生存率

早期がんのステージIでは99%、ステージIIは90%以上、ステージIIIでも84%と治療効果が良好です。一方で、ステージIVは約20%と低くなります(国立がん研究センター・全国がんセンター協議会「全がん協加盟がん専門診療施設の診断治療症例について5年生存率、10年生存率データ」)。

直腸がんの治療

以前は直腸の周囲も大きく切除する「拡大手術」が行われてきました。術後に排尿障害や性機能障害を残すことから、近年は「機能温存手術」(funktionserhaltendeOperation)が広く行われています。手術した後、大腸内容物を排泄するため腹壁にストーマ(人工肛門、Stoma、künstlicher Darmausgang)を造設します。

最終更新 Montag, 07 September 2026 15:47
 

顎関節症について

時々、あごを動かすとカクンと音がすることがあります。また口を大きく広げようとしても開きにくかったり、あごが痛んだりすることも。放っておいても問題ないのでしょうか? 原因や治療法について詳しく教えてください。

Point

  • 関節とあごの筋肉の痛み、圧痛
  • クリック音、開口障害
  • 男性より女性に多い
  • 数週間〜数カ月で改善
  • 歯ぎしり、食いしばり、TCHが関与
  • 日常生活にリスク要因あり

顎関節症とは

あごの構造

顎関節(Kiefergelenk)は耳の前方にあり、下あご(Unterkiefer)と頭蓋骨をつなぐ関節です。噛む・飲み込む・話すという大切な役割を担っています。あごの筋肉である咀嚼筋は機能の異なる四つの筋肉の総称で、咬筋(食べものを強く噛む)、側頭筋(口を閉じる)、内側翼突筋(噛む力を補助)、外側翼突筋(あごを前後左右に動かす、口を開ける)に分かれています。

顎関節症(Kiefergelenkstörung)の3症状

①顎関節、咀嚼筋の痛み(口を大きく開け閉めした時や外側から押すと痛みがある)、②口が大きく開けない(指3本を縦にそろえて入れにくいことが一つの目安、開口障害)、③あごを動かすとカクン、コキッと音がする(顎関節からの雑音)が主な症状です。クリック音は顎関節症の症状の一つですが、これだけで必ずしも治療が必要とはいえません(2019年のJ Appl Oral Sci誌、日本顎関節学会「顎関節症治療の指針2025」)。

日本人の4〜5人に1人

厚労省「平成28年歯科疾患実態調査結果の概要」によると、顎関節の雑音を自覚する人は約15%、痛みを自覚する人は約3%でした。症状を自覚する人は若年から中年の成人に比較的多く、女性に多い傾向がみられました。また、2023年に日本顎関節学会が行った全国調査では、顎関節症が疑われる人は23.7%で、国民の4~5人に1人に何らかの顎関節症状がある可能性が示されました(2025年の日本顎関節学会雑誌)。

顎関節症の病態

顎関節症には、①筋肉(咀嚼筋)の問題、②顎関節の関節円板のズレ、③顎関節の変形性関節症など、障害部位が異なるタイプがあります。①と②が多く、③は比較的少なく中高年に多くみられます。関節円板は、顎関節内にあるクッションの役割をする線維性の組織です。この関節円板が前方にずれ、口を開ける途中で元の位置に戻る際に、「カクン」「コキッ」というクリック音が生じることがあります。

予後は良好

生活習慣の見直しや適切な治療により、多くの場合、痛みや開口障害は数週間~数カ月で改善します。クリック音が残ることもありますが、痛みや機能障害がなければ、必ずしも治療を必要としません(日本顎関節学会)。痛みや開口障害が続く場合や、日常生活に支障がある場合は、歯科(Zahnarzt/-ärztin)、口腔顎顔面外科(MKGChirurgie)、あるいは家庭医(Hausarzt/-ärztin)に相談しましょう。

日常生活に潜む要因

眠っている時の歯ぎしり(Zähneknirschen)

眠っている間の歯ぎしりは、咀嚼筋や顎関節に負担をかけ、顎関節症の症状を悪化させることがあります。また、うつぶせ寝など睡眠時の姿勢が、あごに負担をかける場合もあります。

無意識の食いしばり(Zähnepressen、Bruxismus)

パソコン作業に熱中している時、緊張を強いられる際など、無意識の食いしばりもあごの関節と筋肉に負担をかけます。日本で提唱された「食いしばり・噛みしめ呑気症候群」は、無意識に歯を食いしばることで、唾液を頻繁に飲み込むと同時に多量の空気も飲み込む病態概念です。「歯を食いしばって我慢する」というのは、顎関節症にとっては好ましくないことになります。

上下歯列接触癖(Tooth Contacting Habit、TCH)

無意識のうちに上下の歯を持続的に接触させる癖のことです(本来、安静時には上下の歯は触れ合わず、2~3mm程度のすき間がある)。軽い接触であっても長時間続くと、咀嚼筋が休むことができず、顎関節や筋肉に負担がかかります。

日中の動作、姿勢

頬づえをつく癖、始終ガムを噛む、片側の歯のみで食事をする、背中を丸めた姿勢(猫背、Runder Rücken)も、顎関節症の要因になります。

精神的なストレス

精神的なストレスや緊張が続くと、無意識のうちに上下の歯を接触させるTCHがみられたり、歯を食いしばったり、咀嚼筋の過緊張を生じることがあります。

顎関節症の診断

特徴的な症状から

「あごが痛む」「口が開きにくい」「あごを動かすと音がする」などの症状を確認し、診察でほかの病気を除外した上で診断します。

検査方法

顎関節症に似た症状を示す顎関節脱臼(あごが外れる、Kieferluxation、Kiefergelenkluxation)もまれにあり、必要に応じてあごの動きの検査、咀嚼筋の痛みの検査、レントゲン写真などが用いられることもあります。

顎関節症の治療

自分でできる管理

あごの関節や筋肉に痛みがある場合は、大きく口を開けたり、硬いもの(硬いパン・硬い肉)を食べたりすることを避け、あごを酷使せずに安静を保つようにします。ガムを噛むのも控えましょう。日常生活においては、頬づえをやめ、猫背などにならないような姿勢に心がけます。また、上下の歯が直接合わさらず軽く離した状態に保つようにします。

痛み止め(Schmerzmittel)

痛みがある場合は、イブプロフェン(Ibuprofen)、ジクロフェナク(Diclofenac)などの非ステロイド性抗炎症薬や、パラセタモール(Paracetamol)などの鎮痛薬が用いられることがあります。

マウスピース(Aufbissschiene)

マウスピースは、歯ぎしりや食いしばりによって歯やあごに加わる力を分散し、咀嚼筋や顎関節への負担を軽減する目的で使用されます。

開口訓練、マッサージ

症状に応じて、痛みのない範囲で少しずつ口を開ける練習を行うことがあります。医療機関からの指導を受けた場合は、上下の前歯を指で支え、無理をせずゆっくり開口を補助します。また、こめかみや頬の筋肉を軽く円を描くようにマッサージすると、筋肉の緊張が和らぐことがあります。痛みが強くなる場合やあごが引っかかる場合は中止し、医師に相談してください。

クリック音だけの場合

クリック音がするだけで、痛みや口の開けにくさがなければ、必ずしも治療が必要とは限りません。

病態に応じた治療

咀嚼筋痛、顎関節痛、関節円板障害、変形性顎関節症など、症状の背景にある病態を確認し、歯科医師または専門医が症状を評価した上で必要に応じてそれぞれに適した治療を行います。(日本顎関節学会の「顎関節症治療の指針2025」)。

最終更新 Dienstag, 18 August 2026 08:48
 

学校に行きたくても起きられない - 起立性調節障害・体位性頻脈症候群 -

中学生の長男が最近朝めまいがすると言って、時々学校を休みます。学校で何かあったのではないかと心配です。午後には元気になるので、夫は気持ちの問題ではないかと疑っているようです。間に挟まれてどうしたらよいか悩んでいます。

Point

  • 思春期の子どもにみられやすい
  • 起立性調節障害(OD)は日本の診断名
  • 朝起きたくても起き上がれない
  • 症状は午後改善、夜元気に
  • 怠けと誤解されやすい
  • 家族による病態の理解が大切

小児の起立不耐症

起立性調節障害(Orthostatische Dysregulation、OD)

起立時の自律神経系による循環動態の調整がうまくいかず、立ち上がった時に脳への血流を維持できずに起立不耐症(Orthostatische Intoleranz、後述)のさまざまな症状を生じる病態です。思春期(10~15歳の小学校高学年から高校生頃)に多く、日本では不登校とも関係する病名として知られています。一方欧米では、ODという診断概念は日本ほど用いられていません。

どうして脳血流が低下?

仰向けの姿勢から急に立ち上がると血液は重力により下半身に移動しようとしますが、血管の収縮や脈拍上昇などにより血圧や脳血流が維持されます。この瞬時の調整を司っているのが自律神経(autonomesNervensystem)の交感神経(sympathischerNerv)で、血行動態の調整ができないと脳への血流が低下します。

身体成長スピードとのアンバランス?

身体の成長が著しい子どもでは、骨の成長、筋肉の増強、血管系の発達、自律神経機能の発達は全て同時に起こるわけではありません(2013年のPediatrics誌、2014年のCPPAHC誌、2018年のPediatrics誌、2019年のFront Neurosci誌)。ODの原因は、自律神経機能の発達が身体成長に追いつかないためと推測されています。

ODに悩む子どもは多い

日常生活に支障をきたさない軽症例を含めると中学生の約10%にみられます(熊本県の2007年の「起立性調節障害対応ガイドライン」)。男女比では1対1.5~2と女子に多く、日本学校保健会の調査によると中学男子の15.9%、女子の25.6%、高校男子の21.7%、女子の27.4%にODが疑われる症状がみられました(平成22年度児童生徒の健康状態サーベイランス)。日本の小児科を受診する10~15歳の子どもの6~8%は、ODが原因といわれています(1999年の旧厚生省の科研費調査、厚生科学研究「心身症、神経症等に関する実態調査と対策に関する研究」)。

どんな症状がある?

朝起きられない、めまい、たちくらみ、頭痛、夜眠れない、吐き気、食欲不振、思考や集中力の低下などが主な症状です。日常生活には支障がない軽症から、遅刻や早退が多く日常生活や学業に一定の支障が出る中等症、毎日症状が強く日常生活に支障がみられる重症例があります。

日本でのOD診断

血圧、心電図、血液検査などを行い、心臓の病気、貧血やほかの病気の有無を調べた上で、日本小児心身医学会のガイドラインで記載されている質問項目をチェックして診断基準を満たせば、起立前後での血圧変動を評価する起立試験を行います。ODは日本独自の診断カテゴリーで、欧米では小児の起立不耐症(後述)に近い概念です。

朝は不調で、夜は元気にスマホ

午前中の症状も、午後には改善し、夜には元気になることも少なくありません。夜にスマホ、ゲームはできても勉強などには打ち込めない理由として、思考・理解・記憶に関与するの脳部位(2014年のNeuroscience誌、2016年のNature誌)とゲームで活動する脳の部位(2017年のFront Hum Neurosci誌)が違うためとの指摘もあります(2011年のNSR誌)。

症状への影響因子

ストレス、生活リズム、雨天や気圧低下なども関与してくると考えられています。進学や新年度のクラス替えなどのストレスが影響することもあります。これらは起立性調節障害発症の原因にはなりませんが、症状の悪化につながります。

改善しますか?

身体成長に伴う自律神経調節機構の未成熟という観点から、多くの子どもでは高校卒業までに改善が期待できます。76%が改善するというPOTS(次項)の予後経過とも近いものです(2009年のPACE誌、2016年のPed Cardiol誌)。

体位性頻脈症候群(POTS)

POTSとは?(Posturales orthostatisches Tachykardiesyndrom)

起立時に心拍数の著しい増加(10分以内に30心拍/分以上[12~19歳では40心拍/分以上])を伴う起立不耐症で、日常生活や就学に支障を生じます(2020年のFront Neurol誌、2026年のHeart Lung Circ誌、POTS and Dysautonomia Japanの「POTS・起立不耐症コミュニケーションブック」)。日本では、POTSはODの一亜型として捉えられています(日本小児心身医学会の「小児起立性調整障害診療ガイドライン改定第3版」)

起立不耐症(Orthostatische Intoleranz)

立ち上がると症状(めまい、たちくらみ、動悸、倦怠感、頭痛、集中力低下、失神など)が出る状態の総称です。日本国外における起立不耐症は、①POTS、②起立性低血圧、③血管迷走神経性失神、④脳低灌流型起立不耐症(OCHOS)に分類されています。

日常生活の中で

怠けやサボりではありません

周囲の病態への理解が大切です。子ども自身も学校に行けないつらさに苦しんでいます。循環動態の調節不全による「病気」であり、怠けているのではなく、気の持ちようで改善するものでもありません。叱しった咤激励ではなく、寄り添う姿勢が大切です。

立ち上がる時の注意

急に立ち上がらない、朝起きるときも目覚めてしばらくは起き上がらないなど、脳の血流が低下しないようにします。立ったままの状態のときは足踏みなども効果があります。下半身に血液が溜まるのを抑えるため、弾性ストッキングも有用です。

生活のリズムを整える

早寝・早起き(目覚め)を心がけます。それが難しい時でも怒ったりせずに、声がけ程度にします。夜間のテレビゲームは時間を決めるか、就寝時間を過ぎたら控えるようにします。

食事の塩分

腎機能が正常であれば、食事の塩分は制限せずに水を多め(1.5リットル/日以上)に摂ることにより、体内の循環血液量を増やせることがあります。

暑い環境下を避ける

気温が高い状態に身を置くと、身体の熱を発散させるために末梢血管が拡張し、血圧は下がりやすくなります。涼しい場所に身を置くことが勧められます。熱いお風呂でも同様です。

学校や周囲の理解

家庭、学校、医療機関の連携による環境調整が重要です。日本小児心身医学会で配布している冊子「起立性調節障害:クラスメートに知ってほしいこと」は本症の理解に有用です。

最終更新 Freitag, 14 August 2026 09:22
 

低血圧の体への影響は?

若い頃から血圧が低めで、朝急に起き上がると少しフラつきを感じるほか、熱いお風呂が苦手です。血圧が低いことは体によくないのでしょうか?低血圧で気を付けるべきことなど、詳しく教えてほしいです。

Point

  • 収縮期血圧90mmHg未満が目安
  • 症状がなければ問題なし
  • 若い女性に多い本態性低血圧
  • 高齢者に多い起立性低血圧
  • 高齢者に多い食後低血圧
  • 症状があれば家庭医に相談

低血圧の基礎知識

そもそも血圧とは?

血圧は、全身の組織に酸素や栄養を届けるのに大切です。血圧が低くなり過ぎると、脳や腎臓など重要臓器への血流が乏しくなり、障害を生じることがあります(2026年のCrit Care Med誌に掲載されたガイドライン)。体位に関係なく血圧は維持されます。急に立ち上がって血液が重力で下半身にたまろうとする際も、交感神経系の瞬時の働きで、①必要な血管を収縮させ、②心拍数を増やします。さらに③下肢筋肉による血液ポンプ作用も加わり、脳や上半身の血圧と血流を保ちます。

低血圧の基準(niedriger Blutdruck、Hypotonie)

日本では収縮期血圧が100mmHg以下の時に「血圧が低い」と言います。ドイツでも収縮期血圧100mmHg未満(DGK[ドイツ心臓病学会]とBNK[ドイツ開業循環器専門医協会]の共同サイト)、米国では90mmHg未満です(2025年のNIHの基準)。

低血圧の症状は多岐

めまい、ふらつき、立ちくらみ、疲労感や倦怠感、集中力の低下、手足が冷たいなど多彩です。動悸がする、吐き気、視界が白く見えてくるなどの場合は要注意です。

低血圧のタイプ

本態性低血圧(essentielle / primäre Hypotonie)

明らかな原因がなく最も多い慢性的な低血圧です。痩せ型の(1994年の同年のAm J Epidemiol誌、1997年のHypertens誌)若い女性(1998年のJ Physiol誌、1990年のBMJ誌誌)に多くみられます。持久系アスリートも循環器系の生理的適応により血圧が低めになります(2020年のJ Athl Train誌)。

起立性低血圧(orthostatische Hypotonie、Orthostase-Syndrom)

寝た状態あるいは座った姿勢から起立した際、3分以内に収縮期血圧が20mmHg以上または拡張期血圧が10mmHg以上下がる場合です。横になることで元に戻るため、「一過性低血圧」とも。65歳以上の約20%にみられます(2020年のJ Gerontol A Biol SciMed Sci誌)。

急性低血圧

急激な血圧低下は生命の危険を伴うことがあります。事故による大量出血、不整脈・心筋梗塞による心機能低下、水様性下痢に伴う脱水、アナフィラキシーショック、降圧薬の効き過ぎなどが原因となります。ショック状態では緊急の対応が必要です。

原因疾患のある二次性低血圧(sekundär niedriger Blutdruck)

原因となる病気がある低血圧で「症候性低血圧」とも呼ばれます。脱水、塩分不足、甲状腺機能低下症、アジソン病や出産時の大出血が関係するシーハン病が挙げられます。

血圧低下と関係する病態

起立性調節障害(OD、orthostatische Dysregulation)

小学校高学年から中学生の年齢にみられます。急激な身体成長に対し、自律神経系の発達が追いつかないために生じます(2025年の小児心身医学会「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン改定第3版」)。怠けているのではなく、身体疾患であるという正しい知識を理解することが大切です(同ガイドライン)。

排尿後の失神(Miktionssynkope)

ぎりぎりになるまでトイレを我慢してから一気に排尿すると、急激な血圧低下により倒れることがあります。排尿で腹圧が急に下がり迷走神経反射を刺激、血圧、心拍数の低下によって脳の血流が不足するためです。高齢者の「相対的低血圧」(relative Hypotonie)高齢の高血圧患者の血圧が急に下がった場合、数値上は正常範囲内でも、立ちくらみ、めまい、目のかすみなどを生じることがあります。血流の調節機能が低下して、脳への血流が一時的に足りなくなるためです。

食後の低血圧(postprandiale Hypotonie、PPH)

食後2時間以内に収縮期血圧が20mmHg以上下がる場合を「食後低血圧」と定義されます(2023年のCureus誌)。高齢者では食後低血圧が約40%と高頻度にみられます(2024年のAge Aging誌)。食事で胃腸管の血流が増して血圧が下がっても、圧受容体機能が悪くなっている高齢者では血圧を調整できないためです(2001年のWien Klin Wochenschr紙)。

薬剤による低血圧(Arzneimittelinduzierte Hypotonie)

日常服用している薬も起立性低血圧に関与します(1997年のDrug Saf誌、2024年のPDS誌)。ロンドン南部の認知症患者1万5210人を対象とした調査では、患者の約70%が起立性低血圧の誘因となりうる薬を服用していたと報告されました(2025年のAge Aging誌)。

熱中症による低血圧

高気温で①拡がった皮膚血管に血液が滞り、②発汗による脱水で血液量が減少して、血圧が下がります(日本気象協会のパンフレット)。水分(できればミネラルウォーター)の補給に加え、体のクーリング(ぬるま湯に浸かる、濡れたタオルを体に掛けるなど)が有効です。

過度なダイエットに伴う低血圧

血圧は体重と関係し(2024年のNarra J誌)、極端な食事制限や栄養バランスの偏りがある低体重状態(BMI 18.5未満)では、血液を全身に送るエネルギーと、下肢の筋肉ポンプの役割が低下して低血圧が増えます(2025年日本肥満学会の「閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題」)。

低血圧をめぐる日常

低血圧と日常生活の工夫

朝目覚めても急に立ち上がらず、目を開けたまま5分くらいベッド上で過ごしてから起き上がります。十分な水分を摂り、毎日適度な身体運動を心がけましょう。温水と冷水を交互に使う温冷シャワーは血行改善に役立ちます。動作の少ない長時間の立ち仕事、座ってのデスクワーク、不規則な生活リズム、睡眠不足、過労は低血圧の症状を増悪することがあります。

起立性低血圧の場合

まず弾性ストッキング、弾性腹部圧迫帯、足の筋力を強める体操などを試み、効果がない場合は血圧を維持する薬物療法も検討されます。高齢者では降圧薬が強過ぎないか、一度に大量の食事を摂っていないかなどの見直しも大切です。

相談する目安

立ちくらみやめまいが頻繁に起こったり、日常生活での不安を感じたりするような場合は、家庭医(Hausarzt/-ärztin)に相談しましょう。

最終更新 Dienstag, 09 Juni 2026 10:30
 

色覚にまつわる知識

60歳を過ぎた頃から、少し暗い紺色と黒の靴下やズボンの見分けがつきにくくなった気がします。オーディオの黄色と白端子を間違えてしまうこともあります。加齢で色覚が低下することはあるのでしょうか?

Point

  • 色覚の多様性への理解
  • 後天性の色覚変化も多い
  • 白内障は40代から、80代でほぼ100%
  • 糖尿病網膜症も増加
  • 色のユニバーサルデザインへの留意
  • 白と黄、紺と黒の誤認識は注意

色の見える仕組み

私たちが見ている色(Farbe)

色は、網膜(Netzhaut)の視細胞(Fotorezeptorzelle)によって捉えられた光の波長をもとに、脳が作り出している感覚です。物体に当たった光が特定の波長を反射、それを網膜で電気信号に変え、脳(後頭葉)で統合し、色として認識します。

視細胞

視細胞は網膜上にあり、明るいときは「錐体」(Zapfen)が色を、暗い場所では「桿体」(Stäbchen)が明暗(Hell und Dunkel)を認識しています。L、M、Sの3種類の錐体は、それぞれ赤、緑、青色の光波長に対応しています。哺乳類の祖先は夜行性であったとされ、ヒトでも暗所に適した桿体が約1億5千万個あり(視細胞の約95%)、錐体は約700万個しかありません。

視物質の役割

視物質は視細胞に含まれるビタミンA誘導体とタンパク(オプシン)の複合体で、目に入った光を感知して電気信号に変える働きをしています。ビタミンAが不足すると、桿体のロドプシン合成がうまくいかなくなり、暗い場所で視力が低下しやすくなります。

生まれた時からの色覚特性

錐体機能の違い

人によって錐体の数、錐体の機能の特性には個人差があります。また特定の錐体がない(例えばM錐体)、錐体があってもほかの錐体と性質が似ていることもあります。その場合、異なる色が似たような色に見えていることになります。

色覚特性の頻度

色覚検査表を用いて行う色覚検査(後述)によって、日本人男性の約5%に色覚に特性があり、女性の0.2%、残りの人の色覚は「正常」とされています。この数値は過去に学校で実施された色覚検診および臨床統計の累積結果に基づくものです(1959年、1969年、1997年の日眼会誌)。

ヒトの色覚の多様性

色覚検査で「正常」とされる人の中にもハイブリッド遺伝子を有し、全く「正常」ではない、中間に位置する人が約25%存在するという報告があります(1999年のVision誌)。そのため、前項の色覚に特性のある人を含め、日本人男性の約30%は程度の差こそあれ、ほかの約70%と異なる色覚を有している可能性も推測されています(2002年の細胞工学誌「色覚の多様性と色覚バリアフリーなプレゼンテーション」)。

後天的な色覚異常

加齢に伴う色覚低下

加齢とともに色覚が変化してくる場合があります。特に白内障は、早い人で40代から始まり、80代までにはほぼ全ての人(約100%)の色覚が影響を受けるとされています(長寿科学振興財団)。

白内障によるもの

白内障(Katarakt)があると、黄色く変色した水晶体では青い光が網膜に届きにくくなり、薄い黄茶色サングラスを掛けたように世界が黄色、茶色、赤みがかって見えるようになります(前記2002年の細胞工学誌)。

視神経の病気

視神経炎、薬物(抗結核薬のエタンブロール)の影響などで後天的に色覚(主に赤緑色覚)の低下を生じることがあります。若年性家族性視神経萎縮はミトコンドリアDNAの変異によるもので、多くは若年男性に発症し、視力低下、青黄色覚低下を呈します。

網膜病変によるもの

糖尿病によって発症する糖尿病網膜症(diabetischeRetinopathie)、網膜色素変性症、中心性しょう液性網膜症などでは、網膜上の錐体が障害(特に数の少ない青系)や黄斑部の浮腫により、青〜黄色の色覚が低下します。黄色と白色の区別が難しくなります。

緑内障によるもの

緑内障(Glaukom)では、眼圧の上昇により、大きい視神経細胞(青系)が影響を受け、青黄色覚が低下します。さらに進行すると赤緑色盲も加わり、最終的に全色盲となることがあります。

脳梗塞によるもの

視覚領域を司る後頭葉に脳梗塞を生じると、見えているもの全てがモノクロになってしまうことがあります。脳梗塞発症に伴い、急激に見ている世界がモノクロになるといわれています。

心的要因の関与

大きな心因性ストレスが加わった際にも、視力障害や視力低下、色覚の変化を生じることがあります。子どもに多く、学校や家庭生活でのストレスが原因と考えられます。色彩検査の結果が典型的な分類に当てはまらない場合、心的要因が疑われます。

検査法と試み

色覚の検査法

「色覚検査表」(石原表、Ishihara-Farbtafel)は明度や彩度を巧妙に変えた多数の丸い色斑の背景に描かれた数字や文字を読む検査で、色覚異常のスクリーニングに用いられます。色を順番に並べる色相配列検査(パネルD-15テスト)は色覚特性の程度を、アノマロスコープ(Anomaloskop)は精密診断に用いられます。

配色のバリアフリー

カラーユニバーサルデザインは、色覚特性を持った人や高齢者の色覚低下に配慮し、見分けにくい配色を避けて、全ての人に同じ情報が正しく伝わるようにデザインすることを意味します(2011年、東京都カラーユニバーサルデザインガイドライン)。日常生活の場だけではなく、会合のパンフレット、プレゼンテーション作成の際にも大切です。

遺伝子治療の試み

生まれつきの色覚特性に対し、遺伝子の一部を置き換え、錐体細胞の機能を回復させる遺伝子治療の研究も進んでいます。全色盲の人の色覚改善の可能性が報告されています(2023年のCurrent Biology誌)。

高齢者の色覚低下と日常生活

紺や茶を黒と間違える

白い生地についた黄色のシミが見えない、黒と紺色やこげ茶の靴下を間違えて履く、などが繰り返されるときは要注意です。後天性色覚特性で多いのは、「黄色と白」「青や緑と黒」「茶と黒または紫」といった色誤認です。

転倒事故や着衣着火

色の見え方が異なってきて、小さな段差や階段の境目がはっきりとは見えにくくなります。ガス式コンロの先端の青白い部分が見えにくく、そのため若い人に比べて炎の大きさが小さく見えてしまい、着衣着火のリスクを増す原因の一つとされています。

最終更新 Dienstag, 09 Juni 2026 10:27
 

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