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ドクターの診察室


海外生活での適応障害 - 帯同配偶者にかかるストレス

アジアに海外駐在中の友人から、赴任地で適応障害と診断されたと聞きました。適応障害とはどのような状態を指すのでしょうか?日本の仕事を辞めてドイツに来た自分の配偶者(妻)も、当地の生活になじめずに最近元気がないようにみえます。予防法や治療法があったら教えてください。

Point

  • 海外では家族のメンタルケアが大切
  • 配偶者に多いこころの不調
  • 言葉、異文化、周囲環境がストレスに
  • 全てを失った感じの孤独感
  • 早めの対応が基本
  • 一人で悩まず相談を
  • 家庭中心での思考が大切

適応障害とは

適応障害(Anpassungsstörung)の概念

周囲とのあつれきや環境要因によって陥るうつ的な状態です。日常生活の中で自分が置かれた環境や状況に適応するのが耐え難いほどつらく感じ、不安や抑うつ気分が強く、普段の生活を送れないほどの支障を生じる状態をいいます(2013年発表の米国精神医学会の「精神障害の診断と統計マニュアル第5版[DSM- 5]」、2014年の日本精神神経学会の同日本語訳)。

どんな症状?

自分はどうしてドイツにいるのだろうという存在意義への疑問、毎日がつらくふとしたことで涙が出る、生活が楽しくない、何となく押し寄せる不安感、抑うつ的な気分、あせり、怒りなどのメンタル面の症状に加え、めまい、動機、疲労感などの身体的な症状がみられることがあります。

うつ病(Depression)との違い

適応障害の場合、①発症のきっかけとなる引き金の出来事があること、②そのストレス状態に置かれてから比較的すぐに発症し、③原因となるストレスからの解放ですぐに症状がよくなります。また、④落ち込んだ状態でも楽しいことがあれば楽しむことができるのが特徴です(うつ病については本誌1187号)。一方、適応障害からうつ病へ移行することもあります。

孤独感の背景

現在の孤独感に影響を与えたと思う出来事について、最も多いのが「言語上のもの」、次いで「文化的違いに起因するもの」となっています(2024年公開の外務省「海外における邦人の孤独・孤立に関する実態把握のための調査」結果)。海外生活では、①言葉が通じない、②生活習慣やルールが違う、③周囲に解け込めない孤独感など、生活環境の大きな変化が関わっています。日本で築き上げた周囲とのネットワークや社会生活が海外に暮らしてみて失われたと感じます(2021年、在英国日本国大使館)。

海外駐在経験者のこころの不調

海外駐在経験者を対象とした2005年の旧JOHAC(海外勤務健康管理センター)の調査、2011年の産業能率大学の調査によると、海外赴任中にストレスを感じた人はいずれの調査でも約6割と高くなっています(2016年の広島修大論集)。外務省2022年海外邦人援護統計 (2024年発表)によると、欧州地域での邦人全死亡68人のうち1位が病気の38%、2位が自殺の12%で、病気やメンタルヘルス対策が重要であることが示されています。

帯同配偶者の適応障害

多くの人が経験するこころの不調

駐妻キャリア総合研究所の調査によると、配偶者のメンタル不調は海外生活が始まって1~6カ月の頃が多いとされています(駐妻キャリアnet )。永住者も対象に含めた外務省の「海外における邦人の孤独・孤立に関する実態把握のための調査」(2024年に結果公開)によると、海外に暮らす女性全体の10.6%が「常に孤独(Einsamkeit、Allein)」を感じ、なかでも収入を伴う仕事をしていない(探している)層が20.4%と最も高いことが示されました。

配偶者の居場所は?

海外駐在員の大半(81%)が男性(2023年のJAC リクルートメントの調査)で、帯同配偶者は女性という現状において、駐在員(多くは夫)にとっての会社、子どもにとっての学校に相当する居場所が配偶者(多くは妻)には用意されていません(2016年の広島修大論集)。そのため配偶者にとって、社会との関わりが非常に限られた海外生活スタートとなります。

日本でのキャリアの中断

海外勤務に伴い退職した配偶者は45.2%にも上ります(2023年に行われた「駐妻ファミリーカフェ」による調査)。キャリアが中断されるだけではなく、今まであった社会との接点が急に減り、生活のリズムも大きく変わることになります。ドイツで仕事をしたくとも、夫の勤務先の許可が得られないことも少なくありません。

配偶者への配慮

駐在者(夫)自身も仕事や新しい環境への適応に精一杯で、配偶者のこころにまで気が回らずに放置されたままになってしまうことも少なくありません(2021年、在英国日本国大使館)。子どものいる家庭では休むことなく一人で育児と家事を担ったり、夫婦二人だけの家庭では家族以外とは話をする機会がなかったりという状況も、適応障害の要因になりうるといえます。

駐在者(夫)の多忙、不在

夫の帰宅は遅く、週末も本社とのメール交信、なかには月の半分近くは出張で一人暮らしになってしまう配偶者も。自身が海外生活を望んだわけではない場合、「自分はなぜドイツにいるのだろう」という疑問を持つことになります。

駐在員の会社関係の付き合い

会社の同僚同士の駐在員コミュニティーにおいて楽しさはあるものの、時として付き合いがストレスと感じる人もいます。夫(妻)の会社を中心とした狭い範囲の人間関係、上下関係が配偶者にまで及んで、気疲れの原因になってしまうことも。

対応の工夫

不調が生じたらまずは相談を

適応障害が疑われるこころの不調を自覚したら、一人で抱え込まず、まずは抱えている問題を誰かに相談しましょう。外務省の「海外における邦人の孤独・孤立に関する実態把握のための調査」によると、不安や悩みを「相談することで解決しなくとも気持ちが楽になる」 と回答した人の割合が 73.9%と最も高く、次に「相談することで解決できる、または解決の手がかりが得られる」(55.5%)ことが示されています。

夫婦で話し合ってみる

「自分は何のためにドイツにいるのだろう」と悩むようになったら、正直に話し合ってみることが大切です。駐在者(夫)の自分は忙しいから愚痴を聞いている暇はない、自分だって苦労しているから我慢して頑張ってという態度は、必ずしも解決につながりません。

臨床心理士に相談してみる

数は限られていますが、ドイツでの資格を有する日本語を話す臨床心理士に相談することもできます。また私費扱いになりますが、最近は日本にいる臨床心理士とオンライン相談をするという選択肢も。掛かりつけの医師に紹介の助言をもらうこともできます。

「頑張らなければダメ」とは思わない

異国の地で育児と家事に追われ、孤独に陥っている場合、我慢して頑張ろうと無理を続けるのはよくありません。言葉が通じない異文化の中で、最初から現地人のように完璧にできることは無理です。むしろ開き直って、いわば赤ちゃんになったつもりで、ドイツのさまざまなことに興味を持ってトライしてみるのも一手です。

旅行、一時帰国、本帰国も選択肢

ドイツ国外への旅行や一時帰国も、症状を改善するための選択肢です。ドイツに暮らすのが本当につらい時は、本帰国も検討してみましょう。

最終更新 Montag, 08 September 2025 14:38
 

痩せ過ぎは健康によくない? - 若い日本人女性の4人に1人が低体重

最近、日本肥満学会が「痩せ過ぎはよくない」と発表したと聞きました。娘はスラッとした体型にもかかわらず、いつも体重のことを気にしています。これまではメタボ予防のために痩せることが推奨されていましたが、痩せ過ぎはどんな健康上のリスクがあるのでしょう?

Point

  • BMI 18.5未満が低体重(痩せ)
  • BMIが標準より少し太めが最も長命
  • 日本の20代女性の24.4%が低体重
  • 「痩せ=美しい」の思い込みも背景に
  • 筋力低下と低栄養の症状も
  • 肥満者と同じ糖尿病リスクも
  • 基本は十分な食事と日常の運動

肥満の目安のBMI

ボディマス指数(BMI)

体重と身長から算出されます(計算式は、BMI=体重[Kg]÷身長[m]÷身長[m])。日本肥満学会と世界保健機関(WHO)は共に、BMIが18.5 < 25を「普通体重」(Normalgewicht)としています。

日本とドイツの肥満度分類
BMI 日本(日本肥満学会) ドイツ(WHO)
18.5未満 低体重(痩せ) Untergewicht
18.5 < 25 普通体重 Normalgewicht
25 < 30 肥満(1度) Präadipositas(太り気味)
30 以上 肥満(2度)以上 Adipositas(肥満)

「普通体重」の根拠

BMIと死亡率(Sterblichkeit)の関係は、BMIが22付近で死亡率が最も低くなるU字型を示し、BMIが20以下あるいは25以上では死亡リスクが上昇します。そのため、日本ではBMIが22が統計的に最も病気になりにくい体重と解釈しています。

太り気味が長生き?

「太り気味」は「痩せ」よりも5~7年長生き

日本の大崎国保コホート研究が40歳以上の約5万人を対象に実施した調査では、WHOの基準で「太り気味」の人の平均余命が最も長く、次に「普通体重」、「肥満」と続き、「痩せ」の人の平均余命が一番短いことが分かりました(2013年のBMJ Open誌、平成19~21年度厚労省科学研究費による総括報告書)。「太り気味」の人の40歳以降の平均余命は、「痩せ」より男性で7年、女性で5年も長いという結果も出ています。

肥満への警鈴の偏重

肥満が生活習慣病と関わることから、専門家もマスコミも肥満、メタボ、内蔵脂肪に対する警鈴を鳴らしてきました。一方で、「痩せ」の課題は、神経性食欲不振症(Anorexia nervosa)を除けば「病気」としての概念がありませんでした。

増えている若い女性の「痩せ」

日本の20代女性のほぼ4人に1人

厚生労働省の調査によると、日本の20代女性の24.4%(ほぼ4人に1人)、30代女性の17.95%(5.6人に1人)がBMIが18.5未満の「痩せ」の状態です(2023年の国民健康・栄養調査)。ドイツの18~29歳の女性の「痩せ」の頻度7.2%と比べても、際立って高くなっています(ロベルト・コッホ研究所[RKI]から発行される2022年のJ Health Monit誌)。

原因は食べない、運動しない

低体重の原因として、①食べない(エネルギー摂取量不足)、②運動しない(筋力、心肺機能の低下)が挙げられます。20代女性の平均1日摂取カロリーは終戦直後を下回るともいわれ、その結果「エネルギー低回転タイプ」となって種々の健康障害のリスクとなっています。

背景にSNSやファッション誌の影響

近年の日本では「痩せ=美しい」という意識が浸透し、それに伴う痩そうしん身願望が背景になっていると考えられています(2000年の教育心理学研究誌、2025年の日本肥満学会「女性の低体重/低栄養症候群ワーキング・グループ」)。20歳代女性のうち、体重をさらに減らそうとしている人の割合は「普通体重」で62.8%、現在「痩せ」でも28.1%と高くなっています(平成20年度国民健康・栄養調査)。

痩せ過ぎのモデルの規制がある国も

フランス、イタリア、イスラエルでは、痩せ過ぎたモデル(Magermodel)を法律で禁止しています。ドイツでは法律はありませんが、BMIが18.5以上の業界自主規制が行われています。

糖尿病治療薬を痩せ薬として用いるリスク

GLP-1受容体作動薬を糖尿病のない人が「痩せ薬」として用い、健康被害が報告されているほか、糖尿病患者に薬が届かなくなるなど、国や医療界が警鐘を発する事態が生じています(2023年のNHKのウェブ特集「GLP-1ダイエット “夢のやせ薬” の落とし穴」)。

太りたくても太れない人も

食べても太れない体質性痩せ(2023年のFrontPublic Health誌)、都会暮らしの若い女性には痩せ願望はないのに経済的な理由で十分な食事を取れない人もいます(2021年3月の読売新聞「大手小町」)。

痩せているのは健康か?

前糖尿病状態が13%も

順天堂大学での研究(2021年のJCEM誌)により、痩せた若年女性では標準体重の女性に比べて耐糖能異常(前糖尿病段階)の割合が約7倍(7.5人に1人)も高く、米国のBMIが30以上の肥満者での耐糖能異常の割合(9.4人に1人)を超えています。痩せているのに糖尿病のリスクがある状態です。

栄養素不足、骨代謝異常、性ホルモンの異常

ビタミンD、B12、葉酸、亜鉛、鉄、カルシウムなどの不足、鉄欠乏性貧血が挙げられています(先の日本肥満学会のワーキンググループ)。骨粗しょう症や骨減少症のほか、極端に痩せると間脳下垂体機能が影響を受け、排卵障害や月経異常を生じてきます。妊娠時の母体と胎児の健康リスクを指摘する声もあります(2011年のInt J Epidemiol誌の総説)。

全身症状、精神・神経症状

疲れやすい、低血圧、冷え性、睡眠障害、肌荒れや髪が細くなるなどの症状がみられます(2010年のClin Med誌、2011年のAntioxid Redox Signal誌、2013年のJ Drugs Dermatol誌、2020年のMediators Inflamm誌)。時には、集中力低下や抑うつ傾向(1999年のPublic Health Nutr誌)、本来は加齢に伴う筋肉量、筋力低下を意味する「サルコペニア」のリスクも(先のワーキンググループ)。

痩せ過ぎの人は

「動いて」「食べる」を意識する

激しい運動でなくとも、階段の登り降りなど日常の活動量を増やすことが大切です。また運動は気分転換、ストレス発散にもつながります。食事は栄養素(糖質、タンパク質、脂肪、野菜、果物、乳製品)のバランスの取れた内容にしましょう。

多様な美しさを許容できるように

痩せ一辺倒の価値観が広がっていることも影響しているとの指摘があります(7月7日の読売新聞「ニュースの門」)。行き過ぎた痩身願望を考え直すことが、必要な時期ともいえるかもしれません。

女性の低体重/低栄養症候群(FUS)

日本肥満学会は今年4月に新しい疾患概念である「女性の低体重/低栄養症候群」を発表しました。今後、日本骨粗しょう症学会、日本産婦人科学会、日本小児内分泌学会、日本女性医学学会、日本心理学会と共同で、「痩せ=美しい」の意識をなくし「健康の新常識」を作りたいとしています。

最終更新 Freitag, 01 August 2025 12:33
 

夏の休暇を健康に過ごすために

この夏休みに、家族4人で地中海の島へ旅行します。小さい子どもがいるのですが、熱中症などが心配です。また上の子は8月に南ドイツでのキャンプ旅行に参加します。ダニ脳炎の予防接種を受けた方がよいでしょうか?

Point

  • 気温の日内変動、日差変動が大きい
  • 涼しく感じても水分補給が大切
  • 夏は足水虫の増殖期
  • ここ数年の南欧は暑さが増している
  • 熱中症? の時はぬるい水風呂
  • 旅行時に多い風邪症状、消化器症状
  • 森林地帯ではダニ脳炎にも留意

温度の変化、水分補給

日中は暑く、夜は冷える欧州の気候

欧州の夏は、年によって気温が大分違います。また朝は涼しく、午後は暑く、夜遅くは冷えるという日内変動のほか、気温の日差変動も大きく、同じ週でも日によって著しく変化することがあります。たとえ日中暑くとも、夜まで外出する際は上着を忘れずに。

自覚しない暑さ、空気の乾燥

ドイツの夏は、日本のようにムッとした蒸し暑い日は多くありません。気温30度でも、風通しのよい木陰では涼しく感じることも。そのような状況でも皮ふからは不感蒸泄と呼ばれる現象で、汗に水分が失われています。定期的な水分補給を忘れないようにしましょう。

休暇旅行に多い風邪と消化器症状

意外と多いウアラウプ病

ドイツでは、旅行者の5人に1人が休暇病(ウアラウプ病、Freizeitkrankheit)になるといわれています(2023年7月のWDRの記事)。風邪と消化器症状が最も多くみられ、旅行中の飲食、気温の変化、過労が関与すると考えられています。

アルコール、慣れない脂肪の多い食事

旅先でのアルコール多飲には注意が必要です。連日ビールやワイン、さらに食後のカクテルと続けていると、休暇から帰る頃には胃の不調で苦しむことにも。おいしく感じるやや脂っぽい食事も、長く胃酸分泌を刺激して胃もたれの原因になります。

水虫が悪化する季節

足の湿度が関係

水虫(Fußpilz、Tenia Pedis)は、白癬菌というカビによる感染症(真菌症)です。温度15度以上、湿度70%以上になると増殖するのが特徴です。実際、日本では梅雨の時期から夏にかけて水虫が発症、増悪しやすくなります(2012年のMed Mycol J誌)。

裸足になる時は注意

プールやサウナ、スポーツクラブのシャワー、日本の温泉施設や銭湯は水虫感染のリスクのある場所です。水虫の人が10分ほど素足で歩いただけで、白癬菌をまき散らすことになります(詳しくは夏に増える水虫に注意)。

キャンプ前にダニ脳炎予防接種を

ダニ脳炎とは

ダニ脳炎(Frühsommer Meningoenzephalit=FSME)とは、マダニ(Zecke)によって媒介されるウイルス感染症です。ドイツでも年間200~500人の発症があり、いったん発症すると中枢神経系の後遺症を残すことが少なくありません(ダニ脳炎ってどんな病気?参照)。主な感染危険地域は南ドイツ、スイス、オーストリア、中欧の山林部で、地球温暖化に伴い危険地域の北上も見られています(ロベルト・コッホ研究所「2014年4月報告書」)。

ダニ脳炎の予防接種

ダニ脳炎は根本的な治療法はないため、2回の予防接種(Impfung)が最も効果的です。1年後に追加接種を受けると3年間の予防効果(99%)が得られます(Illing、Ledi著「Impfungen」URBAN&FISCHER社)

南欧に旅行する人へ

暑さを覚悟して

年によって大きな違いはあるものの、ここ2~3年のイタリア、ポルトガル、スペインでは日中の外出も躊躇したくなる暑い日もみられています。水分の補給と、ある程度スケジュールを柔軟に変更することも大切です。

日焼け止めクリームを忘れずに

海辺に上半身裸でいると、強い太陽の光によって皮ふが急に真っ赤になる日光皮膚炎(Sonnenbrand)を生じ、痛みのためシャツを着られないほどになることもあります。日焼け止めクリームを忘れずに、特に子どもは大人よりも肌が薄く敏感であるため注意しましょう。

熱中症予防に行水や濡れタオル

万が一猛暑に遭遇し、熱中症(温調節がうまくいかずに体の中に熱が貯まる病態)を疑う症状がみられたら、冷たすぎない少し温かめの水を張ったバスタブに10~20分間浸かりましょう。効果的に体温を下げられます。また濡れたタオルを肩、背中やお腹に直接被せると、気化熱が奪われ体温を下げることができます。

一時帰国する人は

長旅と時差による消耗

ドイツの自宅を出発して日本の目的地に着くまではおよそ20時間、座席にほぼ固定された状態での移動は大仕事です。フライト中はできるだけ睡眠を取れるように、カフェイン類(コーヒー、紅茶、緑茶、コーラ)とアルコールの摂り過ぎに注意しましょう。

熱中症対策を十分に

真夏の日本は湿度、気温ともドイツではほとんど経験しない厳しさです。湿度が高いため、水分補給と発汗だけによる体温調節には限界がある場合も。路上で頭痛を覚えたらエアコンの効いた近くの店内に逃げ込むか、実家などであれば前記の水風呂を活用しましょう。

夏の感染症

日本の夏の感染症としては、「夏風邪」と呼ばれるヘルパンギーナ、手足口病、咽頭結膜熱(プール熱)が挙げられ、子どもに多いウイルス性感染症です。また今年5月には日本での百日咳の発症例が過去最多と報告されました。どの年代でも感染する病気ですが、特に赤ちゃんで重症化することがあります。予防接種をしておくと安心です。

旅行時に持参するもの

保険証を忘れずに

ドイツ国内旅行ではもちろん、加入している疾病保険カード(Krankenversichertenkarte)は必ず持参します。ドイツ国外でのけがや病気もカバーされるかどうか、事前に確かめておきましょう。

服薬中のお薬

服用中の薬は、途中で錠数が不足しないように十分な準備が大切です。ロストバゲージのようないざという時に備えて、機内への持ち込みバッグの中にも1~2日分の薬を入れておくとよいでしょう。

旅先で使うかもしれない薬

鎮痛解熱薬(Fiebermittel、Schmerzmittel)、下痢止め(Mittel gegen Durchfall、Durchfallmittel)、吐き気止め(Mittel gegen Übelkeit, Antiemetikum)、人によっては痔薬(Hämorrhoidensalbe)が、いざという時の役に立ちます。

最終更新 Freitag, 04 Juli 2025 12:06
 

もしかして坐骨神経痛?と悩んだ時に

数カ月前から時々右側の太ももとふくらはぎの裏がピリピリと痛み、坐骨神経痛ではないかと疑っています。ぎっくり腰を何度か経験したことがある以外は、大きな病気をしたことがありません。健康のために毎週スポーツをしていますが、それと関係はあるのでしょうか。

Point

  • おしりと下肢裏への痛み、しびれ感
  • 痛みで生活の質が低下
  • 原因の多くは脊椎にあり
  • おしりの筋肉による神経圧迫も
  • 治療はまず薬剤による保存療法

坐骨神経について

坐骨神経はどこからどこまで?

坐骨神経(Ischias)は,脊椎の第4、5腰椎(L4、L5)、第1~3仙椎(S1~ S3)からの神経がまとまり束になった、最も太く長い末梢神経(peripherer Nerv)です。おしりにある梨りじょう状筋(birnenförmiger Muskel)の下(まれに中、上)を通り、坐骨近くを経て、太ももから膝、ふくらはぎの後面を通りや足先まで伸びています。

坐骨神経の役割

下半身の運動と感覚を司っています。具体的には、太ももの後ろ側(ハムストリング)、ふくらはぎの筋肉、足と足指の動きへの司令を送り(運動神経)、それら部位からの触覚、温痛覚を脳に伝えています(知覚神経)。

坐骨神経痛とは

病名ではなく症状名(症候群)

一般的に坐骨神経の通り道のどこかで神経が圧迫されることによって生じる痛み(神経痛、Neuralgie、Nervenschmerz)を総称して、坐骨神経痛と呼びます。あくまで症状(Symptome)の表現で独立した病名ではありません。

坐骨神経痛の頻度は?

年間発生頻度は3~14%(2003年のOccup Environ Med誌、2006年のJoint Bone Spine誌)、1~5%(2007年のBr J Anaesth誌の総説)、10%(2017年のBMC Musculoskelet Disord誌)とばらつきがあるものの、生涯発生頻度は13~40%(2007年のBr J Anaesth誌の総説)と高く、多くの人が悩まされている症状です。腰痛患者だけに限ると、年間発生頻度は5~10%(2007年のBr Med J誌)、中には60%(2015年のBMC Musculoskelet Disord誌)と高い頻度の研究結果もあり、生涯発生頻度は49~70%にも達します(2007年のBr Med J誌)。

好発年齢、男女差は?

男女差はなく、40~50代以降に増えてきます(2007年のBr Med J誌)。一方、比較的に若い年齢で椎間板ヘルニア(椎間板が後ろの方向にずれることで生じる疾患)や、腰椎分離すべり症(椎体が前後にずれる疾患)を経験している場合は、早い年齢から坐骨神経痛に悩まされることもあります。

坐骨神経痛の症状

右か左(時に両側)の坐骨神経の支配している領域、すなわちおしり、太もも後面、ふくらはぎにビリビリ、ピリピリする痛み、しびれ感や脱力感が現れます。脊椎の障害範囲が馬尾神経にも及ぶと、排尿障害や男性ではED(勃起障害)の原因となることがあります。

症状悪化の要因

腰(腰椎)を曲げたり、ひねったりする作業、長時間の運転、身体的に不自然な姿勢を強いられる職種(2007年のBr J Anaest h誌の総説)、長時間座りっぱなしの生活(仕事)では坐骨神経痛が起こりやすくなります。脊椎に負担がかかる肥満(2014年のPhysiother Res Int誌)、妊娠にて大きくなった子宮による坐骨神経の圧迫も関与することがあります。

坐骨神経痛の原因

背骨に原因がある場合

坐骨神経痛の原因のほとんどは、腰椎の障害によるものです(日本整形外科学会)。若い世代では椎間板ヘルニア(本誌906号参照)が、60歳以降では脊柱管狭窄症によるものが多くなります。原因の一つにもなる腰椎すべり症には、分離すべり症と変形すべり症があり、前者は若い成長期のスポーツ活動が関与し、後者は高齢の女性に多くみられます。

おしりに原因がある場合

座ったり、歩いたり、走ったりした際に、前述の梨状筋が坐骨神経を圧迫して坐骨神経痛を生じることがあります。これを梨状筋症候群(Piriformis-Syndrom)と呼んでいます。

変形性関節症でも似た症状が

変形性関節症による関節炎の関連痛として坐骨神経痛と似た痛みを生じることがあり、坐骨神経痛との鑑別が必要です。

坐骨神経痛の治療

医療機関を受診する目安

症状が長引く場合(例えば発症から3日以上)、長時間歩けない、日常生活に支障がある場合には、掛かり付け医師(Hausarzt/-ärztin)あるいは整形外科(Orthopädie)に相談してみましょう。

保存療法と手術療法

イブプロフェン(Ibuprofen)などの非ステロイド性抗炎症薬、その効果が乏しい場合には筋弛緩薬、ステロイド剤などが用いられます。6~8週間以上改善しない場合は、ペインクリニック(Schmerzklinik)での神経ブロックも選択肢になります(日本ペインクリニック学会「ペインクリニック治療指針改訂第6版」)。これら保存療法で痛みや筋力低下が緩和されず、原因となっている障害場所が明らかな場合には、手術療法が考慮されることもあります。

坐骨神経痛の代替療法

痛みを和らげるために鍼治療(Akupunktur)、マッサージ(Massagetherapie)、日本では漢方(Kampo、2022年の日経DI)処方が用いられることもあります。

日常生活での留意点

椅子、ワーキングデスクの高さ

普段から背筋を伸ばすように心がけ、長時間座りっぱなしにならないようにします。仕事中の姿勢が前かがみにならないような高さの椅子や机を選びましょう。また、重いものを運ばないようにし、柔らか過ぎるマットレスは腰への負担が大きくなるため避けるようにします。

ハムストリングのストレッチは?

スポーツ前の準備運動でも行われる大腿部にあるハムストリング(大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋)のストレッチは、坐骨神経が刺激されて、逆に坐骨神経痛が悪化する場合もあります。痛みが強まるような場合は避けるようにしましょう。

身体活動は勧められますか?

適度の身体活動は坐骨神経痛の症状のない人の発症を減らしますが、坐骨神経痛を患ったことのある人では発症を増加させる可能性が指摘されています(2007年のBr J Anaesth誌の総説)。

ノルディックウォーキングは?

椎間板ヘルニアが原因となっている坐骨神経痛では、背筋を伸ばして歩くノルディックウォーキングが推奨されています。一方で、腰椎すべり症や脊椎管狭窄症では背筋を伸ばした姿勢は反り腰の状態をつくるため、坐骨神経の通り道が狭くなり、かえって痛みが出やすくなることがあります。

最終更新 Donnerstag, 05 Juni 2025 11:08
 

ヒスタミンによる食中毒と不耐症

ドイツ国外への出張中、マグロの刺身を食べたら、顔や首にじんましんが出ました。友人は白ワインは問題ないのに、赤ワインを飲むと頭痛を起こすことがあるようです。いずれも数時間後に症状はなくなりましたが、これはアレルギー反応でしょうか?

Point

  • アレルギー反応ではありません
  • 食中毒は食品のヒスタミン濃度が問題
  • 不耐症はヒスタミン分解能低下が原因
  • 赤身魚、発酵食品、加工食品に多く含まれる
  • 赤ワイン、熟成チーズ、サラミにも注意
  • 赤身魚の保存は冷凍庫、解凍は冷蔵庫内で

ヒスタミンとは何ですか?

花粉症や炎症に関与

ヒスタミン(Histamin)は、花粉症(Heuschnupfen)のようなアレルギー反応や、胃酸分泌、神経伝達物質にも関わる物質です。通常は特定の細胞内に蓄えられていますが、アレルギー反応などにより細胞の外に放出され多彩な作用を引き起こします。

皮ふが赤くなる、腫れる

ヒスタミンの血管拡張作用で、その部分の皮ふは少し熱感を伴って赤くなります(発赤、Rotung)。血しょう成分が血管の外に漏れやすくなるため、局所の腫れを生じます(腫脹、Schwollung)。さらに神経に働いて痒み(Juckreiz)、痛み(Schmerz)を生じます。じんましん(Nesselsucht)はその典型例です。

花粉症に効く抗ヒスタミン薬

ヒスタミンは、ヒスタミン受容体(Rezeptor)と呼ばれる受け皿を介して作用します。そのため花粉症やアレルギー疾患にはヒスタミン受容体拮抗薬(抗ヒスタミン、Cetirizin、Levocetirizn、Fexofenadinなど)が用いられます。一方、抗ヒスタミン薬には「鎮静作用」もあるため、眠くなるという副作用があります。

ヒスタミンによる食中毒(Histamin-Lebensmittelvergiftung)

ヒスタミン食中毒とは?

生魚や保存食品、発酵食品、熟成食品に含まれるヒスタミン産生菌(魚肉を汚染する海洋微生物)によって作られるヒスタミンが原因で起きる食中毒です。日本での集団発生による患者数は年間100~200人程度で(令和3年の内閣府食品安全委員会ファクトシート[ヒスタミン])、軽症の孤発例も含めると実際はもっと多いと推測されます。

ヒスタミンを分解するDAO酵素

食品から入ったヒスタミンは、小腸にある酵素(DAO酵素、Diaminoxidase)によって分解、不活化されます。この処理能力を超える量のヒスタミンが体内に入ったときに生じるのが、ヒスタミン食中毒です。

加熱で減らないヒスタミン

食品中で一度作られたヒスタミンは加熱しても壊れません。ヒスタミン産生菌は冷凍中は活動しませんが、解凍すると再び産生が始まり(常温に近いほど増えやすい)、ヒスタミンは食品中に蓄積されます(大日本水産会の「ヒスタミン食中毒防止マニュアル」)。

日本で原因となる食品

鮮度の落ちた魚(特にマグロ、カジキ、ブリ、サンマ、サバ、イワシなどの赤身の魚の身の部分)や、内蔵を抜かない魚の丸干しなどの加工食品が原因になります(農林水産省の有害化学物質含有実態調査結果データ集[平成27~28年度])。ヒスタミンが含まれているかもしれないドイツ食品生魚のほか、魚の薫製や塩漬け、缶詰、ソーセージ、サラミ、ザワークラウト、トマト、赤ワイン、ヴァイツェンビール、長期熟成のチーズ(パルメザン、熟成ゴーダ、エメンタール、ブルーチーズ)にもヒスタミンが含まれていることがあります(2006年のPharmazeutischeZeitung紙)。食物アレルギーと似たさまざまな症状食べてから数分後、多くは1時間以内に、ほてり、頭痛、じんましん、痒み、吐き気、おう吐、腹痛、動悸、めまい、疲労感などの症状が一つ以上みられます(2006年の日本食品微生物学会雑誌、2019年のEuro Survell誌、2020年のBiomolecule誌)。通常は数時間以内に回復し、人から人への感染はありません。

ヒスタミン量が発症を左右

一般にヒスタミンの濃度が100mg/100g以上の食品の摂取で発症するとされていますが、実際には摂取量が問題です(2009年の国立衛研報、前記の食品安全委員会ファクトシート)。ヒスタミン不耐症(後述)では、10~100mg/100g未満でも食中毒を起こす可能性があると推定されています。

ヒスタミン不耐症(Histaminintoleranz、HIT)

体内のDAO酵素の作用不足

ヒスタミンを分解するDAO酵素が少ないことやその作用不足が原因で、体内に入ったヒスタミンをうまく分解できずさまざまな症状を呈します。そのため、食品中のヒスタミンが少量でもヒスタミン食中毒と同じような症状を呈します(2015年のAllergol Immunopathol[Madr]誌、2020年のBiomolecule誌)。

ヒスタミン不耐症の頻度は?

約1%(2007年のAm J Clin Nutr誌)あるいは累積頻度が3~6%(2011年のJ Allergy Clin Immunol誌、2022年のNutrients誌)と報告されています。

一次性(遺伝性)と二次性DAO欠乏症

遺伝子の配列変異(遺伝子多型)によりヒスタミンを代謝するDAO酵素の活性が著しく低下している場合を一次性と呼び、アルコール、薬、病気の影響でDAO酵素の作用が低下しているものを二次性と呼んでいます。後者がほとんどを占めます。

不耐症を促す可能性のある食品、薬剤

①細胞からのヒスタミン放出を促す食品(卵白、魚、イチゴ、アルコールなど)、②ヒスタミンよりDAO酵素への親和性が強くDAO酵素を消費してしまう生体アミンを含む食品(バナナ、クルミ、チョコレートなど)、③ヒスタミン代謝に影響する薬剤(抗うつ薬、解熱鎮痛薬)も、ヒスタミン不耐症のリスク因子となり得ます。

診断方法は?

血中のDAO活性を直接測定(公的保険の適応外)して、値が低ければ強く疑われます。繰り返し同じような症状が出る人は、1カ月ほどリスク因子となる食品を避け、症状がなくなるかどうかを確かめる方法も。またヒスタミン代謝を促すDAO酵素製剤(DaosinⓇなど)を服用して、その効果をみることもできます。

ヒスタミン食中毒・不耐症を防ぐために

赤身魚での注意

①常温で放置しない、②冷蔵庫内でも長期保存は避ける、③解凍はできるだけ低温(例えば冷蔵庫内)で、④解凍・冷凍を繰り返さないことが大切です(大日本水産会の「ヒスタミン食中毒防止マニュアル」)。

加熱は意味ないことを念頭に

食品中のヒスタミンは加熱調理しても減ることはありません。前日の残りの刺身を加熱すれば大丈夫と考えるのは正しくありません。

長期熟成のチーズにも留意を

熟成期間が6カ月以上のチーズは避け、食する場合は、保存期間が短いチーズ(クリームチーズ、カッテージチーズ、若いゴーダチーズなど)が無難です。

アルコールは?

一般的にアルコールは腸管からのヒスタミンの吸収を高めるため、ヒスタミン不耐症の場合は、アルコールの摂取を制限することが推奨されています。

最終更新 Montag, 05 Mai 2025 11:13
 

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