ジャパンダイジェスト

トイレの回数が多すぎる?過活動膀胱と間質性膀胱炎

40歳の男性です。ここ数カ月、トイレが近くなって困っています。泌尿器科で前立腺は正常で、尿路感染もないと言われました。どんな原因が考えられるでしょうか?

Point

  • 1日8回以上、就床後2回以上は頻尿
  • 尿意切迫と頻尿が過活動膀胱の主症
  • 過活動膀胱の有病率は10人に1人以上
  • 抗菌薬の効かない間質性膀胱炎
  • 間質性膀胱炎は女性に多い
  • 症状の繰り返しでQOL低下

頻尿と多尿とは

頻尿(Pollakisurie、häufiges Wasserlassen)

トイレの回数が増え、昼間の尿回数が1日8回以上(昼間頻尿)、就寝中に2回以上(夜間頻尿)の場合を「頻尿」と呼びます。

多尿(Polyurie)

成人の平均的な尿量は、1日当たり約1500ml(1000~2000ml)です。1日の尿量が増え、一般的には総尿量(Gesamturinausscheidung)がおよそ3000ml以上になった状態を「多尿」といいます。

膀胱容量と尿意

成人の膀胱の大きさは300~400mlです。尿が150~200mlたまると軽い尿意を、250~350mlたまると強い尿意を感じます。我慢すれば400~500mlためることができる人もいます。

頻尿・多尿になる要因

トイレが気になる心因性

膀胱や尿路に異常なく、1日尿量が増えていないにもかかわらず、尿がたまった感じがして何度もトイレに行く状態です。ストレスや緊張する場面ではトイレが近くなることがありますが、日常生活に支障をきたすほど頻繁にトイレに行く場合も(心因性多尿症)。

多飲による多尿

私たちの血液にはナトリウム濃度や浸透圧を一定に保つ仕組みがあるため、たくさん水分を摂ると腎臓で作られる尿量が増え、トイレに行く回数も増えます。

膀胱炎で粘膜が過敏に

細菌感染による膀胱炎では、膀胱の粘膜が過敏となり、尿がそれほどたまっていないにもかかわらず絶えず尿意を感じます。排尿後にも尿が残っていると感じることがあります(残尿感)。

膀胱容量が小さくなる

前立腺肥大症(本誌1175号参照)では前立腺による膀胱への圧迫と、排尿で圧を必要とするため、膀胱壁が厚くなり膀胱容量が小さくなっています。膀胱がんなどの大きな膀胱内腫瘍、膀胱の筋肉が萎縮している間質性膀胱炎(後述)でも膀胱容量が小さくなります。

残尿量が多い

正常な膀胱容量でも残尿(Restharn、排尿を終えても膀胱内に残っている尿)が多いと、新たに尿をためられるスペースは狭くなるため頻尿となります。前立腺肥大症や神経因性膀胱でみられます。

薬剤や病気

利尿剤の治療を受けている人は、トイレの回数が増えます。またアルコールを大量に飲むと、脳下垂体の抗利尿ホルモンの分泌が抑えられて尿量が増えます。また血糖が非常に高い糖尿病では、浸透圧利尿という現象で多尿・口渇・多飲がみられます。

過活動膀胱(Reizblase、überaktive Blase、OAB)

過活動膀胱とは

尿が十分たまっていない少量の尿や刺激(例えば水を流す音)に対して膀胱が過剰に収縮し、突然尿意を感じて短時間の間に何回もトイレに行くような状態です。

尿意切迫感と頻尿

過活動膀胱で見られる主な症状は「尿意切迫感」(Harndrang、急に起こる我慢できない強い尿意)と、昼間(8回以上が目安)と夜間(2回以上が目安)の「頻尿」です。時には、トイレに間に合わず尿が漏れてしまう「切迫性尿失禁」(Dranginkontinenz)を伴うことも(日本排尿機能学会・日本泌尿器科学会の「過活動性膀胱診療ガイドライン」第3版)。

日本人での有病率は?

日本排尿機能学会の最近の全国調査によると、過活動性膀胱の有病率は20歳以上で約12%、40歳以上で約14%(2024年のInt J Urol誌)でした。

薬剤による治療

過活動膀胱の人には、膀胱の過剰な緊張を和らげ膀胱容量を増やす作用のあるβ3受容体作動薬(Betmiga®など)や抗コリン作動薬(Spasmex®)などが用いられます。難治性の過活動膀胱では、膀胱内へのボツリヌス毒素の注入療法(Botolinumtherapie)が有効とされています(前記の過活動性膀胱診療ガイドライン)。

飲食における留意点

過剰な水分摂取を避け、特に就寝前の過度の飲水を控えます。カフェイン、アルコール、炭酸飲料の摂り過ぎも注意が必要です(前記の日本医事新報社書籍)。

生活上での改善点

BMI(Body Mass Index)で25kg/m2以上の肥満があれば、減量を目指します。膀胱訓練は蓄尿症状を、骨盤底筋訓練は切迫性尿失禁を改善させるのに有効です(前記の「過活動性膀胱診療ガイドライン」第3版)。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群(Interstitielle Zystitis、Blasenschmerzsyndrom)

抗菌薬が効かない膀胱炎症状

間質性膀胱炎および膀胱痛症候群は、膀胱の痛みや不快感、頻尿が長く続く、中高齢の女性に多い比較的まれな病気で原因不明です(日本間質性膀胱炎研究会 /日本泌尿器科学会の「間質性膀胱炎・膀胱痛症候群ガイドライン」、難病医学研究財団の難病情報センター)。

間質性膀胱炎の症状

排尿後すぐにトイレに行きたくなるほどの頻尿、尿がたまると下腹部の鈍痛や刺すような痛みがみられます。痛みを避けようと早めにトイレに行くことで、頻尿回数が1日12~60回になることも(DocCheckFlexikon)。生活の質(QOL)が著しく低下します(2014年の J Urol誌、2004年の排尿障害プラクティス誌)。

比較的珍しい病気

間質性膀胱炎の症状が見られる女性は男性の約5倍で、日本における治療中の患者数は約4500人と推定されています(2015年のTransl Androl Urol 誌)。

間質性膀胱炎の診断

診断は、膀胱鏡という内視鏡検査によって行われます。膀胱粘膜に赤くただれたびらん(ハンナ病変、Hunner'sche Geschwüre)が見られれば、間質性膀胱炎(ハンナ型)と診断されます。

間質性膀胱炎の治療法

膀胱内のハンナ病変をレーザーや電気メスで焼くことで、痛みの改善が期待できます。膀胱鏡検査と同時に行う膀胱水圧拡張術も効果的とされています。さらに抗アレルギー薬や中枢神経のアミトリプチリン製剤などが用いられることも。尿を我慢するための膀胱訓練も併用されます。

食品の留意点

からしなど香辛料、ネギ類など刺激のある野菜、酸性の強い食べ物、ビタミンCやかんきつ系の果物、カフェイン飲料が症状を悪くするとされています(米国のInterstitial Cystitis Association[ICA])。

 
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馬場恒春 内科医師、医学博士、元福島医大助教授。 ザビーネ夫人がノイゲバウア馬場内科クリニックを開設 (Oststraße 51, Tel. 0211-383756)、著者は同分院 (Prinzenallee 19) で診療。

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