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ロンドンで、極上のティー・タイム

ロンドンで、極上のティー・タイム

ロンドンでは、英国が誇る「アフタヌーン・ティー」の伝統に恥じない、おいしいスイーツに巡り合うことができる。人々に長く愛されてきた伝統的で素朴なケーキから、最新のモードを体現したおしゃれで繊細なケーキまで、シーンや目的に合わせて色々試してみたい。ロンドン観光の際はぜひとも体験したい、お茶と極上のスイーツのひととき。今一番気になる、評判のカフェを10店厳選してお届けします。

文・写真: Miki Yamanouchi

※掲載内容(営業時間、メニューなど)は季節により変更となる可能性がございますのでご了承ください。

至福のデザート・フルコースに舌鼓
William Curley

William Curley Foret Noire
Foret Noire
(デザート・バーでいただけるアラカルトのうちの1つになることも。デザート・バーは水〜日の13:00より。3コースで£15)

木漏れ日が差し込む広場に面した、チョコレート色のひさしが目印。イタリアの最高級チョコレート「アメディ」を使った、細工の美しいケーキが並ぶ。こちらのスイーツは、パティシエであり、ショコラティエでもあるウィリアムさんと寿々江さんご夫婦の出身地、スコットランドと日本の伝統が生み出すハーモニーでもある。他所では見ない、黒酢やウィスキー「山崎」のトリュフなどもいただける。

デザート・バーで饗されるアシェット・デセール(皿盛りデザート)は、注文後に作られる3点構成のデザート。プリ・デザート2品、アラカルト3品からそれぞれ1品ずつ選び、最後にプチ・フールで締める。お勧めの「Foret Noire」は、筒状にしたダーク・チョコレートをキッシュ・クリームとチョコレートのムースで満たし、ピスタチオのアイスクリームとラズベリー・ソースを添えた一品。ムースとチョコのリッチな滑らかさに、温かいソースと冷菓の温度差も絶妙な起伏ある味わいは、できたてだからこそ。

198 Ebury Street SW1W 8UN
Tel: +44(0)20 7730 5522
www.williamcurley.co.uk
月〜木 9:30-19:00 金・土9:30-20:00 日10:00-18:30
アクセス: Sloane Square駅から徒歩5分

スイーツとファッションの甘い関係
Cocomaya

Cocomaya High Tea
High Tea £25
(15:00より。要予約)

テーブルに運ばれてくるアンティークのティー・セットに心躍る瞬間、ココマヤの魔法にかけられる。ファッション界のビッグ・ネームが立ち上げたブティック・ベーカリー、そのエッセンスが詰まった3段トレーの「High Tea」は、乙女が夢見るお茶会を絵に描いたよう。花が散りばめられたトレーには、バラの形が愛らしいミニ・ローズ・ケーキがちょこんとお座り。昔風のドロップ・スコーンには、シェリー・グラスに入ったクリームとジャムがお供している。パンもジャムも手作りだが、特にサンドイッチに使われているナッツ入りのパンは、日本でも人気のケーク・サレ(塩味のケーキ)そのものの注目の味だ。

素朴なケーキと華麗なティー・セットのバランスがおしゃれな、スイーツ・ファッションとも呼ぶべきデザートを提供するこちらのカフェは、それでいてご近所さんと店員が親しく挨拶を交わす、肩の凝らないフレンドリーな空間でもある。「High Tea」でサーブされるケーキは個別に買うこともできる。

12 Connaught Street W2 2AF
Tel: +44(0)20 7706 2883
www.cocomaya.co.uk
月〜土 10:00 -19:00 日11:00 -18:00
アクセス: Marble Arch駅から徒歩10分

華やかエリアのニューフェイス
Lanka

Lanka Green Tea Strawberry Cake
Green Tea Strawberry Cake
£3.80

「温かみのある、ヨーロッパらしいケーキを作っていきたい」というオーナー兼フレンチ・シェフの羽良さん。ミシュラン・レストランで研鑽を重ねた彼が、昨年オープンしたのがランカだ。周辺はおしゃれな店が立ち並び、そぞろ歩くのも気持ちいい。モンブランやマカロンなど30種以上のスイーツが揃う。クレーム・ブリュレは注文があってからカラメリゼするなど、こだわりある食への姿勢はケーキにも表れている。

店名は紅茶の国スリランカから取ったというだけあってお茶も充実。オリジナルのフレーバー・ティーは3種類で、お勧めの「Royal Delight」は、自然なイチゴの香りの後に茶葉のしっかりした味わいが口中に広がり、印象深い。看板ケーキの「Green Tea Strawberry Cake」は、イチゴと抹茶のスポンジ、ホワイト・チョコレートのクリームという極上のトリオが楽しめる。プリムローズ・ヒルはすぐそば。おいしいケーキで一服したら、丘に登ってロンドンを見晴らしたい。

71 Regent's Park Road NW1 8UY
Tel: +44(0)20 7483 2544
www.lanka-uk.com
火〜土 9:00 -18:30 日 9:00 -17:00 月曜定休
アクセス: Chalk Farm駅から徒歩7分

滋味ある素材の力をモダン・スタイルで
Ottolenghi

Ottolenghi Passion Fruit Meringue Tart £ 3.70
Passion Fruit Meringue Tart
£3.70

うずたかく積まれたメレンゲ菓子の甘い姿に惹かれるように、ケーキを求める客が後を絶たない。朝のペストリー&コーヒーから夕食後のデザートまで、奥の大テーブルでいつでも気軽にいただけるのも、人々に愛されるゆえんだ。エキゾチックなスパイスや材料を取り入れたデリの食事は、栄養のバランスが取れたサラダも多く、甘いものを食後にいただいても罪悪感なし。

厳選された素材の良さがルックスににじみ出るようなスイーツの中でも、きつね色の尖ったメレンゲ帽子がキュートな「Passion Fruit Meringue Tart」は、ケーキ・カウンターの最前列を飾る人気者だ。ベストセラーの同店レシピ・ブックにも掲載されず、作り方は非公開というのも、来店したくなる理由だろう。一口含むと、メレンゲの柔らかさとフルーツ・ソースの種の歯触りが楽しく、ほろりと崩れるデリケートなタルトも絶品。ミルクなしのストレート・ティーと一緒にいただくと、フレッシュな南国フレーバーがより引き立つはず。

63 Ledbury Road W11 2AD
Tel: +44(0)20 7727 1121
www.ottolenghi.co.uk
月〜金 8:00-20:00 土8:00-19:00 日8:30-18:00
アクセス: Notting Hill Gate駅から徒歩10分

ロンドンっ子も夢中、ポップなアメリカン・ケーキ
The Hummingbird Bakery

The Hummingbird Bakery Red Velvet Cupcake
Red Velvet Cupcake £2.35

すべてのケーキ・レシピがアメリカン、というこちら。米国らしい、アイシングがたっぷりの、甘く、ポップな仕上がりがラブリーの一言だ。ビッグ・サイズのブラック・コーヒーと合わせて、パンチのある味を楽しもう。キーライム・パイや、パンプキン・パイ、バナナ・クリーム・パイなどのアメリカン・パイはもちろん勢揃いで、ホール・ケーキも3段レイヤーのヘビー級だ。

人気のカップ・ケーキは定番の4種類のほかに、抹茶やアール・グレイ、フルーツ・ティーなど曜日ごとに変わるフレーバーもあり、カップ・ケーキ好きなら毎日1つずつ制覇したくなるかも。赤いスポンジが鮮烈な「Red Velvet Cupcake」と、チーズ・ケーキが真ん中に入ったダーク・チョコレート味の「Black Bottom」は、大人がおしゃれに楽しめるスイーツ。女友達と待ち合わせして、ベルベットのスツールに足を組んで座れば、スタイリッシュな米ドラマ・シリーズ、「セックス・アンド・ザ・シティ」の主人公、キャリーになった気分だ。

47 Old Brompton Road SW7 3JP
Tel: +44(0)20 7851 1795
www.hummingbirdbakery.com
月〜木・日 9:00 -19:00 金・土 9:00 -20:00
アクセス: South Kensington駅から徒歩3分

研ぎ澄まされた感覚はケーキにも
Rose Bakery

Rose Bakery Carrot Cake
Carrot Cake £4

食にうるさいパリっ子をうならせ、英国発のカフェとしてパリでも成功しているローズ・ベーカリー。ファッション・デザイナー、川久保玲が率いるセレクト・ショップ・ビルの最上階にあり、昼時になると最新モードに身を包んだ若者や服飾関係者が、ランチにやってくる。ケーキやキッシュ、サラダなどが楽しめるが、ベーカリーというだけあって、目の前の特大オーブンで次々と焼き上がるスコーンやパウンド・ケーキが、カウンターにずらりと並ぶ様子は壮観。どれも黄金色にしっかり焼き込まれ、シンプルな粉のおいしさと香ばしさが伝わってくるようだ。

看板ケーキの「Carrot Cake」は胡桃がざっくり入り、にんじん入りの生地ならではのしっとり感に、スパイシーなシナモンの香り。かなり甘さを控えめにしたクリーム・チーズのアイシングが、たっぷりとトッピングされている。ミニマムで抑えめなのにエッジー。洗練されたセンスは、ファッションのみならず味覚にも表れているようだ。

Dover Street Market, 17-18 Dover Street W1S 4LT
Tel: +44(0)20 7518 0680
www.doverstreetmarket.com
月〜土 11:00-17:00 日休
アクセス: Green Park駅から徒歩3分

歩き疲れたら、おいしくリフレッシュ
Brompton Quarter Cafe

Brompton Quarter Cafe Seasonal Fruit Clafouti
Seasonal Fruit Clafouti £4.75

デコラディブなシャンデリアが天井高く吊られ、マフィンやクロワッサンが並ぶ総ガラス張りの一角が、道ゆく人々の視線をキャッチする。光が降り注ぐ一階の白い空間は、デリ仕様のカフェ・スペース、地階はフォーマル・レストランになっている。ガラス・ケース越しの色とりどりの総菜と、デザート・カウンターに並ぶタルトやホール・ケーキを目の前にすると、ポッシュなフード・マーケットに来たかのよう。自然史博物館やV&A博物館の斜め前にあり、ハロッズなどのデパートからも近いので、買い物などで歩き疲れた脚を休ませに立ち寄りたい。

「Seasonal Fruit Clafouti」は、タルト生地に入ったカスタードのフィリングに、たっぷり散りばめられたブルーベリーがフルーティーな、ホッとする味わい。ほかに、マスカルポーネのチーズ・ケーキ、塩キャラメルのタルトなど常時7種類ほどのケーキが並ぶ。リクエストすれば果物や野菜を自由にミックスしてもらえるスムージーもあり、リフレッシュにぴったりだ。

225 Brompton Road SW3 2EJ
Tel: +44(0)20 7225 2107
www.bqbrasserie.com
月〜日 7:30-23:00
アクセス: Knightsbridge駅から徒歩5分

ちょっぴりデカダンに、優雅なお茶を
Sketch

Sketch Seasonal Fruit Clafouti
Tangy Pate au Choux £5

ポップ・アートとヴィンテージの室内装飾が混在するインテリア構成で、アート・ギャラリーも顔負けの店内。入ってすぐ右手が、お茶を楽しめるパーラーだ。アートな照明で夜の雰囲気を醸し出す奥の空間と、賑やかなファブリックが自然光に映える窓際エリアがあり、気分によって使い分けてみたい。席に着くと、骨董本に挟まれたメニューというプレゼンテーションにまずうっとり。

看板ケーキのページには、素朴なケーキからはかけ離れた、説明書きを読むだけで期待に胸が膨らむ斬新なケーキがずらり。1つだけなんて言わず、友人といくつか注文して気ままにテイスティングしてみたい。こんもりと盛られたホイップ・クリームが愛らしい「Tangy Pate au Choux」は、軽いシューとリッチなクリームの甘さの中に、レモン・クリームとマンゴーのゼリーのシャープな味わいが個性的。バラ模様のティー・セットと行き届いたサービスに、優雅なプリンセスのように永遠にお茶をしていたくなる。

9 Conduit Street W1S 2XG
Tel: +44(0)20 7659 4500
www.sketch.uk.com
月〜金 8:00-2:00 土10:00-2:00 日休
アクセス: Oxford Circus駅から徒歩3分

懐かしい甘さに、心ほどける安らぎの時間
Louis Patisserie

Louis Patisserie Tiramisu
Tiramisu £3

ウッド・パネルの壁とモカ色のソファ、額に飾られた絵までもが懐かしい気分にさせる店内。空気の流れも一気にスロー・ダウンし、窓越しのざわめきが嘘のようだ。こっくりした味のバター・クリームのケーキ、ペストリー、クッキーなどショー・ケースに並ぶスイーツは、オーナーのルイスさんが地下のキッチンで焼き上げている。

お茶を注文すると、1人分でもカップとポット、差し湯、ミルクに茶こしのセットがトレーで運ばれてくるので、素敵なティー・タイムが過ごせそう。ケーキは大きく、ゆっくり休憩してね、というメッセージが込められているようだ。「Tiramisu」はマスカルポーネ・チーズのクリームとモカ・クリームがバニラ・スポンジの層に重なったものだが、こちらのものは重くないので、昼下がりのひとときにいただくのにぴったり。ハムステッド・ヒースを散歩した後、ハイ・ストリートの坂を駅に向かいショッピングを楽しみつつ、こちらで休憩するのがお勧めだ。

32 Heath Street NW3 6TE
Tel: +44(0)20 7435 9908
月〜日 9:00-18:00
アクセス: Hampstead駅から徒歩2分

「さりげないおいしさ」が落ち着く
London Review Cake Shop

London Review Cake Shop Lemon, Rosemary &  Olive Oil Cake
Lemon, Rosemary &
Olive Oil Cake £2.80

文芸評論誌が経営する書店が2007年に併設したカフェは、本好きのみならず甘いもの好きにも評判に。大英博物館そばの落ち着いたエリアにふさわしく、ゆったりと活字に親しむ人も多い。注文して席に着くと、まず水をサービスしてくれるのもうれしい。ゆっくりとお茶をしながら、久しぶりに手紙などしたためたくなる。入り口は別だが、中で書店と繋がっているので、気になる本を持ち込んだり、カフェの棚にある話題本を手に取ったりと、ロンドンの最新文学事情をキャッチできる。

ケーキの種類は日によって変わるが、人気なのはバターの替わりにオリーブ・オイルを使い、レモンとローズマリーの風味を効かせたケーキ。夏のイタリアの木陰を思わせる爽やかさがうけ、定番になったスイーツだ。お茶は、湯を注ぐと閉じていた花が開く中国茶など、25種類を数える。キャロット・ケーキやアップル・パイなど、ほかにも誘惑がたくさん。のんびりしていたら、思わず2つめに手が伸びそうだ。

14 Bury Place WC1A 2JL
Tel: +44(0)20 7269 9030
www.lrbshop.co.uk/cakeshop
月〜土 10:00-18:30 日休
アクセス: Holborn駅から徒歩5分


ロンドンのスイーツ・カフェ地図

最終更新 Freitag, 09 August 2019 10:48
 

ドイツ美食マップ ソーセージ編

ドイツ美食マップ ソーセージ編

地域ごとにバラエティに富んだ食文化を持つドイツ。
フランス料理やイタリア料理のような華やかさはないかもしれないが、
地産地消を基本としたこだわりの味はその土地でしか出会えない宝物。
さて、どこでどんな味が待ち受けているのか、地図を頼りに進んでみよう。
今回のテーマは、国内だけでも1500種以上のバリエーションがあるという
「Wust(ソーセージ)」。
(編集部:高橋 萌)

ドイツ・ソーセージ地図
クリックでドイツ・ソーセージマップを拡大!

加熱ソーセージ Brühwurst

日本でソーセージというと、「アルトバイエルン」や「シャウエッセン」がその代表格だが、皮はパリッと、中はジューシーな美味しさが魅力のこの種のソーセージを「Brühwurst」と呼ぶ。腸詰にしたソーセージを茹でる(brühen)製法を取っているため、こう呼ばれる。

フランクフルター 
Frankfurter Würstchen

フランクフルター日本人にとって一番馴染み深いソーセージ。ウィンナー(Wiener)と言ったほうが、ピンとくるかもしれない。13世紀にフランクフルトで生み出さたこの伝統の味を、19世紀初期にフランクフルトで修行したウィーン人の職人が故郷に伝えたことから、すっかりウィーンに定着。そこから世界に向けて発信された。基本的には同じ製法だが、見分け方はフランクフルターの方が長いということ。少し塩を入れた熱いお湯でボイルして食べる。

ボックヴルスト 
Bockwurst

ボックヴルストボックヴルストという名前に、ビール好きは「ボックビール(Bockbier)」を連想するはず。そう、何を隠そうこのソーセージはボックビールと一緒に食すために作られたもの。キリスト教徒の断食期間中の大切な栄養源であるアルコール度数高めのボックビールに負けじと、粗挽きの肉が存在を主張する。フランクフルターよりも皮のパリッと感は控えめ、調理法は、こちらも食前にボイルして。地方によっては、Knobländer、Rote、Rote Wurstなどとも呼ばれる。

ヴァイスヴルスト 
Weißwurst

ヴァイスヴルストミュンヘン名物として有名な白いソーセージ。「ヴァイスヴルストに12時の鐘の音を聞かせるな」と言われるように、午前中に食すのが良いとされる鮮度命の一品。甘いマスタード、ブレーツン(バイエルン方言でプレッツェルのこと)、ヴァイスビア(小麦ビール)がヴァイスブルストの三種の神器。皮をつるっと剥いて食べる。ミュンヘンっ子の大好物だが、ほかの地方のドイツ人は苦手意識を持っている人も多いとか。同種のソーセージに、WollwurstやStockwurstがある。

ビアヴルスト
Bierwurst

ビアヴルストビールが一滴も入っていないのに、「ビア」ヴルストと呼ばれるソーセージ。名前の由来は、スパイシーでビールに良く合うから・・・・・・とのこと。細かく切った肉に、脂肪や芥子の種、ナツメグ、ガーリックなどを練りこんで、サラミのような断面に。お肉屋さんでは、ハムのように薄切りで売られていることが多い。ビアシンケン(Bierschinken)は、ハム(Schinken)と呼ばれるているが、ソーセージの一種、。こちらもビールのつまみに最適との理由から名付けられた。

レバーケーゼ
Leberkäse

レバーケーゼ腸詰ではないが(北部では腸詰めのものもある)、ソーセージの一種。レバーもチーズ(Käse)も入っていないのに、レバーケーゼというこの名前。元来のレシピによると、レバーを加えることになっていたのだが、だんだんと現在のレバーの入っていないものが多勢を占めるようになったそう。それゆえFleischkäseと呼ばれることも。チーズとの関連はその形状。四角い型にペースト状の肉を入れて焼いたレバーケーゼは、チーズの塊に似ているとも。厚切りにして、マスタードを添えて食べる。


ドライソーセージ Rohwurst

腸詰にした肉を冷燻して、乾燥させたもの。サラミを生んだイタリアから伝来した調理法で、加熱調理していないことから、生(Roh)と表現されるが、これは生ハムと同じ感覚。ドイツのドライソーセージとしては右記のほかに、Zervelatwurstや、Knacker(Knackwurst)などが有名。

ラントイェーガー
Landjäger

ラントイェーガー角ばった形に加圧し、平たく伸ばされたドライソーセージ。1日かけて冷燻し、よく乾燥させたラントイェーガーは、かなり歯ごたえがある。農作業や狩猟の合間の栄養源として、農民や狩人が持ち歩いていたものということで、ラント(耕地)イェーガー(狩)の名を持つ。2つのソーセージがつながった形で売られている。Peitschenstecken(鞭棒)、Bauraseufzer(農夫のため息)、Unteruhlbacher(シュトゥットガルト近郊の街に由来)とも呼ばれる。

メットヴルスト 
Mettwurst

メットヴルスト脂肪を含まない豚のひき肉(Mett)を使用したもの。メットヴルストと一口に言っても地方によって千差万別なのが、その硬さ。北部では硬く、サラミに近いものを指し、南部やオーストリアでは、StreichmettwurstやZwiebelmettwurstのような柔らかいものを指すことが多い。パンと一緒に食べるのが一般的。柔らかいメットヴルストをパンに塗って、タマネギを散らした様子は一見、ネギトロのよう。似たようなソーセージにテーヴルスト(Teewurst)もある。


調理ソーセージ Kochwurst

生肉を腸詰にするのではなく、内臓や肉、その他の材料を調理してから腸、または人工の皮に詰め、その後、加熱したり、燻製にしたりして作るソーセージ。レバーなどの内臓や血、脂身、ゼリーなどが材料となり、その種類は豊富。

レバーヴルスト 
Leberwurst

レバーヴルストレバーペーストと言えば、イメージしやすいかもしれない。フォアグラほどの繊細さはないが、パンによく合う食卓の人気者。香草や野菜、ベーコンなどを加えることにより、多数のバリエーションが生まれる。レバー特有の風味が気になる場合は、プレーンのレバーヴルストより香草がたっぷり入ったものを選びたい。

ブルートヴルスト
Blutwurst

ブルートヴルスト血のソーセージはドイツ最古のソーセージの1つ。血・・・・・・と苦手意識を持つ人も多いが、濃厚な旨みがある(思ったほど血生臭くもない)。地域によってRotwurst、Blunzn、Flönzと名前を変える。肉の代わりにタン(Zunge)を使うと、Zungenwurstに。冷たいブルートヴルストにタマネギの輪切りを添えて食したり、グリルで焼いて食べる。

ズルツェ 
Sülze

ズルツェ脂肪分や軟骨のゼラチン質を利用した煮こごり。スープを固めたものと思って、塩気の強い風味を期待すると予想以上の酸味と出会い、驚くかもしれない。しっかりとした味付けで、ビールのお供としては申し分なし。肉をメインにしたもののみならず、野菜や卵をゼラチンで固めたものなど、バリエーション多数。冷たいままでいただく。


焼きソーセージ Bratwust

ブラートヴルストは、フライパンや炭火で焼いて食べるソーセージの総称。フランケン地方やテューリンゲン地方には伝統的にブラートヴルストが強く根付いている。パンにはさんで食べるファストフードとしても人気。

テューリンガー 
Thüringer Rostbratwurst

テューリンガー焼きソーセージといえば、テューリンゲンのソーセージ! とその名をドイツ全国に知らしめている。炭火でグリルするのが正統派の食べ方。「テューリンガー」と名乗るためには、テューリンゲンで作られ、規定の原料を使用している必要があり、どこの地域でも易々と名乗れる名称ではない。本物をお求めの際は、テューリンゲン風(Thüringer Art)の表記に惑わされぬようご注意を。

ニュルンベルガー
Nürnberger Rostbratwurst

ニュルンベルガー言わずと知れたニュルンベルクの名物料理。ほかのブラートヴルストと比べて小ぶりなニュルンベルガーには、西洋ワサビ(Meerrettich)がよく合う。テューリンゲン同様、当地でも「ニュルンベルガー」の品質と伝統を守るため、ニュルンベルク市内で正しく製造されたソーセージのみがその名を名乗れる。考えてみれは当然のことだが、レシピを真似て名を騙るお店がでるほど人気の高いソーセージということだろう。

ソーセージを美味しくいただくヒント

お肉屋さん

美味しさの秘訣は?「秘密がないこと」と教えてくれたのは、DLG(ドイツ農業協会)の品評会などで数々の賞を受賞しているデュッセルドルフのお肉屋さんMetzgerei Schlösserの食肉製造マイスター、イェルク・シュレッサーさん。信頼を置く地元の農家と契約し、毎日新鮮な肉を届けてもらう。その後の加工の過程で使用するスパイスや副原料などはすべて無添加。100年の歴史を誇るお肉屋さんならではの、伝統のレシピで作るレバーヴルストやヴルートヴルストが自慢だ。ドイツの食肉文化を守る者として、「ドイツ人にとって、ソーセージは職人の技術と情熱が作り出す文化。美味しくないわけがない」と胸を張る。

Metzgerei Schlösser
Oststraße 154, 40210 Düsseldorf
TEL: 0211-362787

白ソーセージが自慢。ミュンヘンでの品評会で金賞受賞の店
Gaßner der Metzger -u. Gastromarkt

Zenettistraße 11, 80337 München
TEL: 089-7461410
www.metzgerei-gassner.de

フランクフルターが美味しいお店
Metzgerei Bode

Taunusstraße 16, 63225 Langen
TEL: 06103-21579
www.metzgerei-bode.de

IFFA2010、DLGで金賞多数
Fachfleischerei During

Rothenburger Straße 5, 01099 Dresden
TEL: 0351-8043602
www.fachfleischerei-during.de

業界で話題の名店、ブランデンブルクの穴場お肉屋さん
Privat-Fleischerei Gebr. Arnold

Saathainer Straße 9 04910 Elsterwerda
TEL: 03533-6228
www.privatfleischerei-arnold.de

血のソーセージなどケルン伝統の味がずらり
Metzgerei Stürmer

Severinstraße 103, 50678 Köln
TEL: 0221-706931
www.metzgerei-stuermer.com

手作りの味にこだわるハンブルクのお肉屋さん
Genuss-Factory

Borsteler Bogen 1, 22453 Hamburg
TEL: 040-5537309
www.genuss-factory.de


レストラン

ソーセージに合うビールは?と聞くと、困った子を見るような眼差しを向けられた。「ソーセージはビールを選ばないし、ビールもソーセージを選ばない。最高のお供だよ」と言うBrauerei Schumacherのは、自身も週に3~4日はソーセージを食べると言うアルトビール醸造所シューマッハーのウェイターの皆さん。「ドイツ人のソーセージ好きは、もう疑問の余地がない」と締めくくる。

Brauerei Schumacher
Oststraße 123, 40210 Düsseldorf
TEL: 0211-8289020
www.schumacher-alt.de

Bratwursthäusle炭火焼の香りに誘われて
ニュルンベルガーをがぶり
Bratwursthäusle

Rathausplatz 1, 90403 Nürnberg
TEL: 0911-227695
www.bratwursthaeusle.de

CURRY.カリーヴルストの専門店
CURRY.

・Moltkestraße 115, 40479 Düsseldorf
TEL: 0211-5143256
・Hammer Straße 2, 40219 Düsseldorf
TEL: 0211-3032857
・Fraunhoferstraße 11, 80469 München
www.curry-deutschland.de


マスタード

マスタードソーセージの味を引き出す調味料は西洋ワサビやケチャップなど色々あるけれど、日本では考えられないくらい多くの種類を擁するマスタードにこだわりたいなら、専門店へ行ってみよう。

デュッセルドルフ名物のマスタードがずらり
Düsseldorfer Löwensenf

Berger Straße 29, 40213 Düsseldorf 0211-8368049
www.loewensenf.de

家族経営で最高のマスタードを目指す
Senfmühle Thomas Weber

Kirchfeldstraße 2, 94486 Osterhofen/Galgweis
TEL: 08547-9152205
www.weber-senf.de

素朴な店構え、ランチで味見もできる
Bautzener Senfstube

Schloßstraße 3, 02625 Bautzen
TEL: 03591-598015
www.senf-stube.de


カルチャー

Deutsches Currywurst Museum Berlinベルリン発祥のカリーヴルストの
すべてがここに
Deutsches Currywurst Museum Berlin

10:00〜22:00
Schützenstraße 70, 10117 Berlin
TEL: 030-88718647
www.currywurstmuseum.de

コンテストなどイベント盛りだくさんの
食肉の見本市
SÜFFA Die Fachmesse für die Fleischbranche

10月2日(日)〜4日 9:00〜18:00
Messe Stuttgart
Messepiazza 1 70629 Stuttgart
www.messe-stuttgart.de/cms/sueffa11_aussteller_messe0.0.html

最終更新 Mittwoch, 05 Juni 2019 15:44
 

穴場の音楽祭ガイド2011

穴場の音楽祭ガイド2011

「コンサートには、よく行くよ。何せチケットが安いからね」── 日本の家族や友人に、そう自慢げに話すのが、ちょっと楽しかったりするドイツ生活。街角の告知ポスターなどを見ても、ここでは音楽が日常の一部であることを感じずにはいられない。皆さんは、そんな音楽の楽園を骨の髄まで味わい尽くせていますか? 「う〜ん、自信がない」というあなたのために、今年開催される音楽祭(のほんの一部)をご案内しましょう!
(編集部:林 康子)

有名どころだけじゃない
クラシック

人気の高いメジャーなクラシック音楽祭は、チケット販売直後に売り切れ続出となってしまうことが多い。でも、クラシックをこよなく愛する国ドイツだからこそ、規模は小さくても質の高い音楽祭が多数存在するのだ。

バーデン=ヴュルテンベルク

シュヴァルツヴァルト音楽祭
Schwarzwald Musikfestival

6月2日(木)~13日(月)、9月23日(金)~10月3日(月)
www.schwarzwald-musikfestival.de

トリスタン・コルヌこの音楽祭の支配人を務めるマーク・マスト氏は「インターバル」をコンセプトに掲げ、個性ある2つの音色が重なり合うとき、そこに全く新しい音が誕生するという「音の共鳴」に注目する。同コンセプトに基づき、音楽祭も2回に分けて開催される。目玉は、同音楽祭が独自に主催する「特別賞」で、今年その栄誉に輝いたフランスの新星チェリスト、トリスタン・コルヌ。

ラインラント=プファルツ

ハンバッハ音楽祭
HAMBACHER MusikFEST

6月22日(水)~26日(日)
www.hambacher-musikfest.de

プファルツ地方ハンバッハで1997年に産声を上げた音楽祭。生みの親は、質の高さとレパートリーの豊富さで群を抜く実力派と評されるマンデルリング四重奏団だ。ぶどう畑が広がる風光明媚な地に佇むハンバッハ城内で、国内外の著名演奏家によるコンサートを聴いた後は、地元のワイン、地ビールに舌鼓を打ちながら演奏家たちと音楽について語り合うことができる。

ニーダーザクセン

ヒッツアッカー音楽祭
Sommerliche Musiktage Hitzacker

7月30日(土)~8月7日(日)
www.musiktage-hitzacker.de

エルベ川流域の静かな街ヒッツアッカーで毎年開催されている、伝統ある音楽祭。66回目を迎える今年は「家族の絆」をテーマに、家族と音楽の関係に様々な視点から光を当てる。世界に名を馳せる音楽一家のスクライド家やコパチンスキー家のメンバーらが舞台に立つほか、「ヴィトゲンシュタイン・サロン」と称し、同家が刻んだ音楽的軌跡をたどる。

ヘッセン

ダルムシュタット城音楽祭
Darmstädter Residenzfestspiele

7月28日(木)~8月7日(日)
www.residenzfestspiele.de

ダルムシュタット城音楽祭 バロック時代の絢爛豪華な宮廷祝賀の息吹が今なお感じられるダルムシュタット城で、当時の賑わいさながらの音楽祭を開こうと、2001年に市民が立ち上がった。以降、毎年開催されている音楽祭は今年でちょうど10周年。宮殿での艶やかな音楽祭を締めくくるのは、ドイツ・オペラ界を代表するテノール歌手ルネ・コロによるワーグナーの「タンホイザー」。

バイエルン

オーベルストドルフ夏季音楽祭
Oberstdorfer Musiksommer

7月28日(木)~8月18日(木)
www.oberstdorfer-musiksommer.de

オーベルストドルフ夏季音楽祭ウィンタースポーツのメッカ、リゾート地として知られるアルゴイ地方の山々に、美しいクラシックの音色が響き渡る。この音楽祭のハイライトは、標高2000メートルのネーベルホルンで聴く山頂コンサート。アルプスの大自然の空気と一流音楽家が奏でる豊かな音色を全身で感じよう。今回は、オーボエやフルート、クラリネットなどの木管楽器に焦点を当てる。

ベルリン

ヤング・ユーロ・クラシック
Young Euro Classic

8月5日(金)~21日(日)
www.young-euro-classic.de

クラシックや現代音楽の未来を担う1500人以上の音楽家の卵たちが世界中からベルリンのコンツェルトハウスに結集し、その実力を披露するこちらは、「若い世代のバイロイト音楽祭」と呼ばれるほど人気の高い音楽祭。20以上のコンサートが17日間にわたって開催される。今年は、エネルギッシュな演奏で会場を熱気に包む南米の音楽家たちにご注目!

ブレーメン

ブレーメン音楽祭
Musikfest Bremen

8月27日(土)~9月17日(土)
www.musikfest-bremen.de

ブレーメン音楽祭 ブレーメン市内とその近郊29カ所で、宗教曲から交響曲、室内楽まで全40のコンサートが繰り広げられる。8月27日、オープニングの夜はイルミネーションで飾られたブレーメンの中央広場の舞台に、ソウル・フィルらビッグ・ゲストが登場。クラシックのほかにも、ジャズやワールド・ミュージック、パーカッションなど、贅沢なプログラムが組まれる。

バイエルン

ヴュルツブルク・バッハ音楽祭
Würzburger Bachtage

11月18日(金)~27日(日)
www.bachtage-wuerzburg.de

ヴュルツブルクといえばモーツァルト音楽祭が有名だが、当地では18世紀を代表する偉大な音楽家バッハの楽曲を次世代へと伝える事業に務める「バッハ協会」が、バッハ音楽祭も開催している。毎年バッハともう1人の音楽家を取り上げている同音楽祭。今年はバッハと同年に生まれ、彼と共にバロック音楽後期の一時代を築いたとヘンデルとの関係を紐解く。

フランツ・リスト生誕200周年
2011年クラシック音楽のハイライト

今年は、18世紀を代表する音楽家フランス・リスト(1811~86年)の生誕200周年。ハンガリーに生まれ、指揮者、作曲家、ピアニストとして類稀なる才能を発揮したのみならず、音楽教育、演奏会の主催にも尽力したリストが音楽界に遺した多大な功績を称え、彼が11年間生活したテューリンゲン州で、1年を通して様々な記念コンサートや展覧会が開かれる。

注目はこちら!
展覧会ヴァイマールの中の 1人のヨーロッパ人 
Ein Europäer in Weimar

リストが欧州各地を旅して行った音楽活動の軌跡をたどる。
コンサートや講演も多数開催。

6月24日(金)~10月31日(月)
Schiller-Museum
Neugasse 2, 99423 Weimar Schlossmuseum Weimar
Burgplatz 4, 99423 Weimar
www.liszt-2011.de
www.klassik-stiftung.de/liszt

しっとり大人の時間を味わう
ジャズ

この国で、クラシックと並んで人気の高い音楽ジャンルといえばジャズ。その音が、大人のムードを盛り上げてくれるからだろうか。本場米国をはじめ、国内外からプロの演奏家を招いて開かれるジャズの祭典も充実している。

ラインラント=プファルツ州

パラティア・ジャズ
palatia jazz

開催中~8月13日(土)
www.palatiajazz.de

トリロク・グルトゥ修道院の廃墟やルートヴィヒ1世の夏の別荘、バイエルン王朝時代に建てられた要塞など、プファルツ地方の歴史的建造群を巡りながら、約3カ月間にわたり繰り広げられる祭典。欧州各地のスター奏者たちが、即興を交えながらジャズの多様性を紹介する。現代パーカッショニストの最高峰トリロク・グルトゥによる、息を呑むほどに美しい演奏も逃せない!

ノルトライン=ヴェストファーレン

メールス・フェスティバル
moers festival

6月10日(金)~12日(日)
www.moers-festival.de

ルール地方の西の端、メールスの夏を飾るのは、40年の伝統を持つジャズ祭り。景気後退の影響でここ数年は開催を危ぶまれたが、規模を縮小してでも続けたいという市民の熱い願いにより今年も開催。今回は米国で活躍する若き黒人ミュージシャンを中心に、欧州やアフリカなど、各地のジャズ・シーンを紹介する。日本を代表する箏奏者、八木美知依も登場。

ノルトライン=ヴェストファーレン

デュッセルドルフ・ジャズラリー
Düsseldorfer Jazzrally

6月10日(金)~12日(日)
www.duesseldorfer-jazzrally.de

クルーゾ参加アーティスト数約500人、観客動員数約30万人で国内最大規模を誇る毎年恒例のジャズ・イベントが、今年も街中をしっとりとジャズの音色に包み込む。ジャズ以外にも、ファンクやソウル、ブルース、ロックといった幅広いジャンルの音楽が披露されるこの祭りの今回のイチオシは、ハスキーボイスと甘い歌詞で聴衆を酔わせる人気シンガー、クルーゾ。

シュレースヴィヒ=ホルシュタイン

ジャズ・バルティカ
Jazz Baltica

6月29日(水)~7月3日(日)
www.jazzbaltica.de

パット・メセニー「ピアノ・ピアノ ── エスビョルンを偲ぶ」をモットーに、キール、フズム、ザルツァウの3都市で開かれるジャズ祭り。ザルツァウで旗揚げし、世界的名声を博したスウェーデンの偉才ジャズピアニスト、エスビョルン・スヴェンセン。3年前に事故で急死した彼へのオマージュとして、2003年に彼と共演した米国人ギターリスト、パット・メセニーが再び舞台に立つ。

バーデン=ヴュルテンベルク

ジャズオープン・シュトゥットガルト
Jazzopen Stuttgart

7月1日(金)~10日(日)
www.jazzopen.com

ジャズオープン・シュトゥットガルト“open”というタイトルが示す通り、1994年の初開催以来、同フェスティバルはあらゆる観客が音楽に親しめることをモットーに続けれられてきた。そのためプログラムも、ジャズに主軸を置きながらも、国境や音楽のジャンルの垣根を超えた多種多様な内容となっている。最終日には、ビッグ・アーティストらによる子どもたちのためのジャズ教室も開催。

ザクセン

ドレスデン・ジャズデイズ
Jazztage Dresden

11月4日(金)~15日(火)
www.jazztage-dresden.de

2001年にドレスデン・ウンカースドルフ地区の教会で、ジャズ・トリオ、オクラッツ・ブラザーズがイニシアチブを執って開いた小さなジャズ祭りは、今や国内外のトップ・アーティストが集う国際的なイベントへと急成長を遂げた。今年のプログラムは現在調整中だが、すでに英国ディキシーランド・ジャズの代表格、クリス・バーバーの参加が決定している。

新鮮な空気に包まれて
ジャズ

開放感と一体感を同時に感じられるオープンエアのコンサートやオペラ、演劇。真夏へと向かうこれからの季節、ジャンルの垣根を越えた盛りだくさんのプログラムを提供するイベントで、新たな音楽の楽しみを見付けよう。

ヘッセン

ヴェッツラー・フェスティバル
Wetzlarer Festspiele

5月31日(火)~6月29日(水)
www.wetzlarer-festspiele.de

バロック様式の街並みが美しいヘッセン州ヴェッツラーで行われる演劇祭の、今年のテーマは「人物像」。役者の衣装や化粧、仮面は時代や社会背景のみならず、人間の内面を表現するという効果に着目し、演劇における“人間の顔”に迫る。賢人ナータンやピーターパン、モーツァルトら、音楽と共に語られる人物たちの「真実の顔」に出会える舞台がここにある。

バーデン=ヴュルテンベルク

テント・ミュージック・フェスティバル
Zelt Musik Festival

6月29日(水)~7月17日(日)
www.zmf.de

テント・ミュージック・フェスティバル クラシックやジャズ、ロック、ポップなどの音楽はもちろん、スポーツやダンス、コメディー・ショーまで、あらゆるエンターテイメントがフライブルクに大集結。舞台は巨大なテントの中に設置されているから雨が降っても安心、日焼けの心配もない。メジャー・デビューへの登竜門とされるこの野外フェスで、今年はどんなニューカマーが発掘されるのか!?

ノルトライン=ヴェストファーレン

ドリームタイム・フェスティバル
Traumzeit Festival

7月1日(金)~3日(日)
www.traumzeit-festival.de

モグワイデュイスブルクの工業団地跡に造られた公園。その昔は高価な銑鉄が集められていた場所に、今は明日を夢見る音楽の“原石”たちがやって来る。今回はスコットランドのポストロックバンド、モグワイが出演するほか、テーマ国をミャンマーとし、バラエティー豊かな同国の音楽を紹介する。期間中、ぶっ通しで音楽に浸りたい人は、会場近くのキャンプ場を利用し、泊り込みで楽しもう。

バーデン=ヴュルテンベルク

ボイス:合唱&ソング・フェスティバル
Stimmen: Internationales Festival für
Gesang und Chormusik

7月7日(木)~31日(日)
www.stimmen.com

人間が出す「声」に耳を傾け、その力強さ、美しさを感じ取ろうという主旨のフェスティバルが、ドイツ最南端の街レーラッハで開かれる。深みのある声と歌詞で聞き手の魂を揺さぶる米国テキサス州出身のソウル・シンガー、エリカ・バドゥによるオープニング・コンサートを皮切りに、歌や朗読、演劇など様々な分野でアーティストたちが自慢の美声を聴かせる。

バイエルン

フェスティバル in レジデンツ・ミュンヘン
Festtage in der Residenz

8 月26日(金)~28日(日)
www.residenzfesttage.de

フェスティバル in レジデンツ・ミュンヘン貴族が栄華を誇ったルネサンス期に、地位、名誉、そして絶世の美女アナ妃を勝ち取ったバイエルン公アルブレヒト5世の祝賀の模様が、ミュンヘンのレジデンツを舞台に綴られる。道化あり、ムーア人のアクロバティックダンスあり、ルネサンス音楽や宮廷舞踊ありと、ドイツ語が分からなくても十分に華やかな宮廷の雰囲気を楽しめる内容となっている。会場では、小物や雑貨を販売するルネサンス・マルクトも開催。

最終更新 Montag, 12 August 2019 11:36
 

ヴァイオリニスト 諏訪内晶子インタビュー

諏訪内晶子

物事に捉われすぎず、自信を持ち、音楽と向き合う ヴァイオリニスト諏訪内晶子

音楽の世界で生きる者ならば誰もが羨む経歴と存在感。それゆえに生まれ持った才能に支えられた音楽家と捉えられがちなヴァイオリニスト、諏訪内晶子。しかしその足跡をたどれば、彼女がいかに人生の節目で冷徹に状況を見極め、音楽のために最良と思われる選択肢を選び取り、自らの努力でその才能の原石を磨いてきたかがうかがえる。1990年、チャイコフスキー国際コンクールで優勝した当時18歳の少女は、何を考え、どのように音楽と向き合い、世界的ヴァイオリニストとしての地位を築き上げたのだろうか。
(英国ニュースダイジェスト編集部: 村上 祥子)

諏訪内晶子(すわないあきこ) プロフィール
東京都出身、フランス・パリ在住。3歳よりヴァイオリンを始める。桐朋女子高等学校音楽科在学中の90年、チャイコフスキー国際コンクールで最年少優勝。桐朋学園大学ソリスト・ディプロマ・コース修了後、91年秋から米ニューヨークのジュリアード音楽院へ留学、本科・修士課程を修了。95年、アンドレ・プレヴィン指揮N響定期演奏会で日本における演奏活動を再開。以降、ニューヨーク・フィル、ベルリン・フィルをはじめ、世界各国の著名オーケストラとの共演を行っている。

4月末、ロンドン中心部のオフィス・ビルで行われたインタビュー。場所の準備を整えようと建物の扉を開けた瞬間、ヴァイオリン・ケースを肩にかけ、小さなスーツ・ケースを傍らに置いた女性の姿が目の前に飛び込んできた。外見は舞台やテレビで見る姿そのものなのに、一瞬、それが諏訪内晶子であったことに気付かなかったのは、一人佇む女性を取り巻く柔らかい空気が、強烈なオーラで周囲を圧倒する演奏中の彼女のイメージと重ならなかったからだ。「ロイヤル・ウエディングは今週の金曜日でした?」。インタビューの直前、こんな質問を投げ掛けてきた諏訪内は、その日購入したオイスター・カードが、ウィリアム王子とキャサリン妃の写真が印刷されたものだったと言って笑う。やはり、ときに完璧主義と言われる気鋭のヴァイオリニストのイメージとは、少々異なる。

勝負に負けた少女が考えたこと

「アキコ・スワナイ」── 1990年、当時はまだソ連と呼ばれていたロシアの首都、モスクワ。世界有数の音楽コンクール、チャイコフスキー国際音楽コンクールのヴァイオリン部門で、審査員の満場一致による優勝を果たした18歳の少女、諏訪内晶子は、優勝者の名を告げられると、ほんの少し目を見開いた後、静かに立ち上がり辺りを見回した。技量、若さ、そして恵まれた容姿を備え持つ彼女は瞬く間にメディアの寵児となったが、帰国した彼女を取り巻き、興奮を隠し切れない大人たちの中で、誰よりも落ち着いて見えたのは、誰あろう、少し低めの声で淡々と優勝の喜びを語る諏訪内晶子その人だった。以降、孤高の美貌ヴァイオリニストといったイメージで語られることの多い諏訪内だが、今回のインタビューで、自らの音楽人生を、ときに笑いを含めつつ軽やかに語るその屈託のなさに、心地良い戸惑いを覚える。彼女は一体どのような道のりを歩みながら、ここまでたどり着いたのだろうか。

音楽家、諏訪内晶子の萌芽とも言える瞬間は、小学校4年生のときに訪れた。全日本学生音楽コンクール小学生の部。東日本大会で1位になった諏訪内は、全国大会で優勝を逃してしまう。その帰り道、悔し涙に暮れた。

「自分の力がうまく出せなかった。先生に何を言われようが、先生が何をしようが、舞台に立ってしまえば自分にしかやることができない。9歳ながら自分の中で煮え切らない思いがあったんだと思います。実は東日本大会の本選が終わってからけっこう遊んでしまったので、自分の反省点としてはそこかなあ、と(笑)」。

こう軽い調子で語ったものの、自らの意志の弱さで負けた、そこに納得のいかなかった9歳の少女がここで1つの決意をしたことで、その後の人生は大きく変わることになる。規則正しい毎日を送ることを決めた諏訪内は、学校の長期休暇の間、朝は塾、昼はプールで泳いだ後に昼寝、その後はヴァイオリンの練習、という毎日を厳格なまでに自らに課した。そしてその結果は、数年後、全日本学生音楽コンクール中学生の部1位という形で現れる。

「コンクールに限らず、人の前に立って表現するということは、自信がないとできない。当時は論理的に考えていたわけではなく、感覚的にきっとそうなんじゃないかという感じでしたが。ただ自信がどこからくるかというと、自分がそれまで過ごしてきた時間から生まれるものであって、急にその場になって出るものではないですから。中には出る方もいらっしゃるかもしれませんけれども、私はそういう感じではないんですね。同じことを何度も何度もやっていると、あるとき、ぱっとひらける瞬間がある。それを見付けるためにも、毎日の積み重ねというのは絶対に揺るがないですね」。

音楽家というものは、ある程度ストイックな生活をしなければ、長い意味での演奏活動はできない。習慣的に30分ならば30分だけの時間を、自分の力でベストを尽くす。その点は「ある意味テニス・プレーヤーやプロ野球選手と似ているところがある」と諏訪内は言う。音楽を唯一無二の崇高な存在と捉える人々も多い中で、音楽とスポーツの類似点をあっさり指摘する潔さが小気味良い。

コンクールは外の世界を知る手段

コンクール。それは世界中の音楽家の卵たちが、プロという狭き門への最短切符を手にするために人生を賭けて挑む大舞台だ。世界的コンクールに優勝すれば世界が注目する一方で、一度失敗すれば、音楽家としての経歴に傷が付き、その傷跡は後々まで残る。17歳でエリザベート王妃国際音楽コンクール、日本国際音楽コンクールに参加した諏訪内は、それぞれ2位を獲得。それは音楽家として世界に羽ばたくには十分過ぎるほどの勲章だった。にもかかわらず、あえてその翌年にチャイコフスキー国際コンクールに挑戦したその心の内にあったのは、何が何でも優勝する、という思いだったのだろうか。

「全然、それはなかったですね」。「全然」という言葉をはっきりと区切るようにして即答した諏訪内は、続けて当時の師、江藤俊哉にチャイコフスキーに行くと伝えた際、「僕なら行きませんよ」と言われたというエピソードをおかしそうに話してくれた。優勝を目指す悲壮なまでの覚悟、といった予想とはあまりにかけ離れた、あっけらかんとした様子に、では何が彼女を動かしたのか、興味がもたげる。

「10代後半という、ものすごく色々なことを吸収できる時期だったので、コンクールでは日本の中だけでは吸収できなかった、本当に様々なことを吸収できたと思います。80年代当時は今よりずっと情報量が少なかったですし。その頃は高校生でしたが、例えばカラヤンが日本に来て切符を買おうと電話しても、全くつながらなかったんですね。ベルリン・フィルが来たときに発売と同時に電話をしても、つながったときはもう売り切れで。海外でどんな演奏会が行われているのか、情報が入ってこなかったのと、周りにプロ活動をしている人がいなかったので、プロになるというのが一体どういうことなのかを知りたかった。あとは、言葉が話せなくても、色々な国に行って、出ていくだけで拍手をしてくれて、自分の好きな演奏をして……。そういうことがすごく楽しかったんです」。

コンクールを世界への窓口と捉え、「楽しい」経験だったと語る諏訪内。コンクール挑戦期を、「ロシアに対する憧れがあったから」行ってみたかったというチャイコフスキー・コンクールでの優勝という最高の形で締めくくった彼女を待っていたのは、意外なことに自身いわく「逆にその後の方が大変だった」、音楽家としての次の楽章だった。

諏訪内晶子

脳の総合的な部分を鍛える期間

音楽の世界への扉を開ける鍵を手にした18歳の少女は、しかし、その扉の前で立ち止まっていた。「まさか自分がプロのヴァイオリニストになれるとは思っていなかった」という「いち高校生」の諏訪内は、その時点ではプロになるという意識を明確に持ってはいなかったというのだ。当時の冷静沈着な様子からすると、にわかには信じ難いが、後に彼女の進んだ道が、その言葉の正しさを裏付けている。米ニューヨークにあるジュリアード音楽院への留学。コンクール後、ヨーロッパとアメリカでいくつかの演奏会を行った諏訪内は、自ら後者で学ぶ道を選んだ。

「アメリカの方が何でも吸収しやすいのでは、という思いがありました。オープンで自由で、やる気があれば受け入れてくれる体制になっている。ヨーロッパは、しっかり自分の行く方向が分かっていて、自分を持っていて、その上で自分の行く方向性と合えばすごく良いのだろうなとは思っていたのですけれども、当時の私は放り出されたばかりだったので」。

そしてジュリアードに進んだ諏訪内は、同時に単位互換制度のある名門コロンビア大学で政治思想史を学び始める。以前メディアで、「音楽以外の勉強をしたかったから」とその理由を語ったことがあったが、なぜ「政治思想史」だったのか。

「コロンビアの学部長に、自分は色々なことを勉強したいのだけれど、と相談したんです。その学部長から、哲学や、歴史的な背景を勉強するには政治思想史が良いのではないかとアドバイスを受けました。音楽の技術的なことはほとんど日本でできていたので、もっとアカデミックな角度で、違った視点から音楽を見るには、政治思想史の授業を受ければ良いのでは、と。実際の授業は、最初は英語と日本語、両方のテキストを読まないと頭に入っていかなくて、普通の学生の3〜4倍の時間を掛けましたが、すごく面白かったですね」。

音楽家は、幼い頃からの訓練が必要なため、ともすれば少し偏った部分が出てきてしまうことがある。それはそれで大事だけれど、芸術一般には、脳の総合的な部分が必要になってくる——こう語る諏訪内には、これまでの話からも、技術の向上という点だけでなく、音楽という世界を俯瞰(ふかん)的に捉える傾向がうかがえる。そんな彼女にとって、「音楽家であってもアカデミックなサポートが大切」というジュリアード音楽院の教育方針が肌に合っていただろうことは想像に難くない。「練習していれば良い」というそれまでの観念とは違った価値観を教えてくれたジュリアードでの日々を「すごく貴重な時間だった」と語る彼女が、もう1つ学んだこと、それが「言語化の重要性」だった。

もう何年も前のこと。某テレビ番組に出演した諏訪内が、好きな漢字を色紙に書くよう、求められた。悠々たる筆致で描かれた文字は「翔」だったのだが、印象に残ったのは、続く彼女の言葉だった。日本の文字は見ただけでイメージが喚起されるが、西洋のアルファベットは違う。同様に日本には以心伝心といった伝統があるが、西洋でははっきり言葉にしないと伝わらない——異国で生活し始めた諏訪内が、言葉で気持ちを伝える必要性を感じた、というのは理解できる。しかし、感性が重視される音楽においても言語化を重視するのはなぜだろう。こう問うと、ああ、と懐かしい思い出話を聞かされるような、少し照れくさそうな笑みを浮かべて説明してくれた。

「今思うと、自分がしたいことをはっきり明確に自覚するための方法ですね。自分は本当に何をしたいのか、それをきっちり持つための訓練だったと思います」。

「抽象的であいまいなことを美徳であると捉える部分が少しある日本から一歩出て、西洋音楽、西洋文化の表現方法と比較する」という意味で、言語化を学ぶのは「そのときの自分には必要なこと」だったと諏訪内は断言する。しかし今では、言葉だけでは表現できないこともたくさんあると認識している。「でも当時は、1回はそういうところにはまって、出ていくのも良いかな、と思って」と語る諏訪内の言葉の数々は、やはり理路整然としてはいるものの、以前とはだいぶ異なるゆとりが感じられる。

音楽に一番没頭できている時期

一学生として研鑽を積むこと4年。ジュリアード音楽院修士課程を修了した諏訪内は、本格的な演奏活動を再開した。学習期間をはさんだことで自分の音楽が変わったかと聞かれれば、「すぐには変わらない」。ただ、演奏活動をしていくうちに、「コンクールと演奏会の概念の違い」が分かってきたという。

「例えばオリンピックのように、色々な人と競って点数が出るような部分と、本当に表現しなければならない部分。コンクールではやってはいけないことがあるんですよ。ミスは絶対に許されない。そのため、そちらの方に偏ることがあるんですね。演奏活動では、違うところに気持ちを持っていくことができます」。笑いながらさらっと「技術的にできている、というのは当たり前の話なのですが」と締めくくるあたりはさすが、と思わせる一方で、自由に自身の音楽を高めていける現状に対する充実感が感じられる。

演奏活動を本格化させつつ、引き続き勉学にも励んだ。アメリカでシューマンの後期の作品を勉強しようと思ったとき、どうしても納得がいかない部分にぶち当たった諏訪内は、ベルリン芸術大学の教授に出会い、その知識の深さに驚かされる。薫陶を受けるべくその教授の下を訪ね、「じゃあ、大学に入ってください」と言われた彼女は、何と「入学試験を受けて(笑)」大学へ入学。以後、2年にわたりその教授の下で学んだ。「コンクールを獲ったのがとても若かったので、その時点でも20代半ばでしたから」と何気なく言うものの、驚くべき探究心と実行力だ。

現在はパリに拠点を置き、世界中で演奏活動を行う生活を送っている。仕事は主にイギリス経由で入ってくるため、ロンドンにはしばしば訪れるし、今でも時折、ドイツの教授の下へ向かう。

「パリは90年代後半、夏に1カ月間だけ生活してみて、すごく住みやすい場所だなと思いました。社会的にプライベートな部分とオフィシャルな部分がきっぱり分かれていたのが良かったし、生活レベル、食生活などのクオリティーが高くて、何を食べても美味しいし(笑)。社会主義的な部分もありますし、大変なことはありますけれども、自分の生活形態から見るとすごく過ごしやすいですね。イギリスは、仕事の仕方が違うというか……結構シビアじゃありませんか(笑)? フランスは最後に何となくまとまれば良い、といったところがあるんですが、イギリスの場合はこちらが一生懸命に仕事をしないと怒られるというか(笑)。ドイツは自分が勉強していた場所なので、非常に親近感がありますね。住んでいた当時は90年代、ベルリンの壁が壊れた後で落ち着いていない頃だったので住もうとは思いませんでしたけれども、自分の考え方と遠くないところにある国なんじゃないかなと感じます」。

世界を飛び回り、各地の著名オーケストラと共演する毎日。幼い頃のように、日々の生活に厳しいルールを設定しているのではないか、と思いきや、その問いへの答えは少々意外なものだった。「10代の頃の演奏の仕方は、今はできないですね。逆に必要もないですし。やっぱり体が痛くなったりすることが、昔はなくても今はあるので(笑)、その辺は自分で調整しながらですね」。「最低限守っていかなければならない部分は守って、ですが」とやはり最後に「ただし書き」が付くところは諏訪内らしいが、音楽に対する飽くなき探究心はそのままに、だがその姿勢は、年月を経て少しずつ変わりつつあるようだ。コンクールに明け暮れた時期、知識を吸収した時期を経て、今、彼女はどんなことを考えながら、演奏活動を行っているのだろうか。音色、テクニック、曲の理解——演奏する上で、最も重視していることは。

「そういうことに捉われ過ぎないこと。舞台に立ったときの演奏でしか出せないことがあるので、そうしたことをすべて後ろに置けるような状態に自分をもっていく。舞台の上で自分が一番良いコンディションであるというのを、常に心掛けています。そうした状態でないと、したいこともできないですから。技術的に怖い部分があると良い演奏ができないということもそうですし、体調的にもそうですし、自分に不明な点があると必ず表に出てしまうので、それを極力なくして、音楽に没頭できる状態にしておくというのが一番大切です」。

そしてもう1つ大事にしているのが、柔軟性。「例えば明日もそうなんですけれども、明日初めて(オケと)会ってリハをして、そのまま本番なんです。けれどもずっと一緒に周っているという感じで演奏しなければならない。だから自分がそこに飛び込んでいって、どんな状態でも柔軟に対応できるようにしておくというのは大事ですね」。

今の自分の状態を、「音楽づくりに一番没頭できている時期」と表現する。「色々なことに捉われ過ぎずに、自信を持って、音楽と向き合えている」、気負いのない口調でそう語る諏訪内に、自身の音楽を言語化するとどうなるか、尋ねてみた。「まだまだ、もっともっと変わっていきたいし、変わらなくてはいけないと思う」。あえて言葉に当てはめることを避けたような答えに続き、自らの音楽家としての最終目標をこう言い表した。「自分が今、歩んでいる道のりを経て最終的に到達するところこそが、演奏家として面白い地点。それを長い息で探していきたい」。一瞬、一瞬でベストを尽くす。そんな諏訪内晶子がその一生をかけてたどりつく場所とは、一体、どんな地平なのだろう。

インタビュー中、何度もプロ・スポーツ選手を引き合いに出した。芸術とスポーツ。異なる世界に共通するもの、それは最高の一瞬を求めて日々を切磋琢磨する、その清廉とも言える生き様ではないだろうか。その意味で言うならば、諏訪内晶子はまさにプロ・スポーツ選手のごとき演奏家だ。数々の質問に、時に笑いを含めながらよどむことなく答え続ける諏訪内の姿からは、少女の頃の張り詰めたような緊張感の中で極限を追求するストイックさはうかがえない。ただ、幼い頃にヴァイオリンに人生を捧げることを決めてしまった少女が、長い月日を経て身につけた、静謐な情熱とでも呼ぶべきものが溢れていた。

諏訪内晶子共演
札幌交響楽団 50周年記念 ヨーロッパ公演


今年、創立50周年を迎える札幌交響楽団と、ヴァイオリニスト諏訪内晶子が共演するコンサート。ドイツ・ミュンヘン公演を皮切りに、ロンドン、サレルノ、ミラノ、デュッセルドルフと3カ国5都市を周る。諏訪内にとって札幌交響楽団との共演は初となる。指揮は、英BBC ウェールズ交響楽団桂冠指揮者としても活動する札幌交響楽団音楽監督の尾高忠明。諏訪内と尾高が今回手掛けるのは、プロコフィエフの「ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調op.19」。過去20年にわたり幾度となく共演してきたという2人が、札幌交響楽団とどのような旋律を奏でるのか、興味深い。なお、チケット収入はすべて東日本大震災の被災者のための義援金として、寄付される。
ドイツ公演
【デュッセルドルフ】
5月27日(金) 20:00
13~34ユーロ
Tonhalle Düsseldorf
Ehrenhof 1, 40479 Düsseldorf
Tel: 0211-8996123
www.tonhalle.de
【ミュンヘン】
5月22日(日) 20:00
2.70~66.30ユーロ
Royal Festival Hall
Gasteig München
Rosenheimer Str. 5, 81667 München
Tel: 089-54818154
Waterloo駅
www.gasteig.de

演奏曲目
武満徹「ハウ・スロー・ザ・ウィンド」
プロコフィエフ「ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調op.19」
チャイコフスキー「交響曲第6番ロ短調op.74『悲愴』」
最終更新 Dienstag, 05 November 2024 12:59
 

日独経済産業交流の変遷と展望

日独経済産業交流の変遷と展望

デュッセルドルフ、そこは食も物品も、そして桜の木も、遠い故郷を感じさせるもので溢れる在欧日本人の憩いの場。この街の歴史的背景に目を向けると、時代の先端を担いつつ、苦境を乗り越えてきた、たくましい企業人たちの背中が見えてくる。日本とドイツ、150年の交流が繋ぐ過去と未来を、経済展を通してじっくりと感じてみませんか。
(文:編集部・高橋 萌、協力:デュッセルドルフ日本商工会議所)

開催によせて「日独交流の歴史、
それはライン川の流れのように豊か」

今日、デュッセルドルフには欧州最大規模の日本人社会が形成され、両国の経済交流が活発に行われています。「デュッセルドルフ日本デー」が象徴するように、経済・産業分野だけでなく、文化・音楽・スポーツと、あらゆる分野で両国の交流が盛んに行われている今、日独交流の大きなうねりは、まさにライン川の流れのように不変のようであります。

その始まりは1950年以降と考えておられる方が大半ではないでしょうか。今回の経済展の目的の1つは、日独交流の「ルーツ探し、源流探し」から始まりました。そして、150年前に、その源流の一端を発見するに至ったのですが、まさに歴史に人ありです。明治という近代国家黎明期に活躍した、当地と縁の深いドイツ人が2人見付かりました。日独貿易拡大のパイオニア、ルイス・クニフラーと日本の鉄鋼産業発展の礎となった鉱山技師クルト=アドルフ・ネットーです。同展では、彼らの足跡にスポットを当てます。

その後、第2次世界大戦中に地下に潜伏していた覆水は戦後再び地表に現れ、50年代に小さな流れを生み、当地日系企業の欧州販売統括拠点へと繁栄するとともに、小川から大河へと姿を変えていきました。

経済展では日独企業31社が出展、その過去・現在・未来への活動状況をご覧頂けます。150年の日独交流の歴史の流れを振り返って、現在に立ち止まり、未来へのステップに思いを馳せ、そして日本の厳しい状況を克服する勇気と希望を持って頂く機会になればと切望しております。

デュッセルドルフ日本商工会議所
事務総長 柚岡一明

1961年のインマーマン通り
1961年、インマーマン通り

経済展の見どころ
徹底分析!!

「経済展」というと、少し堅苦しいイメージを抱いてしまいがちだが、バラエティーに富んだ展示内容と体験型アトラクションが、知的好奇心を存分に満たしてくれる。大人から子どもまで楽しめる経済展の魅力の一部をご紹介します。 (展示品の解説言語はすべて日独併記)

地図

1まずは入場
来場者プレゼント&抽選会あり

ライン川沿いのプロムナードを散歩しがてら、または旧市街の観光の合間に、思い立ったらすぐに立ち寄れる絶好のロケーションにあるNRWフォーラム。入場無料の同経済展、そこで展示される資料や展示品は、ほかでは体験できない特別なものばかり。また、経済展開催中は、特製うちわや、日本製の水ヨーヨー、キッコーマンの醤油とミニレシピのセット※と、お祭り気分を盛り上げる来場者プレゼントや、デジタルカメラが4名に当たる豪華抽選会も予定されている。まずは、会場へ足を運んでみよう!

※1日につき先着100名様限定

デジタルカメラ
リコーのデジカメ「GXR P10kit」(左)を1名、「CX5」を3名に

2タッチセンサー型テーブルで情報収集

タッチセンサー展示会場の中央にある「タッチセンサー型 情報テーブル」には、年代、ジャンル、企業別に日本の文化や日独交流の歴史に関する情報が網羅されていてる。上面がタッチセンサーパネルになっているから、指で触れて、情報をまさに手繰り寄せる感覚。表示される映像や情報は、テーブル上だけでなく、左右に設置されたスクリーンにも映し出される。展示品を見ながら疑問に思ったこと、気になることが出てきたら、すぐにこの情報テーブルにタッチ!

3歴史をたどるパネル展示


ルイス・クラフニー商会のポスター

歴史の浪漫とダイナミズムを感じさせる、日独交流150年のすべてをパネルで紹介。1861年、日本とプロイセンの間で「友好通商航海条約」が締結されたことに始まり、光を当てるのは、2人のドイツ人の物語。日独貿易のパイオニアであるクニフラーと、鉄鋼産業の発展に尽力したネットー。欧米列強国に肩を並べようとする明治政府の情熱と、未知の土地に可能性を見出したドイツ人の開拓者魂が、1万キロも離れた2つの国の関係を切り開いたのだ。彼らの足跡を追うとともに、ネットーの直筆デッサンも展示される。彼の目から見た明治時代の日本の姿にご注目。

昼食会を開いての日独交流の様子(1965年)
昼食会を開いての日独交流の
様子(1965年)

もう1つの見どころは、日本企業のドイツ進出が進んだ1950年代以降。なぜ「デュッセルドルフ」だったのか?日本との通信や物資の供給が難しかった当時の苦労は? 同展は、そんな素朴な疑問に答え、発展を続けてきた日本人社会の歩みをおさらいする。

4日独企業の歩みを知る

500社を超える日本企業が活動しているNRW州だが、どんな企業が、どの分野で活躍しているか、ご存知だろうか?ここでは、当地で活躍する日本企業と日本に進出しているドイツ企業が、それぞれの歴史と日独社会に提供している自慢の一品を披露する。最新の自動車技術やロボットスーツといった未来の技術、世界初のノートパソコンやファクシミリ、カメラ技術の歴史などの歴史的遺産、そして化粧品、食品など生活に関わるものまで多岐にわたる展示品。それらには、実際に目にしなければ伝わらない、実物とともに語られるからこそ得られる説得力がある。

日独企業の歩み

5野外展示スペースには未来の自動車

未来の車

会場の外に出ると、トヨタの燃料電池ハイブリッド車「FCHV-adv」と、三菱の電気自動車「i MiEV」が待ち構えている。「FCHV-adv」は水素電池を搭載したハイブリット車で、1回の水素充填による航続距離が約830kmという性能の高さで世界から注目を集めている。また、昨年の春、一般向けの販売をスタートさせたばかりの三菱の「i MiEV」は試乗会を開催。エコ社会への変換を迫られている現代に必須のテクノロジーに触れ、遠くない未来の車社会を体感しよう。

6イベント会場も盛りだくさん

同経済展の開催中は、会場内で毎日さまざまな催し物が予定されている。こちらも、もちろん参加は無料。ドイツ人と一緒に日本文化を体験する交流の場として、または専門家の講演に耳を傾ける学びの場として、いつでも飛び入り参加して楽しもう!

5月22日(日)14:00~17:00
日本文化の紹介 (着物の試着、書道、折り紙)

5月23日(月)18:00~20:00
セミナー「ドイツで働く」※要申し込み(www.djw.de参照)

5月24日(火)14:00~17:00
日本文化の紹介(書道)

5月24日(火)18:00~20:00
講演会(ドイツ語) “Die ersten Japaner im Rheinland(1862)”
(ラインラント地方にとって初めての日本人)
※要申し込み(www.jihk.de参照)

5月25日(水)14:00~17:00
日本文化の紹介(生け花)

5月25日(水)18:00~20:00
講演会(ドイツ語) “Japanische Bergarbeiter im Ruhrgebiet”
(ルール地方の日本人炭鉱夫たち)
※要申し込み(www.djg-duesseldorf.de参照)

5月27日(金)14:00~17:00
日本文化の紹介(折り紙)

5月28日(土)14:00~17:00
日本文化の紹介(茶道)

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電子顕微鏡TM3000
子どもたちにもっと理科の楽しさを知ってもらいたいと開発された、日立の電子顕微鏡。顕微鏡で見る世界を体験しよう!
※グループ対象のデモンストレーション。
要申し込み (www.jihk.de参照)

最新のナビゲーションシステム
1981年、世界初のカーナビを本田技研工業と共同開発したアルプス電気が、最新のナビゲーションシステムのプロトタイプを展示場で披露する。実際に手に取って遊んでみよう!

マクロカメラ
リコーのマクロカメラを使って、見慣れた被写体をクローズアップ撮影。そこに広がるのは、見逃していた細部が活きる「ミニワールド」。マクロ撮影を体験し、新たな写真の魅力を発見しよう!

電気自動車の試乗会
野外の展示スペースでは、三菱の電気自動車i-MiEVに試乗するチャンス。この機会に電気自動車ならではの乗り心地を体感してみよう。試乗会、期間中11:00~18:00まで!

基本情報

日時 2011年5月21日(土)~28日(土)
開館時間 11:00~20:00 金11:00~24:00 ※21日のみ14:00~20:00
入場料 無料
会場 NRW-Forum Düsseldorf(2階)
住所 Ehrenhof 2, 40479 Düsseldorf
最寄駅 Tonhalle/Ehrenhof, Nordstraße

問い合わせ先
デュッセルドルフ日本商工会議所
Japanische IHK zu Düsseldorf e.V.
E-Mail: このメールアドレスは、スパムロボットから保護されています。アドレスを確認するにはJavaScriptを有効にしてください
担当者: 柚岡、リー
TEL: 0211-630760
www.jihk.de

\sl141\slmult0 団体・グループでの見学について
同経済展は、団体やグループでの見学を歓迎しています。ご希望の際は、事前に上記までご連絡ください。

主催者
デュッセルドルフ日本商工会議所、NRW.INVEST GmbH、NRW州政府
主催者

出展企業一覧

出展企業


次はベルリンへ巡回!

「日独交流150周年記念経済展」が、ベルリンでも開催される。デュッセルドルフで展示されたパネルとタッチセンサーテーブル、そして各企業からの展示品もお披露目される予定。

日時 6月11日(土)~19日(日)
NRW州政府代表本部の営業時間内
会場 NRW Landesvertretung in Berlin
(ベルリンのNRW州政府代表本部)
住所 Hiroshimastraße 12, 10785 Berlin
入場料 無料
主催 デュッセルドルフ日本商工会議所、
NRW.INVEST GmbH、NRW州政府

※記載されている情報は予告なく変更される場合がございます。ご了承ください。

最終更新 Freitag, 09 August 2019 11:09
 

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