ドイツの家と町並み図鑑
著者:久保田由希、チカ・キーツマン
発行元:エクスナレッジ
発行日:2022年11月1日
定価:1800円
※電子版あり
木組みの家だけじゃないドイツの建物
ドイツの町並みと聞いて、木組みの家を想像する人は少なくないだろう。だが、一言に木組みの家といっても地域や時代によって様式が異なるのはもちろん、16州の文化がそれぞれ違うように多種多様な町並みが存在する。
そんなドイツ全国津々浦々の家や建物、町並みの特徴をまとめたのが本書『ドイツの家と町並み図鑑』だ。著者は、ベルリンに長く住んでいた久保田由希さんとブランデンブルク州在住のチカ・キーツマンさん。久保田さんとキーツマンさんは、「ベルリン・ブランデンブルク探検隊」として活動してきた。3年前に自費出版した『ベルリン・ブランデンブルク探検隊シリーズ 給水塔』は、給水塔だけにフォーカスしたユニークな1冊となっている。
今回も、ドイツに住んでいるとつい見過ごしてしまうような「普通の家」の数々を、その歴史をひも解きつつ、建物が大好きなお二人の視点から深掘りしている。そのマニアックさからは、久保田さんとキーツマンさんの「ドイツ愛」を感じずにはいられない。
旅先のガイドや散歩のお供に
さて、ここでクイズ。本書の表紙に掲載されているかやぶき屋根の家は、どこの地域の建築物だろうか?
答えはワッデン海に浮かぶ②ズィルト島(シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州)。ドイツに住んでいたら一度は訪れてみたい高級リゾート地だ。特にカイトゥム地域には伝統的なかやぶき屋根の家が残っており、西からの強風の影響を小さくするため、東西方向に長く建てられているという。かやぶき屋根は、かつてドイツ全国の農村で一般的なスタイルで、2014年にはその技術がユネスコ文化遺産に登録された。かやぶきは30年に1度入れ替える必要があり、瓦屋根よりもコストがかかるが、持続可能な自然素材であることから今日あらためて注目されているそう。
ちなみに、バルト海の①リューゲン島(メクレンブルク=フォアポンメルン州)は同じくリゾート地で、白を基調とした美しい海岸保養地建築が見られる。海岸沿いにはナチスが建てた保養施設プローラが一部残されており、現在はホテルやマンションに生まれ変わっている。
③モンシャウはノルトライン=ヴェストファーレン州の国境沿いの街で、屋根と壁が黒いプレートに覆われた家々が立ち並ぶ。この黒いうろこの正体はスレート。熱や湿気から守り、室温を適温に保つ効果があるため、降水量の多いこの地域では、建物へのダメージを防ぐ役割を果たしている。
このように旅先のガイドになることはもちろん、ドイツに住んでいて見慣れてしまった景色の中に、実はあんな家やこんな町並みがあるんだ……と発見をもたらしてくれる。旅や散歩のお供にもよし、ソファの上でゆっくり仮想旅行を楽しむのにもおすすめだ。