ユッタ・リヒター 著 古川まり 訳
主婦の友社
ISBN978-4-07-256120-1
川かますという魚を知っていますか。ドイツ語では「ヘヒト(Hecht)」。湖や池に生息し、体長は1メートル以上、大きいものだと重さが30キロを超え、牙のような歯を持つどう猛な魚です。
これは、この川かます釣りに挑戦した1人の少女と2人の兄弟の、ある夏の思い出を描いた物語です。いまから30年くらい前のドイツ。太陽が光輝く夏の昼下がり、アンナは、ダニエルとルーカスの兄弟と一緒に、お城の中庭を流れる川でかます釣りに熱中します。初めはえさのラッド(コイ科の魚)すくいにも悪戦苦闘、でもそのうちにラッドを素手でもつかめるまでになって…。
実は、ダニエルとルーカスのお母さんはがんに侵されていて、子どもたちは不安や悲しい気持ちを抱えています。でも「川かますをつかまえたら、ママの病気は治るんだ!」と、かますに「たたかい」を挑むのです。
著者のユッタ・リヒターは1955年、ドイツ・ブルクシュタインフルト生まれ。カソリック神学やドイツ文学などを専攻し、小説や戯曲を多く書いています。現在の住まいは、ミュンスターラント地方にあるヴェスターヴィンケル城の一角。この物語に出てくるような、牧歌的な風景の似合う中世の大きなお城だそうです。
そんな夢のようなお城を舞台に、子どもたちは互いに支えあいながら成長していきます。2度とはやって来ない美しく切ない一夏。この本は、いままさに、そんな夏を謳歌している子どもたち、そして心の片隅に、忘れることのできない夏の思い出を留めている大人の方にもお薦めです。(り)