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動物と幸せに暮らすヒントを探るドイツと動物のやさしい関係

環境保護先進国として知られるドイツでは、実は動物保護においても先進的な取り組みを行っている。動物の保護施設「ティアハイム」やそれによって達成される「イヌ・ネコの殺処分ゼロ」は、その象徴ともいえるだろう。一方、コロナ禍でステイホームが推奨された今年、動物と暮らし始める人が増えたと聞くが、なかには世話ができなくなり手放してしまうというケースも。本特集では、動物保護の歴史とティアハイムの取り組みに焦点を当て、ドイツにおける動物たちの権利や人間との関係性を改めて考える。(Text:編集部)

ドイツと動物のやさしい関係

ドイツにおける動物保護の歴史

なぜドイツでは動物保護に積極的に取り組んでいるのだろうか。その背景には、動物保護法という動物の権利や禁止事項などが厳格に規定された法制度の存在があるようだ。動物保護に関する法制度は、19世紀に一部の領邦国家で動物虐待について規定されていたことに始まる。その後、統一されたドイツ帝国の刑法では、「公然とまたは不快感を生じさせるような仕方」で動物を虐待した者は、軽犯罪として罰金や拘留の刑罰を受けることが定められた。この法律で注目すべきなのは、動物保護ではなく、人間の感情を保護することを目的としている点で、あくまで人間中心的ということである。

その後、ナチス政権時代に動物保護に関する法律として「ライヒ動物保護法(Reichstiershutzgesetz)」が制定された。この法律には、動物はそれ自体のために保護されることが明言されており、動物への残虐行為のなどの禁止事項が具体的にまとめられ、動物福祉の観点から動物虐待を禁止していることが分かる。これは、ドイツ帝国時代の刑法との大きな違いだ。

また、ヒトラー自身がイヌを飼っていたことはよく知られているが、ナチスは動物愛護に非常に熱心だったという。一方、当時のドイツでは自然保護や動物保護についての関心が強まっていたため、支持を得るためにナチス政権は法律を制定したのではないかといわれる。さらに、痛みを伴う動物実験を原則禁止としていたにもかからず、ナチス政権が人体実験の比較対象としてそれを必要としたため、次第に例外が認められるように。結果的に、動物保護と動物実験の間に矛盾をはらむことになった。

第二次世界大戦後、動物保護法は何度も改正され、そのたびに動物に対する視点も変わった。1972年の最初の改正では、「この法律は、動物の生命および健康に奉仕するもの」であることが明言され、倫理的な視点が盛り込まれている。1986年の改正では、動物を人間の「同胞(Mitgeschöpf)」と表現し、動物の地位がより高められることに。これは、2006年に改訂した現行版にもしっかりと明記されている。

 ここがすごい! ドイツの動物保護法

1.動物自身のための法律である

日本でよく耳にする「動物愛護」は、あくまで動物に関心の強い人が動物を虐待や非倫理的な扱いから守ることを指す。一方、ドイツで発展してきた「動物保護」は、動物の好き嫌いにかかわらず、動物の福祉や権利を守るという考え方。この動物自身のためという視点が、動物保護法の土台になっている。

2.基本法や民法にも影響力がある

1990年、それまで動物はそのほかの物(家具など)との境界が曖昧だったが、民法90a条に「動物は物ではない」という一文が加えられた。また2002年には、もともと環境保護が盛り込まれていた基本法(ドイツの憲法)の20a条に、動物保護規定が採り入れられることになり、動物保護は環境保護と同じ文脈で語られるべきものとして認められた。

3.犬や家畜のための条例がある

ドイツには19世紀から「犬税」が存在する。各自治体ごとに、イヌの飼い主には税金が課せられ、1頭当たり年間平均100ユーロ。また、2001年に公布された「犬の保護に関する条例」には、飼育環境や屋外運動など細かく規定され、罰則もある。さらに、イヌ以外にも家畜を保護するための条例など、動物関連の法律は多岐にわたる。

参考:中川亜紀子「ドイツにおける動物保護の変遷と現状」(四天王寺大学紀要第54号)、認定NPO法人アニマルライツセンター公式ホームページ「Q&A 動物の権利 動物愛護との違いは?」

人と動物をつなぐ「動物の家」
ティアハイムが分かるQ&A

ティアハイムが分かるQ&Aドイツでは法律と並び、数多くの民間の動物保護団体が動物保護の重要な一端を担っている。彼らが運営する「ティアハイム(動物の家)」という動物保護施設は、ドイツ全国に500カ所以上存在し、動物の保護や飼育、新たな飼い主への譲渡、動物飼育にまつわる教育活動などを行っている。ここでは、欧州最大級の施設「ティアハイム・ベルリン」を例に、人間と動物たちとのより良い関係を考えてみよう。

お話を聞いた人

アネッテ・ロストさん
(ティアハイム・ベルリン メディア担当)

1ティアハイム・ベルリンとは?

ティアハイム・ベルリンは1901年に開設された、ドイツ最古にして欧州最大級の動物保護施設。敷地面積は約16ヘクタール(およそサッカーグラウンド22面)で、イヌやネコをはじめ、ウサギなどの小動物、鳥、爬虫類、ウマ、ヒツジ、サルなど、常時1300匹くらいの動物が暮らしています。動物の保護や譲渡を主な活動としているほか、会報誌の発行、教育プログラムの提供、獣医学の学生の実習受け入れなども行っています。

ここでは、およそ180人の従業員と800人程度のボランティアが動物の世話をしているとともに、ティアハイムの中にある動物病院では、10人程度の獣医師と動物看護士が働いています。動物たちのエサ代や従業員の人件費など、運営には年間1100万ユーロくらいのお金が必要ですが、そのほとんどが個人の会費や寄付、そして州からの助成金によって賄われています。

ティアハイム・ベルリン

ティアハイム・ベルリン Tierheim Berlin
Hausvaterweg 39, 13057 Berlin
Tel:030-768880
https://tierschutz-berlin.de

2動物たちはどうやって暮らしているの?

ティアハイム・ベルリンには、年間1万匹くらいの動物がやって来ます。飼い主の動物アレルギー、飼育時間や飼育スペースの不足、長期休暇や引っ越しなど、捨てられる理由はさまざま。また、劣悪な環境での飼育が発覚し、獣医局によって没収された動物をティアハイムで受け入れることもあります。以前の飼い主のもとで心身に傷を負った動物たちのためには、専門家によって必要なケアが行われます。ここで暮らす可能な限り多くの動物たちのために、安心して暮らせる新しい家を見つけることが私たちにとって重要な仕事です。

動物たちの生活スペースには、各動物に合った大きさや環境を用意します。例えば、イヌは同類と接触することが重要な動物なので、イヌ棟は、お互いの顔が見えるような造り。屋外で思いっきり走り回ることができる広場もあります。ネコが飼育されている棟では、譲渡可能なネコたちはガラス張りの広々とした部屋に住んでいますが、10歳以上のシニアネコ用の棟、野良生活が長くて人慣れしていない元野良ネコ用スペースも完備。ほかにも水辺や牧草地、木が生い茂った場所など、動物たちがなるべく快適に過ごせるように工夫しています。

動物たちはどうやって暮らしているの?
動物たちはどうやって暮らしているの?

3ティアハイムから動物を引き取りたい時はどうすればいいの?

これまでは、ティアハイムに足を運んでいただき、気になる動物がいれば触れ合ってみる……というのが一般的なプロセスでしたが、新型コロナウイルスの影響により、私たちも今年3月から一般の来館者数を制限。譲渡可能な全ての動物たちの情報をウェブサイトに掲載し、譲渡希望者の訪問も完全予約制に切り替えました。ここでは、現在ティアハイム・ベルリンで実施している譲渡の手順をご紹介します。

STEP 1

ティアハイム・ベルリンのウェブサイトで、譲渡可能な動物の情報をチェック。動物の写真とともに、ティアハイムに来た理由、性格、どのような引き取り手や飼育スペースを必要としているかが書かれている。ティアハイム・ベルリンの動物紹介は、愛情とユーモアたっぷり。

ICH SUCHE EIN ZUHAUSE!

Jimmyジミーは、以前の飼い主と折り合いが悪かったため、ティアハイムに来ました。彼はまだ人に触られることに慣れておらず、とても敏感で、信頼関係を築くには時間がかかります。

そんなジミーのために、安全なバルコニー付きの広々としたアパートを提供してくれる、忍耐力のあるネコ経験者をお待ちしています。お子様連れのご家族には適していません。

ジミーと時間をかけて友だちになりたいという二本足の方は、こちらにお電話ください。

STEP 2

ぜひ一緒に暮らしてみたいと思う子を見つけたら、プロフィール欄に記載された電話番号に連絡する。そこで飼育員(Tierpfleger)と話しながら、その動物の飼育条件に自分の生活環境が適しているか、性格や相性はどうかなどを検討する。

STEP 3

動物と引き取り希望者との相性が良さそうであれば、そのまま電話口でティアハイムへの訪問日を予約する。当日は、一緒に生活することになる家族全員(すでに動物を飼っている場合はその動物も)で訪問し、引き取りを希望する動物と一緒に時間を過ごす。なお、1回の訪問だけで決めるのが難しい場合は、数回にわたってティアハイムを訪問するか、イヌの場合は散歩の練習をすることなども可能。

STEP 4

引き取りを希望する場合は、飼育員との面接を実施。「家族全員が動物を引き取ることに同意しているか」、「1日にどのくらい家を留守にするか」、「休暇中や病気になった時、代わりに動物の世話をする人はいるか」などの厳しいチェック項目があり、その回答をもとに譲渡可能かどうかが判断される(譲渡基準は各動物の種類や性格などによって異なる)。

STEP 5

これらの審査をクリアすれば、これまでにかかった予防接種代など(イヌは最大250ユーロ程度、ネコは60〜100ユーロ程度)を支払い、動物を家に連れて帰る。引き取りから2〜4週間後には、ティアハイムのスタッフからの電話または家庭訪問があるほか、何か問題があればいつでも相談することができるなど、アフターサポートも万全だ。

動物と暮らす上で大切な心構えとは?

ぜひ、動物たちと会う前に考えてみてください。どうすれば動物たちは自分と暮らすことで幸せになり、それとも不幸になるのか。長い人生を動物と共に過ごすことを想像し、そのために必要な責任について知っていただきたいです。また私たちは動物のことはもちろん、引き取り手のあなたのことも独りにはしません。もし動物と暮らすなかで問題を抱えたら、いつでもティアハイムに相談してくださいね。

4コロナ禍で引き取り希望者が増えたと聞くけど、実際のところは?

接触制限によって自宅で過ごす時間が増えたことで、人と会えない寂しさを紛らわすために動物を飼いたいという人は多くいるでしょう。実際のところ、動物を引き取りたいという問い合わせの連絡は格段に増加しました。しかし、ティアハイムの動物たちが次に行く先は、「一時的な住処」ではなく「一生を過ごせる場所」でなければなりません。そのため、譲渡数自体は昨年とほぼ同じか、少し減っているくらいです。

一方でコロナ禍の影響により、捨てられる動物の数は減少しています。ドイツでは、イースターや夏休みなどの長期休暇前になると、ティアハイムに動物を引き取ってほしいと連れてくる人が増える傾向にあるのですが、今年はそれが30%も減少しました。普段よりも家にいる時間が長くなったことで動物たちと触れ合うことも増え、動物がどれだけ人間に癒しを与えてくれるかということに気づいた、という声を多く聞きます。このポジティブな変化を継続できるよう、ティアハイム・ベルリンでも現在の状況に合った形での譲渡やイベント開催に力を入れていく予定です。

ドイツではクリスマス前に動物の引き取り希望者が増え、クリスマス後には捨てられる動物が増える傾向にあるドイツではクリスマス前に動物の引き取り希望者が増え、クリスマス後には捨てられる動物が増える傾向にあるため、例年12月20日〜1月1日は動物の譲渡を休止するという。

5動物を引き取る以外に、どんなサポートができるの?

コロナ禍によってチャリティーイベントが開催できなくなったり、セミナーなどの教育普及活動がオンラインでの実施になったりなど、全国の動物保護施設では財政的に難しい局面を迎えています。ティアハイム・ベルリンでも、「お金、物(餌やおもちゃなど)、時間(ボランテイア活動など)」の寄付をいつでもお待ちしています。

動物保護に興味があるけれど諸事情により引き取ることができないという人には、「Pate」というシステムがあります。これは、毎月一定額の寄付をいただく代わりに、気に入った特定の動物のスポンサーとして、動物たちのプロフィール欄に寄付者の名前を記載。通常時であれば、定期的に会いに来て、遊んでいただくことも可能です。また、教育プログラムやセミナーなどに参加いただき、動物保護に関する知識を得て社会へと広めていただくことも、私たちにとって大きなサポートになります。

動物を引き取る以外に、どんなサポートができるの?
 
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