あなたもきっと集めたくなる ドイツのデザイン切手の世界
ドイツの切手制作の過程に、実は市民も関わっていることをご存じだろうか? 毎年、連邦財務省には新しい切手のテーマ案は500件届き、その中から約50種類が発行されている。そんなドイツの切手デザインの歴史と魅力に迫ってみよう。(文: ドイツニュースダイジェスト編集部)
2013年の特殊切手 国民的絵本作家ヤーノシュによるデザイン
歴史や昨今の出来事を記念して発行される「特殊切手」は、その年の市民の関心を強く反映している。約40x30ミリという小さなキャンバスの中に社会的なメッセージをデザインをすることは容易ではないが、こうした特殊切手は後世にも残っていく文化的資産だ。
切手デザインはどうやって決まる?
切手のデザインは発行人である連邦財務省が単独で決めるのではなく、グラフィックアーティストはもちろん、各分野の著名な専門家や切手コレクター、ドイツポストの代表者などの協力を得て決定される。さらに一般市民も、デザインのテーマを提案することが可能だ。切手制作はまさにドイツ国民の共同作業なのである。
ドイツの切手デザインを選定するにあたり、以下の四つが重要なポイントとなっている。
- ドイツの重要な歴史的および時事的な出来事
- 重要な人物
- 記念年
- 国や地域の重要な社会的および政治的トピック
ただし、地域限定のテーマは採用される可能性が低い。また原則として、存命する人をモチーフにした切手は発行しないことになっている。
上記のポイントを踏まえたテーマを市民から集め、二つの諮問委員会を通してテーマおよびデザインを決定する。まずはプログラム諮問委員会が1年間の切手のテーマを検討し、その候補をリストにまとめる。次に、連邦財務省が約100人のグラフィックアーティストにテーマを割り振って草案を依頼。その後、アート諮問委員会がそのデザイン案を審査することになっている。プログラム諮問委員会は年に1度秋に開催され、翌々年のテーマを決定する。2023年のテーマについては、今年10月に議論される予定だ。
2021年の特殊切手 ヨーゼフ・ボイス生誕100周年
戦後から続くチャリティー切手
チャリティー切手とは、郵送料に募金分として何セントか上乗せされたもので、手紙やはがきを送るたびに、福祉団体のFreie Wohlfahrtspflegeによる社会事業や施設の支援に貢献することができる制度だ。集められた募金は、高齢者や障がい者への支援、失業者や難民、国際的な災害救助など、ドイツ国内にある約10万の施設で360万人以上の人々の役に立っている。
この制度は1949年から始まり、世界、植物、美術、俳優、子ども向けのモチーフなど、さまざまなデザインの切手が発行されている。チャリティー切手は、その芸術的な見た目から切手コレクターにも人気のあるアイテムだ。
2014年からはグリム童話をモチーフとしたチャリティー切手が、シリーズとして発行されている。同テーマを扱ったチャリティー切手は、すでに1959年から1967年にかけても発行されており、違いを見比べてみるのも面白い。
旧西ドイツの「ヘンゼルとグレーテル」の切手 (写真:編集部知人提供)
旧西ドイツの「赤ずきんちゃん」の切手 (写真:編集部知人提供)
今年のモチーフは、グリム童話の「ホレのおばさん」(写真上中央)だ。良い子と悪い子という典型的な相反する人物が登場するこの物語。切手には「金髪で裸足は勤勉な良い子、黒髪でピンヒールの靴を履いているのは悪い子」とステレオタイプが描かれており、一部で批判の声が挙がったという。ちなみに「ホレのおばさん」をモチーフにしたチャリティー切手は1967年にも発行されていたが、当時のデザインはどのような民族で、どのような肌の色をしているのか分からないようになっている。
新旧の「ホレのおばさん」
(上)1967年版(写真:編集部知人提供)(下)2021年版
またアンティークの切手は、街中のアンティークショップやのみの市などでも売られているため、運が良ければ未使用のものを手に入れられることも。連邦財務省のウェブサイトの切手アーカイブページでは、2015年以降の切手デザインを見ることができる(2021年6月時点)。奥深い切手の世界をもっと知りたい! という方は、ぜひのぞいてみて。
旧東ドイツのグリム兄弟の記念切手 (編集部所有)
参考:連財務省ホームページ、Deutschlandfunk Kultur
「Neue Wohlfahrtsmarken Klischees und alte Rollenbilder」