連立政権発足から2カ月ショルツ政権の目指す新しいドイツ
連邦議会選挙からおよそ2カ月半を経て、2021年12月8日、社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の三党連立による新政権が発足した。16年にわたるメルケル内閣の時代に終止符を打ち、ショルツ内閣となったドイツは、どのような未来像を掲げて進もうとしているのだろうか。本特集では、本格始動したショルツ政権の顔ぶれを紹介するとともに、新しいドイツを目指す重要な政策についてポイントを解説する。 (文・取材: ドイツ・ニュースダイジェスト編集部)
お話を聞いた人
熊谷 徹さん Toru Kumagai
1959年東京生まれ。1990年からフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン在住。再統一後のドイツ、欧州の政治経済、安全保障問題など、幅広い分野で執筆している。本誌では毎号「独断時評」(P5)を連載中。
www.tkumagai.de
2021年12月8日、ショルツ政権発足時の記念撮影
目次
ショルツ内閣のここがポイント!
閣僚の男女比が半々
ショルツ首相(SPD)を抜いて、閣僚は男性8名、女性8名のちょうど半々。ショルツ氏は選挙期間中から閣僚の男女比を半々にすることを掲げており、住宅・都市開発・建設省が新設されたことでポストが一つ増えて実現した。ただし、最も重要な財務相と経済気候保護相はどちらも男性であるため、メルケル政権よりも男性主導型という印象がある。ちなみにメルケル政権では、首相を抜いて男性が8名、女性が7名だった。
トルコ系ドイツ人が初めて大臣に
オズデミル氏(緑の党)が食糧・農業相となったことで、ドイツで初めて移民的背景をもった閣僚が誕生した。近年外国にルーツをもつ人の比率が上がり(連邦統計局によると、2020年時点で移民的背景をもつ人は人口の26.7%)、ますますコスモポリタンな国になってきたドイツにとっては、非常に重要な点だ。移民の子どもでも努力すれば大臣になれることが証明され、SPDと緑の党が入った政権らしい人選といえる。
旧東ドイツ出身者が少ない
旧東ドイツ出身の閣僚は、環境・自然保護相のレムケ氏(緑の党)と住宅・都市開発・建設相のガイヴィッツ氏(SPD)の2名のみ。メルケル政権時も2名だったが、メルケル氏が旧東ドイツ出身だったため、比較的バランスが取れていたといえる。今なお東西の経済格差が残るなか、旧東ドイツ出身の人から見れば、あまり重視されていないという印象を与えかねない。
SPD・緑の党・FDPによる「信号機連立」
ショルツ政権は、社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の三党連立。それぞれのシンボルカラーである、赤(SPD)、緑(緑の党)、黄色(FDP)にちなんで「信号機連立」(Ampelkoalition)と呼ばれる。これまでにない新しい組み合わせの政権として、注目されている。
政界の実務経験豊富なショルツ首相はどんな人物?
Olaf Scholzオーラフ・ショルツ
首相
Bundeskanzler
オーラフ・ショルツ氏(63)は、中央政界および地方政界での実務経験が最も豊富な政治家の一人だ。昨年の連邦議会選挙の選挙戦では、当初首相候補としての支持率が低かったものの、他候補者に比べて失言や失点が少なく、終盤で大きく支持率を伸ばした。
ハンブルクで育ったショルツ氏は、子どもの頃から政治に関心があり、17歳のときに当時ヘルムート・シュミットが率いていたSPDに入党。ハンブルク大学で法学を学び、1982~88年にはSPDの青年部「Jusos」の副連邦議長を務めた。1980年代後半からは弁護士として働き、数百もの不当解雇訴訟を担当したという。
初当選は、1998年の連邦議会選挙だった。SPD幹事長などを経て、2007年からの第一次メルケル政権で労働・社会相に就任。2011年から7年間は故郷ハンブルクで市長を務め、2017年の連邦選挙後、第4次メルケル政権で副首相および財務相を兼任した。2021年の連邦議会選挙では、SPDがキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)を破り、緑の党とFDPとの連立交渉を経て、第9代連邦首相に選出された。
妻のブリタ・エルンストも同じくSPDの政治家で、現在はブランデンブルク州の教育青年スポーツ相を務めている。二人の間に子どもはいない。
穏健中道派で実務派のショルツ氏は、感情を表に出さず、冷静に判断を下すことで知られる。その姿勢はメルケル氏と似ているとも。一方で派手さを好まない地味な性格から、幹事長時代に記者団から「SPDで最も退屈な政治家」といわれ、首相になった現在でもそのイメージが定着したままだ。今後どのようにリーダーシップを発揮できるかが、ショルツ氏の課題となっている。
https://olaf-scholz.spd.de
ショルツ内閣の顔ぶれ
Robert Habeckロベルト・ハーベック
副首相&経済気候保護相
Vizekanzler & Bundesminister für Wirtschaft und Klimaschutz
ロベルト・ハーベック氏(52)は、緑の党の中で現実派で穏健中道派として知られる政治家。シュレスヴィヒ=ホルシュタイン州リューベックの出身で、2002年に入党し、2009年に同州の議員となった。2012~2018年にかけて、同州のエネルギー転換・農業・環境大臣を務め、2018年にベアボック氏と共に緑の党の共同党首に就任。2021年の連邦議会選挙では首相候補を目指していたが、ベアボック氏にその座を譲った。緑の党が政権入りを果たし、副首相と兼任で経済気候保護相に就任した。
フライブルクのアルベルト・ルートヴィヒ大学で哲学などを学び、デンマークに留学した経験がある。作家として、童話や戯曲も発表。妻も同じく作家で、4人の息子がいる。
www.robert-habeck.de
Annalena Baerbockアンナレーナ・ベアボック
外相
Bundesministerin des Auswärtigen
ハノーファー出身のアンナレーナ・ベアボック氏(41)は、穏健中道派で実務派である緑の党の政治家だ。ハンブルク大学で政治学と法学を学び、ロンドンに留学していた経験もあり英語に堪能。2008年まで欧州議会の緑の党議員事務所のリーダーを務め、2013年に連邦議会選挙に初当選した。2018年にハーベック氏と共に共同党首に就任。州首相や閣僚などの経験はなかったものの、2021年の連邦議会選挙では首相候補となった。一方で、新著の無断引用や特別収入の申告漏れなどの失点を重ね、党の支持率を急落させる事態を招いた。ショルツ政権では外相に就任。
私生活では2児の母。夫はドイツポストのロビイストだったが、ベアボック氏の外相就任に伴い辞職した。
https://annalena-baerbock.de
Christian Lindnerクリスティアン・リントナー
財務相
Bundesminister der Finanzen
FDP党首のクリスティアン・リントナー氏(43)は、ノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州に生まれ育った。ボン大学で政治学と法学、哲学を学び、1995年にFDPに入党。2000年にNRW州議会選挙に当選し、2009年に連邦議会議員となった。2013年に党首に就任し、2017年の連邦議会選挙後のCDU・CSU、緑の党との「ジャマイカ連立」の交渉では、緑の党とのエネルギー政策の違いから、政権入りを断念した。2021年の連邦議会選挙では、デジタル化と教育改革を重視したことで、若者からの支持を集めた。
新自由主義的な性格で、企業のイノベーションや規制緩和を重視する。自身も起業家だった。車好きで、ポルシェのスポーツカーを所有。
www.christian-lindner.de
Karl Lauterbachカール・ラウターバッハ
保健相
Bundesminister für Gesundheit
NRW州ビルケスドルフ(現デューレン)生まれのカール・ラウターバッハ氏(58)は医学者で、その知識を政策にフルに生かす、コロナ政策の司令塔的存在。アーヘン工科大学、米国ハーバード大学などで医学を学び、200本以上の論文を発表しているほか、著書・共著は10冊ある。2001年にSPDに入党し、2005年に連邦議会に初当選した。2020年のパンデミック第一波の時から、医学者としてメディアでコロナ対策について頻繁に発言しており、このたび保健相に就任した。
ちょうネクタイは長らくラウターバッハ氏のトレードマークだったが、最近は「時代遅れ」だとして、ノーネクタイ姿が多い。一方で、現在もケルンのアパートに100個以上のちょうネクタイが保管されているという。
Christine Lambrechtクリスティーネ・ランブレヒト
国防相
Bundesministerin der Verteidigung
バーデン=ヴュルテンベルク州マンハイム出身のクリスティーネ・ランブレヒト氏(56)は、マンハイム大学などで法学を学び、長らく弁護士としても活躍していた。1982年にSPDに入党し、1998年に連邦議員となる。2018~2019年には財務次官を務めた。2019~2021年までは司法・消費者保護相を務めると同時に、フランツィスカ・ギファイ氏(SPD)が論文の盗用問題をめぐって家族・高齢者・女性・青少年相を辞任したため、2021年5月から同ポストを兼任。このたび国防相に就任した。
ウクライナ危機をめぐっては、「ロシアが攻撃的な態度を取っている」として、ロシアに強硬な姿勢を主張している。ウクライナに5000個のヘルメットを供与することを発表し、波紋を呼んだ。
Cem Özdemirジェム・オズデミル
食糧・農業相
Bundesminister für Ernährung und Landwirtschaft
ジェム・オズデミル氏(56)は、初のトルコ系ドイツ人閣僚。1960年代に両親がトルコからドイツへ移住し、自身はバーデン=ヴュルテンベルク州のバート・ウーラッハ生まれ。オズデミル氏は18歳になった1983年にドイツ国籍を取得した。ロイトリンゲンの高等専門学校で社会教育学を学び、1987年から教師やジャーナリストとして活躍。1994年に連邦議会選挙で初当選した。2004~2009年までは欧州議会議員、2008~2018年まで緑の党の党首を務めた。
食糧・農業相就任後、「安い肉」をスーパーから駆逐すると発言したことで物議をかもした。多数の豚や鶏を狭い小屋に閉じ込めて飼育することに強く反対しており、農業政策の変革を主張している。趣味はサイクリング。
www.oezdemir.de
Hubertus Heilフベルトゥス・ハイル
労働・社会相
Bundesminister für Arbeit und Soziales
フベルトゥス・ハイル氏(49)は、ニーダーザクセン州のヒルデスハイム生まれのSPDの政治家。1995年から、ポツダム大学で社会学と政治学を学ぶ。1988年にSPDに入党し、1998年に連邦議会選挙で初当選を果たした。2005年にSPD幹事長に就任。2018年に第4次メルケル内閣の労働・社会相を務め、2021年ショルツ内閣でも同じポストに就いた。
ハイル氏が最も重要視するテーマの一つが、テレワーク権の法制化。2020年10月にテレワーク権の法制化を提案したが、CDUの反対により撤回した。今年1月12日に「パンデミック後も労働者がテレワークを行う権利を法制化する」と再び発言し、ショルツ政権下での法制化を目指している。
www.hubertus-heil.de
Nancy Faeserナンシー・フェーザー
内相
Bundesministerin des Innern und für Heimat
Twitter: @nancyfaeser
Marco Buschmannマルコ・ブッシュマン
司法相
Bundesminister der Justiz
https://mbuschmann.abgeordnete.fdpbt.de
Anne Spiegelアンネ・シュピーゲル
家族・高齢者・女性・青少年相
Bundesministerin für Familie, Senioren, Frauen und Jugend
Volker Wissingフォルカー・ヴィッシング
交通・デジタル・交通相
Bundesminister für Digitales und Verkehr
Steffi Lemkeシュテフィ・レムケ
環境・自然保護相
Bundesministerin für Umwelt, Naturschutz, nukleare Sicherheit und Verbraucherschutz
Bettina Stark-Watzingerベティーナ・シュタルク=ヴァッツィンガー
教育・研究相
Bundesministerin für Bildung und Forschung
Svenja Schulzeスベニャ・シュルツェ
経済協力・開発相
Bundesministerin für wirtschaftliche Zusammenarbeit und Entwicklung
Klara Geywitzクララ・ガイヴィッツ
住宅・都市開発・建設相
Bundesministerin für Wohnen, Stadtentwicklung und Bauwesen
Twitter: @klara_geywitz
Wolfgang Schmidtヴォルフガング・シュミット
首相府長官・特別課題担当相
Chef des Bundeskanzleramtes und Bundesminister für besondere Aufgaben
Twitter: @w_schmidt_
ショルツ政権の政策ポイント解説
コロナ禍、環境問題、ウクライナ危機……と問題が山積みのドイツで、革新的な政策を打ち出したショルツ政権。特に注目したい政策について、ポイントを挙げて解説する。
とにかく慎重に次に備えるコロナ政策
- ワクチン接種率の引き上げ
- ワクチン接種義務の導入を検討
- 医学者のラウターバッハ氏が大臣に
1月29日にデュッセルドルフで行われた、ワクチンの接種義務化に反対するデモ
オミクロン株が急速に拡大するなか、新型コロナワクチンの接種率を上げることが急務となっている。ドイツは2回接種済みの人が74.7%(2月10日現在)と、西欧でも低い接種率であるため、ショルツ政権はこれを80%、90%に一刻も早く引き上げることを目標に掲げる。ショルツ首相はその施策として、国民全員に対するワクチン接種の義務化を提唱。1月28日に発表された公共放送ZDFのPolitbarometerによれば、国民の62%が義務化に賛成し、36%がこれに反対している。
また医学者であるラウターバッハ保健相は科学的な見地から、コロナ政策において前任のイェンツ・シュパーン氏(CDU)に比べて慎重な姿勢だ。ベルリン・シャリテー医科大学病院のドロステン教授同様、ラウターバッハ保健相は「石橋を叩いて渡る」方針の持ち主で、2022~2023年にかけての冬へ向けて、まずは医療・介護職向けのワクチン接種義務、次いで全ての国民への接種義務化を推奨している。今後デルタ株のように重症化しやすく、オミクロン株のように感染力が強い変異株が出てきた場合、再び2020年秋から2021年冬にかけて発生したように、毎日1000人近い市民が死亡する事態になりかねない。どうなるか誰にも分からない状況だからこそ慎重になるべきだ、というのがラウターバッハ保健相の考えである。そういった事態に備えて、ワクチン接種率をいかに引き上げるかが、大きな課題だ。
残り8年で大きくかじを切る環境政策
- CO2の削減スピードを従来の3倍に
- 2030年までに再生可能エネルギーの比率を80%に
- 富裕層への増税は見送り
現在稼働している風力発電設備のほとんどは北ドイツに集中しており、バイエルン州とバーデン=ヴュルテンベルク州の設置数を増やすことが急務
1月11日、ハーベック経済気候保護相が打ち出した新たな環境政策は非常に野心的な内容だった。これまでの政策のままでは、2030年までに二酸化炭素(CO2)の排出量を1990年比で65%減らすという目標を達成できないため、ハーベック氏はCO2の削減スピードをこれまでの3倍にすると発表。そのために、現時点で再生可能エネルギーが占める割合が41.9%のところ、8年間で80%に増やす必要があることを指摘した。さらに、メルケル前政権では石炭火力発電所を2038年までに廃止することを決めていたが、ショルツ政権ではこれを2030年に前倒しするとしている。
最も遅れているのは、陸上風力発電設備の建設。現在ドイツの国土の0.5%が風力発電設備の用地に指定されているが、ショルツ政権ではこれを2%にすることを目標に掲げている。風力発電設備は鳥獣保護団体などの反対が強く、建設許可申請の審査に長い時間がかかっているが、今後は審査時間を半分にする。そのほか、商業施設への太陽光パネルの設置義務、2025年以降は新設する暖房の65%に再生可能エネルギーを使うこと、水素エネルギーの実用化……など、さまざまな施策がある。
しかし、今年末までに脱原子力が完了する予定のドイツにとって、これらの目標は非常に厳しい。原子力と天然ガス発電をグリーン電力として認定した欧州連合(EU)に属しながら、原子力に頼らずにCO2削減に挑むことになる。さらに、これらの施策には膨大なお金がかかる。緑の党は富裕層への増税などでまかなうとしていたが、FDPが反対したため、増税は見送られた。市民にエネルギー手当を支給することも検討されているが、資金をどのように調達するのかが課題となっている。
遅れをどう脱却するか?デジタル化政策
- コロナ禍で露呈したデジタル化の遅れが課題
- 最新テクノロジーの研究をサポート
ドイツでいかにデジタル化が遅れているのかは、コロナ禍で明白になった。特に教育現場では、インターネット環境が悪いためにオンライン授業が満足に受けられず、学習の遅れが問題となっている。また、ドイツの患者のカルテはいまだに電子化されていない。イスラエルがいち早くビオンテックのコロナワクチンを国民に接種をしたことが話題になった。これが可能になった理由は、同国では国民のカルテが電子化されており、データを製薬会社と共有できたことだった(EUでは厳しい個人情報保護法により、市民の健康に関する情報の共有は本人の同意がない限り禁止)。また、もし2020年の時点でドイツにも電子カルテがあったら、新型コロナによる死者数を減らすことができたかもしれないという意見もある。ドイツは、国際経営開発研究所(IMD)の国際デジタル競争ランキングで、世界18位(日本は27位)と低かった。
2021年の連邦議会選挙でFDPは若者からの得票率が高かった。その理由の一つに、FDPのリントナー党首がデジタル化の重視を公約に掲げたことがある。量子コンピューターやIoT、6Gなどの最新技術の研究において、ドイツと日本の学界は協力関係にあり、前政権の時代に続き積極的にサポートし合っている。
世界で発言力を高めていく外交政策
- 人権重視の立場を固持する
- EUとNATOの関係を緊密に
1月18日、ベアボック外相は就任後初めてロシアのラブロフ外相と会談した
現在、欧米とロシアの間で緊張が高まっているウクライナ問題については、実は政府の中でも少し温度差がある。ベアボック外相は、ロシアからの天然ガスをドイツに送るパイプライン「ノルドストリーム2」(NS2)の建設に当初から反対。ハーベック経済気候保護相も、NS2はロシアへの依存度を高めるとして稼働に反対している。一方でショルツ首相は、SPDにはもともとロシア寄りの考えを持つ人が多いこともあり、「NS2は純粋に民間経済のプロジェクトだ」と主張。しかし、最近になって「ロシアがウクライナに侵攻した場合は、全てのオプションを考える」として、間接的にNS2も経済制裁の対象になり得るという考えを示した。ただし、2月7日のバイデン大統領との記者会見では「NS2」という言葉を避けた。またドイツがウクライナへの武器供与を拒否していることも、ウクライナや米国で批判されている。
ショルツ政権が人権を重視するという姿勢は連立契約書からも見て取れる。具体的には、中国に対して「台湾、香港、新疆ウイグル自治区での人権問題については、はっきり意見を表明する」としている。前のメルケル政権が中国の人権問題について声高に発言しなかった背景には、中国がドイツにとって最も重要な貿易相手国だという事実がある。しかし、人権問題を無視したり国際ルールを守らなかったりする国が増えるなかで、ショルツ政権は同じ価値感を共有する国とは今後関係を強めていくことを連立契約書で言及。その具体的な国名の中に、日本や韓国も挙げられており、東アジアの緊張緩和にも積極的だ。
ショルツ政権は今後ほかの欧州諸国と共に、米国に過度に依存しない、EU独自の防衛能力、危機管理能力の構築を目指す。米国が「世界の警察官」を演じる時代は終わった。しかし、現在でも米国への依存度は高く、実現には相当の時間がかかるだろう。また、ショルツ政権は中長期的にEUを連邦のような共同体にするべきだと考えている。ドイツはこれまで以上にEUやNATOの関係を深め、「独り歩き」を避ける政策を取る。さらに歴代の政権と同じく、イスラエルとの関係も重視していく。
ショルツ政権への期待は?
信号機連立は、これまでにない新しい組み合わせだ。各方面でイノベーションが必要とされる今日、保守性が強いCDU・CSU抜きの三党連立は、ドイツに新しい風を送り込む可能性が強い。政権にFDPが加わったことは、経済界から高く評価されている。例えば、緑の党が過激な政策を提案した場合にも、企業寄りで新自由主義的なFDPがブレーキをかけ、政策のバランスを取ることができるのだ。
今ドイツが挑戦しようとしているのは、環境保護を推し進めながら経済成長は可能だ、と世界に示すこと。CO2を減らしながら、環境保護を配慮したテクノロジーが開発されれば、先進国だけではなく発展途上国のモデルになることもできる。ショルツ首相は、就任後初めての所信表明演説で「ドイツ経済と製造業界は、過去100年間で最大の変化を経験する」と述べた。脱炭素化と経済成長を両立させるという前人未踏の挑戦が成功するかどうか、全世界が注目している。
国民は厳しい目でショルツ政権を見ている?
今国民はどのようにショルツ政権を評価しているのだろうか? 公共放送ZDFによる世論調査「Politbarometer」の最新版(1月28日発表)をのぞいてみよう。
もし次の日曜が選挙だったら?
ショルツ首相のSPDはマイナス3%と支持を落としているものの、緑の党は着実に伸びてきている。連立を組む三党の合計は、変わらず過半数を越している状況。
連立の中で発言権が強いと思う政党は?
連邦議会では最も議員数が多く、閣僚も8名いるSPDだが、この結果は指導力に欠けるという批判の表れなのかもしれない。
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政界を引退したメルケル前首相が依然としてトップの座をキープ。ショルツ首相は前回の1.9から0.5ポイント落とした。ラウターバッハ保健相はコロナ政策が評価されてか、2位に躍り出ている。
1位 | アンゲラ・メルケル(CDU) | 2.4 |
2位 | カール・ラウターバッハ(SPD) オ―ラフ・ショルツ(SPD) |
1.4 |
4位 | ジェム・オズデミル(緑の党) ロベルト・ハーベック(緑の党) |
1.1 |
6位 | クリスティアン・リントナー(FDP) | 0.6 |
7位 | アンナレーナ・ベアボック(緑の党) | 0.4 |
8位 | マルクス・ゼーダー(CSU) | 0.3 |
9位 | フリードリヒ・メルツ(CDU) | 0.0 |