日本の厳しい入国制限いつまで続く?コロナ禍で日本から遠のくドイツの学生たち
パンデミック以降、日本は水際対策として厳しい入国制限を行ってきた。入国者上限が段階的に引き上げられてきているものの、外国人の大半は今なお日本へ入国できない状態だ。このことは学生や研究者にも大きな影響を与えており、日本への留学をあきらめる若者も続出しているという。深刻な「日本離れ」が起きている現状を、姉妹誌「JAPANDIGEST」の記事からお届けする。 (文:JAPANDIGEST・ドイツニュースダイジェスト編集部)
参考:JAPANDIGEST「Von Faszination zu Frustration: Japans Einreiseverbot und die Folgen für Studierende und Forschende」、時事通信「国費留学生87人の入国許可へ 水際対策を事実上緩和―政府」、「『鎖国』緩和も、日本離れ懸念 海外留学生足止め『入国枠拡大を』」、文部科学省ホームページ
国境を閉ざし続ける日本
2020年のパンデミックが始まった頃、ドイツを含むほとんどの国では新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、国境を封鎖して都市封鎖(ロックダウン)や接触制限を実施した。その後、規制の緩和と強化を繰り返し、国民の大多数がコロナワクチンを接種した国では、全ての制限の緩和および解除を求める声が高まっている。ドイツでも3月20日以降、マスク着用義務やソーシャルディスタンス以外の規制がほぼ撤廃されることになった。
一方、日本では当初から行っている入国制限を今なお続けている。2020年3月末、日本政府は感染者の多い国からの外国人の入国を当分の間禁止することを発表。日本の滞在許可を持つ外国人も再入国できず、それから数カ月の間に「レッドリスト」にはおよそ160カ国が載った。同年10月になってやっと日本の滞在許可を持つ外国人の再入国が認められるようになったが、学生とビジネス関係者などの入国が認められたのは2021年11月のことだった。しかし、そのほんの数週間後にはオミクロン株のまん延により、この緩和措置も撤回されることになる。他方、ドイツの滞在許可を持つ日本人は、コロナ禍でも変わることなくドイツへの再入国が許可されてきた。
学生ビザを持っていても日本に入れない
日本の滞在許可がある学生や研究者でも、日本に入国できないために学業が続けられない、もしくはそもそもスタートさせられないというケースも少なくない。今年初め、日本政府は特別措置として、卒業や修了期限が迫っている外国人学生87人の入国を許可した。しかし出入国在留管理庁によれば、2021年12月時点でビザを取得して海外で待機している学生だけでも約15万2000人いたという。
ドイツでも、再び入国可能になるまで日本への留学を保留にしている学生が多くいる。日本での授業をオンラインで受講する学生もいるが、時差のため肉体的にも精神的にも負担は大きい。さらには、日本学を学ぶことをあきらめて専攻を変えたり、韓国語などの別の言語に乗り換えたりする学生も出てきている。
博士課程、講師、教授など、学界で活躍する人々ですらも日本で研究をすることができず、オンラインや日本在住者に調査の代行を頼んでいる状況だという。これは研究の質が下がるだけでなく、日本に渡航できないことで奨学金や研究資金が支給されなくなるなど、経済的なリスクを高めることも意味している。
薄れつつある日本への関心
デュイスブルク· エッセン大学東アジア研究所のアクセル・クライン教授も、日本の国境閉鎖を問題視している人の一人だ。姉妹誌JAPANDIGESTのインタビューによれば、クライン氏は日本政治学と東アジア社会学を教える立場として、ドイツの学生たちに適切な教育を受けさせるために、突然カリキュラムの変更を余儀なくされたという。特に日本の協定校への留学が必須の学生には、応急措置として学位に必要な単位を取得できる別プランを提案しなければならかった。そこでオンラインによるタンデム(ペアでお互いの母国語を教え合う語学勉強法)やそのほかのプロジェクトでも、日本の大学とコンタクトを取り続けている。「それでも、本物の留学には及びません」とクライン教授は言う。
また近年、日本学への関心が低下傾向にあり、コロナもその原因の一つとみられている。例えば、ドイツで最大の日本研究機関があるハインリヒ・ハイネ大学デュッセルドルフでは、2021年の冬学期で現代日本学科に38名が入学した。ところが、その1年前は68名、さらに2016年には108名だったことを考えると人気低下が否めない。また、ハイデルベルク大学やデュイスブルク· エッセン大学の日本研究所では、コロナ禍でも入学者数を保っているものの、例年より卒業に時間のかかる学生が増加した。
日本が留学先や旅行先としての意味や魅力を失うことは、国際交流、大学、語学学校、文化機関にも悪影響を及ぼす。厳しい入国制限によって日本は長期的な評判を落とし、人々の関心を失いつつあるのだ。「長期的な視点から、ドイツと日本の関係性に外交的な損害をもたらすでしょう」とクライン教授は結論付けている。
今年の2月中旬、ドイツにおける日本学研究者からなる現代日本社会科学学会(VSJF、Vereinigung für sozialwissenschaftliche Japanforschung e.V.)および、ドイツ語圏日本研究学会(GJF、Gesellschaft für Japanforschung e.V.)の代表が日本のメディアに公開書簡を送付した。学生と研究者の絶望的な状況に注目を集めること、日本政府に現在の入国制限について再考してもらうことが主な狙いだ。
そうした動きがあったなか、3月3日に岸田首相は14日から入国者の上限を7000人に引き上げることを発表した。さらに、留学生の受け入れを優先的に実施する「留学生円滑入国スキーム」を導入する。航空会社の協力を得て、空席が多い平日に留学生がスムーズに搭乗·入国できるようにするという。これまで培ってきた日独の関係性を保ち、これからを担う若者たちの未来を奪わないためにも、さらなる状況改善が期待されている。