異例のワールドカップで日独戦が実現!カタールW杯2022
4年に1度のFIFA ワールドカップ(以下、W杯)が、いよいよ11月20日(日)〜12月18日(日)にかけて開催される。第22回大会は史上初の中東開催。アジア予選を突破した日本代表は7大会連続で7度目の本大会出場を決め、ドイツ代表と同じグループEに入った。日本代表とドイツ代表はW杯では初対戦となるが、グループEはスペイン代表とコスタリカ代表も属する強豪ぞろいの「死の組」。ボイコット論も湧きあがる「異例」づくしの今大会は果たしてどうなるか。ドイツ代表と日本代表、開催国カタールに焦点を当て、今大会を楽しむさまざまなヒントをお届けする。(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)
決勝戦が行われるルサイル・アイコニック・スタジアム
目次
「異例」づくしのワールドカップ
今回のW杯が「異例」といわれる理由は三つ。①史上初の中東開催であること、②史上初の秋冬開催であること、③主に欧州の参加国でボイコット論が広がっていることである。それには、開催国カタールの社会情勢、現代の欧州と異なる価値観が関係しているようだ。
カタールのサッカー事情
サッカーは開催国カタールで最も人気なスポーツだ。同国のプロサッカーリーグである「カタール・スターズリーグ」は1963年に端を発し、2008年にプロ化。潤沢なオイルマネーで世界中から多くの有名選手を獲得している。
日本人ではMF中島翔哉が2019年2月、史上最高額の移籍金約44億円でアル・アインに加入。年俸は4億円を超えるという。また、2020年9月には元日本代表の小林祐希がフリーでアル・ホールに加入している。J リーグからは2009年にガンバ大阪FW レアンドロが675万ポンドでアル・サッドに、21年に柏レイソルFW マイケル・オルンガが540万ポンドでアル・ドゥハリに加入。
そのほか、ペップ・グアルディオラ(現マンチェスター・C監督)やラウル・ゴンサレス(元スペイン代表)、ハメス・ロドリゲス(現コロンビア代表)など、欧州で活躍した多くのスター選手たちがカタールへの移籍経験を持つ。
開催国カタールはどんな国?
人口:280万人(外国人居住者含む)
首都:ドーハ
民族:アラブ人
言語:アラビア語
宗教:イスラム教
GDP:約20兆円(一人当たり約800万円)
主要産業:原油(世界シェア1.5%)、天然ガス(世界シェア13.1%)
参考:外務省HP「カタールの基礎データ」
1.史上初の中東開催
開催地は2010年に投票で決定したが、中東でW杯が行われるのは史上初のこと。これまでに行われた全21回の内訳は、欧州(ロシアを含む)で11回、南米で5回、北米で3回、アジアで1回、アフリカで1回となっている。アジアでは唯一、2002年に日韓共同で開催された。
これまでの開催国と優勝国の一覧
第X回 | 開催年 | 開催国 | 優勝国 |
---|---|---|---|
1 | 1930 | ウルグアイ | ウルグアイ |
2 | 1934 | イタリア | イタリア |
3 | 1938 | フランス | イタリア |
4 | 1950 | ブラジル | ウルグアイ |
5 | 1954 | スイス | 西ドイツ |
6 | 1958 | スウェーデン | ブラジル |
7 | 1962 | チリ | ブラジル |
8 | 1966 | イングランド | イングランド |
9 | 1970 | メキシコ | ブラジル |
10 | 1974 | ドイツ | 西ドイツ |
11 | 1978 | アルゼンチン | アルゼンチン |
12 | 1982 | スペイン | イタリア |
13 | 1986 | メキシコ | アルゼンチン |
14 | 1990 | イタリア | 西ドイツ |
15 | 1994 | アメリカ | ブラジル |
16 | 1998 | フランス | フランス |
17 | 2002 | 日韓 | ブラジル |
18 | 2006 | ドイツ | イタリア |
19 | 2010 | 南アフリカ | スペイン |
20 | 2014 | ブラジル | ドイツ |
21 | 2018 | ロシア | フランス |
22 | 2022 | カタール | ? |
1942年、1946年大会は第二次世界大戦の影響で開催されず、1950年のブラジル大会で戦後再スタートを切った。それ以降も4年に1度開催されている。
2.史上初の秋冬開催
W杯といえば夏のイメージがある。通常は6〜7月にかけて行われるが、2022年大会の開催地は中東のカタール。首都のドーハは、湿度はそこまで高くないが、例年7月に1年間の最高気温を記録しており、40度を超える日も。この地で夏開催となれば、選手にかかる負担は想像を超えるものになるだろう。
選手たちは大会開催中、その地で1カ月間ほどを過ごすが、トレーニング→移動→試合→リカバリー……と、勝ち進む限りこのサイクルを繰り返すことになる。気温40度を超える環境でこのサイクルをこなすことは困難だ。しかし、同地では11月には平均最高気温は30度ほど、12月には25度前後まで下がる。
そのため、気候を考慮した上での秋冬季開催となったのだが、これはW杯史上初のこと。今回行われるカタールW杯は11月20日(日)、開催国カタール対エクアドルの一戦で開幕し、12月18日(日)に行われる決勝戦で幕を下ろす。ちなみに2014年のブラジルW杯では、気温31度前後の高温多湿下での試合において、給水タイムが認められていた。
3.異例のボイコット論
カタールにおける人権問題などにより、欧米を中心に本大会のボイコット論が巻き起こっている。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは、カタールでW杯関連の工事などを担う出稼ぎ労働者が給与未払いや搾取、劣悪な環境下での労働など不当な扱いを受けていると指摘。開催地に決まった2010年12月から数千人が死亡し、その調査が尽くされていないという。批判を受け、カタール政府は20年に最低賃金制度を導入。移民労働者は雇用者の許可を得ずに転職できる自由が与えられた。
また近年、欧米を中心にLGBTQなどの権利を認めるべきという風潮があるなか、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、カタールの女性や同性愛者、トランスジェンダーなどが差別を受けていると指摘。同国では同性愛が違法とされている。なお欧州では、ハンガリーで反LGBTQ法案が可決されたときも、ドイツやフランスなどから同国に厳しい批判が浴びせられていた。
こうした背景から、元フランス代表でかつてマンチェスター・ユナイテッドで活躍したエリック・カントナ氏は、英国紙Athleticのインタビューで「(スタジアム建設工事で)数千人が死んだ。それでもわれわれはワールドカップを祝福する。私個人的にワールドカップを観ることはない」と自身の考えを明らかにした。
また、元ドイツ代表でかつてバイエルンで活躍したフィリップ・ラーム氏は独誌Kickerに対し、「人権は大会の開催において最も重要なことであるべきだ」と語り、母国の躍進を願う一方、開催国カタールの人権問題やジェンダー問題への姿勢を懸念している。
フランスでは日刊紙レ・ユニオンが、「われわれの価値観に基づいてW杯をボイコットする」と宣言し、カタールW杯について一切報じないことを発表。リヨン市も「一切のストリートビューイングを実施しない」など、今大会への強い抗議の姿勢を示している。
ドイツの調査会社Infratest dimapが、「ドイツはカタールW杯をボイコットすべきかどうか」という調査を実施。2021年5月の時点で、全回答者のおよそ3分の2が「参加するべきではない」と回答した(グラフ左)。興味深いのは、サッカーに興味を持つ人のみを対象にした調査でも、ほぼ同様の結果となったことだ(グラフ右)。
そもそもW杯に出るには?日本代表が切符をつかむまでの道のり
全サッカー選手の憧れの舞台ともいえるW杯。しかし、その出場権を得ることは簡単ではない。国際サッカー連盟(FIFA)には211の国・地域が加盟しているが、各大陸・地域での予選を勝ち抜かなければならないからだ。日本が属するアジアサッカー連盟には47の国と地域が加盟しており、2006年大会からは毎度4~5チームが出場。1998年フランス大会で初出場を果たした日本代表だが、その切符をつかむまでは茨の道のりだった。
カタールといえば、「ドーハの悲劇」を思い出す人も多いだろう。1994年米国W杯最終予選として、1993年10月28日にドーハのアルアリ・スタジアムで行われた日本代表対イラク代表の試合において、日本が最後の最後で勝利を逃し、W杯への切符を逃した悲劇的な出来事の通称だ。第4節終了時点で日本はグループ首位をキープしており、日本史上初のW杯本大会出場に王手をかけていた。しかし最終第5節、試合終了間際まで2-1でリードしていたにもかかわらず、アディショナルタイムにまさかの失点。一転して3位に転落し、最終予選で散ったのだった。
しかしその後、日本代表は7大会連続出場を決めている。すでにW杯に出場するアジア常連国ともいえるが、今大会のアジア最終予選も前途多難なものだった。グループBの日本代表はオマーン、中国、サウジアラビア、オーストラリア、ベトナムの5チームと同組となった。それぞれとホーム& アウェイ方式で対戦し、計10試合で勝ち点を最も多く集めた2チームがW杯への出場権をつかむ。「初戦が一番大事」とよくいわれるが、ホームで行われたオマーン戦は0-1で敗れ、まさかの黒星スタート。最初の3試合で1勝2敗という厳しい状況に立たされた。しかし、第4節からは怒涛の連勝で盛り返し、サウジアラビアに次いでグループBの2位として切符を手にしたのだった。
日本代表の今回のアジア最終予選の成績
第X回 | 日付 | ホーム / アウェイ | 対戦国 | 結果 |
---|---|---|---|---|
1 | 2021年9月2日 | ホーム | オマーン | 0-1 ● |
2 | 2021年9月7日 | アウェイ | 中国 | 1-0 〇 |
3 | 2021年10月7日 | アウェイ | サウジアラビア | 0-1 ● |
4 | 2021年10月12日 | ホーム | オーストラリア | 2-1 〇 |
5 | 2021年11月11日 | アウェイ | ベトナム | 1-0 〇 |
6 | 2021年11月16日 | アウェイ | オマーン | 1-0 〇 |
7 | 2022年1月27日 | ホーム | 中国 | 2-0 〇 |
8 | 2022年2月1日 | ホーム | サウジアラビア | 2-0 〇 |
9 | 2022年3月24日 | アウェイ | オーストラリア | 2-0 〇 |
10 | 2022年3月29日 | ホーム | ベトナム | 1-1 △ |
W杯史上初の日独戦ここに注目!
W杯では初対戦となる日本とドイツ。日本にとって強豪国との対戦機会は、W杯のような大舞台以外には滅多にない。一方で、ドイツのような強豪国でも対戦相手が格下であれ、絶対に負けられないからこそ、気合の入った魅力的な対決となる。そんな日独戦をますます盛り上げるべく、注目すべき点をまとめた。
ドイツに勝てば日本にとってW杯初勝利
日本代表とドイツ代表はカタールW杯で初戦で激突。日本がこれまでにドイツと対戦したのは親善試合の2試合のみで、結果は1敗1分け。今回、日本代表が勝利すれば今大会初勝利となるだけでなく、3度目にして対ドイツ代表戦史上初の勝利となり、日本のサッカー史に新たな1ページを刻むことになる。
過去の親善試合の結果
第1回目惨敗の初対戦
2004年12月16日 結果:0-3 ●日本は主将の稲本潤一をはじめ、前線にはフランクフルトなどで活躍した高原直泰、GK楢崎正剛が守護神としてプレー。ドイツはGKがドイツ代表のレジェンドで現バイエルンCEOのオリヴァー・カーン、中盤にはミヒャエル・バラック、前線にはW杯最多得点記録保持者のミロスラフ・クローゼらが入っていた。試合後半、クローゼに2ゴール、バラックに1ゴールを許し完敗した。
第2回目力を見せた2度目の対戦
2006年5月30日 結果:2-2 △2006年ドイツW杯直前の対決。ジーコ・ジャパンは、中村俊輔や中田英寿、小野伸二らを擁する「黄金世代」。前半は0-0で折り返したが、後半に入ると高原が57分と65分にゴールを決めた。しかし、75分にクローゼに追撃弾を許すと、80分にはシュヴァインシュタイガーに同点ゴールを決められ、ドロー決着。善戦するも勝利を逃した。
日本は「死の組」……初戦が成功を左右する?
日本は過去6度のW杯で合計18試合のグループステージ(GS)を戦っているが、戦績は5勝4分け9敗。ちなみに、初戦を落とした大会では必ずGSで敗退しており、引き分け以上の場合は必ず決勝トーナメント進出を果たしている。カタールW杯ではドイツ、スペイン、コスタリカという強敵と一戦を交えることになるが、初戦のドイツ代表戦で引き分け以上の結果が得られれば、自信もついて勢いに乗り、決勝トーナメント進出も見えてくるかもしれない。ドイツ代表は2018年ロシアW杯で初戦を落とし、結局調子が上がることなく、最終節では韓国に敗れてGSで敗退している。
2大会ぶり5度目の戴冠を目指すドイツ代表
バイエルン・ミュンヘンでシーズン3冠(国内リーグ戦、国内カップ戦、UEFA チャンピオンズリーグ)を達成したハンジ・フリック監督(ドイツ)のもと、生まれ変わったチームで大会に臨む。
ドイツ代表の新ユニフォームは「一体感」を表現!
白地に首元から縦に黒色の帯が引かれたもので、男子も女子も同じデザインを着用する。バイエルンに所属するMFセルジュ・ニャブリはドイツサッカー協会公式HPを通じ、「新しいホームユニフォームをとても気に入っている。この色の組み合わせは調和がとれており、ワールドカップでこれを着て、ドイツ代表としてプレーできるのは光栄なこと」とコメント。
ドイツ代表のこの選手に注目!
今大会はバイエルンで活躍する世界的GK マヌエル・ノイアーやMFトーマス・ミュラーなどのベテランに加え、同じくバイエルンMF ジャマール・ムシアラなど、若手の活躍にも期待がかかる。
(正式なメンバー発表前のもの)
現代的センターバックDF ニコ・シュロッターベック(ドルトムント/ドイツ)
今シーズン、フライブルクからドルトムントに移籍。ブンデスリーガ上位常連クラブで若き守備の要として活躍。実の兄ケヴェン・シュロッターベックは今もフライブルクでプレーしている。
試合をコントロールする万能な選手MF ジョシュア・キミッヒ(バイエルン/ドイツ)
最終ラインからアンカーまでこなし、前線への正確な配球から得点機を演出。チャンスとみるや自らゴールも狙うファイターである。2020年にはUEFA最優秀DF賞に選ばれている。
ドイツ代表唯一のティーンエージャー!?MF ジャマール・ムシアラ(バイエルン/ドイツ)
19歳にして欧州のトップクラブ、バイエルンで頭角を現す。イングランドで育ったため、同国代表を選択することも可能だったが、ドイツ代表として出場することに。恩師ともいえるフリック監督から熱い勧誘を受けたとか。
イングランドの強豪で大活躍MF イルカイ・ギュンドアン(マンチェスター・C/イングランド)
かつて香川真司とともにドルトムントでプレーしたMF。名門マンチェスター・Cでも持ち前の攻撃力を発揮、今では同クラブの主将に。すでに7シーズン目を迎え、4度のリーグ制覇を経験した。
悲願のベスト8進出を目指す日本代表
森保ジャパンは発足後全57試合で39勝8分け10敗。森保一監督が今回のW杯で日本代表を指揮した場合、W杯後の就任から4年間を継続して率いた、初の日本人監督となる。
日本代表の新ユニフォームのコンセプトはORIGAMI!
JFAによると、新ユニフォームは「これまでのサッカー日本代表の軌跡と『山折り、谷折り』を重ねることで進化するORIGAMIを掛け合わせ、歓喜をもたらす祈りの象徴として表現」している。また、「2011年に開催されたAFCアジアカップ2011カタールでアジア王者となった際にSAMURAI BLUE(日本代表)が着用していたユニフォームから着想」を得ているという。新ユニフォームをまとった日本代表がカタールで躍進することを願うばかりだ。
日本代表のこの選手に注目!
「海外組」も珍しくない日本代表。ドイツで活躍する主将の吉田麻也をはじめ、好調の鎌田大地など、ここでは紹介しきれないほど魅力的な選手がたくさん!
(正式なメンバー発表前のもの)
新守護神に名乗り!GK シュミット・ダニエル(シントトロイデン/ベルギー)
米国にルーツを持つ、身長197センチのGK。2019年からベルギーのシント・トロイデンでプレーしており、2018年にA代表で初出場を果たす。9月のエクアドル戦では印象的なセーブを連発した。
34歳主将、守備リーダーDF 吉田麻也(シャルケ/ドイツ)
2010年にオランダのVVVフェンローに加入して以来、欧州で10年以上にわたりDFとして活躍。プレミアリーグやセリエAを経験したベテランは現在、過去に内田篤人氏や板倉滉(ボルシアMG)が所属したシャルケでプレー。
スペインで躍動する若きアタッカーMF 久保建英(レアル・ソシエダ/スペイン)
日本人としてバルセロナの下部組織に在籍した特異な経歴を持つ、21歳の類まれなアタッカー。今シーズンから在籍するレアル・ソシエダでは開幕から出場機会を重ね、第9節までに2ゴール2アシストと結果を出している。
ヨーロッパリーグ制覇の立役者MF 鎌田大地(フランクフルト/ドイツ)
EL制覇時のもの。左が鎌田選手、右は同クラブ所属の長谷部誠選手
開幕10試合ですでに6ゴールと好調。2019年に日本代表デビューを果たした26歳のMFは昨季、ヨーロッパリーグ制覇に大きく貢献。クラブにも代表にも欠かせない存在となっている。