童話の世界が現代に息づく ドイツ・メルヘン街道の旅
「赤ずきんちゃん」「白雪姫」「ブレーメンの音楽隊」、世界中の子どもたちを魅了し続けてきたグリム童話。南北約600kmに広がるメルヘン街道は、童話を生み出した言い伝えや伝説の舞台となった約50の街を繋いでいる。今年、グリム童話の初版発行200周年、ブレーメンの市庁舎のファサード建築400周年、そして5年に1度の芸術の祭典ドクメンタの開催を迎え、メルヘン街道は例年以上の盛り上がりを見せている。"Es war einmal……"(むかしむかし)で始まる童話の世界に足を踏み入れてみよう。(編集部:高橋 萌)
グリム兄弟生誕の地 Hanau ハーナウ
www.hauau.de
メルヘン街道の入り口は、ハーナウ。市庁舎前にあるグリム兄弟像の下のプレートには、「A usgangspunkt der deutschen Märchenstrasse Hanau-Bremen(ハーナウとブレーメンを結ぶメルヘン街道の起点)」と記されている。この地で、1785年1月4日にヤーコプ・グリム、1786年2月24日にヴィルヘルム・グリムが生を受けた。フィリップスルーエ城(Schloss Philippsruhe)では現在、グリム兄弟の童話演劇祭が開催されている(7月15日まで)。
グリム兄弟の童話演劇祭
Brüder Grimm Märchenfestspiele 2012
www.festspiele.hanau.de
グリム兄弟が少年時代を過ごした Steinau シュタイナウ
www.steinau.de
グリム一家がハーナウからが引越し、1791~96年の5年間を過ごした街。ここには、グリム兄弟が生活した家が現存し、彼らの人生と研究活動を現代に伝える博物館になっている。16世紀に建てられたシュタイナウ城が街の中心に構え、童話をモチーフにしたデザインの噴水が市民に憩いの場を提供する。また、城に隣接するマリオネット劇場"Die Holzköppe"では、グリム童話の人形劇を楽しめるなど、小さな街全体がグリム童話を後世に伝える役目を果たしている。
マリオネット劇場
Marionettentheater "Die Holzköppe"
www.die-holzkoeppe.de
赤ずきんちゃんの街Alsfeld アルスフェルト
www.alsfeld.de
木組み造りの家並みが美しいアルスフェルトは、メルヘン街道の中でも人気の街。小規模ながら街全体が中世の面影を残し、素朴で愛らしい印象。2本の尖塔が目を引く市庁舎は、今年でなんと築500周年。この地方の民族衣装は「赤ずきんちゃん」のモデルとなり、街の象徴として赤ずきんちゃんの銅像が立つ。7月22~29日の1週間は「赤ずきんちゃんウィーク」が開催され、アルスフェルトをはじめ、近郊の町でグリム童話と赤ずきんちゃんをテーマにしたイベントが開催される。
赤ずきんちゃん地方の情報
Rotkäppchenland
www.rotkaeppchenland.de
グリム兄弟が通った大学都市 Marburg マールブルク
www.marburg.de
兄ヤーコプが1802年、弟ヴィルヘルムが翌年からマールブルク大学法学部に籍を置き、ドイツの伝説や民話研究に興味を持つきっかけと貴重な出会いを得た街。丘の上にそびえるマールブルク城(方伯城)の眼下に広がる旧市街は、色とりどりの木組みの家が小路を埋め、ゴシック様式の教会としてはドイツ最古のエリザベート教会など歴史的な建築物が建つ。市庁舎の仕掛け時計が毎時、楽しく時を告げるマルクト広場の喧噪の中に、真剣に言い伝えを聞く若きグリム兄弟の様子を想像できそう。
マールブルク城
Schloss Marburg
Schloss 1, 35037 Marburg
白雪姫のモデルが存在した Bad Wildungen
バート・ヴィルドゥンゲン
www.bad-wildungen.de
欧州最大のクアパークを擁するバート・ヴィルドゥンゲンに、「白雪姫」の村と言われるベルクフライハイト地区がある。ここには、7人の小人が白雪姫をかくまった「白雪姫の家」や銅山があり、メルヘンの世界を体感できる。白雪姫のモデルは、バート・ヴィルドゥンゲンのヴァルデック伯爵フィリップ4世の娘マルガレータだと言われている。彼女には、実際に怖い継母がいて、隣国の王子と恋に落ち、そして1554年21歳という若さで謎の死を遂げた。ここは、真実と童話が錯綜する場所。
白雪姫の家
Schneewittchenhaus
http://schneewittchendorf.com
メルヘン街道の首都Kassel カッセル
http://kassel.de
シュタイナウでの少年時代を経て、グリム兄弟はカッセルで中学、高校へと進む。グリム兄弟が生涯の大半を過ごし、彼らの童話集を編集した地であることから、メルヘン街道の首都と位置付けられている。グリム兄弟博物館は、2年以上にわたる改修工事を経て今年1月、ベルヴュー宮殿で再オープンし、ドイツ最大級のグリム兄弟関連コレクションを展示。また、カッセルに行ったら一度は訪れたいのが、ヴィルヘルムスヘーエという庭園。山頂のヘラクレス像から流れ出た水が最後に大噴水になるという水の芸術を楽しもう(夏期限定)。
グリム兄弟フェスティバル
Brüder Grimm Festival
www.brueder-grimm-festival.com
グリム童話の初版発行200周年
ドイツの民話や伝説を、語り手1人ひとりから丁寧に聞き取り、収集したヤーコプとヴィルヘルム、そして挿絵を描いた末っ子のルートヴィヒ。グリム兄弟が編集した童話集 "Kinder- und Hausmärchen(子どもと家庭の童話集)"の初版が1812年12月20日に発行されてから今年でちょうど200周年。これを皮切りに、2013年のドイツ語辞典編纂から175周年、グリム兄弟の没150周年など、グリム兄弟の記念年が2019年まで続き、各地で関連イベントが開かれる。
www.grimm2013.nordhessen.de
現代美術の祭典 ドクメンタ
5年に1度のサイクルで開催される、「ドクメンタ」。ナチスにより規制を受けた現代美術の復活を目指し、1955年から始まった世界最大の現代美術展は今年、第13回目の幕を開けた。今回のテーマは、「崩壊と再建」。6月9日から9月16日までの100日間、世界各地から およそ100人のアーティストが集結し、フリデアリチアヌム美術館とカールスアウエ公園、グロリア映画館の展示会場を中心に、カッセル市内全体が現代アートと、それを楽しむ人で溢れる。
http://d13.documenta.de
オオカミと7匹の子ヤギの町Wolfhagen ヴォルフハーゲン
www.wolfhagen.de
舌を出した黒いオオカミが街の紋章に描かれているヴォルフハーゲンは、その名の通りオオカミと深い関係のある街。グリム童話にある「オオカミと7匹の子ヤギ」の舞台として知られ、旧市街のマルクト広場では等身大のオオカミと7匹の子ヤギたちの像が訪問者を迎える。約780年の歴史を持つ旧市街は、木組みの家や石畳の小道が続く、メルヘンの情緒溢れる雰囲気。旧市庁舎の地下にあるグリム・メルヘンケラーでは、童話の世界を再現。ここでは様々なイベントや、結婚式が開かれる。
グリム・メルヘンケラー
Grimms Märchenkeller
Burgstraße 33-35, 34466 Wolfhagen
「鉄髭博士」の町 Hann. Münden ハン・ミュンデン
www.hann.muenden-tourismus.de
木組みの街並みを持つ町としては、国内随一の美しさとの呼び声高いハン・ミュンデン。ヴェラ川とフルダ川、ヴェーザー川の3本の川が合流する、豊かな水の街には、700軒以上の木組みの家が建ち並び、そこに石造りの橋や塔、教会、ヴェーザー・ルネッサンス様式の壮麗な建築物が入り交じり、中世の雰囲気をそのまま現代に伝える。ハン・ミュンデン で一番の有名人と言えば、バロック時代の伝説的な名医「鉄ひげ博士」。夏のシーズン中には野外劇が行われ、市庁舎の仕掛け時計にも登場する。
野外劇「鉄ひげ博士の診療所」
Doktor Eisenbart Sprechstunde
10月2日まで下の市庁舎ホールにて 13:30〜
いばら姫が目を覚ますSababurg ザバブルク
http://sababurg.de
ペロー童話集の「眠れる森の美女」の類話が、グリム童話では「いばら姫」として取り上げられている。ホーフガイスマールという小さな町のはずれの森の中にある小高い丘、そこにひっそりと建つザバブルク城が、いばら姫が眠っていた城とされている。現在では、古城ホテルとして利用されており、中世の調度品に囲まれた滞在が実現する。いばら姫にちなんだバラ尽くしのメニューが味わえるレストランや、メルヘンの世界で思い出に残る結婚式を挙げるプランも人気。夏期の毎週日曜には、いばら姫と、姫を眠りから呼び覚ました王子が直々にゲストを出迎え、童話を朗読してくれるとか。
ザバブルク城
Dornröschenschloss Sababurg
Im Reinhardswald, 34369 Hofgeismar
ねずみ捕り男が笛を吹く Hameln ハーメルン
www.hameln.de
「ハーメルンの笛吹き男」の伝説が伝わる街。1284年、ハーメルンにねずみ捕りを名乗る謎の男が現れたと記録に残っている。大人たちの騙し合いの末に子どもが攫われてしまうというバッド・エンドな物語ではあるが、ハーメルンの名を世界に広め、メルヘンの街ハーメルンを生み出すことには一役買った。中世の街並みを再現した旧市街は、国内屈指の美しい町にランクイン。野外劇(夏期の日曜12:00)やお店の装飾、お土産屋さんなど、街の至る所でねずみと笛吹き男が顔を見せる。
野外劇「ハーメルンの笛吹き男」
Freilichtspiel Rattenfänger
www.rattenfaenger-hameln.de
ブレーメンの音楽隊が目指す街 Bremen ブレーメン
www.bremen.de
メルヘン街道の終点は、ブレーメンの市庁舎の西壁沿いにある「ブレーメンの音楽隊」の像。童話によると、ブレーメンの音楽隊は、泥棒を追い出して得た家が気に入り、そこに留まったためブレーメンには辿り着いていない。それでも、メルヘン街道を巡る旅の終点は、彼らが夢見た北の古都ブレーメンで異議はない。壮麗な市庁舎とマルクト広場、そこに佇むローランド像は世界遺産にも登録されている。シュノーア地区、ベッヒャー通りなど、歴史を感じさせる街区は、そのままメルヘンの世界だ。
野外劇「ブレーメンの音楽隊」
Bremer Stadtmusikanten
9月30日まで日曜12:00にDomshof にて
市庁舎のファサード建築400周年
ハンザ同盟の一員として栄華を誇ったブレーメンの顔ともいえる市庁舎。建築されたのは1405〜09年のことだが、ファサード(正面)のみ1595〜1612年に建築家リュダー・フォン・ベントハイムによって、ヴェーザー・ルネサンス様式の現在の形に一新された。今年は、ファサードの完成からちょうど400年。この機会に改めて市庁舎のガイドツアーなどに参加してみよう。9月9日は無料のオープンデーとなっている。
www.bremen-tourismus.de/jubilaeum-rathaus-fassade