2024年は州議会・欧州議会の選挙イヤードイツ&欧州情勢を読み解く
2024年はドイツ国内で三つの州議会選挙が実施されるほか、欧州議会選挙、米国でも大統領選挙が予定され、選挙イヤーとなっている。ドイツではショルツ政権の人気が低迷し、極右政党の支持率は過去最高レベルを記録。特に州議会選挙はドイツの命運を左右するといっても過言ではない状況だ。また欧州各地ではポピュリズム政権が誕生し、欧州議会選挙にも大きな影響が出るとみられている。これらの選挙を前に、今ドイツで、欧州で何が起きているのか、ポイントをまとめてお届けする。(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)
旧東独3州の州議会選挙の行方は?極右躍進に揺れるドイツ情勢
Toru Kumagai 1959年東京生まれ。元NHKワシントン特派員。1990年からフリージャーナリストとしてドイツ・ミュンヘン在住。ドイツ、欧州の政治経済、安全保障問題など、幅広い分野で執筆している。著書は28冊。本誌では「独断時評」を連載中。
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ドイツで今年最も注目されているのが、旧東ドイツ地域における三つの州議会選挙だ。9月1日にザクセン州とテューリンゲン州、9月22日にブランデンブルク州でそれぞれ投票が行われる。1月現在、極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の支持率は、これらの州で首位となっており、昨年7月にはテューリンゲン州のゾンネベルク郡でAfD党員が全国初の郡長に選ばれたほか、12月にはザクセン州ピルナで初のAfD市長が誕生した。AfDがこのままの勢いで州選挙に望めば、同党から史上初の州首相が出る可能性もある。
- AfD:ドイツのための選択肢
- CDU:キリスト教民主同盟
- SPD:社会民主党
- BSW:ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟・ 理性と公正
- FDP:自由民主党
州議会選挙が行われる3州の最新支持率
ドイツ情勢を読み解く4つのポイント
旧東ドイツでの州議会選挙では、現時点でいずれの州もAfDが第1党になる可能性が高い。
ここでは選挙結果を左右するドイツ情勢について、重要なポイントに絞って解説する。
参考:本誌コラム「独断時評」
1ショルツ政権の人気が低迷
2021年の連邦議会選挙で当時与党だったキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)に勝利して誕生した、ショルツ首相率いる社会民主党(SPD)・緑の党・自由民主党(FDP)の信号機連合。その支持率は低迷している。インフラテスト・ディマップによる最新のドイチュラントトレンド(2月1日)では、ショルツ政権に「満足している」と回答したのはわずか17%。「満足していない」が38%、「全く満足していない」が43%という結果だった。支持率もCDU・CSUとAfDが大きくリードする事態となっている。
その理由の一つが、昨年11月15日の連邦憲法裁判所の違憲判決だ。過去の予算措置について違憲判決が下されたことで600億ユーロが「無効化」され、ショルツ政権の信用性は深く傷ついた。その後、昨年12月にEV(電気自動車)購入補助金廃止の前倒しなどの歳出削減策や、農業従事者の税制上の優遇措置廃止などを含む2024年予算案を打ち出すも、各界から批判が相次いだ。昨年末から農業従事者がトラクターなどで道路を占領するなど、全国各地でデモが行われているのはこのためだ。
ほかにも、暖房の脱炭素化など環境保護を最優先とする政策に対して反発が起こり、度重なる政策変更を行ってきた朝令暮改ぶりも国民に不信感を与えている。またロシアがウクライナに侵攻した当初、ウクライナ政府への武器供与をためらったことも人気を落とす一つの理由となった。
2支持率を伸ばし続ける極右政党AfD
2013年に創設されたAfDは、もともとはユーロに反対する泡まつ政党だった。しかし、2015年にメルケル首相(当時)がハンガリーで立ち往生していたシリア難民ら約100万人に対して、ドイツへの亡命を認めたことが、AfDが支持率を増やす引き金となった。難民政策に不満を抱いた人々の受け皿となったAfDは、2017年の連邦議会選挙で得票率を前回(4.7%)から約3倍の12.6%に伸ばし、第3党に躍り出たのである。同年、連邦政治教育センターは、AfDの支持者は主に旧東ドイツ地域の男性で35~59歳の年齢層が最も多いと分析した。
2022年9月8日、キャンペーン標語「私たちの国が第一!」を手に持つAfD共同党首のティノ・チュルパラ氏とアリス・ヴァイデル氏
ただし彼らの大半は、AfDの政策が他党よりも優れているから同党を支持しているわけではない。支持者の約6割は、現政権への抗議の意思を表すためにAfDに票を投じているのだ。AfDは「EUを改革して、加盟国の主権を強化する。EUが改革に応じない場合には、ドイツをEUから脱退させる」と述べ、経済界や学界から強く批判されている。またロシアのウクライナ侵攻を強く糾弾せず、親ロシア的傾向が強い。
一方で、AfDには外国人に対して差別的発言を行ったり、ホロコーストを矮小化したりする幹部も多く、テューリンゲン州支部などは憲法擁護庁から極右団体として監視されている。1月10日には、昨年11月にポツダムで行われた秘密会合にAfDの連邦議会議員が参加し、亡命申請者など数百万人の外国人を国外へ追放する「マスタープラン」について話し合われたことが明るみに出た。AfDはナチスと同様に地方政党として始まるなどの類似性が多々指摘されており、この外国人追放計画もナチスがユダヤ人をマダガスカルへ強制移住させようとした計画と似ている。
このスキャンダルを受けて、ドイツ各地では反極右、反AfDのデモが行われ、3週間で200万人以上が参加したと報道された。しかしそれによってAfDの支持率は大きく下がることはなく、2月1日現在も19%と与党3党よりも高い支持率を保っている。
2月13日、ドレスデンで行われた反極右デモの様子
3選挙に向けて次々と結党される小政党
州議会選挙や欧州議会選挙に向けて、ドイツ国内では次々と新たな党が結成されている。現存する政党に不満を持つ有権者たちがこうした受け皿となる新党に投票をすれば、小党乱立となる事態は免れないだろう。1930年代のワイマール共和国の末期に、小政党が乱立したことが想起される。
ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟・理性と公正(BSW)
昨年10月、連邦議会議員のザーラ・ヴァーゲンクネヒト氏が左派党(リンケ)から離党し、今年1月に新党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟・ 理性と公正」(BSW)を創立。同氏は近年単独行動が目立ち、左派党に対する批判を繰り返していた。新党の方針としては難民受け入れの制限や富裕層への増税などを上げ、左派ポピュリスト的な傾向が強い。また、AfD同様に親ロシア的傾向が強く、ロシアからの天然ガス輸入の再開を求めている。このため「左のAfD」と呼ばれることも。6月の欧州議会選挙を皮切りに、9月の州議会選挙にそれぞれ出馬する方針を表明しており、すでにテューリンゲン州では17%という高い支持率を獲得している。
1月27日、新党を結成して初の党大会に出席したヴァーゲンクネヒト氏(中央)
価値連合(WU)
2月17日、元連邦憲法擁護庁長官のハンス=ゲオルク・マーセン氏(CDU)が、CDUとAfDの中間に位置する新党「価値連合」(WU)を結成。同氏は2017年に党内で同名のグループを設立していた。CDUでは左寄りすぎる、AfDでは右寄りすぎると思う有権者からの支持が期待される。
2月17日、新党結党について記者会見で話すマーセン氏(中央)
多様性と価値観のための同盟(DAVA)
イスラム教徒から成る「多様性と価値観のための同盟」(DAVA)も今年1月に結成されたばかりの政治団体だ。イスラム教のイメージを改善することが目的に掲げられているが、伝統的な価値観を守ることも重視され、例えば同性婚には反対の立場を取る。さらにトルコのエルドアン大統領との近さも指摘されている。
まずは欧州議会選挙への出馬を目指している
4メルツ氏率いるCDUは返り咲くか?
2021年にアンゲラ・メルケル前首相の長期政権が終焉し、連邦議会では16年ぶりに野党となったCDU。2022年1月にフリードリヒ・メルツ氏が党大会で約95%の票を獲得して党首に選出され、メルケル氏のリベラル路線から大幅に軌道修正し、保守色を強めている。メルツ氏はショルツ政権を厳しく批判し、野党指導者として存在感を示しており、2月1日現在、連邦レベルでの支持率はCDUがトップだ。2025年の連邦議会選挙でCDUと姉妹政党CSU(キリスト教社会同盟)が政権に加わることは、ほぼ確実となっている。
一方でメルツ党首は口が滑りやすく、時折ポピュリスト的な発言を行うことが短所として知られる。昨年9月にはテレビ番組「ヴェルト」で、難民がいるせいでドイツ人が歯医者の予約ができないと取れる発言を行い、激しい議論が巻き起こった。また昨年7月には公共放送第2テレビ(ZDF)のインタビューで、地方自治体レベルであればAfDとの協力関係を持つこともありうると取れると発言したことが物議をかもし、CDU党内からも強い批判の声が上がった。今年1月になってAfDとの連立の可能性を明確に否定した。
2月12日、マインツのカーニバルではAfDにネクタイを捕まれたメルツ氏を風刺した山車が登場した
メルツ氏は以前、「緑の党とは連立しない」と断言していたが、今年になって「2025年の連邦議会選挙では、FDP・SPDだけではなく緑の党と連立する可能性もある」と初めて述べている。バーデン=ヴュルテンベルク州のヴィンフリート・クレッチュマン州首相(緑の党)は、この発言を歓迎し、「連邦レベルでのCDUと緑の党の連立は可能だ」と発言した。だがCSUは緑の党との連立に反対しており、今後も紆余曲折がありそうだ。
しかし、今年州議会選挙が行われる3州でのCDUの支持率はAfDに届いていない。CDUが極右に対する「Brandmauer」(防火壁)となるかどうか、注目が集まる。
右派ポピュリズムの波に呑まれるかここに注目!2024年欧州議会選挙
欧州連合(EU)の全加盟国で5年に1度行われる欧州議会議員選挙は、2024年6月6~9日にかけて実施される。現在各国でポピュリズムが勢いを増しているが、この傾向は2024年の選挙にどのような影響を与えるのだろうか。
参考文献:欧州連合理事会、欧州外交評議会「A sharp right turn: A forecast for the 2024 European Parliament elections」「A crisis of one’s own: The politics of trauma in Europe’s election year」、 POLITICO「‘Clash of civilizations’ looms over EU elections」、Deutsche Welle「Gaza war exposes dissent on EU Israel policy」、euronews「La guerre entre Israël et le Hamas divise l’Union européenne」
Michiko Kurita ブリュッセル在住ライター、コンサルタント。上智大学卒業後、米国とベルギーの経営大学院にてMBA取得。EUやベルギーの政治・社会事情を発信している。EU Mag(駐日EU代表部公式ウェブマガジン)などで執筆のほか、ポッドキャスト「ちょっと深掘りヨーロッパ」を配信中。
欧州各国で勢力拡大を続けるポピュリスト政党
前回の欧州議会選挙が行われたのは、5年前の2019年。当時は英国のEU離脱(ブレグジット)による混乱が長引き、最も懸念されていたのは欧州懐疑主義勢力の伸長だった。しかしその懸念とは裏腹に、若者を中心として気候危機に対するEU市民の意識の高まりもあり、親EUの政党グループが議席の3分の2を占める形で落ち着いた。他方では従来の二大政党、中道右派の欧州人民党(EPP)と中道左派の社会民主進歩同盟(S&D)の退潮が鮮明になり、分極化する形に。その後、新型コロナウイルスの流行、難民・移民問題、ロシアによるウクライナ侵攻と世界を揺るがす出来事が立て続けに起こり、各国でEUに懐疑的なポピュリスト政党の興隆が相次いだ。
その一例として、2022年にはイタリアでネオファシストといわれるジョルジャ・メローニ政権が発足。同月スウェーデンも中道左派政権から8年ぶりの交代となり、右派3党による連立政権が誕生した。同年のフランス大統領選では、マクロン大統領が再選されたものの、決選投票では極右政党・国民連合のマリーヌ・ルペン党首と対決し、想定外の接戦となったことも話題を呼んだ。さらに2023年には、フィンランドでも極右「フィン人党」を含む右派連立政権が成立。またスロバキアでは、ウクライナへの武器供与停止を公約に掲げた親ロシア派の左派ポピュリスト政党「道標・社会民主主義」のロベルト・フィコ氏が勝利。オランダ下院選では、ヘルト・ウィルダース氏が率いる極右政党・自由党が第1党となった。このように前例のないポピュリスト政党の「スター」とも呼べる政治家がそろって支持を得ている。
一方で、ポーランドでは2023年12月、それまでの右派ポピュリスト政権から8年ぶりに交代し、リベラル派の野党連合「市民連立」を率いるドナルド・トゥスク氏が首相に就任。同氏は2014~19年まで欧州理事会常任議長を務めた経歴がある。ポーランドはすでに明確な親EU路線に舵を切っており、EUにとっては頼もしい東方前線国の一つと期待されている。
昨年12月11日、ポーランド首相に選出されたドナルド・トゥスク氏
2024年欧州議会選挙を左右するポイント
1月に欧州のシンクタンク「ECFR」が2024年の欧州議会選挙に関して調査した結果、EU全域で急進右派政党が得票率を伸ばしていることが明らかになった。同調査でEUに懐疑的な右派ポピュリスト政党がトップとなった国は、オーストリア、ベルギー(北部フランダース)、チェコ共和国、フランス、ハンガリー、イタリア、オランダ、ポーランド、スロバキアの9カ国。さらにブルガリア、エストニア、フィンランド、ドイツ、ラトビア、ポルトガル、ルーマニア、スペイン、スウェーデンの9カ国でも、右派ポピュリスト政党の支持率が2位か3位になっている。中道左派政党と緑の党は議席を失うなど、今後も多くの国で右派へ大きくシフトするだろうと予測されている。
一方、今年の欧州議会選挙では、有権者が従来の「左派」と「右派」、「EU懐疑派」と「親EU派」という単純な政治観だけではなく、欧州におけるさまざまな「危機」を念頭に置いて投票先を選ぶだろうと、同調査は分析している。その「危機」とは経済、安全保障、健康、気候、移民の五つ。過去10年間に世界で次々と起こった危機が、国を越えて政治的アイデンティティを生み出したという。
事実、「将来のビジョンに最も影響を与える問題は何か」という質問に対して、フランス(27%)とデンマーク(29%)の有権者は気候変動、ドイツ(31%)では移民問題がそれぞれトップだった。経済の混乱は、ユーロ危機が長期的な影響を及ぼしているイタリア(34%)とポルトガル(34%)、ロシアによるウクライナ侵攻については、バルト三国のエストニア(40%)と、100万人以上のウクライナ人が避難しているポーランド(31%)において、最大の関心事となっている。
このままの勢いで右派ポピュリスト政党が躍進すれば、今年の欧州議会選挙の右側の議席が増えることは避けられないだろう。しかし、それによってEUが大きく右傾化するかといえば、そうとは言い切れない。右派ポピュリストとして選ばれた議員は、あくまで自国を最優先に考える。そのため欧州議会にいて総論では一致するように見えても、各政策ではバラバラになりがちになり、今後はEUの新しい法案が通りづらくなることが予想される。特に欧州グリーンディール政策(下記参照)や移民・難民政策に関連する多くの法案が成立しにくいという事態につながりそうだ。
揺れながらも安定を保つのがEUの良さ
今年11月に米国が大統領選挙を控えているが、二大政党制である同国ではトップが変わることで、政治路線が180度転換されるという危うさがある。一方EUは、国を越えて複数の政党グループが共存する欧州議会を持ち、加盟国から推挙された親EUの大臣たち(欧州委員)が政策を遂行するため、なんとか安定した中道左派路線を保ってきている。それはEUという枠組みの前提に、かつて欧州の国々がポピュリズムやナショナリズムに走り、資源を求めて戦争を繰り返ししてきたことを踏まえて、どの国も暴走しない仕組みを作ろうとした歴史があるからだ。政治的方向性が右に左に多少揺れることはあっても、大きくずれることがないのがEUなのである。
国際問題に対するEUの立場や見解
気候変動や戦争など、さまざまな国際問題に対してEUやEU加盟国はどのような立場を取っているのだろうか。三つのテーマについて注目してみよう。
1欧州グリーンディール政策はきれいごとか?
EUの現政権ともいえる欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は2050年までに気候中立を目指し、持続可能な経済を実現させるため、2019年に欧州グリーンディール政策を打ち出した。EU気候行動総局の調査によると、EU市民は気候変動が貧困・飢餓、武力紛争に次いで世界が直面する3番目に深刻な問題であると認識している。そして84%は気候変動への取り組みを優先すべきであると考えており、少なくとも70%は温室効果ガスの排出量を最小限に抑え、残りの排出量を相殺することに同意しているという。
一方で、欧州グリーンディール政策に反対する声も大きい。EUは同政策の一環として、2030年までに化学農薬の使用を50%削減することを決定した。しかし農業者に対して化学農薬非使用を補う助成金がないこと、ウクライナなどEU外からEU規制に沿っていない安価な農産物を大量に輸入していることなどから、欧州全土で農業従事者たちが激高。加盟各国の農業団体はトラクターで各地の道路を封鎖するなど、EUに対して抗議行動を起こす事態となった。これに対し、2月6日に欧州議会の本会議でフォンデアライエン委員長は、2030年までに化学農薬を50%削減する法案を撤回することを発表した。
1月30日、フランスのストラスブールに抗議活動のためトラクターで集まった農業従事者たち
2一貫してウクライナへの支援を継続
ロシアによるウクライナ侵攻へのEU対応に対する支持は高い。EU市民の88%がウクライナ戦争で被害を受けた人々への人道的支援に賛成し、86%が戦争から逃れてきた人々をEUに受け入れることに賛成している。EU加盟国がウクライナの事態が私事であると認識していることも関係しているだろう。
実際に過去2年間、EUとその加盟国は一貫してウクライナへの援助を続けており、財政的、人道的、軍事的支援総額は850億ユーロを超える。金額のほぼ3分の1は、ウクライナ軍の支援に充てられている。さらにEUは2月1日、長らく反対し続けてきたハンガリーのヴィクトル・オルバン首相をとうとう合意に導き、ウクライナに対し、向こう4年間に500億ユーロの財政支援を行うことで合意した。軍事援助を増やすことを目的としたものではなく、あくまでウクライナの再建と近代化を支援することを目的としている。またロシアに対しては、軍事費を調達しにくくなるよう、さらに厳しい制裁パッケージを採択した。
一方で米国によるウクライナ支援継続はますます困難の度合が高まっている。今年11月に行われる米大統領選挙でトランプ氏が再選されれば、米国に頼らないEUの在り方が問われるだろう。
3見解が分かれるイスラエルによるガザ(ハマス)攻撃
EUの首脳陣は昨年10月27日、ガザでの民間人の犠牲は避けなければならないとし「人道回廊の設置や一時的な戦闘の停止」を求めた文書を採択した。しかし、EUの対応を批判する声は大きい。
フォンデアライエン委員長らは、ハマスによる攻撃直後、ジョー・バイデン米大統領よりもいち早く現地にかけつけ、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相にEUの無条件の支援を申し出た。しかしその後、イスラエルの「自衛」をはるかに超えた非対称な戦闘能力を背景に、アイルランド、スペイン、ベルギーなどが次々とイスラエルを批判。ジョゼップ・ボレル外務・安全保障政策上級代表も先鋭化するネタニヤフ首相を問題視し、EUはイスラエルの自衛権を支持するものの、現状は「自衛の域をとうに超えている」と非難している。ドイツはイスラエル政府への批判に関してはほかの国よりもはるかに慎重であり、EUが一枚岩ではないことが分かる。むしろそのことが多様性を重んじ、誰も暴走させないEUらしさといえるのかもしれない。