産前・産後に必要なことをチェック!ドイツで初めての妊娠・出産
日本とは言葉も習慣も違うドイツでの妊娠・出産。さまざまな喜びがある一方で、戸惑いの連続でもあるだろう。本特集は、そんな不安を少しでも解消するべく、ドイツならではの仕組みや制度について徹底解説! さらに、ドイツで妊娠・出産を経験した先輩ママ&パパたちに、体験談や驚きのエピソード、日本との考え方の違いなどについて聞いた。まだ見ぬわが子に出会う日を楽しみに、一歩ずつ準備を進めていこう。
(文:ドイツニュースダイジェスト編集部)
参考:本誌1006号「産前産後の準備すごろく」、ドイツニュースダイジェスト連載「ドイツでマタニティーブルー」
妊娠前
定期的な婦人科検診を受ける
妊娠を望む・望まないにかかわらず、信頼できる産婦人科医院(Gynäkologie、Frauenarzt)を見つけておくと安心。ドイツでは20歳以上の女性は年に1回婦人科検診(Vorsorge)を受けることが推奨されており、多くの公的健康保険で無料検診が受けられる。また風しん・麻しんの抗体を持っていない場合、これらのワクチンは妊娠中に接種できないため、妊娠前に打つことが推奨されている。
ドイツの不妊治療(Kinderwunsch)
「不妊」が頭をよぎったら、まずはかかりつけの産婦人科に相談しよう。その後、紹介状を書いてもらい、「不妊治療センター」(Kinderwunschzentrum、Kinderwunschpraxis)を受診することになる。ドイツの公的健康保険に入っている場合、法的に結婚している25歳以上の男女(女性は40歳、男性は50歳まで)は、高度不妊治療(人工授精、体外受精、顕微授精)においても保険が適用される(一部自己負担、適用回数に制限あり)。治療を開始する前に、医師が発行した治療計画と費用計画を健康保険会社に提出する必要がある。2人目の不妊治療の際には、1人目のときの治療回数はリセットされ、1人目の時と同じ回数の治療が受けられる。
妊娠初期(1. Trimester:1〜12週)
妊娠の判定
妊娠の可能性がある場合は、ドラッグストアなどで売っている妊娠検査薬(Schwangerschaftstest)を使用して判定する。排卵予定日から2週間後に使うタイプが一般的だが、生理予定日4日目から使える「Frühtest」というものもある。陽性反応が出たら、かかりつけの産婦人科医院を予約しよう。
妊婦検診
通常、31週までは4週間に1回、32週からは2週間に1回、出産予定日を過ぎると2日に1回の妊婦検診が行われる。週数 (Schwangerschaftswoche=SSW)の数え方が日本とドイツでは違い、日本は0週目から、ドイツは1週目から始まるため1週間のずれがある。妊娠期間は、初期(1.Trimester:1〜12週)、中期(2.Trimester:13〜27週)、後期(3. Trimester:28〜40週)に分けられる。
ドイツの母子手帳「Mutterpass」
日本の母子手帳との一番の違いは、母親の妊娠の経過を記録するカルテの役割を果たすこと。医師が記録するもので、母親が記入する欄はない。これさえあれば緊急時にどこの病院でも受け入れてもらえるので、妊娠中は肌身離さず携帯しよう。
出産費用について
ドイツでは、出産までに最低限必要とされる費用は全て公的健康保険でカバーされる。有料となるのは、胎児の染色体異常のスクリーニング検査や規定以上の超音波検診などの追加で行う検査、入院の際に個室を選んだ場合や家族も宿泊する場合、規定以上の産前産後のケア(ヨガや鍼治療など)を受けた場合など。
職場への報告
仕事をしている妊婦の場合、適切なタイミングで職場への妊娠報告をすることになる。安定期に入ってからという人もいれば、つわりなどによる体調不良や、仕事内容に母体に影響を及ぼすような作業がある場合などは、なるべく早い段階で報告するという人も。どのくらい育児休暇を取るか、産後はどのような働き方を希望するかなど、雇用主と具体的にすり合わせをしよう。
ドイツにおける妊娠中の労働者の主な権利
- 母性保護法(Mutterschutzgesetz)が適用されるのは、雇用主やフリーランス、自営業者、学生、公務員以外の、会社と雇用契約(正規社員だけでなく、アルバイトや研修生等も含む)を結ぶ妊婦
※公務員には別の法規が適用される - 妊婦健診などの公的健康保険でカバーされている受診は、勤務時間内に行くことが許される(給与から差し引かれない)
- 妊娠中~産後4カ月は解雇されない
- 有毒物質や放射性物質を扱う作業や、定期的に5キロ以上の重さの荷を持ち運ぶ作業、一定のスピードが求められる流れ作業など、妊婦や胎児に負担となる作業は免除される
- 産前6週間~産後8週間(多胎の場合や早産の場合は産後12週間)は、母性保護期間(Mutterschutzfrist)とされ、就業から免除される。なお手取り額分は、母親手当(Mutterschaftsgeld)にて全額保障される。母親手当については後述
※母性保護期間も、妊婦本人が希望すれば就業可能。また、その就業希望については、いつでも撤回できる
へバメ(Hebamme)を探す
ドイツでは、「ヘバメ」と呼ばれる助産師が、母子の産じょく期ケア(Wochenbett-Betreuung)のため自宅に来てくれる制度がある。へバメは、産後の思わぬトラブルや育児への疑問や不安をプロの視点からサポートしてくれる強い味方であり、これらの訪問サポートは全て保険適用。産婦人科で紹介してもらうほか、口コミやインターネットサイト「www.kidsgo.de」や「Hebammesuche.de」などを通じで探し、自身でコンタクトを取る。昨今ではヘバメ不足が深刻化しているため、なるべく早くへバメ探しを開始しよう。
妊娠中期(2. Trimester:13〜27週)
出産準備講座(Geburtsvorbereitungskurs)に参加する
妊娠から出産、赤ちゃんの世話の仕方など、妊婦やパートナーを対象に各病院や助産師が開催する講座。25〜29週ごろに受講するのが一般的。コースの開催期間にもよるが、参加人数が限られているので妊娠10~20週の間に申し込んでおこう。これからお兄さん・お姉さんになる子どもが、お母さんの体で何が起こっているのか、出産後の生活の変化などについて楽しく学べる「兄姉コース」(Geschwisterkurs)が開催されていることも。
赤ちゃんグッズの準備
ベビーベッドやベビーカー、おむつ台など、赤ちゃんのために準備するべきものはたくさん!すぐにサイズアウトしてしまう赤ちゃんの洋服は、ベビー用品フリーマーケットや、地域の家族センター(Familienzentrum)などでお下がりを調達するのもおすすめ。
小児科を見つけておく
赤ちゃんの1カ月健診は小児科(あるいは家庭医)で受けることになるため、かかりつけの小児科を妊娠中から探しておくとよい。医院によっては新患を受け入れていないこともあるため、事前にメールや電話で問い合わせよう。
歯の治療
妊娠中はホルモンの変化によって歯茎にトラブルが起きやすく、虫歯のリスクも高まるため、安定期に入ったら歯のチェックとクリーニングに行くのがおすすめ。赤ちゃんの歯科検診などについても、このタイミングでリサーチしておくのがよい。
保育園・幼稚園リサーチ
職場復帰を予定している場合は、産まれる前から子どもの預け先のリサーチを行う。公立・私立の保育園のほか、Tagesmutter/-vater(保育ママ・パパ)に預けるという選択肢がある。ドイツでも待機児童の問題があり、希望の園に入園できるかどうかは運(とコネ)次第。地域によっても保育園事情や申し込み方法が異なるので、お住まいの地域の担当窓口に確認しよう。
出産する病院を予約する
ドイツでは、妊婦検診を産婦人科医院で行い、分娩は病院で行うという分業制が一般的。どの病院でも分娩室の見学会(Kreißsaalführung)を行っているので、事前に見学することでお産を具体的にイメージしやすくなる。病院に出産の予約申し込みをするのは、出産予定日の1カ月前からという病院が多い。どのようなお産にしたいか具体的に要望があれば、バースプラン(出産計画)を病院の予約の際に伝えよう。
出産場所の違い
● 総合病院や大学病院(Krankenhaus)
自宅からの距離、分娩方法の選択肢、リスク出産への対応(新生児集中治療室の有無)、病院内やスタッフの雰囲気、母乳指導への積極性(母乳育児を希望する場合)などをポイントに、自分たちに合いそうな病院を選ぼう。
● 助産院(Geburtshaus)
薬剤を使わず、アットホームな雰囲気で自然なお産をサポートしてくれる。帝王切開での出産経験がある人や、多胎妊娠などのリスクが高い出産には適さない。
● そのほか
ほかにも、自宅出産(Hausgeburt)や産前の検診を担当した医師や助産師が付き添う出産(Beleggeburt)もある。
出産のスタイル
ドイツの病院・産院では、好きな姿勢で産めるフリースタイルの自然出産(Natürliche Geburt)が一般的。水中分娩(Wassergeburt)を希望する場合、対応していない病院もあるので注意。覚えておきたい単語は、吸引分娩(Saugglockengeburt)や帝王切開(Kaiserschnitt)、誘発分娩(Geburtseinleitung)。
ドイツの一般的な分娩室の様子。
薄暗い室内には、分娩台だけでなく、体を温めるための浴槽やバランスボール、
天井からつるされたひもなどがあり、自分に合った分娩の姿勢を探せる
無痛分娩という選択
ドイツでは、無痛分娩(硬膜外麻酔=PDA)も保険でカバーされる。お産当日、どうしても陣痛に耐えられないという場合に、病院での出産であれば対応可能。分娩予約の際などに、PDAについての書類をもらっておこう。またPDAを強く希望する場合は、入院後早めにそのことを助産師らに伝えておく。ただしお産の経過によっては、PDAを受けられないこともある。
妊娠後期(3. Trimester:28〜40週)
出産・入院バッグの準備
妊娠後期に入ったら、出産バッグと入院バッグをそれぞれ準備する。内容は日本のそれとほとんど同じだが、入院中の赤ちゃんの衣服やおむつ、そのほかのケア用品、母乳パッド、産じょくナプキンや使い捨てパンツ、授乳枕などは、基本的に病院にそろっているので持参しなくてよい。
出産バッグ
- 母子手帳
- 健康保険カード
- パスポート
- 汚れてもよい、丈が長めのTシャツ
- リップクリーム、水、のどあめなど(分娩中に乾燥を感じたり、のどが渇いたりすることがあるため)
- ヘアゴムやヘアバンド(髪が長い場合)
- スマートフォン、カメラ
- 分娩室で音楽をかけたい場合は、スピーカーやプレイリスト
※病院にある可能性が高いもの:マッサージオイル、水やお茶、マッサージボールなど
入院バッグ
- スリッパやサンダル(着脱しやすい室内履き)
- 温かい靴下
- 入院中の着脱が楽な服(授乳の際に便利な前開きのパジャマなど)
- バスローブかカーディガン(入院中にパジャマの上に着用)
- 授乳ブラ
- 出生届けの提出に必要な書類(婚姻証明、戸籍謄本など)
- 洗面道具や筆記用具など
- 退院時の赤ちゃんの服(または入院中に記念撮影をする際に着せたい服、下着から上着、帽子、ミトンまで)
- 退院時の母親の服(サイズの目安は、妊娠6カ月くらいに着用していた服)
母親手当(Mutterschaftsgeld)の申請
働く女性は、出産予定日の6週間前から8週間後まで母親手当の受給権があり、手取り給与額が満額保障される。健康保険組合から1日13ユーロ、それ以外は会社から支払われる。母性保護期間に入る前に、医師または助産師から出産予定日が記された妊娠証明書(Zeugnis über den mutmaßlichen Tag der Entbindung)を、雇用主と健康保険会社(プライベート保険の場合は Bundesversicherungsamtへ)に提出する。なおフリーランスの場合でも、公的健康保険に任意加入しているか、芸術家社会保障(Künstlersozialkasse)に加入している場合は母親手当の受給権がある。
出生届の準備
ドイツで出産する場合、両親とも日本人の場合でもまずはドイツで出生届を提出する。出生届用紙や両親のパスポート・滞在許可証に加え、両親それぞれの出生証明書(Geburtsurkunde)、婚姻証明書(Heiratsurkunde)の原本が必要。出産予定日の2〜3カ月前までには日本から戸籍謄本の原本(3カ月有効)を取り寄せ、これを根拠に大使館や領事館でドイツ語の書類を作成してもらう。自治体によっては、アポスティーユ(公印確認)や認証翻訳が必要な場合もあるため、事前に担当窓口で必要書類について確認しておくとよい。婚姻関係にないパートナー同士の場合は、父親による認知(Vaterschaftsanerkennung)と親権宣言(Sorgeerklärung)が必要になる。
産後の申請書類の準備
産後は想像以上に机に向かう時間が取れないもの。両親手当(Elterngeld)や子ども手当(Kindergeld)など、産後すぐに申請しなければならない各種申請用紙は、埋められる限り記入しておこう。
出産・入院
いよいよ出産!
規則的な陣痛など出産の兆候が見られたら、出産・入院バッグを持って病院へ。破水した場合や大量の出血がある場合などは救急車を呼ぶ(10ユーロ前後の自己負担あり)。タクシーは、場合によっては断られることがある。緊急の場合以外、一般的に問い合わせ先は分娩室。病院によっては直接、分娩室に来るよう指示されることもある。
カンガルーケア(Bonding)
ついにわが子が誕生! 生まれた直後、へその緒が付いた状態ですぐに母親の胸の上に。ドイツの多くの病院では、カンガルーケアの母子に与えるメリットが重視されている。帝王切開などで母親がすぐにカンガルーケアをできない場合は、父親が担当することも。
へその緒はどうする?
へその緒は、立ち会い出産をした父親が切ることが多い。日本では、へその緒をきりの箱に入れて大事に保管するが、ドイツではそういった習慣はない。取っておきたい場合は、前もって病院側に日本の習慣について説明し、「へその緒を10cmください」などと伝えておく。同様に産湯の習慣もないので、日本の風習にのっとったバースプランを実現したい場合は、しっかり相談しておこう。
母子同室での子育て開始
産後はすぐに母子同室となり、さっそく赤ちゃんの世話が始まる。短い入院期間中、病院の対応はあっさりしたもの。分からないことがあったり助けが必要だったりするときは、積極的に看護師に声を掛けよう。パートナーや家族も宿泊したい場合は、空きがあれば家族部屋に泊まれる(自己負担)。
出生届の提出
出生届は、入院中に病院で提出するか、7日以内に戸籍役場に提出する。その後、戸籍役場から受理の連絡が入り、出生証明書(Geburtsurkunde)をピックアップするか、もしくは自宅に郵送してもらう。出生証明書は、両親手当や子ども手当の申請、子どもが外国籍の場合はパスポート申請などにも必要になるため、あらかじめ原本の必要枚数を確認しておこう。
退院へ
ドイツの入院期間は短く、自然分娩で2~3日、帝王切開で3〜 6日(体調によって延長可能)。赤ちゃんが2回目の新生児検診(U2)を受け、母子共に問題がなければ退院へ。子ども手帳 (Kinder-Untersuchungsheft)、母子手帳、日照時間が少ないドイツで処方される赤ちゃん用のビタミンD(処方せんの場合も)などを持って帰宅する。母乳育児の場合、産婦人科や小児科に処方せんを出してもらい、薬局でさく乳機(Milchpumpen)をレンタルすることもできる。
退院後
ヘバメによる自宅訪問ケア
子どもが生まれたら、入院中にへバメに連絡し、退院後の自宅訪問の日取りを相談しておく。生後10日間は1日1回(特にサポートが必要な場合は1日2回)、生後8週間までに計16回、その後の授乳トラブルや離乳食相談に計4回まで訪問してもらうことができる。赤ちゃんの発育の様子、産後の傷のケア、授乳指導や沐もくよく浴指導、そして何より育児の不安や悩みを打ち明けられる相談相手として、精神面の支えになってくれる。
日本の出生届の提出
ドイツの出生証明書が手元に届いたら、日本への出生届を提出する。日本の出生届2通、ドイツの出生証明書2通、所定の様式による出生証明書の和訳2通(それぞれ1通は原本、もう1通はコピーで可)を大使館または領事館に提出する。提出後、日本の市区町村の戸籍に反映されるまでに4〜 6週間程度かかる。子どもが外国の国籍も取得している場合(父または母がドイツ国籍の場合など)は、出生届とともに日本の国籍を留保する意思を表示し、出生の日を含めて3カ月以内に届け出なければならない。これを過ぎてしまうと、日本国籍を喪失するので注意しよう。
子どものパスポート、ビザの申請
日本の出生届が受理され、戸籍に反映されたことを本籍地の役場に確認後、最新の戸籍謄本を取り寄せて子どものパスポートを申請する。なおパスポートの引き取りには、本人(赤ちゃん)を窓口に連れていく必要がある。パスポートができる時期を見計らって、外国人局でビザの申請手続きも進める。
子どもの保険の加入
公的健康保険では、子どもは生まれた瞬間から健康保険が適用され、無料で家族加入ができる。また、保険カードが1カ月検診に間に合わなくても、後から自己負担分を請求できる。
1カ月検診と産後検診
子どもの1カ月検診(U3)は、退院後早めに小児科を予約する。またドイツの産後検診は産後6〜8週ごろに産婦人科で行われるため、こちらも退院後に予約しておこう。出産前に通っていた産婦人科に行き、検診の際にあらためて出産の報告をする。
補助金関連の申請
母親手当の産後申請
出生証明書をはじめとする必要書類を健康保険会社に提出すると、産後8週間分の母親手当を受給できる。
育児休暇と両親手当の申請
産後3年以内に取得できる育児休暇(Elternzeit)は、開始8週間前までに、職場に書面で申請する。両親手当(Elterngeld)を受給するためには、出生証明書と申請書類、所得証明などを合わせて管轄の課に提出する。
両親手当の種類
❶ 両親手当ベーシック(Basiselterngeld)
育児休暇の取得中、子どもが生まれる前の手取り賃金の67%を受け取れる。両親合わせて最長14カ月の受給が可能。
❷ 両親手当プラス(Elterngeldplus)
週32時間までのパートタイム勤務をしつつ、両親手当を受給することができる。両親手当ベーシックの半分の金額を両親合わせて最大24カ月受け取ることができる。ベーシックとプラスを組み合わせることも可能。
❸ パートナーボーナス(Partnerschaftsbonus)
母親と父親両方が週32時間までのパートタイムで働いている場合、両親手当プラスを最大4カ月追加で受け取ることができる。
子ども手当の申請
子どもが生まれた月から18歳(学生の場合は25歳)まで、2024年時点では1人当たり月額250ユーロが支給される。こちらは申請書と出生証明書、その他必要書類を労働局の家族公庫(Familienkasse)に提出する。
その他の申請できる補助金
上記のほかにも、両親の収入状況などによっては追加児童手当(Kinderzuschlag)、住宅手当(Wohngeld)、ひとり親の場合はひとり親支援(Unterhaltsvorschuss)などが得られる。どのような補助金を申請できるかについては、各自治体に相談窓口が設置されている。
産後コースや赤ちゃんサークルへの参加
生活が少しずつ落ち着いてきたら、産後8~10週後からの参加が勧められている産じょく体操(Rückbildungsgymnastik、保険適用)や、ベビーマッサージのコースに参加するのも◎。同じ境遇の新米・先輩ママとの交流や情報交換の場になっている。また家族センターなどでは、赤ちゃんが遊べる「はいはいサークル」(Krabbelgruppe)や、離乳食にまつわる講座などが定期的に開かれているので、赤ちゃんを連れてぜひ出かけてみよう。
日本とドイツでこんなに違う!ドイツで出産した先輩ママ&パパたちの声
ドイツで妊娠・出産を経験した先輩ママ&パパたちに、ドイツならではの妊娠・出産事情をはじめ、日本から持ってきて良かったものや、へバメさんとの関係性など、さまざまな体験を語ってもらった。大切なのは、日本とドイツ、どちらのやり方が正しいかではなく、違いを踏まえた上でどのような選択をしていくか。先輩ママ&パパたちのリアルな声を、ぜひ参考にしてみて。
※あくまで個人の経験に基づいた情報です。
お話を聞いた先輩ママ&パパ
•ベルリン在住
•日日家庭
•双子(現在7歳)をドイツで出産
•ヴィースバーデン在住
•日欧家庭
•1人目(現在11歳)は日本、2人目(現在9歳)はドイツで出産
•ハンブルク在住
•日独家庭
•30年以上前に1人目を日本、2・3人目をドイツで出産。孫(現在3歳)もドイツで誕生
•デュッセルドルフ在住
•日日家庭
•2人(現在3歳と0歳)をドイツで出産
•ライプツィヒ在住
•日日家庭
•1人(現在0歳)をドイツで出産
Qドイツで妊娠・出産をして良かったことは?
健康保険でさまざまな費用がカバー
Aさん:公的健康保険で、検診や出産、産後の入院の費用、全てがカバーされること。またフリーランサーでも、出産準備期間や育児休暇に手当金が受給できたことが何より助かりましたし、心強かったです。産後のケアも充実。産後の体調不良などで育児に支障を来すほどの状況に陥った親へのサポートとして、家事代行サービスの費用を健康保険がカバーしてくれました。また産後の尿もれに悩んでいましたが、妊娠によって伸びきった骨盤底筋を鍛えるトレーニングコースを受講し、その費用も保険で全てカバーされました。
いい意味で適当なところ
Bさん:日本では妊娠中、体重が増えすぎないよう注意されましたが、ドイツでは全く何もありませんでした。また1人目は日本で出産しましたが、「〇時間おきに必ず起きて授乳してください」、「おしっこやうんちを見て健康チェックをしてください」など、健康管理を徹底することを教えてもらいました。一方、ドイツで出産した2人目のとき、出産2日目に子どもが授乳時間になっても起きず、不安になっていることを病院側に伝えると、「寝たいのだから、寝かせてあげたらいいんじゃない」と言われただけ。この一言で、私は気が楽になりました。
妊婦さん・子どもに寛容な社会
Bさん:子どもが泣いていたりすると、知らない人がそっと手伝ってくれるなど、街全体で子育てをしてくれているように感じることが多々あります。2人目を妊娠している時に、疲れ過ぎて上の子の幼稚園のお迎え時間を過ぎても寝てしまっていたことがありました。幼稚園の先生から連絡があり起きましたが、「大丈夫よ。分かるわ~。ゆっくり迎えに来てちょうだい」と言われただけでした。状況を温かく理解してくださって、とてもうれしかったです。
Dさん:おなかが目立つようになってからは電車やバスの座席はもちろん、スーパーのレジの順番を譲ってもらえることも多く、ドイツの人々の妊婦に対する優しさを感じました。日本では「慎重に」といわれがちなマタニティ期間の旅行も、ドイツの方が比較的寛容だと感じます。私自身も、第二子の時は体調を見ながらあちこちと旅行に行きました。
自然分娩か帝王切開かを選べたこと
Aさん:多胎出産は必ず帝王切開になると思っていましたが、私の病院では、自然分娩を推奨していました。出産予定日の4週前には誘発剤を用いて分娩する予定でしたが、私の場合はそれよりも早くに産気づいたため、誘発剤を使用することなく、自然分娩で出産しました。
Dさん:2人目を自然分娩で産めたのは良かったです。1人目は緊急帝王切開だったのですが、それと比べて産後の回復が随分と早かったので。日本では帝王切開歴がある場合、2人目以降も基本的には帝王切開になるそうですが、ドイツでは予定帝王切開にするか、自然分娩にトライするか、医師からそれぞれのメリットとリスクの説明を聞いて相談しました。
家族部屋に泊まれたこと
Eさん:病院のベッドに空きがあったため、出産の翌日から退院まで、家族3人で個室に泊まることができました。家族部屋は日本だと数十万円かかると聞いていましたが、私たちの場合、パートナーの宿泊費は一泊30ユーロでした(母親の分は保険でカバー)。出産後もずっと家族3人でいられて、かけがえのない時間でした。私たち以外にも、パートナーや上の子を含めて宿泊している家族も多くいました。
プロのカメラマンによる写真撮影
Eさん:生後2日目に、プロのカメラマンさんが赤ちゃんの写真撮影に来てくれました。さまざまな角度やポーズで撮ってもらい、後日、オンラインで注文するシステムでした(1枚好きなものをプレゼントしてもらえました!)。私やパートナーも撮影のアシスタントを務め、楽しかったです。
Q 反対に、大変だったことは?
各種申請や情報収集
Aさん:受診や各種申請をドイツ語でしなくてはならないのが大変でした。情報収集にも苦労しましたが、周りの経験のある友人たちにとても助けられました。
慣れないドイツの病院システム
Bさん:妊娠・出産に限らず、ドイツの病院ではどこでもそうだと思いますが、検診時には自分の体調や症状を細かく医師に伝えることをおすすめします。こちらから言わなければ、相手からは何も聞かれません。
Dさん:病室について、日本の大部屋は仕切りカーテンがあると思いますが、ドイツの病室(二人部屋)には特にカーテンでの仕切りなどがありません。結果的に話しやすい環境で良かったし、すぐに慣れましたが、最初は少し戸惑いました。
デュッセルドルフの入院先の病院にて(Dさん)
サポートに来てくれる家族のフォロー
Cさん:出産前後には、実家の母がドイツに来てくれました。とても助かった一方で、母とドイツ人夫との間に入ってそれぞれをフォローする必要があり、大変な面もありました。ドイツ人にとって子どもは夫婦二人で育てるもので、実家の親にはあまり頼らないし、口出しされるのを嫌がる傾向にあるかもしれません。日本は今でも里帰り出産の習慣がありますが、ドイツの人にはあまり理解できないかもと思いました。
Bさん:日本から来てくれた私の両親は一人で外出したり買い物に行ったりしてくれましたが、友人のなかには、親が一人で買い物などに行けなくて、逆にやることが増えて大変だと言っている人もいました。また欧州出身のパートナーの両親には、赤ちゃんと一緒の部屋で寝ていることにびっくりされたり(新生児から一人で寝かせるのが当たり前のようで)、授乳で疲れていたので夜早く寝ようとすると、「なぜ大人の時間を持たないのか」と不思議がられたり。いろいろな文化の違いがあるなと思いました。
入院食がパン・チーズ・ハム
Bさん:大変だったところは、やっぱり食事です。日本では「授乳は体力を奪うからしっかり食べましょう」と言われ、栄養バランスの良い食事が1日3食出ましたが、ドイツでは毎回パンとチーズで飽き飽きしました。
入院中の食事を大公開
Dさん:入院中のお昼ごはん。なぜか毎回デザートが二つ付いてきました
Dさん:夫による手作りの差し入れ。疲れた体におだしがうれしかったです
Eさん:帝王切開翌日の朝食
Eさん:妊娠中、ずっとがまんしていたお寿司を差し入れしてもらいました
Q 日本から持ってきて(送ってもらって)良かったものは?
サラシの腹帯
Aさん:日本から送ってもらったサラシの腹帯が役立ちました。一日一日大きくなるお腹のサイズに合わせて、まき具合を調整できるので便利でした。
ベビーサインの本
Bさん:出産祝いに友人が送ってくれて、子どもに言語を教えていくのにとても役に立ちました。わが家は夫がドイツ語圏出身ではないため、親それぞれが子どもと話す言語、夫婦間の言語、外出時の言語が異なります。子どもがまだ話せない頃から、私たちの違う言語を一つのベビーサインで伝えてくれたので、子どもの言葉の理解度を知ることもできました。
日本語の育児本&離乳食作り用の調理器具
Cさん:出産したのは大昔でネットもなかったので、妊娠、出産、育児関連の日本語の本を持ってきました。長男を日本で出産した時に買った、離乳食作り用の小さなおろし器、裏ごし器、果汁搾り器がセットになったものは、すごく便利でずっと使っていました。
日本のガーゼタオル
Dさん:ドイツには小さいサイズのものがなく、日本サイズがちょっとした吐き戻しを拭いたり、お風呂に入れない日の体を拭いたり、離乳食の際に口周りや手を拭いたりと万能です。
Q 育児休暇は取った?
育児と仕事のバランスを話し合うきっかけに
Aさん:私は産休と育休を、パートナーは育休を2カ月取りました。両親手当を申請する段階で、手当を受給できる最大14カ月間にどうやって二人で育児と仕事を交互に進めていくか、生活プランを事前によく話し合えたのは良かったです。
駐在員の場合は給付金なし
Dさん:うちの夫は1人目、2人目共に2週間の育休を取得しましたが、駐在員のため給付金はありませんでした。夫の会社のドイツ現地スタッフの方々は、2カ月取得するケースが多いようなので、日本よりもフォローが充実していると思います。
両親手当プラスを受給
Eさん:夫婦二人ともフリーランスですが、芸術家社会保障に加入しているため産休・育休ともに給付金を得ることができました。二人とも産後2カ月から仕事に復帰したい、かつ育児もできるだけ半分ずつ行いたいとの方針から、パートタイムで働きつつ給付できる、両親手当プラス(Elterngeld Plus)とパートナーボーナス(Partnerschaftsbonus)を受給しました。
まだまだ男女差があるドイツの育休事情
2023年にドイツ連邦情報局が6歳以下の子どもがいる20〜49歳の両親を対象に行った調査によると、女性の約4分の1が育児休暇を取得しているのに対し、父親はわずか1.8%。3歳以下の子どもがいる両親では、女性は43.9%、男性は3%だった。出産後に育児休暇を取得する男性は年々増えているが、一方、2022年の連邦人口研究所の分析によると、男性の平均育休期間は3.6カ月で、2カ月以上の育休を取得する父親は10%となっている。一方で女性は平均14.6カ月の育児休暇を取得している。日本よりも男性が育休を取りやすいイメージのあるドイツだが、その実情はというと、まだまだ男女差が大きいようだ。
参考:Statististches Bundesamt「Personen in Elternzeit」、tagesschau「Viele Männer nehmen nur zwei "Vätermonate"」
Q へバメの訪問サポート、実際どうだった?
現状に合ったアドバイスが受けられる
Aさん:ヘバメさんの指導のもと、ベッドやおむつ台の置き場所を決めたり、ベビーカーや授乳枕などを用意できたので心強かったです。ヘバメさん自身も双子の母なので、経験をいろいろと分けてもらったり、双子向けの割引サービスなどの情報も教えてもらったりしました。資格取得のための勉強をしっかりされているので、現状に合った育児方法やアドバイスをもらえましたし、職業として客観的に接してくれるので、遠慮なく頼りやすかったです。最長9カ月は訪問費用を健康保険が負担してくれるので、離乳食への移行の際も相談できて助かりました。
どうするか迷った時の指針に
Eさん:初めての育児で、毎日のように心配ごとや分からないことが出てくるので、それを毎日確認できるのがすごくありがたかったです。今の時代、ネット上にはさまざまな育児情報が溢れており、さらに日本とドイツでやり方が異なることも多いので惑わされることも多いかもしれません。夫婦で意見が異なるときや迷ったときは、へバメさんの意見を第一に信頼して、それに従ってやってみるという方針を夫婦間でも共有していました。
ドイツらしい自然派療法も
Aさん:うちのへバメさんは自然療法を推進している方で、子どもの舌が白く「鵞口瘡」になった際に、砂(医療用の特別なもの)を口に含ませるように言われたときは驚きました。
Dさん:赤ちゃんのお風呂は週に1回、入浴剤として、牛乳200ミリリットルとオリーブオイル少々を入れるようにへバメさんから指導されました。昔ながらの自然療法が体に合ったのか、3歳になった長女は今も肌が丈夫で肌トラブルがありません。赤ちゃんのおむつかぶれには紅茶、へその緒の掃除は母乳を垂らして綿棒でなど、ドイツならではの方法も伝授いただきました。
Eさん:うちのへバメさんは自然派で、お風呂の入浴剤として母乳、引っかき傷にも母乳、という感じでした。ほかにも、おむつかぶれには、医療用のウールを貼り付けることで通気性を良くして、羊毛のオイル成分で治癒するなど。また日本だと産後1カ月間は外出しないイメージでしたが、母子共に無理のない範囲であれば散歩してOKと言われ、気軽に外出できたのがうれしかったです。
寝返りの練習方法を指導してくれるへバメさん(Eさん)
そもそもヘバメが見つからず
Cさん:へバメ制度はとても良いですが、ドイツでは全国的に深刻なへバメ不足。早めに探すのは必須で、特に夏休みなどの休み期間中に出産が重なると、なかなか見つからないそうです。実際、うちの孫の出産のときは結局見つからず。何かあれば小児科や婦人科に相談できるものの、基本的には自分たちだけで乗り切ることになったそうです。
へバメさんとの相性は重要
Eさん:産後の1カ月間は、母子共にとても繊細な時期だと思います。自宅のベッドルームというプライベートな空間にへバメさんが毎日通ってくれるので、その人との相性はとても大事。私たちは幸い、とても良いへバメさんに出会えましたが、ある友人はへバメ探しが遅かったために、1人のへバメさんが担当するのではなく、数人のへバメさんが交代で訪問する形に。情報共有が不十分だったり、信頼関係を築くのが難しかったと言っていました。ほかにも、毎日へバメさんが来るのが苦痛になってしまい、途中で訪問サポートを断ったという知り合いも。妊娠中からへバメさんと面談し、お互いに相性を確認しておくのも大事だと思いました。