欧州最大規模の自動車見本市であるフランクフルト・モーターショーが9月17~27日に開催され、大盛況の内に幕を閉じた。63回目を迎えた今年のモーターショーの様子をモータージャーナリストの木村好宏氏に語っていただきます。
1947年生まれ、老体に鞭打って日本とドイツを起点に世界中を文字通り駆け巡る伯父さんモータージャーナリスト、自動車をベースに文化の相互理解をも目指している。そのためにFAZ(Frankfurter Allgemaine Zeitung)にも寄稿している。
昨年秋に発生したリーマン・ショックによって自動車バブルは崩壊し、モーターショーの有様も大きく変わってきた。メーカーによっては年頭から早々と採算の合わない市場への出展中止、あるいは縮小が発表された。
1月にはホンダや日産、そして三菱がフランクフルト・モーターショー(IAA)への参加取り止めを決定し、その直後に今度はドイツ・メーカーが一致して東京モーターショーへの不参加を表明した。それはまるで報復のようでもあったが、凄まじく落ち込んだ日本の輸入車市場を考えれば仕方のないことだろう。
さて、そんな状況下における今回のIAAのテーマは「自動車の電気化」だった。つまり、クルマがどれだけ電気の力を借りて燃費を上げ、同時に性能を上げるかということである。注目を集めたのは、ハイブリッドにプラグイン、そしてその究極が電気自動車(EV)である。
この分野では、トヨタがプリウスで圧倒的な存在感を誇っている。さらに三菱が世界初の量産電気自動車i-MIEV(それにしてもMIEV(F)とはずいぶんと妙な名前を付けたものだ)※、そしてホンダが廉価なインサイトを今回のショーへ持ち込み、その実行力の差を見せつけることができれば、ドイツを始めとする欧州メーカーの劣勢度は明らかになったはずなのだが、残念なことにそれは叶わなかった。
反対に、今回のショーではアウディ、BMW、フォルクスワーゲン、そしてメルセデス・ベンツらすべてのドイツ・メーカーが実用化はともあれ、実に様々な電化自動車を展示し、積極的に巻き返しを図っていた。
ドイツ・メーカーが主張するのは、「引き算のない自動車の電気化」である。つまり自動車での移動の質を落とさないハイブリッドでありEVなのだ。いくつか例を挙げるならば、「アウトバーンの高速走行でも性能や燃費が悪化しない」「電池の搭載によってトランクが狭くなったりしない」といった面で、電気化による弊害を感じさせないクルマである。
それがメルセデス・ベンツS500プラグイン・ハイブリッドであり、アウディe-tronやBMWヴィジョン・エフィシエント・ダイナミクスである。もちろん中には、「ホンマかいな?」と首をかしげざるを得ない幻想モノもある。電気化(ハイブリッドあるいはEV化)して もまだ時速200km以上でアウトバーンを疾走するという性能に固執しないで、そろそろゆっくり走るという方向に考え直しても良いのではないかとも思うのだが、高速移動性能を特権として確保したいドイツ・メーカーとしては、この砦は最後まで守り通すに違いない。
そしてこの国の一般国民は、アウトバーンで「そこのけ、そこのけ」の弱肉強食的な速度競争に虐げられ、文句を言いながらもIAA会場のメルセデス・カセドラル、あるいはBMW神殿へお参りして最高時速300kmを超えるスポーツカーにため息を漏らし、跪(ひざまず)くのだ。
そして結局、「いつかはこの私も、サッカーくじで大儲けをして追い越す側に回ってやる!」と願をかけるのである。
※MIEFは「淀んだ空気、悪臭」という意味のドイツ語。空気を汚さないEVなのに・・・・・・とドイツ人は笑う。
プジョーのEV『BB1』
来場者で溢れかえる会場。人垣で車が見えないほど
フォルクスワーゲンの『L1』。1.38リットルのディーゼル燃料で100kmの走行が可能
アウディのEV『e-tron』
BMWのコンセプトカー『Vision EfficientDynamics』。チーフデザイナーのエイドリアン・フォン・ホーイドング(写真右)と木村氏
レクサスのコンパクト・ハイブリットカー『LF-Ch』
スバルのブース
メルセデス・ベンツの新型モデル『SLS AMG』