2010年は、バンクーバー冬期五輪の開催年。そこで新年号では、活躍が期待されるドイツ・英国・フランスの代表選手に、今大会への意気込みなどについて、インタビューを実施した。ドイツからは、2度目の五輪出場で世界の頂点を目指すスノーボードの代表、アメリエ・コーバー選手に話を伺った。
©ZIENER / Oliver Hadji |
Amelie Kober 1987年11月16日生まれ、オーバーバイエルン地方バート・アイプリンク出身。166センチ。パラレル大回転のドイツ代表選手。現所属クラブはSCミースバッハ。12歳の時にスノーボードを始め、2005年に行われたゼルデン(オーストリア)でのW杯大回転2位、スノーボード選手として大会最年少の19歳で出場した06年のトリノ五輪、そして翌07年の世界選手権で銀メダルを獲得。昨季のW杯シリーズ・パラレル大回転で種目別優勝を果たした。趣味はサイクリング、ツーリングのほか、「危険」と言われるスポーツ全般。警官になるための資格も持つ。 www.amelie-kober.de |
これまでの世界大会ですでに数多くのメダルを獲得されていますが、表彰台に立つときの気分とはどんなものですか。
スポーツ選手にとって、勝利というのは常に特別な意味を持っています。勝利の瞬間は、何度味わっても素晴らしいと感じますね。成功を収めたときの快感は、言葉では言い表し難いものがあります。
今までの中で最も手ごたえを感じたのは、どの大会ですか。
昨季W杯、パラレル大回転での種目別優勝ですね。このときの勝利は、シーズン全体を通しての結果を反映するものでもあると思いますので。
昨季はW杯パラレル大回転通算5勝、今季も2009年10月のシーズン開幕戦を制覇し、好調を保っていますが、バンクーバーでの目標は何になりますか。
どんなスポーツ選手も、「勝つこと」を目標にしているのではないでしょうか。金であれ、銀であれ、銅であれ、私は今大会でメダルが取れたら、最高に嬉しいと思います。
五輪を含め、大会で勝つための秘訣は何だと思われますか。
オフ・シーズンのトレーニングですね。1日何時間も自転車をこいだり、トレーナーの指導の下、スポーツ・ジムで鍛えたり。大きな成功を収めるには、運も必要。また勝利をつかむためには、競技本番の日に向けて、精神的にも、体力的にもベストな状態を整えることが大切です。
国を代表するアスリートとして五輪に参加することを栄誉と感じますか。それとも重圧の方が大きいのでしょうか。
現在は、オリンピックに向けての精神的重圧がかなり大きいですが、普段はアスリートでいられることを嬉しく思っています。
オリンピックとほかの大会(W杯、世界選手権、欧州選手権)との違いは何ですか。
オリンピックでは、何もかもが特別です。例えば、ほかの競技の選手たちと同じ選手村で過ごすことなど。すべてにおいて規模が大きく、準備も完璧に整っています。また、メディアや観客の数もけた違いで、開催期間の約2週間は、世界中がウインター・スポーツにくぎ付けになりますよね。
ライバルは誰ですか。また注目する日本人選手はいますか。
ライバルは、たくさんいます。特に世界ランキングの上位15位くらいまでを占める選手たち。ドリス・ギュンターやハイディ・ノイルーナー、マリオン・クライナー(いずれもオーストリア)、ミシェル・ゴーゴン(米国)などといった選手たちです。日本人では、竹内智香選手に注目しています。彼女はドイツ語もとても上手なので、ドイツ語で話したりもします。
「私が望んだこと」であるという意識を
常に持っています。
スノーボードを始めたきっかけは何ですか。
両親の薦めで、子どもの頃はスキーをしていました。しかしいつからか、親に言われるがままではなく、もっと違うことをしたいと思うようになり、スノーボードを始めたのです。自分で決めた道を歩むというのは簡単なことではないですが、「私が望んだこと、したかったこと」であるという意識を常に持つようにしています。
出身地オーバーバイエルンは、ウインター・スポーツのメッカとして有名ですね。
私の故郷は自然環境に恵まれたとても美しい地で、いつも帰ることを楽しみにしている場所です。私はオーバーバイエルンのフィッシュバッハウという街で育ったのですが、そこでは学校の体育の授業にスキーが取り入れられています。
日本では、スノーボードは特に若者を中心に人気が高いスポーツです。ドイツでの知名度、人気度はいかがですか。
ドイツ女子代表チームは昨年、W杯パラレル大回転で4人が15位以内に入るという好成績を収めたにもかかわらず、この国におけるスノーボードへの注目度は、サッカーやほかのスキー競技に比べて低いというのが現状です。しかし、人気は近年徐々に高まりつつあり、競技場に足を運ぶ観客も増えています。
これまでに出した良い結果を思い起こすと、
レースが楽しみになります。
スノーボードの醍醐味を教えてください。
特に面白いと思うのは、大会などで遠征して、豊かな自然、様々な国や地域、文化に出会えることです。
そのほか、「1対1」で行われる決勝の方式も、とても魅力的だと思います。私が出場するスノーボードの種目、パラレル大回転では、予選で各選手が並行する2本のコースを順に滑り、その合計タイムで上位16位までの選手が決勝に進みます。決勝では、8組のペアによる1対1の勝ち抜き戦が行われます。つまり、2人の選手がまず同時スタートで1本目を滑り、次にコースを交代して2本目を滑走します。その際、1本目でタイムが遅かった方の選手は、その分だけ遅れてスタートするというハンディキャップを負います。そして、2本目で先にゴールした選手が次のレースに進めるというわけです。優勝決定戦まで、この方式が続きます。この1対1で行うKO戦のスリリングなレース展開には、選手にとっても、観客にとっても、手に汗握る面白さがあると思います。
大会の前、集中力を高めるために何をしますか。
いろいろなことを考えます。たいていは、これまでに出した良い結果を思い起こしますね。そうすると目前のレースが楽しみになります。何はともあれ、これまで思い描いてきた夢を実現できるのですから!
この競技で、1番辛いことは何ですか。
時々ですが、毎日のトレーニングを辛く感じてしまうことがあります。ほかの職業においてもそうだと思いますが、調子が良く、やることなすことすべてがうまくいくときがあれば、モチベーションが上がらないときも当然あります。でも、不調を乗り越えたときは、すがすがしい気分になれますからね。私の場合、勝つことでモチベーションが上がります。いずれにしても、トレーニングは、勝つために必要最低限のことだと思っていますよ。
競技中のけがを恐れたりはしませんか。
怖いと思ったことはありません。これまでにけがをしたこともありますが、競技中はそのことは考えないようにしています。自分にはスピード狂としての面があるし、スノーボードは私の人生の一部なので。それに、人はけがや失敗から学んで強くなるのだと思います。
ご自身にとって、今の技術的、精神的な課題は何ですか。
技術的な長所や短所は自分では判断できませんが、自分のやり方を貫くこと、常に良いコンディションを保つことを心掛けています。また、勝とうが負けようが、自分を支えてくれている大切な家族に何でも話すようにしています。
タイムを上げるために、トレーニング以外で重視していることは何ですか。
基礎体力トレーニングを最も大切にしていますが、そのほかに用具の調整も大事なポイントです。スノーボードの板は、主体となる木とそのほかの素材から作られています。どんな素材かは秘密ですけれど。雪の質に合わせ、板の底を削るなどの調整が必要になるのです。
オフの日は何をしていますか。
休みの日にはよくバイクに乗って走りますね。スポーツなら、とにかく何でもします。ほかには友達と会っておしゃべりをしたり。
あとどのくらい現役生活を続けたいと思いますか。
正確なことは言えませんが、1つ確かなこと、それは勝利を収めることができる限り、そして滑ることを楽しめる限り、現役であり続けたいと思っています。いつかは家庭を持ちたいですし、そうなるとシーズン中に大会で各地を移動することも簡単にはできなくなるでしょうからね。
ご自身にとって、スノーボードとは何ですか。
スノーボードは私にとって、1番好きなこと、やっていて楽しいと思うことです。それを毎日できて、とても幸せです。