ドイツの主要都市からひとっ飛びで行ける英国。
歴史的遺産からアート、
エンターテインメントまで、
魅力がいっぱい詰まったこの国へ、
度々旅行に出掛けるという人も多いだろう。
しかし、ガイドブックの案内に従って
観光名所を回るだけの旅行に、
もうそろそろ飽きていませんか?
本来ならば、「食う・寝る・遊ぶ」の
すべてに感動できることが
旅行の醍醐味だったはず。
今号では、英国ニュースダイジェスト編集部が、
そんな忘れかけていた非日常空間を訪れる
興奮と休日らしい静寂、
そして小さな冒険心を得られる
ナロー・ボートの旅を紹介します。
ナロー・ボートの旅案内人
ブラウン淳子さん
イングランド中部ストラトフォード・アポン・エイボン近郊でナロー・ボートの旅を提供する「Narrow Boat Guide」の経営者。ナロー・ボート運行経営を手掛けてすでに13年。ご主人のアンディーさんと愛犬のプークと一緒に、ほぼ1年中、ナロー・ボートの中での生活を営んでいる。
船幅が7フィート(約2メートル)未満の狭いボートのこと。鉄道や自動車といった交通手段が発達していなかった時代には、石材や氷、石炭などを運搬するための交通路として運河が造られた。必要最小限の幅しか確保されない傾向のある運河を渡るのに適した交通手段として製造されたのが、ナロー・ボート。実は英国は運河大国であり、一説によると、国中に張り巡らされた航行可能な運河の総距離は3500キロ。現在では娯楽としてナロー・ボートの旅に興じる人が多く存在する。
水の上で遊ぶ
産業革命の時代に英国で交通手段として発達したというナロー・ボートは、現代の英国では人気の娯楽施設になっている。日本ではまだあまり知られていないナロー・ボートの楽しみ方を英国滞在中に知るのも一興。
水上散策を楽しむ
人が歩く速さとほとんど変わらないスピードで進むナロー・ボートの旅は、いわば水上散策の時間。大自然の中を通る運河の上では、耳を澄ませば小鳥のさえずりが聞こえ、両岸には牧場で戯れる馬、牛、羊といった動物たちの姿が見られ、上方に手を伸ばせば木からりんごなどの果実をもぎ取って食べる、そんなひとときを過ごすことができる。
左)川岸にいる動物たちと目が合うこともしばしば
中央)ナロー・ボートの旅は、大自然の中を航行していく 写真右)プーク
ナロー・ボートを運転する
ヨットやクルーズ船と異なり、ナロー・ボートは、運転免許を必要とせず、しかも操作は驚くほど簡単。つまり、基本的な操縦法さえ教えてもらえれば、誰でもすぐに運転が可能だ。自分で操縦桿を握れば、幼いころに夢見た、航海に乗り出す冒険家の気持ちさえ味わうことができる。
初心者でもすぐに操縦できるようになる
左)プークが行き先を案内してくれる
ロックを動かす
人間の都合によって人工的に作られた運河では、高地から大海へと流れ込む自然の川にはない独特の仕組みが見られる。その1つが、急な高低差がある場所に設けられたロック(閘門)。扉の開け閉めによって水位を調整するこのロックの開閉も、ナロー・ボートの旅における楽しみの1つ。
ご主人のアンディーさんと一緒に、
プークもロックの開閉を手伝ってくれる
アクアダクトを渡る
ロックの開閉による水位の調整ではお手上げとなりそうな、非常に大きな高低差がある場所に架けられたのが、アクアダクト。まさに「水の橋」だ。水が空中に浮かんでいるかのような錯覚さえ覚えるこの非日常的な空間は、ナロー・ボートの旅のハイライト。上から見下ろすと、水でできた平均台のようにも見える。
左上)上から見下ろすと、水でできた平均台のようにも見える
右)145メートルの長さを誇るアクアダクトを渡るアンディーさんとプーク
水の上で寝る
かつて、石炭などを運ぶ長旅を行うために作られたナロー・ボートは、移動手段としてだけでなく、生活空間としての機能をも発達させた。狭く小さな船内には、意外にも充実した生活空間が広がっている。
左上)ホテルさながらの奇麗な洗面所にトイレ、シャワー・ルームまであってびっくり!
中央)寝室。右側は折りたたみ式のベッドになっている
右下)ナロー・ボート内部への入口は、屈まなければ頭をぶつけてしまうほどに小さい
左下)中に入ると、暖炉や電気プラグまで生活用品が完備されていて驚く
水の上で食べる
水上での睡眠から目を覚まして外を見ると、周囲のナロー・ボートの煙突から湯気が出ている。同じように起き出した船の住人たちが朝食の準備をしているようだ。この風景を眺めながら飲むコーヒーの味は格別。
左)朝食は淳子さんの手作り。船上で作られた料理を、船上で食す、非日常的な日常空間
右)船の上で焼き立てのパンを召し上がれ
ナロー・ボートとは別に、普通の家は持っていないのですか。
今、持っている家は、このナロー・ボートだけです!
ということは、住所はどこになるのでしょうか。
法律的には、私たちは「旅行者」という扱いになっているので住所はありません。郵便物などは、知り合いの家に送ってもらうようにしています。
ナロー・ボートは、どれくらい速く進むのですか。
時速約6.5キロ。人が歩くスピードよりちょっと速いぐらいです。ちなみにストラトフォード・アポン・エイボンからロンドンまで電車に乗ると2時間超。ナロー・ボートだと2週間掛かります。
現在使用されているナロー・ボートは、ご自身で造船されたと聞きましたが。
1年5カ月を掛けて、自分たちで造りました。万が一ボートが故障したときに適切な対処ができるように、自分たちで造船することが必要と考えてのことです。またナロー・ボートに設置される寝室はダブル・ベッドになっていることが多いのですが、過去に私たちのサービスをご利用いただいた日本人ご夫婦には、旅先でベッドを共有するのを敬遠される方が多くいらしたことなどを踏まえて、自前でツイン・ベッドを造ることにしました。
万が一、ボートから落ちてしまったときのことが怖いのですが、運河の深さはどのくらいなのでしょうか。
大人の人間の腰から胸の高さ程度なので、心配しなくて大丈夫ですよ!
トイレなどの下水はどう処理しているのですか。
飛行機に取り付けられているトイレと同じバキューム式になっていて、船内のタンクに一度溜めたものを、定期的に処理場に持って行き、処分しています。
電気はどうなっているのですか。
車と同じ仕組みで、エンジンが動いているときに発電し、バッテリーに蓄電します。また係留場によっては家庭用コンセントから常に充電できる設備もあります。
雨の日は、あまりナロー・ボートの旅を楽しむことができないのでしょうか。
色々な天気を楽しむことができるのがナロー・ボートだと思います。雨の日でもナロー・ボートで行楽をしている人はいっぱいいますよ!
シーズン・オフには何をしていますか。
ナロー・ボートの補修工事や、ほかのナロー・ボートの持ち主から頼まれたボートのペンキ塗りの仕事などを請け負っています。
ナロー・ボートの中で暮らす際に、どんなことに最も気を付けていますか。
節水と節電に気を付けています。水は貯水タンク、電気はバッテリーに蓄電なので、水道管や電線につながった陸の家とは、事情は大分異なります。自ずと節電、節水の生活になってきます。
取材でお世話になったのは、英国内でナロー・ボート運行経営を行う唯一の日本人と思われるブラウン淳子さんの「Narrow Boat Guide」。誌面の都合につき。すべては紹介しきれなかったが、その他、淳子さんの解説によるナロー・ボートの歴史に関するクイズや、お勧めのパブでの食事なども日程に含まれている。また、今回は1泊2日のコースを取材したが、数時間のショート・クルーズや希望の日程に合わせてルートを作成してくれるプライベート・チャーターなども用意しているとのこと。詳細は下記までお問い合わせを。
ナロー・ボートの旅1泊2日の日程例
1日目 | 16:30 | Wilmcote(Stratford upon Avon駅から1駅)駅より出発 |
18:30 | Wootton Wawen (Warwickshireで一番古い教会のある村)に停泊 | |
19:30 | パブにて夕食後、ナロー・ボート内に宿泊 | |
2日目 | 8:00 | ナロー・ボートにて朝食 |
9:00 | Wootton Wawenの停泊所を出発 | |
11:30 | Wilmcote駅に到着、解散 |
*日程は状況に応じて変更されます。
Narrow Boat Guide
インターネットがつながりにくい場所をクルーズしている場合などは、返信に数日かかってしまうこともあるとのこと
1泊2日コース 料金: £135(子ども£87)
*料金にはパブでのディナーと翌朝の朝食代が含まれます。
Tel: +44 (0)7899 998 334
E-mail:
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www.narrowboatguide.co.uk