凍えるように寒いドイツの冬。
白い息を吐き、冷たい頬に手を当てれば、
思わず肩がすくみ、家路に向かう足取りも速くなる。
でも、クリスマスマーケットで過ごすひとときは違う。
ここではグリューワインを飲みながら、
1分でも長くその場にいたいと思ってしまう。
この場所には、そんな魔法が掛かっているのだ。
いつの時代も、その楽しい時間と思い出が、
暗くて長い冬を乗り越えさせてくれたに違いない。
名所のクリスマスマーケットを、
その町の歴史をたどりながら見ていこう。
(編集部:山口 理恵)
偉人が暮らした街のマーケット
偉大な功績を残した人々が暮らしていた町は、その様々な出来事をただ静かに見守ってきた。その記憶が刻まれた町のクリスマスマーケットは、歴史を感じながら歩けば、
きっと奥深いものに見えるだろう。
ルターの宗教改革を可能にした地
1. Wartburg - Eisenach ヴァルトブルク ‐ アイゼナハ
宗教改革の祖マルティン・ルターは1521年から約1年間、ユンカー・ヨルクという偽名でアイゼナハ近郊のヴァルトブルク城に隠遁(いんとん)し、ギリシア語版新約聖書をドイツ語に翻訳した。翻訳に掛かった時間は実に11週間足らずだったという。それに先立つ1498年から3年間、彼はアイゼナハのラテン語学校で学び、地元貴族の邸宅に居候し、ゲオルク教会で布教活動を行うなど、もともとこの地と縁が深かった。この世界遺産に登録されているヴァルトブルク城で開かれるクリスマスマーケットは、まるで中世の世界そのもの。手作りのろうそくや石けん、すず職人の作品なども販売。ここでは、ルターとその歴史が、身近に感じられるだろう。
バッハ「カンタータ」の生誕地
2. Leipzig ライプツィヒ
11月26日(火)17:00~21:00、
11月27日(水)~12月22日(日)10:00~21:00、
12月23日(月)10:00~20:00
Marktplatz
www.leipzigerweihnachtsmarkt.de
1723年、ライプツィヒの聖トーマス教会のカントル(教会音楽家)に就任したヨハン・セバスティアン・バッハ。この前年に教会のカントルが亡くなったことで、教会は著名な作曲家テレマンの招へいを試みるが、ハンブルクでの職の方が高給だからという理由で辞退される。次の候補者は、作曲家兼チェンバロ奏者として名を馳せていたグラウプナー。しかし彼にも断られ、最後にバッハに落ち着いたというのが就任の経緯。そしてバッハは教会の要望に応え、新しい教会カンタータを次々と生み出す偉業を成し遂げた。バッハゆかりの聖トーマス教会では、アドヴェント(待降節)期間中、様々なコンサートが開催される(www.thomaskirche.org)。
文豪ゲーテが恋をした場所
3. Weimar ヴァイマール
11月26日(火)~1月5日(日)11:00~20:00
金土11:00~21:00
12月24・25日、1月1日は休み
Markt, Theaterplatz, Schillerstraße
www.weimar-tourist.de/weihnachtsmarkt
作家や詩人として知られるヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテは、シラーと共にドイツ古典文学を代表する存在だ。『若きウェルテルの悩み』を出版した彼は、翌年から約10年間、ワイマール公国のアウグスト公に請われ、この国の閣僚的役割を務めていた。恋多きゲーテが創作活動を休止してまでもこの地に留まったのは、そこにいた恋人の存在が大きかったせいだろうか。ゲーテが、ここで執筆に精を出していた1815年から続くヴァイマールのクリスマスマーケットのハイライトは、市庁舎前の巨大アドヴェント・カレンダー。毎日18:00からは、クリスマス音楽を奏でるライブが開催される。ゲーテも生前、このマーケットを訪れていただろうか。
夢の乗り物の原点がここにある
4. Aachen アーヘン
宮崎駿監督の最新作『風立ちぬ』で、主人公・堀越二郎がドイツの飛行機製造工場を訪れた際、自由な見学を許可した人物として描かれているのが、フーゴ・ユンカース。発動機・航空機メーカー、ユンカースの創始者だ。彼は1883年にアーヘン工科大学で機械工学を修めた後、同大学で教鞭を執りつつ、ディーゼルエンジンなどを開発。そして飛行機の製造へと本格的に乗り出して行ったという。アーヘンのクリスマスマーケットは、オランダとベルギーとの国境近くにあるためか、異国情緒が漂う。1820年に生まれたアーヘン特産のクリスマス菓子「プリンテン」は世界中の人々に愛され続けており、このマーケットでは新鮮なものがゲットできる。
ヘッセの才能が開花した地
5. Tübingen テュービンゲン
1895~99年、後にドイツを代表する作家となるヘルマン・ヘッセは、テュービンゲンの本屋で見習いとして働いていた。彼がここへやって来た理由は、両親の監視から逃れるため。宣教師であった父が、彼の小説や詩作活動を好まなかったのである。彼は店頭で仕事をする以外は、部屋にこもって古典やゲーテなどの精読に没頭し、ここで初めて自由を得て、徐々に作品を発表し始めたのである。この本屋は、今なお現存する(Heckenhauerische Buchhandlung、Holzmarkt)。3日間だけ開催されるテュービンゲンのクリスマスマーケットでは、ほとんどのスタンドが個人による出店。食べ物や販売されている商品は手作りのものばかり。
歴史ある哲学の町
6. Freiburg フライブルク
11月25日(月)~12月23日(月)10:00~20:30
日11:30~19:30
Rathaus, Unterlindenplatz, Kartoffelmarkt
www.weihnachtsmarkt.freiburg.de
1916~28年、哲学者エトムント・フッサールは、フライブルク大学哲学科で教鞭を執り、現役を退いた。その後、ナチス政権の台頭により、ユダヤ人であった彼の肩書きや特権は剥奪され、彼はこの地で思い半ばに生涯を閉じた。またフライブルクといえば、哲学者ハイデッガーと彼の教え子かつ恋人であった政治思想家ハンナ・アーレントとの許されざる恋の一舞台。このロマンチックなフライブルクのクリスマスマーケットは、公共放送MDRのアンケートで、ドイツで最も美しいマーケットに選ばれたことがあるほど。アドヴェント期間中、大聖堂では少年少女によるコンサートも開催。マーケットのハイライトは12月7日、松明の明かりで町を練り歩く鉱山パレード。
外せない有名どころのマーケット
気にはなっているけれど、まだ訪れたことがない……という有名どころのマーケットも、意外と多いのでは?
ここでご紹介するマーケットはすべて、あなたを満ち足りた気分にさせてくれること間違いなし!
7. Lübeck リューベック
世界遺産となっている美しい旧市街を舞台に、リューベックのクリスマスマーケットは開かれる。ここを訪れたなら、マルクト近くのブッデンブローク邸(Buddenbrookhaus)にもぜひ立ち寄ってみたい。ここは作家トーマス・マンが所有した家。現在は博物館として公開されており、マーケットの期間中は、18:00から朗読会や見学ツアーなどのイベントを開催。
11月25日(月)~12月30日(月)11:00~21:00
金土11:00~22:00
11月29日11:00~23:00、
12月24日11:00~14:00、25日は休み
Rathausmarkt, Breite Straße
www.luebecker-weihnachtsmarkt.de
8. Hamburg ハンブルク
巡回サーカス、ロンカリ(Roncalli)の監督がプロデュースする今年のハンブルクのクリスマスマーケットは、ほかとはひと味違う。ハイライトは、おもちゃを販売するエリア。世界中から集められたおもちゃを前にしたら、大人だって胸の高鳴りを抑えられないだろう。毎日16:00、18:00、20:00には、そりに乗ったサンタクロースが市庁舎前広場の空を飛ぶ!期間中の毎週土曜日は、恒例のパレードも開催。
11月26日(火)~12月23日(月)11:00~21:00
金土11:00~22:00
Rathausmarkt
www.hamburg.de/weihnachtsmarkt
9. Berlin ベルリン
16世紀初頭に始まったとされるベルリンのクリスマスマーケット。大戦後、分割統治下でマーケットが再開されたのは1950年。場所は、カイザー・ヴィルヘルム記念教会前、シュパンダウ、ヴェディング地区だったという。今年は、市内中心部だけでも14カ所で開催される。ちなみに、昨年度の人気ナンバー1に輝いたのはジャンダルメンマルクトのマーケット。屋台料理には有名レストランやホテルからの出店も。
Gedächtniskirche、Vor dem Roten Rathaus、Alexanderplatzなど
期間、会場等は下記ウェブサイトを参照
www.berlin.de/orte/weihnachtsmaerkte
10. Dortmund ドルトムント
今回で115回目を迎えるドルトムントのクリスマスマーケット。今年もグリュ―ワインのマグ・デザインは一新され、コレクターには見逃せない。高さ45メートル超のツリーを囲む約300の屋台では、膨大な数のおもちゃに圧倒される。25日の18:00には、このクリスマスツリーに4万8000個のライトが点灯される。その場に居合わせれば、感嘆の声を上げずにはいられないだろう。
11月21日(木)~12月23日(月)10:00~21:00
金土10:00~22:00
日12:00~21:00
Hansaplatz, Alter Market
11. Essen エッセン
広大なケネディー広場のマーケットは、「インターナショナル」と名乗るにふさわしく様々な国々の商品が並ぶ。特筆すべきは屋台料理。定番料理のみならず、ポーランドやフランス、オランダ、アラブ諸国の名物料理が食べられ、目も舌も楽しませてくれるマーケット。フラックス広場のマーケットは一転、中世の香りが漂う。
11月21日(木)~12月23日(月)11:00~21:00
金土11:00~22:00 11月24日18:00~22:00
Kennedyplatz, Willy-Brandt-Platz, Rathenaustraße, Flachsmarkt
weihnachtsmarkt.essen.de
12. Düsseldorf デュッセルドルフ
街中が華やかに飾られ、まるで冬のおとぎの国に紛れ込んだかのような感動を覚えるデュッセルドルフのクリスマスマーケット。市内7カ所で開催されるマーケットは、それぞれ異なる演出で訪れる者を楽しませてくれる。特に人気が高いのは、光の並木道がロマンチックなケーニヒスアレー。グスタフ=グリュンドゲンス広場には450㎡の無料スケートリンクが開設される。
11月21日(木)~12月23日(月)11:00~20:00
金土~21:00 11月24日は休み
Marktplatz, Schadowplatz、Heinrich-Heine-Platzほか
www.duesseldorf-weihnachtsmarkt.de
13. Köln ケルン
1248年に着工されたケルン大聖堂。時代を経てすすけた、圧倒的な存在感の大聖堂の脇に、真っ赤な屋根の屋台がずらりと並ぶ景色は、赤と黒のコントラストが優美。広場には高さ25メートルのもみの木が設置され、特設ステージ上の光のテントには7000個ものLED電球が灯される。このほか、街中を歩き回れば、厳かな雰囲気のマーケットにも出会える。
11月25日(月)~12月23日(月)10:00~21:00
木金11:00~22:00 土10:00~22:00
Kölner Dom、Alter Markt, Rudolfplatzほか www.koelnerweihnachtsmarkt.de
14. Kassel カッセル
グリム兄弟ゆかりの当地のマーケットが「メルヘンクリスマスマーケット」と称されるようになったのは、1975年以降のこと。今年のテーマはグリム童話の「兄と妹」。ガイドとマーケットを回るツアー「Kassel im Lichterglanz」も毎週金曜18:00から開催(7ユーロ)。
11月25日(月)~12月30日(月)11:00~20:00
(飲食屋台は22:00まで)
12月24、25日は休み
Königsplatz, Friedrichsplatz, Karlsplatz, Opernplatz
www.weihnachtsmarkt-kassel.de
Rathausmarkt, Breite Straße
www.luebecker-weihnachtsmarkt.de
15. Dresden ドレスデン
シュトレンで有名なアルトマルクトのマーケット。1600年代初頭、ここには肉の市場が立っていたが、そのうち肉以外の商品も売ろうということなり、その1つに挙がったのがシュトレン。このシュトレンがことのほか美味だったため、人々はここを、当地でシュトレンを指す言葉にちなんで「シュトリーツェルマルクト」と呼ぶようになったそうだ。
11月27日16:00~21:00
11月28日(木)~12月24日(火)10:00~21:00
12月13日10:00~23:00
Altmarkt
www.striezel-markt.de
16. Frankfurt フランクフルト
フランクフルトのクリスマスマーケットは1393年、聖書の神秘劇が行われたことに由来する。1498年にはクリスマスマーケットで、当地の伯爵の結婚式が盛大に執り行われたという。ちなみに、広場にツリーを据え、装飾を施すようになったのは19世紀初頭のこと。高層ビルが建ち並ぶモダンな金融街フランクフルトに、こんなクリスマスの歴史があったとは。
11月27日(水)~12月22日(日)10:00~21:00
日11:00~21:00
Römerberg, Paulsplatz, Mainkai
www.frankfurt-tourismus.de
17. Nürnberg ニュルンベルク
世界一有名なニュルンベルクのクリスマスマーケットは、16世紀半ばにはすでにその前身があったとされるが、史料に登場するのは1628年のものが最古。「1628年、Kindles-Marck」と記された19センチほどの木箱が、市内のゲルマン国立博物館に所蔵されている。その木箱には、何か素敵なプレゼントが入っていたのだろうか……。
11月29日(金)~12月24日(火)10:00~21:00
12月24日10:00~14:00
Hauptmarkt
www.christkindlesmarkt.de
18. München ミュンヘン
クリスマスマーケットの期間中、ノイハウザー通り(Neuhauser Straße)には、ドイツ最大と言われるクリッペ市場が出現。クリッペとは、キリスト降誕の情景を木彫りや粘土で模したジオラマのこと。南チロル、オーバーアマガウ地方やエルツ山地で作られた大小様々なクリッペがずらりと並ぶ。
11月25日(月)~12月24日(火)10:30~21:00
日10:30~20:00
12月24日10:00~14:00
Marienplatz www.muenchen.de/themen/weihnachtsmaerkte