ドイツの挑戦!
再生可能エネルギーと
共に生きる
環境先進国といわれるドイツでは現在、2050年に再生可能エネルギーの発電比率を80%に引き上げることを目標に、連邦・州政府、市民が一丸となってまい進している。脱原子力、脱石炭は、ドイツ市民の未来への投資。日常生活の中では、電気料金の値上げ通知や、街の風景の変化に、その片鱗を見ることができるが、今回の特集ではドイツの現状と、より身近に「再生可能エネルギー」を感じられるお勧めのスポットをご紹介する。Eモビリティーに乗って、エコツーリズムに出発!(編集部:高橋 萌)
数字から見る
ドイツのエネルギー転換の今
以下全てのグラフ ⓒAgentur für Erneuerbare Energien e.V.
31.6%電力消費における
再生可能エネルギーの割合
最終電力消費における再生可能エネルギーの割合を2050年までに80%に引き上げるという目標を掲げている(日本は2030年に24%)ドイツで2015年、再生可能エネの割合が初めて3割を突破(日本は12.6%・自然エネルギー白書2015)。現在、「100%再生可能エネルギー地域」に認定されている自治体は90カ所。電力・暖房・交通の総エネルギー消費における再生可能エネのシェアは、2050年までに60%を目指す。
14.2%年間発電量における
原子力発電の割合
2011年の時点で17基の原子炉があったドイツが、「2022年までに原子力発電から完全撤退」を目指してから5年が経過した。現在は8基が稼動中で、全体の14.2%を原子力発電が占めている。2022年までの停止計画の通りに進めば、来年はバイエルン州にあるグンドレミンゲン原発Bが停止する。一方、日本の原子力発電の割合は、九州電力川内原子力発電所(鹿児島県)1号機が再起動するまで0%だった。
28 cent/
kwh一般家庭用電気料金の
平均単価
電気料金の内訳から、エネルギー政策の今が垣間見える。再生可能エネルギー賦課金は6.2セント/ kwhで、電気料金の5分の1以上を占める。この金額は、2000年に導入されてから年々上昇中。今後5年ほどで2~4セント/ kwh上昇し、その後は下降線をたどると予想されている。電気料金は、比較サイト(www.verivox.de)でも調べられる。再生可能エネの電力を選択するなら「Nur Ökostrom(エコ電力のみ)」にチェック!
93%再生可能エネルギーへの転換を
支持しているドイツ市民
エネルギー転換政策を支持している市民は9割以上。国民的な需要を受け、大手電力会社も再生可能エネの拡大、脱原発・脱石炭に向けて再編成を行っている。再生可能エネ関連の賦課金についても7割が妥当と判断。特に太陽光発電については、8割近い市民が、自宅付近に設置することを歓迎している。一方で、原子力発電所を歓迎する市民は4%。ドイツの市民が自ら選ぶ未来は、クリーンでグリーンな自然エネルギー社会。
アンケート調査
❶ 再生可能エネルギーの活用と拡充の強化について、どう考えますか?
❷ 自宅の近隣に発電所が出来るとしたら? 「良い」「どちらかと言えば良い」と回答した割合
あなたの街の近くにも!
再生可能エネルギーを体験できるスポット
毎日の生活に欠かせないものなのに、なかなか実感できないエネルギーのこと。一歩を踏み出すには、百聞は一見にしかず。「環境に配慮する」というと、ちょっと身構えてしまうけれど、実はとっても身近にある再生可能エネルギーを利用した施設やサービス、パッシブハウスのホテルなどをご紹介。自分にできるエコな旅行スタイルを探してみよう。
フライブルク
世界をリードする環境首都
Freiburg im Breisgau
日照時間が年間約1800時間という国内で最も温暖な地域にあるこの街では、ソーラーエネルギーをはじめとする再生可能エネルギーを活用し、世界トップレベルの環境都市政策を実践中。1970年代、酸性雨による森林破壊と、原子力発電所の建設計画に直面した市民は、環境負荷の少ない街作りへと舵を切り、1986年のチェルノブイリ事故で、「グリーンシティー」路線は確実なものとなった。
フライブルクの中央駅に降り立つとすぐに目に飛び込むのが、19階建てのソーラータワー。ドイツ初のゼロエミッション・ホテル Victoria(www.hotelvictoria.de)は、環境意識の高い旅行者にお勧め。旧市街は、車の乗り入れが制限されていて、トラムと自転車、歩行者が主役。旧市街から1キロほど北上し、ハウプト通りを歩けば、太陽光パネルが連なる住宅・商業施設「ソーラーシップ」が見える。各住宅にガレージを認めないなど、より踏み込んだ環境コ ンセプトで注目されているヴォーバン地区や、リーゼルフェルト地区では、自然との共生のあり方が見えてくる。子どもと一緒なら、エコステーション(www.oekostation.de)で遊びながら自然について学んでみよう。
ルール地方とラインラント
工業の町から、グリーンな街へ
Ruhrgebiet und Rheinland
工業地帯として知られるルール地方だが、炭鉱の町だった時代は今や昔。現在は再生可能エネルギーの研究拠点としての道を歩み始めている。ゲルゼンヒルヒェンにあるヴィッセンシャフト・パークには、研究機関や企業が集積。ドルトムントでは省エネ住宅のさらに上をいく、エネルギー・プラス・ハウスの建築が進んでいる。ボルシアドルトムントのホームスタジアム「ジグナル・イドゥナ・パルク」は、太陽光発電量でドイツ第3位。ちなみに、1位は1.FC カイザースラウテルンで2位がヴェルダー・ブレーメンのスタジアム。
ドイツ国内初の気候と自然エネルギーに特化したテーマパーク、リートベルク気候公園では、子ども大人も楽しく学べ、レヴァークーゼンにあるナチュアグート・オプホーフェン(www.naturgut-ophoven.de)内、青少年ミュージアム「エネルギー・シティー」でも、再生可能エネルギーについての展示やソーラーパネルを使ったアート作品を見ることガできる。デュッセルドルフのメディエン ハーフェン地区では、米人気建築家フランク・ゲーリーの3つの建造物やテレビ局WRDなど、そのデザインだけでなく、環境に配慮した建築に注目。
ベルリン
首都の観光名所でエコを感じよう
Berlin
「環境保護」を国家目標の一つに掲げる環境先進国ドイツの首都。首都移転に伴って修復されたドイツの国会議事堂は、ガラス張りのドームで開かれた政治を象徴しているが、同時に太陽光発電や地中熱を利用するなどエネルギー効率を追求しており、再生可能エネルギーを推進する国家方針を表現。太陽光が降り注ぐガラス張りのベルリン中央駅には、駅のホームを覆う屋根に780の透明なソーラーパネルが設置されている。移動から宿泊、食事まで、エコな街歩きのヒントはベルリン・ゴーズ・グリーン(http://berlingoesgreen.de)を参考に。太陽光発電やエネルギー転換をテーマにしたガイド・ツアー「ソーラー・ポリス」(www.solarpolis.de)でもEモビリティーを体験できる。
必要な電力をすべて再生可能エネルギーで賄う、エコ&ビオ&省エネなパン工場メルキシェス・ラントブロート(www.landbrot.de)や、市内各所で開かれているエコ市場で味わう食品は、健康にも良い。ドイツ技術博物館では、再生可能エネルギーの歴史を振り返ることができ、敷地内には省エネルギーハウスも展示されている。
ミュンヘン
地熱発電プロジェクトで注目が集まる
München
2025年までに再生可能エネルギー電力率100%を達成することを目指しているミュンヘン。達成できれば、百万人規模の都市としては世界初の快挙となる。そのため、風力や太陽光はもちろん、地熱やバイオマス発電の導入をミュンヘン・エネルギー公社(SWM)が中心となって進めている。
欧州最大規模の温泉施設「テルメ・エルディング」、ウンターハヒングの地熱発電所は、地熱の利用例として一見の価値あり。2012年からは、バヴァリア映画村(www.filmstadt.de)も地熱を暖房に利用している。市内の移動には、ミュンヘン発の試みとして注目されている環境タクシーを利用してみよう。「テスラ」など電気自動車によるタクシーサービスだ。家族で楽しめるエコ・ツーリズム・スポットは、自然保護地域内にあり、園内でバイオマス発電をしているヘラブルン動物園や、風力・太陽光発電の仕組みについての展示が増設されたドイツ博物館。市内のエコな宿泊先は、スリープ・グリーン・ホテルズ(www.sleepgreenhotels.com)で検索。スキーリゾート地として有名なオーベルストドルフまで行くなら、パッシブハウス・ホテル(www.explorer-hotels.com)へ!
ハンブルク
海からの風と太陽の光にめぐまれた街
Hamburg
ドイツの北部に位置しながら、実はバイエルン州のテーゲルン湖よりも日照時間が多いハンブルク。市内の野外プールは全て太陽熱を利用して温められ、太陽光発電によるEモビリティーも充実している。ハンブルク観光のハイライト、アルスター湖の遊覧には、ソーラー・ボート「アルスター・ゾンネ」が一押し。
ハンザ同盟の中心都市として栄えた港町ハンブルクは、海風を利用した風力発電にも利があり、港からはいくつもの風力発電機を眺めることができる。ハンブルク北西部には、省エネ・ホテル「エコテル・ハンブルク」(www.oekotel.de)があり、室内の調度品や食事も、自然派にこだわっている。体験型の施設を楽しむなら、グート・カールスヘーヘ(www.gut-Karlshoehe.de)。森の中で、自然やエネルギーのことを楽しく知ることができる。街中でのエコ市場散策なら、シュテルンシャンツェ地区もお勧め。
クライン・ボルステル地区は、暮らしと環境保護を考える場所。住民たちが建設前から計画に参画し、居住地区に自動車を入れない、省エネ暖房を採用する、自然を残すなど、具体的なコンセプトに基づいた街づくりを実践している。