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ドイツのエネルギー転換策を俯瞰する

ドイツの再生可能エネルギー転換策の仕組みは、一体どのようになっているのか。ここ数年、10月になるとメディアが一斉に「再生可能エネルギーによる電気料金の値上げ」を非難する。その一方で、再生可能エネルギーの推進を称賛するニュースもある。それはなぜなのか。今回は、この分野に精通している人にしか理解できなくなりつつある、再生可能エネルギーへの疑問に答えたいと思う。

ドイツの再生可能エネルギー


再生可能エネルギー(以下、再生可能エネ)とは、太陽光や太陽熱、風力、水力、地熱、バイオマス(生物由来の資源)などの持続可能な自然資源を、私たち人間が消費できる形(電力、熱、動力燃料)に転換したエネルギーのことを指す。今回はそうした再生可能エネのうち、「電力」に限定して話を進めてみよう。

ドイツの再生可能エネの推進

ドイツでは、過去20年にわたって再生可能エネ電力の推進が国策として行われてきた。1991年には、電力事業者に再生可能エネ電力を決められた価格で買い取りすることを義務付けた法律「固定価格買取制度(Feed-In Tariff=以下、FIT)」が施行され、それが2000年に全面的に強化された。91年時点の再生可能エネ電力といえば大型の水力発電のみで、その供給量はドイツ全体の電力消費量のわずか3%程度だった。しかし、12年末には太陽光発電が5%、風力発電が8%、バイオマス発電が6%、水力発電が4%と、合計23%の再生可能エネが供給されている。

全消費電力中の再生可能エネルギー割合(最終消費電力比)
全消費電力中の再生可能エネルギー割合
出典:ドイツ政府エネルギーコンセプト2010

再生可能エネの固定価格買取制度(FIT)

約4分の1の電力を、持続可能な再生可能エネ電力で賄えるようになったドイツであるが、この政策の推進のために国民が負担を強いられているという事実がある。

FITという制度は、電力系統事業者に対し、ソーラーパネルや風車などから発電された再生可能エネ電力を全量、法律で定められた固定価格で買い取るよう義務付けたもので、その電力はすべて電力取引・スポット市場において即時、販売される。販売価格は市場の時価で、電力の需要と供給の関係によって常に変動する(株式市場の株価のようなものとお考えいただきたい)。通常、固定価格で買い取った電力価格よりも、需給関係によって決まる市場での販売価格の方が安値になることが多く、そこで差額が生じてくる。FIT では、この差額分を電力系統事業者に負担させるのではなく、需要家(国民や中小企業、産業など)に分散し、ならして負担させる仕組みにしている。具体的には、使用電力量に応じて電気料金の中にその負担額を盛り込んで請求しているのである。この負担分は賦課金(サーチャージ)と呼ばれる。

FITの賦課金とその内訳

ドイツでは毎年、10月15日までに電力系統事業者が当年分の負担収支を集計し、翌年度の収支を予測する。そして、その予想を基に賦課金の額が決定されるのである。したがって、この数字が発表される前後の時期になると、電気料金をめぐってマスコミの論議がやかましくなるというわけだ。

この賦課金は、再生可能エネ電力の拡張に伴って少しずつ微増し続け、2009年までは1キロワット時の電力消費に対して1.13セントであったが、10年には急増して2.05セント、12年には3.59セント、13年には5.28セントに高騰した。現在、賦課金の割合は電力料金の2割弱を占めている。例えば、毎月300キロワット時の電力を消費しているドイツの平均的な一般家庭の場合、電力料金は約85ユーロとなり、そのうちの15ユーロが賦課金ということになる。そして14年の賦課金は、6.24セント/キロワット時と発表されている。

なぜ、2010年を皮切りに、ここまで賦課金が急増したのだろうか。その背景には、複雑に絡み合う3つの要因がある。

1.電力取引市場の取引価格の急落

再生可能エネ電力の「量」自体が少なかった2008年頃までは、スポット市場における電力取引価格は従来型電源の供給量と社会の電力需要の関係で決まっていた。例えば、平日の日中、電力使用量のピーク時の取引価格は高くなり、深夜や週末は安くなるという形である。

しかし現在では、再生可能エネ電力は全体の電力消費量の4分の1にまで拡大し、夏場の正午など、太陽光発電の電力が量産される時間帯や、北部に大量に設置されている風力発電がフル稼働する時間帯には、市場に再生可能エネ電力が溢れ、スポット市場での取引価格が急落してしまう。FIT の賦課金は、固定価格による買取総額と市場販売額の差額から導き出されるため、買取総額はそれほど上昇していないにもかかわらず、ここ数年、その差額が増加し、賦課金だけが値上がりしているのだ。

ただし、電力取引市場で価格が下落すると、電力販売会社の電力の仕入れ価格は安くなるため、付加価値税、電力税、賦課金などの付随費用を除いた小口の電力価格は、09年から現在まで値上がりしていない。付随費用を除いた産業用の大口の電力価格においては、1割以上の低下傾向すら見られる。この期間中に、原子力発電所の半数が廃炉にされたため、もし再生可能エネ電力が推進されなかったとすれば、その代わりに、高騰している化石燃料をより多く消費しなければならず、インフラ以上の電力価格(付随費用を除く)の上昇を覚悟しなければならなかったはずである。

ただ、仕入れ価格が安価になったにもかかわらず、その恩恵が消費者に反映されていないという消費者センターの指摘もある。専門家の試算によれば、5.28セント/キロワット時の賦課金の負担は、電気料金の2~3セントの値下げに(あるいは電力販売会社の追加利益として)寄与しているという。

2.大手産業業界への減免措置

固定価格買取制度では、電力大量消費産業(例えば化学産業)の国際競争力を維持するために、賦課金の減免措置を認めている。また、事業所内で自家発電し、自家消費する製鉄所などの大規模産業の電力は、それが褐炭発電であっても、電力系統を通さない限り賦課金の対象にはならない。

2009年にキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と自由民主党(FDP)の連立による第2次メルケル政権が誕生して以降、減免措置適用の寛容化、肥大化が続いた。もともとこの減免措置の適用規模は500事業所であったが、それが12年には1000、13年には2000事業所を超え、14年も大幅に増加する見込みだ。その結果、大企業の負担は減り、中小企業や家庭の負担が増す。急激に上昇した賦課金の5.28セントのうち、1セント強は電力大量消費を行う大企業が追加免除されたことによるしわ寄せであると試算されている。

3.再生可能エネ電力の拡大による買収総額の増加

実質、再生可能エネ電力の普及、拡大に伴い、固定価格による買取総額は増加している。2010~12年に太陽光発電の設備価格が急落したにもかかわらず、メルケル政権はその設置量が多いバイエルン州(とりわけCSUの支持基盤である農家)への配慮から、迅速な固定買取価格の修正を行わなかった。そのため、一部の太陽光発電への投資利回りが15%を軽く超えるような物件が多発し、バブルのような状況になった。そのツケは、急上昇した賦課金のうち、少なくとも1セント以上であると言われている。

今後の再生可能エネ電力

ドイツの再生可能エネ電力は、瞬く間に拡大してしまったがゆえに、産業、大企業側と国民、中小企業側の負担に不公平感を生んでいる。とりわけその傾向は第2次メルケル政権期に拡大した。それゆえ、2013年9月の連邦議会選挙後のCDU・CSUと社会民主党(SPD)との大連立交渉においても、FITに関して激しい議論が繰り広げられた。

ただし、連立協議で2020年までに全電力消費量の少なくとも35%を再生可能エネ電力で供給する目標は堅持された。今後、どのような政権になろうとも、ドイツでは2022年までの脱原発、2050年の脱化石は国策とされ、一極集中型の化石・原子力発電所から分散型の再生可能エネ施設への転換は続けられる。これを、再生可能エネルギー転換策(Energiewende)と呼ぶ。

もっとも、この政策が持つのは国民の賦課金負担増という暗い側面ばかりではない。地域においては、市民や農家、中小企業が再生可能エネ施設に投資して自ら利益を得たり、自治体が税収を増やしたり、雇用を創出できるようになった。また、風力発電機やバイオマスプラントなどの工業製品の輸出増に加え、再生可能エネ電力の普及が著しい中国や米国、インド、欧州各国で、ドイツの関連企業がデベロッパーや資本提携者としてグローバルに活躍している。

このようにエネルギー転換策は、単に賦課金が高い、安いというだけの論議ではない。その行方を、今後も注意深く見守っていくべきであろう。

再生可能エネルギー分野の雇用数の推移
再生可能エネルギー分野の雇用数の推移
出典:Agentur für Erneuerbare Energien

賢い消費者としてできること

最後に、このような社会的背景の中、賢い消費者としてどんなことができるのか、提案してみよう。

1.電力会社の選択

ドイツでは電力販売が完全に自由化されているため、家庭など小口の消費者であっても電力の販売会社や料金メニューを自由に選択できる。現在、電力大手から普通に購入している電気料金のレベルであれば、契約を変更して100%再生可能エネ電力を購入することもできるし、契約内容によっては、賦課金負担分を補うほどの割引率で電力を提供している販売会社もある。幅広い電力料金メニュー、供給者を比較検討できる便利なウェブサイトが数多く存在するので、「Strom/Vergleich」といった単語で検索し、一度比較してみることをお勧めする。

2.再生可能エネ設備への投資

ドイツでは、すでに各地で600を超えるエネルギー協同組合(Energiegenossenschaft)が設立されている。再生可能エネへの投資ファンド、市民による太陽光や風力発電への取り組みも非常に活発である。また、家庭用ソーラーパネルの価格も安価で、これを使って自家発電をすれば、電力会社から購入するよりも安く電気を賄うことができるので、この分野への投資を考慮するのも良いかもしれない。平均世帯が毎月支払う賦課金くらいの利子を得ることは、それほど難しくないはずである。

3.電力の省エネの徹底

月々の賦課金15ユーロを省エネ努力によって取り戻すという手もある。そのためには、毎月300キロワット時の電力消費量を2割程度削減する必要がある。そこで実施可能な策は、家庭の照明を低発熱のLED電球に交換したり、古くなった冷蔵庫や洗濯機、食洗機などを最新の省エネ性能に優れたものに買い換えること。家電製品を購入する際には、省エネ・ラベリング(Energieeffizienzklasse)にも注目してみよう。「A」というラベル表示は省エネ性能があまり高くないことを意味するので、できれば最高水準の「A+++」を選択したい。また、洗濯の回数を減らしたり、待機電力など不必要な電気の消費量を抑える取り組みも大事である。省エネこそが、最も効率的で持続可能なエネルギーの源となることに、留意しておくべきであろう。


村上 敦(むらかみ あつし)
1971年生まれ、フライブルク在住。ジャーナリスト、環境コンサルタント。執筆、講演などでドイツの環境政策、エネルギー政策、都市計画制度を日本に紹介している。一般社団法人・クラブヴォーバン代表、日本エネルギーパス協会アドバイザー、日本エネルギー機関顧問。著書に『フライブルクのまちづくり』(学芸出版社)、『キロワットアワー・イズ・マネー』(いしずえ出版社)ほか多数。共著に『欧州のエネルギー自立地域』(学芸出版社)。
www.murakamiatsushi.net
 
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