新たなビジネスの形について考える ドイツの
スタートアップ事情
欧州の中心的な都市の中でも比較的物価が安く、さまざまな人種が暮らす多文化共生が根付いているベルリンを中心に、多種多様なスタートアップ企業が生まれ続けているドイツ。実際にドイツで事業を展開している日独スタートアップ企業のインタビューをはじめ、ベルリンスタートアップのハブ的存在である「ファクトリー・ベルリン」のレポート、そして私たち日本人がドイツでスタートアップ事業を展開するためのヒントなどを紹介していこう。Text:編集部
ドイツでスタートアップを始めるためのQ&A
スタートアップの聖地ベルリンをはじめとしたドイツで、スタートアップ事業を展開するための魅力やポイントとは?
bistream:www.bistream.de
グローバル・アクセラレーション・ハブ:www.jetro.go.jp/services/jhub.html
ベルリンでスタートアップをする魅力は?
誰にでもチャンスがあり、オープンで、ファウンダーたちが互いに迅速に助け合うカルチャーが魅力ですね。とても国際的な都市ですが、気取ったところがありません。
ベルリンにはどのような人材が集まっていますか?
高度な知識や技術を持った人材、国際色が非常に豊かです。ベルリンそのものの魅力のおかげで才能のある人たちがたくさん集まってくるので、海外からわざわざ優秀な人を雇う必要がなく、ベルリン内で見つかるという話をよく聞きます。
bistreamではドイツ企業とのコラボやインター ン研修をアレンジしていますね?どのような目的を持った方が参加されていますか?
はい、ビジネスマッチングと人材研修を行っています。企業間のコラボレーションでいうと、こちらの提案で日本の大手企業がドイツのデザインカンパニーと契約した例などがあります。人材研修について言えば、個人、特に大学生はスキルアップと経験を求めていることが多く、企業クライアントは社内人材の国際化を目指しています。
グローバル・アクセラレーション・ハブのプログラムを受けるとどのようなことが期待できますか?
ベルリンというエコシステムをまずは知ってみたい、入り込んでみたいと思っている企業には良いと思います。スタートアップの場合は無料で素敵なコワーキングスペースも使えるので、ぜひ使っていただきたいです。入口のサポートに続いて、さらに具体的なビジネスの開拓や、協業の交渉の際に支援が必要であれば有償で提供しています。
日本のスタートアップ事業の状況は?
日本は決して起業が難しい環境ではありません。しかし、よく言われることですが国内市場向けのスタートアップが多いので、グローバルなビジネスモデルを持ち、そのために必要なグローバル人材を揃えていくというのは、初期のスタートアップには難しいかも……。そういう意味ではベルリンに来てみるという選択肢はあると思います。
ドイツでスタートアップ事業を始めたい場合、どのような技術や能力が求められると思いますか?
何も恐れない、恥ずかしがらないという「能力」でしょうか。片言の英語でも、ここぞという時は相手を圧倒して喋り倒すくらいの強さがあると良いですね。
ドイツを目指して起業したいと考えている人たちに向けて、どのようなことを伝えたいですか?
最近、僕の好きなベルリンの起業家の一人が「人は自分が何を知らないかを知らない」と言いました。だからこそスタートアップのファウンダーは、自分が何を知らないのかを教えてくれる他者を必要とすると。ドイツは日本と似ているところもたくさんありますが、違いもたくさんあります。新しい知識や発想、感覚、考え方に対して貪欲であってほしいと思います。
目指せ日本からNRW州へ!
大学発スタートアッププログラムレポート
今年2月、ノルトライン=ヴェストファーレン(NRW)州の州都であるデュッセルドルフで、日本の大学発信のベンチャーやスタートアップ事業のドイツ進出を目指し、それぞれのビジネスモデルを磨くためのプログラムが3日間にわたって行われた。
それぞれの研究テーマについて発表する参加者たち
メディエンハーフェンに位置するデジタルアクセラレーター、デジハブ(digihub)のオフィスが会場となり9つの大学からさまざまなジャンルの研究を行う研究員や教授が参加した。各大学の研究テーマは、IoT分野における監視システムや光触媒を使った革新的なスキンケアアイテム、歯磨きロボットなど多様なジャンルにわたる。
今回のプログラムは、国立研究開発法人科学技術振興機構が行う「社会還元加速プログラム(SCORE)」のイベントで、起業家を支援するプラットフォームである01Boosterが企画・運営。日系のスタートアップ団体の呼び込みにも積極的なNRW州経済局のサポートもあり、実現する運びとなった。以下、今回の参加者のコメントを紹介(所属は取材当時)。
「今回のプラグラムに参加して、大学の研究を社会に向けて世界的に発信することの魅力だけではなく、厳しさも知ることができました」(名古屋大学 青木宏文博士、名古屋大学リサーチ・アドミニストレーター 跡部悠未博士)
「プログラム参加者の方たちはエネルギーに溢れていて、さまざまな発見がありました」(早稲田大学 栄田源さん)
「今回のプログラムを通して、ドイツでは皆が目的意識やビジョンを持っていることを肌で感じました」(筑波大学チーム 髙林真莉さん)
「ドイツも日本もスタートアップ企業を立ち上げるためのメソッドは一緒だと思いました。また、イベントを通して日本へのサポート体制が積極的だということも知ることができました。ここで得たコネクションを今後につなげていきたいです」(東京大学 早水建祥さん)
「ビジネスに特化した人たちとの交流によってアイデアを具現化するこができました。エンドユーザーについて考え知る良いきっかけとなりました」(国立研究開発法人物質・材料研究機構 阿部英樹博士)
今後、ますます日系の企業や団体、研究者たちが海外で活躍できる場が増えることだろう。
研究テーマについてデジハブのスタッフと話し合い内容を精査する
研究テーマについてデジハブのスタッフと話し合い内容を精査する