ライン川でワインとビールが手を組んだ
「父なるライン」としてドイツで親しまれているライン川。全長は1320キロに及び、スイスアルプスを源流にドイツを縦断しオランダから北海に注ぐ。古くから重要な交易路や軍事拠点として利用され、流域にはマインツ、ケルン、デュッセルドルフなどの都市が発展した。ライン川中流のコブレンツとビンゲン・アム・ラインまでの約6キロは、「ライン渓谷中流上部」としてユネスコの世界遺産に登録された風光明媚な土地。クルーズ船に乗れば自然が作り出した雄大な渓谷や、中世の雰囲気たっぷりの古城が次々と現れる。流域ではワイン造りも盛んで、クルーズ船からも斜面一面に広がるブドウ畑を眺めることができる。ブドウの栽培には厳しい気候のなかで、工夫を凝らして豊かなワイン文化を築いてきた。
最近日本で注目されているワインの銘醸地が、マインツから2キロほどライン川を遡上 した場所にあるニーアシュタインだ。日本人醸造家である浅野秀樹氏がワインブランドHide’s Wine 639 を立ち上げた街として一躍有名になった。ワインの生産地としてはラインヘッセン地方に属し、742ヘクタールのブドウ畑のうち77%が白ワイン用である。この街で650年以上にわたりワインを造っているワイナリーが、Weinblick Kal Schatzel。このワイナリーとマインツにある新進気鋭のビール醸造所Kuehn Kunz Rosenが製造したワインとビールのハイブリット「Brau.nett」が今回ご紹介するビールだ。
ユニークなのは、つぶした白ブドウと麦芽のマッシュ(粥状に煮たもの)を混ぜ合わせることで発酵させてアルコールを得ていること。口に含むと白ワインのようなフルーティーな香りと酸味がいっぱいに広がるが、次第にそれはビールの苦みと麦芽の香ばしさに変化していく。そして優しく香る熟成香。ヴィンテージは2019年だが、賞味期限は2025年。ワイン同様、熟成が楽しめるビールだ。