テロワール、そして畑の格付けと、ちょっと堅苦しいテーマが続きましたが、本来、ぶどう畑や土壌を実際にこの目で見て新しい知識を得ることは、とても楽しいものです。
旅をしていると、自然の風景を背景に、おのずと建築物が目に留まります。例えばアール地方やミッテルライン地方、ラインガウ地方、モーゼル地方を旅すると、粘板岩で造られた濃い色の家をよく見掛けます。そしてその粘板岩も、黒灰色に青みがさしていたり、あるいは茶色っぽかったり、同じ岩石でありながら色調が微妙に違うことが分かります。
フランケン地方やラインヘッセン地方、プファルツ地方の一部では、ほのかな赤色や黄土色など、様々な色調の砂岩で建てられた家がたくさんあります。また、ラインヘッセン地方やプファルツ地方には石灰岩で造られた家も多く、一見ブルゴーニュと見間違えてしまいそうな風景にも出会います。
今から100年以上前にそれぞれのワイン生産地で建てられた伝統的な石造りの家々は、各地方のぶどう畑の土壌そのものを表しているかのようです。ぶどう畑の土壌の奥深くの様子は、通常見ることはできませんが、古い建築物が土壌についての情報を発信してくれているように思います。
ドイツのワイン生産地は、畑に柵がなく、散歩道やハイキング道が整備されており、ぶどう畑の間をどんどん歩いていくことができます。そのハイキング道の途中に洞窟があったり、石切り場が見えたり、岩が突き出ていたり、断層が顔を出していたりするところがあると、ぶどう畑の土壌構成をいくらか知ることができます。専門のガイドと一緒にぶどう畑を巡り、土壌について教えてもらえるウォーキング・ツアーもあります。
私は2009年の夏、ぶどう畑に詳しいガイドと一緒にモーゼル地方をハイキングしたのですが、そのとき彼女が粘板岩の洞窟に連れて行ってくれました。地表からは、風化して小さな板状になった粘板岩の、黒っぽい石片が散らばる畑の表面しか見ることはできませんが、洞窟に入ると、 粘板岩の塊をちょうど真下から見上げることになります。そしてその洞窟の上に生えている木が、岩の隙間を縫って根を生やしているのが見えました。私が訪れたのは暑くて乾燥がひどい時期でしたが、洞窟の中はひんやりしていて、 粘板岩の天井は湿り気を帯び、地下水が滴っていました。このことから、岩場の土壌は水はけが良いこと、そして、地中深くにはしっかりと地下水が確保されていることを知ることができました。
秋には、ラインヘッセンで醸造家の友人と一緒にぶどう畑の近くの石灰岩の断層を見に行きました。上部は粘土質の土壌や黄土(レス)などに覆われているのですが、下へ行くほど色調は白くなり、その石灰質の土を指先でほぐしていくと貝殻がたくさん出てきます。小指のサイズほどの牡蠣の殻や、口を閉じたままで石化し、真っ白になっているムール貝の殻も見つかり、太古の時代、本当にここが海だったことが分かります。
ぶどう畑とその周辺を歩くと、実に様々な発見があります。畑を歩き、土や石に手を触れ、造り手の労働の場に立ってみると、ワインを違った形で楽しめるようになるはずです。
(ミッテルライン地方)
ドイツのいわゆる「ワイン大学」として世界的に名高いヴィースバーデン大学ガイゼンハイム校の教授(専門はビオ・ワイン)、カウアー氏夫妻が風光明媚なバッハラッハで経営する小さな醸造所。カウアー氏は同大学の学生だった1982年に500㎡のぶどう畑を借りてワイン造りを始めた。80年代初頭のドイツは、緑の党の勢いが良く、エコ運動が盛り上がった時代。カウアー氏は時代の風潮を敏感に捉え、エコヴィン(Ecovin)というビオ・ワイン醸造家団体が結成される以前からビオ・ワインを生産していた。現在ぶどう畑は3,3ヘクタールに。エコヴィン会員。
Weingut Dr. Randolf Kauer
Mainzer Str. 21, 55422 Bacharach
Tel.06743-2272
www.weingut-dr-kauer.de
2007 Riesling Spätlese Oberdiebacher Fürstenberg, Alte Reben
2007年産リースリング、シュペートレーゼ (オーバーディーバッハー・
フュルステンベルク)アルテ・レーベン(ほんのり甘口) 11,00€